魔王の末っ子 フェリスの日常   作:なのさま

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2. 勇者誕生?

 ──フェリスの寝室──

 

「ふーはっはっはっは!! よくきたな、ゆうしゃよ!」

 

 天蓋付きのベッドが置かれた寝室に、幼い魔王の高笑いが響きました。

 

「ゆけ、わがしもべたち!」

 

 フェリスは手に持ったケルベロスとケットシーの人形を、縦横無尽に暴れさせます。

 

 部屋の壁際には人形棚があり、スケルトン、グリフォン、ドラゴンなど多種多様な人形が飾られています。

 特にお気に入りなのがケルベロス。

 

「魔王! お前の野望もお~ここまでだ! 俺の聖剣デュランダルの錆にしてやる!」

 

 対する勇者の人形は侍女が操ります。

 今日、フェリスと遊んでいるのは牛魔族のモークミル。

 メルシェ同様、フェリスのお世話係の一人で、見た目は完全に二足歩行の牛さんです。

 

「けりゅべろん、かみつけ! がうがう!」

 

「くっ、やるな!」

 

「けっちーのひっかくこうげき!」

 

「まだまだ!」

 

 そうやって二人が遊んでいると、唐突に扉が開かれました。

 

「フェリス、ただいま」

 

 入ってきたのは、緑色の長い髪を持ち、フェリスよりも一回り大きな花を頭に咲かせた女性でした。

 手には鳥の卵を一つ持っています。

 

「あねうえ! おかえりなさい!」

 

 フェリスはダッと走って、姉に抱き着きます。

 

「アイリス様、おかえりなさいませ」

 

 彼女はアイリス。

 フェリスの姉であり、現在は魔法学園に通う生徒です。

 

「人形遊びをしていたのね」

 

「うん! ねえねえあねうえ、そのたまごなーに?」

 

「これはお土産よ。フェリスにあげようと思って持ってきたの」

 

 そこでふと勇者の人形を見て、アイリスは何かを思いついたようです。

 

「……ねえ、知ってる?」

 

 アイリスの口元がわずかに吊り上がりました。

 

「卵からはね……ときどき勇者が生まれるのよ」

 

「えっ!? そうなの!?」

 

 勇者は人間ですので、卵から生まれるはずがありません。

 

「も、もしかして……そのたまごが……!」

 

「ふふ……生まれるといいわね」

 

 アイリスは何食わぬ顔で卵を差し出します。

 フェリスはそれを大事そうに両手で受け取りました。

 

「ゆうしゃ……!」

 

 その横では、モークミルが何とも言えない表情していました。

 

「フェ、フェリス様。あのですね──」

 

「もーくみる! ゆうしゃ、うまれるかな!」

 

「……生まれるかもおーしれませんね……」

 

 期待に満ちたその目を見て、モークミルは真実を伝えられませんでした。

 

「ふふふ……これはもうすぐ孵りそうだから、潰さないように温めるのよ」

 

「うん!」

 

 アイリスが椅子に座ると、フェリスはその膝の上にちょこんと乗りました。

 そして卵を両手で包み込んで温めます。

 

「うまれろ~、うまれろ~」

 

 念を込めるフェリスを、妙に楽しそうな笑顔でアイリスは見つめていました。

 

「……アイリス様」

 

「なに?」

 

「本当にただのお土産ですか?」

 

「もちろん」

 

「その顔で言われてもお~、まったく信用できませんが」

 

「失礼ね」

  

 そう答えながらも、アイリスの笑みは消えません。

 

「ぬふふ、どんなゆうしゃかなー?」

 

 フェリスはそんなやり取りを気にもせず、卵をじっと見つめています。

 

「勇者が生まれたらどうするの?」

 

「ぶかにする!」

 

「あら」

 

「それでちちうえをたおして、わえがまおうになる!」

 

「勇者を使って次の魔王になるのね。新しいわね」

 

「それはとってもお~大きな野望ですね」

 

 お茶を用意しながら、モークミルは感心したように言います。

 歴代魔王の中でも最強と名高い父を倒すとは、ずいぶん大きく出たものです。

 

「それなら、お姉ちゃんはお父様の方に着こうかしら?」

 

「にゃ!? あねうえ~!」

 

「ふふふ」

 

 そんなやり取りをしていた、その時でした。

 ピクリ。

 

「……!」

 

 突然、フェリスの手の中で卵が震えました。

 

「あ、あねうえ! うごいてる!」

 

「いよいよ孵るわよ」

 

「ゆうしゃ!」

 

 パチッ。

 

 小さな亀裂が入ります。

 

 パキッ。

 

 亀裂が少しずつ広がっていきます。

 

「さあ、いでよ! ゆうしゃ!」

 

 パキパキッ。

 

 殻が大きく割れ、中から現れたのは──

 

「こ、これが、ゆうしゃ……!?」

 

「ピヨピヨ」

 

 現れたのは、完全にヒヨコでした。

 

「…………」

 

「ピヨ?」

 

 全体的に紺色の身体。

 姿は鳥ですが、尻尾だけは蛇のように長く、その先端は可愛らしいハート型になっています。

 

 ──それは毒の吐息を吐き、近づくもの全てを死に至らしめる。

 ──その鋭い眼差しは敵を石に変え、闘うことすら許さない。

 ──時にはドラゴンすら殺してしまう獰猛さを持つ。

 一見石死の魔鳥、コカトリス。

 

 ただしこのヒヨコ、厳密にはコカ(・)トリスではなく、コケ(・)トリスのようです。

 コカトリスを魔族が長い年月をかけて品種改良し、家畜化した種です。

 石化の魔眼も猛毒も失い、恐るべき狂暴性も今ではすっかり鳴りを潜めています。

 見分け方は至って単純。

 コカトリスは尻尾の先が蛇の頭部ですが、コケトリスはハート型になっています。

 

「勇者じゃなくて残念ね。」

 

「や、やっぱり、ゆうしゃじゃなかった……」

 

 お目当ての勇者が手に入らず、フェリスの肩はしょんぼりと落ちます。

 

「ピヨ……?」

 

 そんな彼女を慰めるように、ヒヨコは自らを温めてくれていたフェリスの手に、すりすりと頬を寄せました。

 

「……!」

 

 フェリスは目を丸くしました。

 

「ピヨピヨ」

  

「ぬふふ……」

 

「すっかり懐かれてまあ」

 

 モークミルが微笑みます。

 

「でもお~、身体を乾かしてあげないとですね」

 

 モークミルは柔らかな布を持ってくると、ヒヨコの身体を優しく拭き始めました。

 

「ピヨ……」

 

 プルプル震えながら、ヒヨコは大人しくされるがままです。

 

「青に近い色なのね。フェリスは水属性との親和性が高いのかしら……」

 

 アイリスは何やらメモを取りながら、ブツブツ呟いています。

 

「ゆうしゃじゃなくたっていい! こやつをきたえて、ちちうえをたおす!

 な! こことれすさんせい!」

 

「ピヨ?」

 

 突然、とてつもなく大きな期待を背負わされたココトレス三世。

 果たしてこの小さな家畜が、歴代最強の魔王を打ち倒す日はくるのでしょうか。

 家畜の大逆襲に乞うご期待。

 

 ……ところで、一世と二世はどこへ行ったのでしょうか。

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