魔王の末っ子 フェリスの日常   作:なのさま

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3. 魔王人生ゲーム

 ──魔王城の応接室──

 

「まだかなー? まだかなー?」

 

 ソファーの周りをソワソワしながら歩くフェリスに、アイリスがカップを片手に言いました。

 

「会談ももうすぐ終わるんだから、座って待ってなさい」

 

「まだかなー? まだかなー?」

 

 しかしアイリスの言葉は届かなかったようで、フェリスの足は止まりません。

 と、その時──コンコン、と扉がノックされました。

 フェリスが勢いよく扉の方を振り返ります。

 

「失礼いたしますわ」

 

 そう言って入ってきたのは、年の頃はフェリスとさほど変わらない、金髪を二つに結わえた少女でした。

 

「サラーシャ!!」

 

 フェリスの表情がぱあっと華やぎます。

 どうやら彼女を待っていたようです。

 

「アイリス様、フェリス様、ご機嫌麗しゅうですわ」

 

 サラーシャはそう言って、恭しくスカートの端をつまんで挨拶をしました。

 

「よく来たわね。まあ座りなさい」

 

「サラーシャ、こっちこっち!」

 

 フェリスはサラーシャの手を取り、自分の隣に座らせます。

 と、そこでサラーシャは何かに気づいた様子で、部屋の端へ目を向けました。

 

「あの、フェリス様。あそこにいるのは……」

 

「ふっふっふ、おめめがたかい!」

 

 そう言ってフェリスが取ってきたのは、一つの鳥籠。

 

「ピヨ?」

 

 中にはココトレス三世の姿がありました。

 

「可愛らしいヒナですわね! お名前はあるのですか?」

 

「こことれすさんせい! こやつはゆくゆく、まおうをたおすのだ!」

 

「まあ、そうなのですわね! ワタクシはサラーシャ。よろしくお願いいたしますわね、ココトレス様!」

 

 サラーシャは礼儀正しく、ヒヨコにも挨拶します。

 

「ピヨ? ピヨピヨ」

 

 そんな様子を遠目に見守るアイリスが、ふと思い出したように尋ねました。

 

「そういえば、今日も新しいゲームを持ってきたのかしら?」

 

 フェリスも目を輝かせて飛びつきます。

 

「げーむ! げーむしたい!」

 

「フフフ、そう仰ると思いまして。新作、お持ちしておりますわ──」

 

 サラーシャはカバンから一つの箱を取り出しました。

 中には折りたたまれた紙やカード、サイコロや駒などが入っています。

 

「さすがは大商家の娘。顧客のニーズをよく分かってるわ」

 

「ワタクシなど、まだまだヒヨッコですが……それでも楽しんでいただけるよう、今回も作ってまいりましたわ。題して『魔王の座を手に入れるのは誰だ!? チキチキ、魔王人生ゲーム!!』ですわ! ルールを説明しますわ──」

 

 ルールを説明しよう!

 魔王人生ゲームはいわゆるすごろくゲームで、サイコロの出た目だけ駒を進め、プレイヤーは戦闘力を高めていく。

 手番が一周すると1ターンが経過し、全部で20ターンが経過したらゲーム終了。

 最後に戦闘力が一番高かったプレイヤーが魔王となるのだ。

 マスには色々なイベントがあり……ここからは実際にゲームをしながら見ていこう。

 ──とのことでした。

 

「では早速始めましょうか! 順番ですが──」

 

「はいはいはい! わえがいちばんにふりたい!」

 

「私は別に何番でも構わないわよ」

 

「ではフェリス様、アイリス様、ワタクシの順番で。魔王人生ゲームスタートですわ!」

 

 サイコロを持ったフェリスが「おりゃっ!」と勢いよく振りました。

 

「1、2、3……『父と修行した。戦闘力が2上がる』だって!」

 

 フェリスは青色の駒を進め、『2』と書かれたカードを手元に置きました。

 

「じゃあ次は私の番ね──」

 

 サイコロを振り、出た目だけ緑色の駒を進めていきます。

 

「何々、『魔導書を購入した。魔導書カードを1枚引く』ですって」

 

「魔導書カードはこの山札ですわ。1枚引いてくださいまし」

 

「【基礎魔法学入門編】……戦闘力が3上昇するみたいね」

 

「あ! あねうえずるーい! わえもまほう、つかいたい!」

 

「ふふ、フェリスも手に入るといいわね。魔導書」

 

 そう言って、今しがた手に入れた魔導書カードを見せびらかします。

 

「むー!」

 

「うふふ、ではワタクシの番ですわ──」

 

 サラーシャは赤色の駒を進め、内容を読み上げます。

 

