この世界では異世界から召喚獣と契約してバトロワするらしいのだが、女神に騙されて異世界で奴隷の様に働かされている主人公は優勝候補のSSSランク召喚獣としてヒロインに逆位召喚されている。『召喚戦争』   作:三流木青二斎

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1話

全ての魔物が発生する『悪の根源』、魔王が棲息する魔界都市。

魔王と言う存在の地位を証明する様に聳える魔王城の最上階にて、満身創痍になりつつある化物の終わりが迎えられつつあった。

 

「これで……終わりだ!!」

 

そう叫ぶのは、魔王城に乗り込んだパーティの一人。

この異世界へと召喚された、若き青年が聖剣を振り下ろす。

 

「グギャアあああ!!」

 

断末魔が広間に響き渡ると共に、魔王の肉体が崩壊していく。

魂の核となる部分が肉体を構築出来ず、魔王と言う存在はこの世界から消え去った。

肩で呼吸をしながら、半信半疑を覚える青年は、疑心暗鬼になりながら周囲を警戒する。

まさか、第二形態、あるいは、死んだと錯覚させているのではないのか、と。

長年の魔王討伐の旅路において培った経験から疑り深くなっていたが、しかし、彼の行動は杞憂に終わる。

その証明をするかの様に、青年の目先に表示されるウィンドウが、結末を物語らせた。

 

『或宮(アルミヤ)哉人(カナト)は魔王を討伐しました』

『これより、30秒後に女神の元へ帰還されます』

 

魔王討伐の証明を示すウィンドウの文字。

それを見た瞬間、或宮哉人は本当に魔王を倒したという実感が湧き出る。

 

「はぁ……はっ、……斃した、ぞッ」

 

強く握り締めていた聖剣が手から零れ落ちる。

緊迫していた空気は、彼の言葉によって歓声が訪れた。

ここまで、救世主である或宮哉人を支えてくれた、パーティメンバーたちだ。

 

「……や、あ、カナト様っ!!」

「やった、カナトが魔王を倒したんだ!!」

「これで、……もう、魔物に怯えなくてもいいんだ!」

 

彼と同じ様に傷ついたメンバーたち。

彼らと同じ様に、喜びを分かち合いたい或宮だったが、彼だけはその輪から外れた感覚を抱いていた。

 

「そう……だ、これでようやく……元の世界に、戻れるんだ」

 

先程のメッセージウィンドウに表示されていた文字。

それは、或宮哉人がこの世界の消滅を意味している。

複雑な感情を抱く彼の姿に気が付いた聖女が或宮の顔をうかがう。

 

「カナト様?」

 

時間が経過すると共に、次第に或宮の肉体が透明になっていく。

光の粒子が散らばっていき、段々と消えていく或宮にメンバーは驚きの表情を浮かべた。

 

「……ごめん、みんな、これは契約なんだ」

 

ばつが悪そうな顔をして、或宮は今まで黙っていたことを口にする。

 

「おい、なんだよ、契約って」

 

戦士は彼の身に起こっている事に関して聞く。

心の内で塞き止めていた秘密を、或宮は語り始める。

 

「悪の根源……魔王を倒す事で、オレは、元いた世界に帰る事が出来るんだ……それが、この世界へ送り込んだ女神との契約、なんだ」

 

救世主である或宮。

女神との契約により、異世界を巣食う悪の根源を倒す事で契約が果たされる。

もしも悪の根源を倒す事が出来れば、元の世界へ帰るという条件で、だ。

 

「な、なんだって、……どうしてそんな事を黙ってたんだ!!」

 

戦士の憤りに、或宮は押し黙る。

 

「折角、魔王を倒したってのに、……!!」

「……こんなお別れ、だなんて、カナト様……」

 

聖女も女盗賊も、或宮との唐突の別れに心中に痛みを覚えていた。

彼らが或宮と言う人間に惜しみを感じる様に、同じ様に或宮も、彼らと離れ離れになる事を是とし難かった。

 

「あぁ……オレも別れるのは辛い、けど」

 

