絵本のつづきを、君と。   作:小池蒼司

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このまま終われたらいいのに


9.まだ選べるうちに

 

 

引き出しが閉まる音を聞いて、グソンが顔を上げた。

 

「……」

「何かな」

「これ以上親しくなったら、もしもの時、困りますよ」

 

槙島は開いていた本から目を上げた。

 

「もしも?」

「彼女に知られた時です。あるいは、向こうに彼女のことを知られた時」

 

グソンは机の端に肘をついた。

 

「今は、名前を出すなで済むでしょうがね。会う回数が増えれば、誰かの目には入る」

「それは気をつけるよ」

「隠せるかどうかだけの話じゃありません」

 

槙島は黙って、続きを待った。

 

「隠せなくなった時に、どうするかって話です」

 

部屋の中で、機器の低い作動音が続いていた。

 

「彼女がダンナを怖がって、二度と会いたくないと言ったら?」

 

槙島は本の端へ指を置いた。

 

「それは、彼女が決めることだろう」

「では、会いたいと言ったら?」

 

指が止まった。

グソンはそのまま続けた。

 

「知ったうえで、まだ会いに来るかもしれませんよ。今日みたいに危ない目に遭うことが、今度はダンナのせいで起きるかもしれない」

 

槙島の視線が、机に置いた端末へ移った。

沙代の返事が遠くなった時のことを思い出す。

呼びかけても、すぐにはこちらを見なかった。

あれを自分のそばで、また起こす。

 

「……彼女には、関わらせない」

「ダンナがそう決めていても、彼女のほうがどうするかは分からないでしょう」

 

その言葉には、すぐ返さなかった。

グソンは椅子の背へ身体を戻した。

 

「会うなとは言いません。ただ、今のうちなら、予定が合わなくなった友人で済む」

 

槙島は彼を見た。

 

「そうしておくべきだと思う?」

「後で選べなくなるよりは」

 

槙島は本を閉じた。

しおりを挟むのを忘れたことに、閉じてから気づく。

もう一度開き、読んでいた場所を探した。

グソンはそれを見ていたが、何も言わなかった。

 

「話は分かったよ」

 

槙島はしおりを挟み直した。

 

「……らしくないですね、いつもならどうでもいいと言いそうなのに」

「そうだね、自分でもそう思うよ。ただ、純粋に楽しいと思えるのは久しぶりなんだ」

 

グソンも、それ以上は続けなかった。

 

 

 

*

 

 

しばらくして、端末が光った。

 

『今日は早めに寝ます。本の話、また聞いてください』

 

槙島は画面を見た。

次の約束は、まだしていない。

グソンの言うとおり、このまま少しずつ返事を減らすこともできる。

彼女には、別の話し相手ができるかもしれない。

本屋の道も、もういくつか知っている。

返信欄を開いた。

 

『うん。また聞かせて。おやすみ』

 

送信して、端末を伏せる。

向かいでグソンが立ち上がった。

空になったカップを持って、部屋を出ていく。槙島は、本を開き直した。

ページは、さっきと同じ場所だった。

今夜は、その先へ進むまでに少し時間がかかった。

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