「『言葉巧みな話術で配下を手に入れる。配下カードを1枚引く』──ワタクシが引いたのは【名将ランゲル】……戦闘力5ですわ!」

 

「ふたりばっかりずるいー!」

 

「大丈夫ですわ、フェリス様。まだゲームは始まったばかりですわ」

 

 ──5ターン後、フェリスの番。

 止まったのは『朝起きると謎の石が枕元に。レジェンドカード【謎の石】を手元に置く。【謎の石】がすでに他プレイヤーに取得されている場合、もう一度サイコロを振る』というマスでした。

 【謎の石】

 綺麗な白い石。20ターン目終了時、【謎の石】専用の山札からカードを1枚引く。

 

「レジェンドカードを手に入れましたわね!」

 

「れぜんどかーど?」

 

「同じカードが1枚としてない、強力な武具やアイテムカードですわ! ただ【謎の石】は、最後の最後にしかその能力が分からない物ですが……」

 

「へー、どんな効果なのかしらね」

 

「ちちうえをいちげきでたおせるやつがいい!」

 

 フェリスは父を倒したくてしょうがないようです。

 

 ──10ターン目、サラーシャの番。

 

「『敵の配下の買収に成功。他プレイヤーの配下カードを1枚奪う』……ワタクシが選ぶのは、フェリス様の【番犬ケルベロス】ですわ!」

 

「ぬわー!? けりゅべろーん!?」

 

「おーっほっほっほ! これでワタクシの戦闘力は53ですわ! 一位に躍り出ましたわー!」

 

「けりゅべろんのうらぎりものーっ!! もうぶりゃっしんぐしてやらんぞー!!」

 

 知らぬ間に裏切り者にされてはケルベロスが可哀そうです。

 

 ──16ターン目、アイリスの番。

 

「『禁断の魔導書アルスマグナの叡智を垣間見た。自分は戦闘力を5上げ、他の全プレイヤーは5下げる』──残念ね、サラーシャ。私との差はこれで25。果たしてあと数ターンで埋まるかしら?」

 

「くっ!? やりますわね……!」

 

「うぁーん! わえのせんとうろくがー!!」

 

 ──終幕。

 

「さて、ワタクシが76、アイリス様が107、フェリス様が……36」

 

「ぬわーん!! なんでふたりともそんなにつよいのー!?」

 

「ワタクシは配下カード、アイリス様は魔導書カードが集まって、それぞれシナジーを発揮したからですわね。フェリス様は……」

 

 フェリスの手元のカードは統一性がなく、色々な配下、アイテムがごった煮状態でした。

 また修行マスもほとんど踏めず、今に至ります。

 フェリスは悔しさにプルプル震え、今にも泣きだしそうです。

 

「フェ、フェリス様。最後に【謎の石】がありますから……ね!」

 

「そ、そうね。何が出るかは知らないけど、逆転できるかもしれないわよ?」

 

「ほ、ほんと……?」

 

「え、ええ。きっと引けますわ! ささ、この中からカードをお引きくださいな!」

 

 フェリスがどれにするか悩んでいる間、アイリスはサラーシャにひそひそと尋ねます。

 

「ちょっとサラーシャ、本当に逆転なんてできるの? というか、カードの中身は何?」

 

「一応できますが……20枚中10枚は【妖精の悪戯】というもので、何の効果もありません。9枚は【母のお守り石】で、戦闘力を8上げます。それでも全く足りませんが……」

 

「あとの1枚は……?」

 

「あとの1枚はですね──」

 

 サラーシャが言いかけたその時。

 

「あ! ねえみてみてー!!」

 

 1枚を選び終えたフェリスが満面の笑みで二人を見ました。

 手に持っているカードを見せてきます。

 

「そ、それは……」

 

「ん? 【海王の加護】……これって」

 

 【海王の加護】

 謎の石は海王からの贈り物だった。

 魔界の絶対者が味方になったので、これを引いたプレイヤーはゲームに勝利する。

 

「これってわえのかち?」

 

「はい! お見事ですわ!」

 

「引きがいいわね……おめでと」

 

 少し悔しそうなアイリスは、フェリスの頭を撫でます。

 

「やったー!」

 

 フェリスはおもむろにソファーの上に立つと、

 

「ぬわーっはっはー! わえこそまおう! ひれふすがいい!」

 

「「ははあ~」」

 

 ノリのいい二人が頭を下げると、フェリスは満足したのか、

 

「もういっかい! もういっかいやろ!」

 

 そう言ってゲームの準備を始めました。

 この日は、日が暮れるまで応接室には楽しげな声が絶えませんでした。

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