それでも、この異世界にはないものがあちらにはある。

自分の帰りを待ち続ける家族がいる、そう思うだけで、早く帰還し安心させたいという気持ちで溢れかえってしまう。

そんな彼の気持ちを汲み取るかの様に、聖女が彼の傍に近寄る。

 

「……カナト様、どうか、あちらの世界に戻っても、私の事を、覚えて下さいますか?」

 

涙目を浮かべながらも、その別れが悲しみで満ちない様に笑顔を浮かべる聖女の健気な素顔に、或宮は思わず泣きだしてしまいそうだった。

 

「あぁ、忘れる筈がない、みんなの事は、絶対に……ッ」

 

或宮はみんなの顔を見ながら、この戦いの記憶は生涯忘れないと、その場で誓う。

彼らも同様に、或宮と言う英雄を忘れまいと、彼の最後を向き合いながら彼の消滅を受け入れる。

 

「……じゃあな、みんな」

 

そうして……救世主・或宮哉人は、この異世界から姿を消した。

誰もいなくなった魔王城の中で、聖女は涙を零しながら両手を重ねる。

 

「さようなら……カナト様、わたしの」

 

女神に願う聖女は、世界を救った英雄の最後が幸せである事を祈りを捧げる。

 

「初恋の、人……」

 

彼に伝えることのない気持ちを、言葉にするのだった。

 

 

 

 

 

『―――女神の神殿へ帰還しました』

 

白濁とした意識の中、メッセージウィンドウの無機質な音声が脳内に響く。

 

(このメッセージウィンドウ、は……)

 

その声と共に目を開く或宮は見覚えのある空間の中、ぽつんと立ち尽くしていた。

清潔感のある真っ白な空間がどこまでも広がっている孤独の世界。

その中で背後から気配を感じ取った或宮は振り返ると共に、そこに立つ女性に視線を映す。

 

「お役目、お疲れ様でした、救世主サマ」

 

ピンク色の長髪を靡かせながら、真っ白な肌を晒す巨体。

或宮を見下ろす様に視線を向ける女性に、或宮は声を漏らす。

 

「……女神、か」

 

女神は満面の笑みを浮かべて救世主の帰還を受け入れる。

だが、或宮から見れば女神の表情は多くの悪意を覆い隠す、張りぼての笑みとして映っている。

 

「これで、あの世界は無事に救われました。その後のお楽しみを味合わせられなくて残念でしたが」

 

女神の言葉の一つ一つが癪に障る。

正直に言えば、相手などしなくない存在なのだが、彼女との会話もこれで最後なのだと思い、或宮は女神に聞く。

 

「……でも、これでオレは、元の世界に戻れんだよな?」

 

女神と交わした約束。

一枚の羊皮紙に刻まれた契約書を何処からともなく取り出した女神は、契約の内容に目を通す。

 

「はい、それは勿論、この契約書に……あれぇ、あれれれぇえ?」

 

黒のインクで刻まれた文字に首を傾げながら見つめ続ける女神に、苛立ちを覚える或宮。

 

「なんだよ、そんなワザとらしく……」

「おやおやこれは、戻れませんねぇ」

 

そして、女神は至極残念と言いたげに眉を落とし契約書を或宮に向ける。

一瞬の間、女神の言葉に脳の処理が追い付かず、言葉に詰まる。

言語を咀嚼して、ようやく出てきた言葉は、怒りと困惑を込めた一言だった。

 

「はぁ?!」

 

契約書に視線を向ける。

契約の内容はウィンドウとして表示された。

 

『契約名:無窮隷属』

『効果:女神と契約した者に与えられる束縛の契約』

『詳細:女神の代理者として『悪の根源』の消滅を実施する』

『報酬:契約を果たす事で元の世界へ戻る事が出来る』

 

内容を確認したうえで、或宮は改めて女神に聞く。

 

「なんで……オレは元の世界に戻る筈じゃないのか!?」

 

悪の根源を倒した。

それは紛れもない事実である。

ならば、契約に従い、成就された或宮は彼のいた世界へ帰還出来る筈だろう。

しかし女神は、契約者の一文に指を這わせて注視させる。

 

