悪役令嬢の影武者ですが、主人が姿を消してから五年が経ちました 作:狸のピクルス炙り
学院生活を送る間、生徒は寮に住むことになっております。
これは平等という観点を示すためでもあり、平民と貴族を同じ暮らしをさせると同時に、貴族たちがどのような暮らしをしているのかを知らしめるためだとか。
要するに、貴族ってすごいんだぞ。って有能な平民に知らしめる目的ですね。
「さて、それでは確認作業としますか」
私は寮にて個室を与えられております。
平民は複数人が同じ部屋で暮らすそうですが、高貴貴族にそのような真似はさせられないためですね。
平等を謳っておきながら、こういうところはちゃっかりしているのが、何とも貴族らしい。
まあ、実際貴族からの寄付で成り立っている学院ですので、その分ということにしておきましょう。
私は机の前に座り、持参した悪役令嬢必携ノートの写しを開きます。
これにはこの学院で起こる様々な出来事や、要人の情報が記されています。
一通り頭に入れているつもりですが、忘れがあってはいけません。
毎日確認すると致しましょう。
「まずは、本日あった人達の情報を確認いたしましょう」
フルリナ嬢、レオ様、キンディ様、ルーファス様。この四名ですね。
『フルリナ。平民でありながら聖女の力を秘めている。ピンク髪の活発で可愛らしい女の子。魔法の適正は光属性で回復に特化している。攻略対象との愛を深め、イベントによって聖女の力に目覚める』
『レオナルド。第一王子で、腹黒キャラ。金髪のいつも笑顔を絶やさない見た目は好青年。ミリスの事には大して興味がない、はず。変わった行動ばかりするフルリナに興味を持って、交流を得ようとする。魔法も剣術もなんでもできる天才キャラ』
『キンディ。宰相の息子で、気難しい学者タイプ。頭はいいけれど頭が固い。個人的に嫌い。絶対に些細なミス突っ込んでくるタイプ。絶対に顔合わせたくない。学業でフルリナに負けて、興味を持つようになる』
『ルーファス。騎士団長の息子で、実直なタイプ。ミリスの事が嫌い、なはず。とにかく自分が見たものを信じるタイプなので、助けを求めるならルーファスかも? フルリナが転びそうになったところを助けて、交流が始まる』
――記されている内容をざっくりまとめるとこのような感じでしょうか。
……キンディ様のだけ、やたらと私怨が混ざっているような。いえ、まさかミリス様がそのような分別の無い真似をなさるはずがございません。
翻訳の都合でしょう。
「こうしてみると、フルリナ嬢ってすごい方なんですね」
平民でありながら、学業でキンディ様を負かし、レオ様に興味を持たれるような行動を……確かに変わったことをなさる方ではありましたが。
いや本当に。どこからともなく現れるので、こちらとしては気が気じゃありません。
むしろどうしてそこに? と思いたくなるような場所から姿を現すものですから、転移魔法の使い手かと疑いたくなるほどです。
「……ルーファス様に記載されているこちらの出来事、見覚えがあるような」
助けてもらいましたね、私が。
ふむ、まあ別途フルリナ嬢の事も助けてくださるのでしょう。
話してみたところ、あの方は困ってる方を放っておけるタイプには見えませんでしたから。
……フルリナ嬢が転ぶような方には見えませんが。
あの方、身体能力も高いんですよね。
私も影武者として暗殺者に立ち向かえるように護身術を嗜んでおりますが、鍛えている私に平然と追いついてきますもの。
スラム街の情報屋でもあそこまでの俊足は持ち合わせていませんよ……?
