悪役令嬢の影武者ですが、主人が姿を消してから五年が経ちました 作:狸のピクルス炙り
ミリス様の過去のことを知っている人物と接触しつつ、フルリナ嬢の恋の橋渡しもする。
中々に困難な課題ですが、きちんとこなしてみせましょう。
その最適解。レオ様とフルリナ嬢をくっつけてしまいましょう。
と、言うことで数日の後、お茶会をセッティングいたしました。
「ミリス様ミリス様ミリス様! 聞いてくださいよ!」
「ははっ、やっぱりミリスは面白いね」
「……」
……と、思ったのですが。なんでこの人たちは私の方ばかりを見ているの!
中庭の一角にある、お茶会用のガゼボに私たちは集まっております。
メンバーは私、フルリナ嬢、レオ様、ルーファス様の四名です。
キンディ様は用事があるのか、今日はルーファス様がレオ様の付き人をされています。
「ミリス、お前……」
「ルーファス様。皆までは言わないでくださいませ」
「すまん」
ルーファス様からは同情の視線を向けられる始末。
すっかり敵対的なそれがなくなったのはよろしいのですが、これはどういう反応を示した方が良いのかわからなくなってしまいました。
おかしいですね。このお茶会のセッティングしたのは私ですので、ホストとなるのはその通りなのですが。ホストが会話の中心になるのも道理ではあるのですが。
どうして、レオ様もフルリナ嬢もお互いを無視なさってるんですか?
「ミリス様、このお茶美味しいですよ!」
「ミリスはこのお茶が昔から好きだよね。ヘイローン地方産の香りが落ち着くんだったかな?」
挙句の果てに、何か競い合ってらっしゃいませんか?
視線が合わさるたびに火花が散っている幻覚が見えますよ???
「レオ様はぁ、ミリス様と仲がよろしいんですかぁ?」
「そうだね、同い年だけあって、幼少より共に日々を過ごした仲だよ」
「……ふぅん」
どういう状況、どういう状況なんですか。
なんか険悪な雰囲気なのですが。
辞めてくださいますか? お二人が仲悪くなられたら計画が破綻するんですよ。
その勝ち誇った顔は何ですか殿下。フルリナ嬢相手に何を張り合っているんですか?
王族が平民相手に何を競おうというのですか?
「ミリス様ぁ。今日も銀色の御髪が綺麗ですね」
「……っ!」
不意に、フルリナ嬢が私の髪の毛を一房手に取って、頬擦りしてきました。
な、なんですかいきなり。びっくりしましたよ。
「フルリナ嬢は私の髪がお好きですね」
「いい香りしますもん!」
鼻を近づけて臭いをかぐ仕草を見せるフルリナ嬢。
まあ、淑女として香りや髪の毛には大変気を使っていますが。
スラム街出身の私が奇妙なと思う時もありますが、今の私が手入れを抜くということはミリス様の株を下げるのと同等の意味を持ちます。
褒められるのは悪い気がしませんね。ミリス様の株が上がるのは良いことです。
「……ふふん」
「――なるほどね」
ん? 何やら不穏な雰囲気が。
殿下の目つきが、変わったような気が……。
「ミリス、今度一緒に出掛けないかい?」
「私と、殿下がですか?」
急な申し出ですね。
学院の休みの日などは寮から出て、町へ買い物へ出かける生徒もおりますが。
私共のような高位貴族は、実家から送られてくるので町へ出ることは少ないのです。
「そうだよ。香水とかもそろそろ少なくなってきたんじゃないかな?」
それ自体はそうですが……。
「それと、レオと呼んでくれる約束じゃあなかったかな?」
「……失礼いたしました、レオ様」
爽やかな笑顔のはずですが、どこか恐ろしさを感じるのは王族の風格がなせるわざなのでしょうか。
「ですが、家に連絡を入れれば……」
「プレゼントさせてくれないかな? 久しぶりに交友を得られた記念として」
ふむ。
殿下と友好を深めるのはアークライト家のミリスとしては願ってもないことですが。
この誘いを断る理由はあるか軽く検討しましょう。
……リスクはありますが、リターンの方が大きいでしょうか?
