誤字などあればぜひよろしくお願いします。
学校というものは、通っている間はクソだるいものである。友人というものがあればそうでもなかろうが、俺に友はいない。かわいそう。そんなことない?ぶっ飛ばすぞ。
少し前までは少ないながらも友達はいた。いたが、軒並み転校していった。例の事件…………事件?によって。
大規模侵攻と、テレビでは大いに報道された。
突如として街に現れた、白い虫のような、獣のような化け物たち。片端から人を襲い、食っていったあの災害は、さながら地獄の様相を呈していた。
ボーダーというよくわからん組織によって一応事態は終息となったが、あんな化け物が出る街に住み続けようなんて物好きはそういない。
そういうわけで、昔からの友人はみな県外へ引っ越し、両親ともにあの時亡くなって天涯孤独となった俺は、一人寂しくこの街に住み続けているというわけだ。悲しい。
現在は被災者用の仮設住居に住みながら、助成金で食いつなぎつつ学生をしている。
ちなみにまだ中学生の時分での話である。人生ハードコアだね。
「朝田晴久君だよね。ちょっとボーダーまで来てほしいんだけど」
中学三年。もうすぐ高校生になるって時に、急に話しかけてきたのは同じクラスの話したことのない子だった。
「まず誰」
「え、あ、ごめんね!綾辻遥です。はじめまして……?同じクラスだよね?」
「話したことないからな」
ちょっと面食らっている美少女の顔は割と見た覚えがある。同じクラスだからっていう理由以外にも、テレビに出てたりするからだ。あと結構目立つ。
「急にごめんね。今日の放課後一緒に来てくれない?」
「なんで」
「この前の一斉トリオン検査があったでしょ?あの件みたい」
彼女と話していると周囲の野郎からの目線がすんごい。殺意が混ざってるというか、刺々しいというか、とにかく圧がある。赤黒いんだよね。コミュ障陰キャとしてはキツイ。はやく終わってくんないかな。適当に返事しとくか。
「わかった」
「ありがとう!案内するから、昇降口で待ってるね」
陽光のような笑みに溶けそうになる。日陰者に直射日光を浴びせるんじゃないよ。夏場のミミズみたいになっちゃうだろうが。カッピカピの。
弾むような足取りで去っていく背中から視線を外して突っ伏す。ああ、憂鬱だな。ブッチしようかな。野郎どもの視線はガン無視することにした。
昇降口に立つ綾辻さんの周りに一定の間隔を開けて人だかりができていた。有名人かよ。有名人か。
美少女の双眼がこちらを捉える。彼女の周りの色が黄色に色づき、ぺっかぺかの笑顔でこちらに手を振りだした。同時に人だかりの目が一斉にザっとこちらを向いた。視界が一気に紫に染まる。マジで勘弁して。そんなんじゃないから。嫉妬とかするなよ。
「朝田君こっちこっち!」
「お待たせ様です」
「ううん、そんなに待ってないよ。それじゃあ行こっか」
手早く靴を履き替えて速足で校舎を出る。背中に視線が刺さりそうだ。穴空いてないかなこれ。
横には微笑みを湛えた美少女。場違いすぎて身震いしそうになる。早く用事を終わらせたい。
律儀に話題を振ってくるマドンナ相手に当たり障りのない回答をしながら、早く着けと足を動かすことに心血を注いでいた。
「単刀直入に言おう。君にはボーダーに加入してもらいたい」
会議室に通され、強面の大人たちに囲まれて掛けられた第一声がそれだった。ちなみに綾辻さんはこの場にいない。俺を案内したらすぐどっか行った。美少女の顔圧から逃れたと思ったらこれだよ。この世に神はいないのか。
「何故ですか」
「前回行わせてもらったトリオン量の検査にて、お前にはかなり多くのトリオンがあることが分かった」
「つまり、戦いにおいて有利な才能を持っていることがわかったんだ。ボーダーも人手不足でね。是非とも我々とともに戦ってほしい」
「あ、いやです」
腕を組む丸いおっさんと渋いイケメンさんの言葉をバッサリと切り捨てた。まさか断られると思っていなかったのか、色が黄緑からくすんだような紫に変わる。びっくりしてんのかなあれは。
「…………理由を聞いてもいいかな」
「面倒です」
「面倒」
「あと怖いです」
「そ、そうか…………それはそうだな…………」
なんかすごい戸惑わせてしまっている。実際面倒ではあるが、怖さはあんまりない。呼びつけ方に不満があるくらいだ。
「正隊員昇格後にはなるが、任務では給金も出る。それでも不満かね?」
「固定給じゃないなら普通にバイトした方が稼げますよ」
さっきから思ってたけど、あの真ん中の傷持ってるおじさん怖いんだが。声とか喋り方とかいちいち圧がすごい。やめて!こっちはただのコミュ障陰キャ中学生よ!
