『マルフォイ家の悪役令嬢は、破滅エンドを叩き潰す』   作:meiTo

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プロローグ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――冷たい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が浮上した瞬間

 

最初に肌を刺したのは、深海のように静まり返った部屋の冷気だった。

 

 

 

頭の芯を激しい頭痛が突く。

 

まるで誰かの人生の記録を圧縮し、力技で脳内に叩き込まれたような強烈な不快感。

 

 

視界を覆う薄白い靄が晴れていくにつれ、目に入る光景の一つひとつが現実感を欠いた異質な彩りを帯びて浮かび上がってきた。

 

 

 

見上げる天井には、緻密な漆喰細工と蛇をモチーフにした銀の装飾。

 

 

 

手触りの良い高級な絹のシーツ。

 

そして、ベッドの脇に置かれた巨大な三面鏡。

 

 

 

 

 

「……つ……っ」

 

喉を鳴らそうとして、声が出なかった。

 

 

代わりに口から漏れたのは、信じられないほど高くて鈴を転がすような幼い少女の掠れ声だった。

 

 

違和感に耐えかね地を這うようにしベッドから抜け出す。

 

素足が触れた絨毯の感触を確かめながら、吸い寄せられるように三面鏡の前へと立ち

 

 

 

——私は絶句した。

 

 

 

その鏡の中にいたのは、透き通るような白銀の髪を背中に流し、碧緑の瞳を驚愕に大きく見開いた、息をのむほど愛らしい一人の美少女だった。

 

 

 

絹のナイトウェアの上からでも分かる華奢で小さな身体。

 

 

しかしその骨格と顔立ちには既に隠しきれない高貴さと、どこか人を寄せ付けない様な冷たさが色濃く刻まれている。

 

 

 

 

(……待て。これは、誰だ?)

 

脳内で混ざり合う二つの記憶が、凄まじい勢いで整合性を保ち始める。

 

 

 

一つは現代日本で生きていた「私(前世)」の記憶。

 

 

満員電車に揺られ…深夜まで残業し、休日は小説や映画に没頭していたごく普通の男としての記憶。

 

 

そしてもう一つは、幼少期から「純血の威光」を叩き込まれ、マルフォイ家の絶対的な愛と庇護のもとで育ってきた…この身体の主の記憶。

 

 

 

 

「……マルフォイ……?」

 

 

 

 

声が出た。

 

 

鏡の中の少女の唇が私の声に合わせて同じように動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラコ・マルフォイ。

 

 

 

 

あの大ヒットファンタジー『ハリー・ポッター』シリーズにおいて、主人公ハリーの宿敵であり、傲慢な純血貴族の象徴として描かれた少年。

 

 

 

——いや…待てよ……『少年』?

 

 

 

 

「……ま、待ってくれ。おかしいだろう!少年の筈だ!?……なんで…」

 

 

 

 

私は己の胸元に手を当て、次にナイトウェアの裾を捲り上げて下半身を確認した。

 

 

 

 

 

……ない。あるべきものが、影も形もない。

 

 

 

代わりに存在するのは、滑らかな肌と、完全に女児のそれである身体の構造だけだ。

 

 

 

TS——性転換。

 

男だった筈の自分が、あろうことかドラコ・マルフォイというキャラクターの「女体化版」として転生してしまったのだ。

 

 

 

「嘘だろ……なんで女になってるんだ……? マルフォイ家の一人息子じゃなくて、一人娘……!?」

 

 

 

頭を抱えて鏡の前に崩れ落ちそうになる。

 

 

だが、性別のショックに浸っている余裕など、今の私には1ミリも存在しなかった。

 

 

脳内の原作知識が、これからこの身体を襲うであろう最悪の「未来」を次々と警告音として鳴らし始めたからだ。

 

 

 

(落ち着け。冷静になれ私……いや、今の私はドラコ・マルフォイだ)

 

 

 

深呼吸を繰り返し、思考を高速で回転させる。

現状の整理だ。

 

 

 

 

 

 

 

現在の年は日付を見るに1986年。

 

 

今の私は、今年で6歳になる。

 

 

ホグワーツ魔法魔術学校に入学する11歳まで、残された時間は丁度「5年」。

 