「承知いたしました。お供させてくださいますか?」
「もちろんだとも。今から次の休日が楽しみだね」
リップサービスがお上手ですね。流石は殿下。
これで婚約者を定めてないのですから、狙っているご令嬢は気が気でないでしょう。
「むむっ!」
「ふふっ」
おふた方は一周回って楽しそうですねぇ。
もう気にならなくなってまいりました。
気にしたらキリがありませんので。
「ルーファス様、レオ様のご予定は大丈夫なのですか?」
「ん? ああ、問題ないはずだ」
「では、お誘いを楽しみにお待ちしておりますね」
こういうのは約束だけ取り付けて、後日正式な誘いの文が届くのが慣例となっています。
なので、後日きちんとしたものが届くと思われます。
「それ! それ! 私もついていきます!」
「フルリナ嬢?」
「私はこの町の事を良く知ってますし、案内なら任せてください!」
確かに、平民であるフルリナ嬢は町に詳しいかもしれません。
一方で貴族である我々はあまり町の細かいところを存じない。
この誘いは利益があるお誘いではあります。
「私としては歓迎したいのですが、主催のレオ様に決定権がございますので」
こういう催しは企画者が参加者を決めるのも慣例です。
なので、私にフルリナ嬢が参加できるかどうかを定める権利はございません。
レオ様は計算高い方なので、きっとお許しになられると思いますが。
「残念ながら、フルリナ嬢。思い合う男女の初逢瀬なんだ」
「何が思い合うですか!」
「王家とアークライト家は古くから交流があってね」
「……うぐぐ」
頭が少しばかり痛くなってきました。
これは好きな子に意地悪をしたいとか、そういう類のものではございませんよね?
殿下がそのような幼稚な真似をなさるとは思いませんもの。
フルリナ嬢とレオ様の仲がどんどん悪くなっていっているような気がしますよ。
気のせいでしょうか? 仲を取り持とうと開いた会でどうしてこんなことに。
「ミリス。お前、やったか?」
ルーファス様から訝し気な視線が送られてきています。
「ルーファス様、どういう意味ですか?」
「黒魔術で惚れ薬とかそういう……。いやすまん、お前がそんな絡め手使うわけないな」
その使うわけがない、がどういう意味なのかは聞かないでおきましょう。
私は寛大な淑女でなければならないので。
ミリス様はその程度で目くじら立てる狭量な女ではございません。
「はぁ、殿下もお戯れはそのぐらいにしてくださいませ」
どうしてこのような話の流れになっているのかはわかりませんが。
これは咎めるべきでしょう。
臣下としても、フルリナ嬢に聖女として目覚めていただくためにも。
「ミリスにそう言われては仕方がないね」
私が一言言えば、殿下は肩を竦めて了承してくださいます。
やはり、お戯れだったのですね。
「ええ。良かったですね、フルリナ嬢」
「ほえ?」
「殿下が後程招待状を送ってくださるそうですよ」
こらこら、そんな疑わしい視線を向けるべきではありませんよ。
仮にもあなたは平民なのですから。
こうした無礼を見逃しているのも、我々の度量次第ということを忘れないでくださいね?
もっとも、学院内では平等のため、私たちがそれを口にすることはないのですが。
「では、休日は五人で出かけるとしようか」
「キンディ様とルーファス様も同行なさるのですね」
「もちろんだろう。殿下の護衛をしなければならないからな」
ルーファス様は現時点で騎士相当の剣の実力がおありだとか。
将来有望と名高い方です。護衛としては十分でしょう。
「では、準備しておきますね」
「あっ、そうだ」
「どうなさいましたか? フルリナ嬢」
なんですか、その悪いことを思いついたみたいな顔は。
満面の笑顔なのが不気味ですよ。
ほら、殿下も嫌な予感がしているのか頬が引き攣っております。
「ミリス様ミリス様。私ぃ、貴族のお作法とか詳しくないので、今度うちの寮で教えてくださいませんか?」
どんな悪いことを口にするかと思えば。
その程度ならば、許容範囲内ですね。
「? ええ、構いませんよ」
「やった!」
なんか急に元気になって、勝ち誇った顔で殿下の方を見てらっしゃいますが。
フルリナ嬢? 招待していただく人間の顔ではございませんよ?
「……ミリス」
「殿下は不要でしょう?」
「そうだね。当日を楽しみにしているよ」
な、なんなんですか?
本当に、この状況は何なんですか?