絵本のつづきを、君と。   作:小池蒼司

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39.気になる

 

 

約束の時間に呼び鈴が鳴った。

扉を開けると、狡噛と宜野座が立っていた。

 

「悪いな。受け取りに来た」

「はい。ちょっと待ってください」

 

沙代は二人を玄関に残し、居間へ戻った。

小皿からライターを取り、念のため確かめてから持っていく。

 

「これですよね」

「ああ」

 

狡噛は受け取ると、手の中で一度返した。

 

「助かった」

「なくなったら困るかなと思って」

「気づいた時には、もう戻ってた。手間をかけたな」

 

沙代は首を横に振る。

今日は部屋に上がらない。

それだけで、少し気が楽だった。

 

宜野座が軽く会釈した。

 

「こちらでのお話は終わっています。今日は受け取りだけですので」

 

ほっとしたのが顔に出たらしい。

狡噛が沙代を見て、わずかに口元を緩める。

 

「また聞き取りかと思ったか」

「……少し」

「悪い。最初に言えばよかったな」

 

その返事に、沙代も小さく笑った。

狡噛はライターをポケットへ入れる。

その時、玄関の棚に置かれた本が目に入った。

 

「それ、読んでるのか」

 

沙代も視線を向ける。

昨夜、槙島が帰る前に置いていった本だった。

 

「これからです。……面白いですか?」

「好みは分かれると思う。俺は好きだ」

「そっか」

 

本の話になると、彼女の声は少し柔らかくなった。

狡噛はそれ以上、誰が選んだ本かを聞かなかった。

 

「前に話した本より、長いぞ」

「じゃあ、ゆっくり読みます」

「その方がいい」

 

横で宜野座が時計を見た。

 

「狡噛」

「ああ」

 

沙代は扉を少し広く開ける。

二人が帰る前に、ふと口を開いた。

 

「あの……あの事件は、もう大丈夫なんですか」

 

宜野座が彼女へ向き直る。

 

「当日の男は確保されています。別件については捜査中ですが、あなたから伺いたかったことは確認できました」

「そうですか」

 

狡噛は彼女の表情を見た。

 

「何か気になることがあるのか」

 

一瞬、沙代の頭に聖護の声が浮かぶ。

捕まるようなことにも、関わっている。

それは、この二人に話すことではなかった。

 

「……また、ああいうことが起きたら嫌だなって」

「そうだな」

 

狡噛の返事は短かった。

 

「怖いと思ったら、近づかずに助けを呼んでくれ」

「はい」

 

沙代は今度こそ、二人を見送った。

 

 

 

 

*

 

 

 

建物を出てから、宜野座が言った。

 

「忘れ物は二度とするな」

「気をつける」

 

狡噛はポケットの中でライターに触れた。

倉橋沙代は、前の二回より落ち着いていた。

それでも、事件の話をした最後の数秒だけ、また言葉を選んでいた。

ただ、それが何を意味するかは分からない。

 

「気になるのか」

 

宜野座に聞かれ、狡噛は顔を上げる。

 

「……いや。今は何もない」

 

彼女の持つ本と、彼女が話さなかったこと。

 

その二つを結びつける根拠はなかった。

 

 

 

*

 

 

 

扉を閉めた沙代は、棚の本を手に取った。

端末を開き、聖護へ送る。

 

『ライター、返したよ。今日は受け取りだけだった』

 

少し考えてから、もう一通。

 

『この本、狡噛さんも好きだって』

 

送ったあと、昨夜の「気をつけて」を思い出した。

沙代は画面を見たまま、付け足す。

 

『今度、聖護と読もうと思ってる』

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