 

 

そして、ドラコ・マルフォイとして待ち受ける未来は、一言で言えば地獄以外の何物でもない。

 

 

 

 

 

 

宿敵ハリー・ポッターとの不毛な対立し 1年生のホグワーツ特急でハリーに友達ごっこを断られ、逆恨みで6年間くだらない嫌がらせを繰り返す小者ルート。

 

 

マルフォイ家の没落し、父ルシウスがヴォルデモートの復活に加担し、失敗を重ねてアズカバンへ収監。家門の威信は失墜。

 

 

その後、死喰い人(デスイーター)への強制加入し、6年生の時、ヴォルデモートから「ダンブルドア暗殺」という実質的な処刑宣告に近い脅迫任務を突きつけられ、左腕に不吉な闇の印を刻まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に…精神崩壊と死の恐怖に怯え、トイレで泣き崩れる惨めな姿を見つめる自分。最終決戦では陣営の板挟みとなり、家族共々命からがらなんとか生き延びるが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふざけるなッ!!」

 

 

拳を強く握りしめ、鏡の中の自分を睨みつける。

 

 

 

 

「誰がそんな惨めな人生を歩むか! 破滅エンドなんて絶対にゴメンだ!」

 

 

 

 

女になったことの戸惑いなど、命の危険に比べれば些細な問題だった。

問題はどうやって上手く生き残るかだ。

 

 

では、どうすればこの破滅フラグをへし折ることができる?

 

 

 

一番の脅威は、言わずもがな闇の帝王ヴォルデモート。

 

そして、彼を我が家に引き入れ都合の良い駒として利用しようとするマルフォイ家の現状だ。

 

 

父ルシウスは純血主義に固執し、ヴォルデモートの手下(元・死喰い人(デスイーター))であることを誇りにすら思っている節がある。だが、原作を知る私からすれば、ヴォルデモートなど部下を使い捨ての駒としか思っていない狂信的テロリストに過ぎない。

 

 

あの鼻のない狂人に家族の命運を握らせるわけにはいかない。

 

 

そして何より——万が一、億が一、ヴォルデモートと直接対峙することになった時、あるいは彼からの不条理な命令を拒絶した時、自力で返り討ちにできるだけの実力がなければ、ハッピーエンドなど夢のまた夢だ。

 

 

 

ハリー・ポッターの世界における魔法は、ゲームのような「MP(マジックポイント)」や「魔法のレベル」といった数値化された上限が存在しない。

 

その代わり、生まれ持った血統による遺伝的資質、空間や概念を認識する知性、そして何より感情や意図をコントロールする強大な「精神力」によって、行使できる魔法の精度と威力が決定される。

 

 

 

 

幸いなことに、今の私には過剰なまでの手札が揃っている。

 

 

第一に、マルフォイ家とブラック家(母ナルシッサの血筋)という、魔法界でも屈指の古老純血家系から受け継いだ極めて高い魔法的資質。

 

 

第二に、大人の思考回路と冷徹な合理性を保持した転生者としての精神力。

 

 

第三に、原作の展開、隠された魔法道具(分霊箱など)、魔法の理論構造を熟知しているメタ知識(ネットさまさまだね)。

 

 

そして第四に、世界中からどんな激レアな魔法書や触媒でも買い叩ける、マルフォイ家の圧倒的財力。

 

 

 

「残された時間は5年……。ハリー・ポッターと出会い、物語が始まるその瞬間までに、私はヴォルデモートすら手出しできない怪物になってみせる」

 

 

 

私は鏡に映る可憐な美少女の自分に向かって不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初めに5年訓練計画だ

 

 

 

 

 

 

 

第一段階『閉心術(オクルメンシー)』と『無言魔法(ノンバーバル・スペル)』

 

 

 

 

 

 

私が最初に着手したのは、能力の底上げではなく『防壁』の構築だった。

 

 

 

ハリー・ポッターの世界において、最高の魔法使い(ダンブルドア、スネイプ、ヴォルデモート)は皆、相手の目を見るだけで思考や記憶を読み取る「開心術(レギリメンシー)」の達人だ。

 

 

 