「契約ではそう書かれていますね、『悪の根源』を断つ、と」

 

「そうだ、オレは、その世界の魔王を倒して、平和を……」

 

異世界へ召喚された或宮は、その契約を果たす為に魔王討伐をしたのだ。

悪は消えてなくなり、世界に平和をもたらした、だから契約は果たされただろう。

だが、女神は大きく頬を裂く様に笑みを浮かべなおす。

 

「そ(・)の(・)世(・)界(・)だ(・)け(・)?」

 

次第に、或宮は大きな勘違いをしていたことに気が付く。

契約の内容には、確かに場所も時間も記載されていない、と言う事に。

 

「おやおや、可笑しいですねぇ……契約にはそう記載されていませんよ?これはどういう事ですかねぇ?」

 

段々と、契約の意味合いが大きく変わっている事を察した或宮。

 

「ま、さか……お前」

 

額から大量の脂汗を流しながら、女神の契約書に向けて手を伸ばす。

しかし、彼の指先が契約書に触れる直前、女神の細い指が彼の手を静止させた。

 

「世界という枠組みが、貴方の住んでいた故郷や、あの剣と魔法の異世界だと思っているのですか?普通に考えれば、色んな異世界があっても可笑しくないと思うのが普通ですよ?」

 

「な、ぁ……ッ」

 

或宮は大きく勘違いをしていた。

異世界は、彼がいた剣と魔法の世界だけではない事。

より多くの、様々な、色んな異世界と呼ばれる巨大な箱庭が存在するということに。

 

「場所の指定が無い限り、貴方はあらゆる異世界の『悪の根源』を断たなければならない、それが私と貴方と交わした契約なのです」

 

それが、女神が或宮と交わした契約の内容、その真実だった。

当然、ただ一回で終わりだと思っていた或宮には受け入れがたい事実であった。

 

「ふ、ざけんな……そんなの、何十年、いや……何千年も掛かるに決まってる、永遠かも知れないじゃないか!!」

 

彼が把握しきれない程に異世界は存在する。

今回の旅路では約三年掛かったのだ、全ての異世界に滞留する悪の根源を根絶やしにするとすれば……まさに無限に近しい永遠を彷徨い続ける事になるだろう。

 

「ええ、そうですよ?その為に契約を結んだのですから」

 

「っ……この!!」

 

拳を固めて女神に殴りかかろうとする。

しかし、女神はその攻撃を軽々と避けると、彼の無駄な行動に対して嘲笑する。

 

「攻撃なんて簡単に回避出来ますよ?ああ、恐ろしいですねぇ、しかし、私を殺してみますか?それでも契約は続きますよ?自殺でもしますか?貴方の肉体は魂が砕けぬ限り死にませんが……まあ」

 

契約書が女神の手から離れる。

煙の様に消えてなくなると、両手を大きく広げながら女神は或宮の前に出た。

 

「私はどちらでも宜しいですがね、貴方がこの契約から逃れる方法はただ一つ……魂が完全に消え去る事のみ、それが出来ぬ限りは、貴方は永遠に契約に縛られ続けるのです!!」

 

怒りに身を任せて攻撃しても。

契約がある限り、或宮はこの呪縛から逃れる事は出来ない。

 

「く、そ……クソぉ!!」

 

強く握り拳を固めながら、地面に向けて強く叩きつける。

そんな彼の無様な姿を見た女神は愛おしそうに見つめ、高笑いをしながら手を叩く。

 

「あははっ、さあ、お仕事のお時間です、どれ程、抗おうとも、契約の力は絶対なのです、さあ!!世界をお救い下さい、救世主サマ!!」

 

その言葉は呪いの様に、深く或宮の心に突き刺さった。

 

 

 

 

 

悪の根源を全て滅ぼす。

その役目を担った或宮は憔悴していた。

 

「……」

 

肉体の損傷は女神が修復し、精神が病んでも女神が治癒する為、狂う事すら出来ない。

ただ、女神の都合が良い道具として利用され続ける日々。

 

「ご苦労様です、救世主サマ、これで何度目のお仕事か分かりますか?」

 

「……」

 