これを読んで分かるのは、おそらくミリス様がみた未来は既に変わってしまっている可能性が高いということ。
そもそも、ミリス様本人がいらっしゃらないので当然なのかもしれません。
私の擬態は完璧と自負しておりますが、ミリス様のお考えを全て図ろうなど不可能というもの。あの方の深謀遠慮に私風情が付いていけるはずがないのです。
「後はまだお会いできてない攻略対象の方についても見ておきますか」
今回のルーファス様のように、ひょっとすると何かあるかもしれません。
今後のためにきちんと頭の中に入れておくべきでしょう。
『ヘイルム。学院の先生で、死んだ妹を溺愛しているシスコン。フルリナに妹の面影を見て、興味を持つ。裏では人体錬成の実験をしていて、妹の複製を作ろうとしている。怖い、近寄りたくない。こいつに殺されるのだけは絶対に嫌だ』
「ガラント。隠しキャラで、物語上の悪役。邪教に洗脳されているけれど、隠しルートではフルリナの聖女の力で洗脳を解いて一緒に邪教に立ち向かう。国家転覆罪の余罪があるけれど、聖女と一緒に邪教を退治したことで免罪される」
ふむ、この二名ですね。
……やたらとミリス様が怯えている方がいますが、なんとまあ。
ヘイルム先生は緑髪の、眼鏡をかけてらっしゃる先生ですね。なるほど、そのような過去がおありなのですか。
というよりも、こいつに殺されるのだけは絶対に嫌だ?
この文面を見る限り、ひょっとするとミリス様が破滅する未来は一つだけではなかった?
もしも数々の多くの自身の破滅を目撃されたのであれば……それはさぞかしお辛いことだったでしょう。
「しかし、危険人物ですね。排除を検討するべきでしょうか」
悪役令嬢必携ノートには詳しく書かれていませんが、学内に実験施設を隠し持っているかもしれません。でしたら、尻尾を掴むことは難しくはないでしょう。
尻尾を掴んだ後が問題でしょうか? 立証するためには、物的証拠が必要でしょう。立場的な信頼度でいえば、長年学院に勤務している向こうの方が上だと思われます。
「要検討。次は異教徒ですか」
邪神とはこれまた大層な存在が出てきたものです。
我らがテンディパレス王国では主神として太陽神へレム様を祭っておりますが、その他にも神はいらっしゃいます。
その中で邪神と称される神は何柱かいらっしゃいますが……。
「国家転覆となると、ミスティア?」
破壊と混乱の女神、ミスティア。
あの教徒は各国で騒乱を巻き起こしていると聞き及んでおります。
国家転覆をもくろんでもおかしくはないでしょう。
なにせ、教義自体が原初の混沌を取り戻せ、というものなのですから。
秩序だった社会を破壊し、混沌とした世界を取り戻すのが彼らの目的なのです。
国家という秩序そのものを表した存在は、さぞかし目障りなことでしょう。
ここまで目を通して、改めて思います。
どうしてミリス様はお姿を隠されたのでしょう?
ミリス様であれば、きっとこれら随所の問題を解決することも可能だったと思うのですが。
いえ、危うきに近寄らずという考えもできます。
死のリスクがあるのならば、可能な限り避ける。貴族としては真っ当な考えであるはずです。
逆に言えば、死のリスクを取り除くことさえできれば――。
「ミリス様がお隠れになる理由もなくなる」
やるべきことが定まりましたね。
この悪役令嬢必携ノートに記された災厄をはねのけ、解決していく。
それこそが私のやるべきことであり、アークライト家が果たすべき責務であるわけです。
「そうと決まれば、本家に連絡いたしましょう」
学院内は外部からの圧力をかけづらいとはいえ、勝手に行動するのも考え物ですからね。
私は今後このように活動方針を定めましたという報告をご当主様にするべきでしょう。
そのための伝書鳥も持参しております。
短く今後の方針をまとめ、鳥の足の筒に紙を入れる。
窓を開け、短く行けと合図をすれば、アークライト家へ無事に飛び立っていきました。
「でも、邪教と戦うのであれば、やはりフルリナ嬢の聖女のお力は借りたいところですね」
最終目標はミリス様の死の危険性を排除するにしても、順序だてて物事を進めるとしましょう。
攻略対象との愛を深めることで聖女の力に目覚めてくださるのであれば、以前考えていたようにどなたかとの橋渡しをするべきでしょう。
「問題は、どなたと接触させるかですね……」
あい、愛ですか。
ううむ、ひとまず、私に懐いている様子なので、各攻略対象に接触させて反応を確認していくとしましょうか。
ガラントなる異教徒だけは接触の方法がありませんが、そちらは次期に現れるかもしれませんし、今は考慮から外して。
「明日からの方針が決まりましたね」
今後も、一日の終わりにはこのように行動方針の見直しをするとしましょう。
全てはミリス様のために。ミリス様の安寧の日々のために。
このティカ、見事に勤めを果たしてみせます!