もし私が転生者であることや、未来の知識を持っていることがスネイプやダンブルドア、果てはヴォルデモートに知られれば、その瞬間に私の人生は実験体か処刑対象として終了する。

 

スネイプは、ハリーポッター(リリーの面影)の為なら進んで汚いこともやるような奴だし

 

ダンブルドアは良いやつなようでヤバいやつだから余計関わりたくはないが…同性愛者だったのはビックリしたなー

 

 

 

そのため、思考を完璧に隠蔽する『閉心術(オクルメンシー)』の習得は最優先 事項。

 

 

 

 

 

 

「ドラコ、何を真剣な顔をして本を読んでいるんだい?」

 

 

 

ある日の午後、豪奢な書斎で羊皮紙に向かっていた私に、父ルシウスが優しく声をかけてきた。

 

長いプラチナブロンドの髪をなびかせ、銀の頭部がついた杖を携えた男。

 

 

原作ではハリーたちを苦しめた嫌味な貴族だが、一人娘である私に対しては目に入れても痛くないほどの溺愛ぶりを見せている。

 

本来の男マルフォイでも欲しいものは色々与えてたみたいだしな

 

 

 

 

 

「お父様。マルフォイ家の名に恥じぬよう心の防衛術について学んでおりますの。純血の頂点に立つ者が、他者に心を覗かれる隙を見せるなどあってはならないことですわ」

 

 

 

 

私は幼い少女らしい澄んだ声に、大人びた気品と澄ました笑みを混ぜ込んで答えた。

 

 

 

 

「……素晴らしい! ああ、なんという聡明さだ! ナルシッサ、聞いたかい? 我が娘ドラコは、まだ6歳にしてすでにマルフォイ家の気品と誇りを完璧に理解している!」

 

 

 

ルシウスは歓喜に震え、即座に魔法界中から最高峰の心の防衛術に関する古文書を取り寄せてくれた。

 

マルフォイ家の財力は実に素晴らしい。使わない手はない。

 

 

 

 

それからの日々は、果てしない精神の修行だった。

 

 

閉心術の本質は「感情を消し去り、頭の中を無にすること」。

 

 

現代人の記憶を持つ私は、脳内に膨大な情報が渦巻いている。

 

 

それを整理し、偽の記憶の層を表面に貼り付け、本心と知識を精神の最深部——固く閉ざされた黒鉄の金庫の中へと封印する作業を繰り返した。

 

 

 

最初は激しい頭痛に襲われ、吐血することすらあった。

 

 

 

 

それよりも未来の恐怖と矜持(プライド)が私を支えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毎日、屋敷の庭園に佇み、何時間も動かずに精神を研ぎ澄ます。

 

 

 

 

7歳になる頃には、私の精神防衛線はただの壁から『足を踏み入れた者の精神を逆発狂させる底なしの沼』へと変貌を遂げていた。

 

この先スネイプと対面した際、彼に気づかれることなく思考を偽装するための完璧な偽装網が完成したのだ。

 

 

 

 

 

次に着手したのが「無言魔法(ノンバーバル・スペル)」と「無杖魔法(ワンドレス・マジック)」だ。

 

 

 

映画や原作の魔法使いどもは、戦闘中にいちいち『呼び寄せ呪文(アクシオ)!』だの「失神呪文(ステューピファイ)!」だのと大声で叫びながら杖を振り回す。

 

だが、現代戦闘の観点から言えば技名を叫んでから攻撃するなど愚の骨頂、スキだらけの自殺行為だ。

 

昔から魔法少女の変身中に攻撃しろとか大声で叫びながら背後から攻撃してくるバカなどさっさと死ねと常々思っている。

 

 

 

「呪文とは、自らの魔力と意図を世界に定着させるための『補助輪』に過ぎない。真に魔法を理解した者ならば、言葉などという不確定な音振動に頼る必要はない」

 

 

 

私はマルフォイ邸の広大な地下訓練場に引きこもり、練習を重ねた。

 

 

 

最初は小さな羽を浮かべる簡単な呪文からだ。

言葉を出さず、脳内で効果とイメージを明確に定義し、身体の中を巡る魔法の資質(魔力)を指先へと集中させる。

 