嫌らしくも或宮が考えないようにしていた事を聞いてくる、その度に彼は口を硬く結んで押し殺す。

 

「おやおや、答える事すら出来なくなりましたか?ふふ、従順なのは良い事ですねぇ、それでこそ、女神の玩具と言うものです」

 

だが、それこそ女神の理想だと告げられると、それが嫌で或宮は口を開いた。

 

「うるせぇ、よ……」

 

女神に強く睨みつけるが、その反応は女神にとっては心地良いものであるらしい。

嬉々とした反応をしながら、否応なく或宮に突っかかる。

 

「お、反応しましたねっ?あはっ!!そうです、それこそが私が見初めた魂ですっ!!普通の人間では百年も経てば朽ちて消えますが……貴方の魂は特別、数千年を超えても魂の質は変わらず、不変であり続けるっ」

 

元より普通の人間よりも逸脱した存在であり、それを目的に女神は或宮との契約をしたのだ。

 

「黙れ……口を、喋んな」

 

吐き気を催す或宮は女神に向けて手を振るう。

女神はその攻撃を敢えて受け入れると、すぱり、と女神の首は切裂かれて、そのまま地面に落ちる。

或宮の手には何処から取り出したのか、一振りの剣が握り締められていた。

手品めいた行動だが、それ以上に驚くべきは、先程首を刎ねた女神はひとりでに髪の毛が蠢き、一本一本が動物の触手の様に胴体に張り付くと、上り詰めて女神の頭部の位置へと戻っていく。

 

「おっと、これで1万2922回目の反抗ですね、懲りない事で……そして次は2万2222回目の自害でもしますか?無駄である事を知っておきながら、……ご愁傷様とだけ申しておきましょうっ」

 

そして、変わらずバカにするような言動を唱える為に、全ての行動は無意味であると或宮は感じ、絶望を覚える。

 

(……ああ、クソ。オレはこの地獄から抜け出す事はおろか、……クソ女神に吠え面を掻かせる事すら出来ない)

 

どれ程抗おうとも、全ては女神の掌の上、結局は踊らされているに過ぎない。

 

(何千年も生き続ければ、嫌でも理解してしまう、この女神が築いた契約は絶対だ)

 

彼の視界に表示されるステータスウィンドウ。

そこには或宮と女神が交わした契約の内容が映し出される。

 

『契約名:無窮隷属』

『効果:女神と契約した者に与えられる束縛の契約』

『詳細:女神の代理者として『悪の根源』の消滅を実施する』

『報酬:契約を果たす事で元の世界へ戻る事が出来る』

 

(この契約がある限り、オレは永遠に、この女神の下で扱われ続ける……)

 

初めの内は希望があった。

どれ程の強力な束縛でも逃れられる道があると。

多くの異世界へと足を踏み入れる事で、或宮には多くの武器を手に入れた。

それを使い、女神に挑んだが……しかし、致命傷はおろか、ダメージすら与える事が出来ない。

 

(どんなに強くなっても……この女神の前では、オレは無力だ)

 

悪の根源を壊滅させる。

その為に彼は多くの世界を救った。

それは聞こえが良いものかも知れない。

だが、その精神性は英雄とは程遠い。

 

(クソ……もう沢山だ、使われ続ける人生なんて、誰でも良い)

 

幾千の敵を滅ぼす英雄でなくていい。

幾万の命を救う救世主でなくていい。

ただ、自分一人が救われたい。

 

「……たすけてくれ」

 

それだけが、或宮哉人の願いだった。

当然、何度も口にした台詞、その言葉を叶えるものは誰もいない。

ただ、彼の願いを踏み躙る女神が一柱のみ。

 

「ん……ふふ、ああ情けない、救世主サマ、その様なセリフを吐くだなんて、なんて惨めなのでしょうかっ!!救いを求める救世主など、この世で貴方一人でしょう!!」

 

自身の成功に酔い痴れながら、女神の声はより高らかとなっていく。

 

「ですが無駄ッ!!この契約がある以上、貴方は私に縛られ続ける運命なのです!!さあ、また新たなお仕事を見つけてきましょう、そして……私の手足となり使命を果たすのですッ!!救世主ッ!!救世主ッ!!救世主ッ!!」

 

ただ無情に或宮は屈辱を噛み締める。

この女神からは決して逃れることは出来ないと言う絶対。

自らの魂が燃え尽きるまで、永劫を絶望の底で過ごす事になる、……そう確信した最中。

 

『―――――コンタクトが発生しました』

 

眼の前に出現するメッセージウインドウ。

視覚内に提示されるシンプルなメッセージに、しかしそれは初めてのものだった。

 

(……なん、だ?これ、は)

 

視界を動かすと、メッセージウインドウが文章を表示していく。

 

『別世界の住人から契約が求められています』

『この契約に切り替えた場合、一時的に現在の契約が無効となります』

『現在の契約:〈無窮隷属〉』

『新しい契約に切り替えますか?』

 

その内容に、或宮は微かな奇跡を感じた。

これ程までに絶望を味わい尽くした末に訪れる命綱。

 

(―――もしも、この地獄が、変わるのなら)

 

それがこの先、別の地獄が待ち受けていようとも、彼の心は決まりきっている。

 

「契約(サイン)してやる、どこに行こうが……ここよりかはマシだ」

 

漏れた声に反応する女神、目を細めて薄ら笑みを浮かべながら或宮の周囲を回り始める。

 

「おやおや、どうかされましたかぁ?救世主サマ、そのようなたわごとを口にして……?」

 

だが、明らかに、……或宮の様子は違っていた。

何時もとは違う、希望を見出した様な雰囲気を纏う青年。

彼の視界に映る内容を盗み見る様に視線を促すが、内容はブラックアウトとなって見ることが出来ない。

そう判断が遅れたが為に、或宮の視界に映るメッセージウインドウには。

 

『契約:承認されました』

『―――現在の契約を無効になりました』

『新称号〈愚者の契約者(テスタメント・ワイルド)〉を獲得しました』

 

その様に記載されていて、目を大きく見開く或宮。

 

「……愚者の、契約、者?」

(なんだ、これは、この、メッセージウィンドウは)

 

「……何を見ているのですか、救世主サマ、私の方を見なさい」

 

或宮にとって初めての、焦燥とする口調。

彼女を無視して、或宮は内容を確認する。

 

『ウィザードによる大儀式〈召喚戦争〉の一部に組み込まれた事を示す称号』

『二十二役の内の一役、それが愚者の契約者《テスタメント》』

『契約者は契約したウィザードとの間に主従関係が成立する』

『大儀式に参加し最後まで生き残った組織は願いを一つだけ叶えられる』

 

内容自体は変わり映えしない殺し合いの内容。

一つだけ違う事があるとすれば、優勝者には願いが一つだけ叶う、と言う部分。

 

「だい、儀式……」

 

ここで願いが叶うのだとすれば。

この忌まわしく続く契約の輪廻からも脱する事が出来るだろう。

 

「見ろ、この私を……救世主ッ、或宮哉人ッ!!私を見ろッ!!」

 

女神の声など最早聞こえない。

契約は更新され、或宮の周辺には新たな召喚陣が展開される。

そんな彼に縋ろうと手を伸ばすが、召喚陣から放たれる光の防壁が女神の手を阻害する。

 

(ああ、なんだか、意識が薄れていく……また別の世界へ召喚される、この感覚)

 

幾千も繰り返して感じる、肉体が世界から弾き出されそうになる感覚。

何時もならば嫌悪感が勝るそれは、今だけは心地良いものになっていた。

 

(だけど、一つだけ違うのは……あの女神が、慌てふためいている様を見れる、なんてな)

 

女神としての美貌を崩す程に表情を変化させている。

傍から見れば化物と変わりない姿だが、初めて或宮は滑稽を覚えた。

 

「或宮ッ、哉人ぉぉおお!!」

 

最期に、或宮哉人は、中指を一本立てた。

 

「―――うるせぇよ、ざまあみな、クソ女神」

 

最小限の動きで渾身を込めた侮辱のジェスチャー。

それと共に、或宮哉人の意識はそこで途絶えるのだった。

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