 

 

 

『浮遊せよ(ウィンガーディアム・レヴィオーサ)』

 

 

 

 

 

 

…羽は微動だにしない。

 

 

 

 

 

「……クソッ!もう一度!」

 

 

 

 

 

 

 

『浮遊せよ(ウィンガーディアム・レヴィオーサ)』

 

 

脳内のイメージが甘い。

 

空間の重力をどう歪めるのか、魔力をどう力学的なベクトルに変換するのか。

 

物理学の知識と魔法理論を融合させ、より具体的で強固なイメージを脳内に構築する。

 

 

 

 

 

 

 

……スッ。

 

 

 

 

 

羽が、ゆらりと空中に浮かび上がった。

 

 

 

「できた……!」

 

一度感覚を掴めば、そこからは早かった。

 

転生者としての理解力、そしてマルフォイ家の血がもたらす圧倒的な魔法的資質が爆発的なシナジー。

 

 

 

 

 

8歳になる頃には、私は指先を軽く一振りにするだけで、部屋中の家具を無音で浮遊させ、無言のまま攻撃性の衝撃波を放てるようになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に第二段階

 

 

 

9歳を迎える頃、私の訓練はより過激で実践的な領域へと踏み込んでいた。

 

 

 

闇の帝王(ヴォルデモート)や死喰い人(デスイーター)といった『本物の殺人鬼』と戦うためには、学校で教わるような『人を傷つけない模範的な魔法(おままごと)』だけでは到底足りない。

 

相手を確実に無力化し、必要であれば息の根を止めるための『実戦魔法』が必要不可欠だった。

 

 

 

もちろん、父(ルシウス)や母(ナルシッサ)にそんな物騒な訓練を見せるわけにはいかない。

 

 

 

私は夜な夜な、マルフォイ邸の開かずの書庫——闇の魔法書が厳重に封印されている地下禁書庫へと忍び込んだ。

 

 

 

普通の子供であれば、闇の書物に触れた瞬間に呪いによって正気を失うか精神を汚染されるだろう。

 

 

しかし、すでに完璧な『閉心術(オクルメンシー)』を極め、今の私の精神にとって、闇の魔法は単なるドアベルの鳴らす程度のもの。

 

転生前だと…ピンポン連打ダッシュに近いかな?……かなりウザいな。よしッ私に使ってきたら死ぬより恐ろしい目にあわせる

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。『切り裂き呪文(セクトゥムセンプラ)』の原型となった古代の切断魔術か。血流の圧力を利用して不可視の刃で肉体を切り刻む……構造さえ理解すれば、杖なしでも発動できる」

 

 

 

 

私は地下訓練場に用意した人型の鉄製ターゲットに向かい、細く美しい手先をかざす。

 

 

言葉は発しない。視線と指先の微小なスナップだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

(切れ)

 

——ズバァンッ!!!!

 

 

 

 

 

静寂の地下室に、鼓膜を裂くような重厚な断裂音が響き渡る。

 

厚さ数十センチの純鉄の標的がまるで豆腐でも切るかのように斜めに滑り落ち、鋭利な切断面を晒して床に崩れ落ちた。

 

 

 

「……ふむ。威力は十分だが、発動までのラグが少し遅い。これでは素早い相手に躱されるわね」

 

 

 

私は不満げに眉をひそめ、すぐに次の術式の構築に取りかかった。

 

 

 

自分の魔法に対する基準が、完全に狂っている自覚はあった。相手は数十年の人生を戦闘と殺戮に費やしてきた「闇の帝王」とその親衛隊なのだ。これくらい徹底しなければ、安心などできるはずがない。

 

 

 

さらに、私はマルフォイ家のコネと財力を裏でフル活用し、ノクターン横丁(魔法界の闇市)を通じて各種の強力な魔法薬品や希少な魔法生物の素材を大量に買い集めた。

 

 

 

 

「ドラコお嬢様、本日の納品物でございます……」

 

 

 

身を低くして怯える屋敷しもべ妖精のドビー(原作でハリーを助けるあのドビーだ)から、私は黒い革袋を受け取る。

 

 

「ご苦労様、ドビー。……一応言っておくけれど、この部屋の薬品や私の訓練について、父上や母上に一切喋ってはダメよ。もし口を滑らせたら……そうね、あなたを服で解放してあげてから、ノクターン横丁のオークションにかけさせてあげるわ」

 

「ひいぃっ!! お、喋りません! ドビーは口を割リません!!」

 

 

 

ドビーは恐怖でガタガタと震えながら消え去った。

 

 

屋敷しもべ妖精は主人から服を贈られること=解放

 

主人から衣服(靴下、服など)を直接手渡されると、奴隷の身分から解放(自由)される

 

多くの屋敷しもべ妖精にとって、無償で主人に尽くすことや仕事を持つことが名誉であり、自由にされることや解雇されることは不名誉で恥ずべきこととされているため、普段から薄汚れた枕カバーや布きれを服の代わりとして着ているってわけ。

 

 

 

 

原作ではハリーに心を開いていたドビーだが、現在の私に対しては美しくも恐ろしい絶対的な支配者として完璧な恐怖と敬意を抱いている。これで情報漏洩の心配もないだろう。

 

 

 

私は手に入れた薬品を使い、自作の「万能解毒薬」や「瞬間筋力増強剤」、更には精神を強制的に研ぎ澄ます「集中薬」などを極秘に精製。

 

それらを日常的に摂取し毒耐性と身体能力の強化を図った。

 

 

 

魔法使いの弱点は肉体の脆さだ。

 

 

いくら強力な魔法が使えても、不意打ちで首を跳ねられれば死ぬ。

 

 

だからこそ、『盾の呪文(プロテゴ)』『万全の守り(プロテゴ・トタラム)』『恐ろしきものから守れ(プロテゴ・ホリビリス)』などといった防御魔法を私は常時身体の表面に出来ないかと研究し、薄く展開する「常時展開防護陣(パッシブ・プロテクション)」の技術を開発した。そして寝ている間すらも防御魔法が自動発動するよう身体に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三段階

 

 

 

 

 

 

 

 

10歳。

 

 

 

 

ホグワーツ入学まであと1年と迫った頃。

 

 

 

 

 

私の肉体と精神は同年代の子供どころか、並の成人魔法使い(闇の祓魔師含む)を遥かに凌駕するレベルに達していた。

 

 

しかし、強さだけでは不十分だ。

 

社会的な立ち位置、そして周囲の人間を意のままに動かすカリスマ性と立ち回りが必要だった。

 

 

 

 

鏡を見る。

 

そこには、10歳にしてすでに恐ろしいほどの美貌を開花させつつある少女がいた。

 

プラチナブランドの長い髪はシルクのように輝き、白磁の肌、凛とした涼やかな目元、そしてスリザリンの気品を体現したような、優雅で隙のない立ち振る舞い。

 

 

 

(……フン、悪くないわね)

 

 

女体化した当初の抵抗感は、すでに消え失せていた。

 

 

むしろマルフォイ家の美貌の令嬢という属性は、周囲を懐柔し、油断させ、意のままに操るための最高の武器になると確信していた。

 

 

 

傲慢で高飛車、だが圧倒的にエレガントで美しい。

 

誰もが羨望し、平伏したくなるような「絶対的なスリザリンの女王」としてのセルフプロデュースを完璧に作り上げた。

 

 

 

 

 

「ドラコ、お前は本当に我が家の誇りだ」

 

(今更だけど娘にドラコってどういう神経してるんだか)

 

 

 

 

 

ある日の夕食時、父ルシウスが感極まった様子でグラスを掲げた。

 

 

 

 

 

 

「近頃の魔法界は、血統の尊さを忘れた愚か者どもが増えている。だが、お前のような美しく、聡明で、気品に満ちた娘がいれば、マルフォイ家の威光は永久に不滅だ。……ホグワーツに入学したら、あの有名なハリー・ポッターと出会うことになるだろう。あのアホな少年を、我が陣営に取り込むのだ」

 

 

「お父様」

 

 

 

私は極上のワインを味わうように紅茶を一口含み、優雅にカップを皿へと置いた。

 

 

 

 

「心配なさらないで。ポッターの件は、すべて私に任せてくださいな。彼が我がマルフォイ家に平伏すか、あるいは私に付き従う忠実な犬になるか……どちらにせよ、正しい選択をさせてあげますわ」

 

 

「おお……素晴らしい! 頼もしい限りだ!」

 

 

 

 

ルシウスは満足そうに笑みを浮かべた。

 

彼の頭の中にあるのは昔ながらの純血貴族の権勢だが、私の頭の中にあるのは「魔法界全体のパワーバランスの再構築」だ。

 

 

 

 

ハリー・ポッター。

原作では、映画の大階段でドラコ(男)が失礼な態度で手を差し伸べ、ロンを馬鹿にしたことで拒絶され、不毛な6年間の敵対関係が始まった。

 

 

だが、今回は違う。

嫌味な小者としてではなく圧倒的なカリスマと美貌と圧倒的な実力で彼らの前に立ってやる。

 

 

 

ハリー・ポッターを敵に回すのは得策ではない。

 

 

彼は「ヴォルデモートを倒すための運命の分霊箱(ホークラックス)」だからだ。

 

 

 

彼を私のコントロール下に置くか、少なくとも私を敵に回すと死ぬという強烈な恐怖を叩き込むか、最悪この容姿を使ってでも私の手の上で踊ってもらおう。

 

 

 

ヴォルデモートが復活したとしても、マルフォイ家は死喰い人として膝を折るのではない。

 

 

 

「ヴォルデモートとダンブルドアの双方が、マルフォイ家の動向に怯える」という第三勢力のポジションを裏から作り出すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1991年 夏

 

 

 

 

 

 

 

 

原作開始となる11歳の誕生日を迎えた日。

 

 

 

マルフォイ邸の豪華な朝食テーブルに、1羽のワシミミズクが1通の羊皮紙の封筒を届けてきた。

 

 

 

厚手の羊皮紙。紫色の蝋封。そこに刻まれた意匠は、ライオン、ワシ、アナグマ、ヘビ。

 

 

 

 

『ホグワーツ魔法魔術学校 入学許可書』

『ドラコ・マルフォイ様』

 

 

ついに、この時が来た。

 

 

私は手紙を受け取り、銀のナイフで静かに蝋封を切り開いた。

 

 

 

目を通しながら、口元が自然と吊り上がるのを抑えきれなかった。

 

 

 

 

 

「おめでとう、ドラコ! 待ちに待ったホグワーツだね!」

 

 

 

母ナルシッサが嬉しそうに私の頬にキスをする。

 

 

 

「ええ、お母様。とても楽しみですわ」

 

私は澄ました笑みを浮かべながら、脳内でこれまでの5年間を振り返っていた。

 

 

 

6歳で転生したあの日からの、血の滲むような5年間。

 

性別が変わった絶望を塗りつぶし、生き残るためだけに捧げた日々。

 

 

 

現在の私は——

 

『閉心術(オクルメンシー)』: ダンブルドアやスネイプの不意打ちの開心術すら完璧に弾き返す「鉄壁の精神防衛」。

 

 

戦闘魔法: 無言・無杖での高速発動。古代の殺傷呪文および防御陣の常時展開。

 

 

知識と財力: 原作のすべてのイベント、隠しアイテムの場所を把握。そしてマルフォイ家の財力を自由に動かせる立場。

 

 

 

肉体と格付け: 11歳にして大人顔負けの魔力制御力と、誰もが目を奪われる圧倒的な美貌。ある程度の護身術

 

 

準備は、完璧だ。

 

もはや、そこにいたのは原作で惨めにおびえていた悪役少年ではない。

 

 

運命という名のシナリオを、自らの圧倒的な力で踏みにじり、塗り替えるために立つ「絶対的な悪役令嬢(ドラコ・マルフォイ)」だ。

 

 

 

 

 

「さあ、行きましょうか。ダイアゴン横丁へ」

 

 

 

 

 

 

 

私は立ち上がり、マントの裾を優雅に翻した。

 

 

 

 

 

「待っていなさい、ハリー・ポッター。そして……ダンブルドアにヴォルデモート。このホグワーツどころか魔法界の歴史ごと私が塗り替えてあげるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

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