「調べさせてもらったが、君のご家族は侵攻で亡くなられているようだね。近界民が憎くはないのかい?ここには近界民への復讐目的の隊員も多いんだが」
「はぁ。別に」
「何故だい?」
「何も思ってないんで」
胡散臭いおじさんが勝手に俺の個人情報を調べててヤバい。何してんの?一応民間組織ですよねあなた方。一般市民相手にそういう迫り方しちゃだめよほんとに。
おじさんたちの色が、少し赤と黒の入り混じったものに変わった。
「亡くして悲しいとか憎いとかって、大事だったからというか、失ったものに対して注いだ感情が大きかったから発生すると思ってるんですよね」
「ほう」
「俺は別に、親が死んで何か思うこともなかったです。友達が引っ越してった方が悲しかったし」
これは事実だ。親は俺を人間だとは思っていなかった。人間だと思ってたらしないような扱いをされたのでそうだろうなってだけだが。だから、あの時襲い掛かった災害に感謝すら覚えている。
「そういうわけで、憎む相手もいなければ守りたい人もいないんで、ここに所属する理由はないです」
「…………そうか、わかった。今日はもう帰ってくれて構わない。時間を取らせてすまなかった」
「いえ。あと、当日に呼びつけるのはやめた方がいいですよ。相手が子供とはいえ」
「そうだな。忠告感謝する」
口からひねり出せる精一杯の皮肉も躱されて、なんだか負けた気分で会議室を出る。
…………帰りは?
「すんません、帰り道がわかんないです」
「ああ!そうだな、すまない。今人を呼ぶから外で待っていてくれるかい」
会議室にもう一回首だけ突っ込んだらイケメンさんが人を呼んでくれた。めっちゃ恥ずい。イキって皮肉かました数秒前の自分をぶん殴りたい。
一人で脳内反省会をして待っていたら、綾辻さんと他複数名に声をかけられた。
「待たせたな!君が綾辻が言っていたお客さんか」
「たぶんそうです」
「そうか、わかった。出口まで案内するよ」
テレビに引っ張りだこのボーダーの広告塔、嵐山隊だった。顔の圧がすごい。目が焼けそう。すごくここにいたくない。
ぞろぞろと、まるで護衛されている気分になりながら出口へ向かう。綾辻さんが完全アウェーの俺にまた話題を振ってくれていた。天使みたいだな。
「結局なんの話だったの?」
「勧誘された」
「そうなんだ。受けた?」
「断った」
正直に言ったら綾辻さんも嵐山さんも佐鳥(敬称略)も、足を止めてこちらを見た。表情も色も如実に驚きましたと告げている。
「良ければ聞いてもいいかな。どうして断ったんだ?」
良い人オーラが滲み出ている柿崎さんがものすごく遠慮がちな声色で聞いてきた。さっきおじさんたちに語ったことを言ってもいいけど、ちょっと刺々しすぎるよなぁ。
「入る理由がないんで」
「でも正隊員になって任務したらお給料でますよ?」
「普通にバイトでいいじゃん」
そりゃそーですけど、と言いたげに唇を突き出して唸る佐鳥をよそに、嵐山さんが諌めるように笑った。
「まぁいいじゃないか。ボーダーやるのもやらないのも本人の意思次第だ。綾辻の友達なら、俺たちはいつでも大歓迎だがな」
「俺は綾辻さんと友達じゃないですけど」
びし、と空気が固まるような音がした気がする。そんなに変なことは言ってないと思うけどな。今まで名前を知らなかった人を友達とは呼べないだろうし。
「…………同じクラスなんだろう?」
「喋ったのは昨日が初です。名前も覚えてなかったんで」
「今六月だよな?一度も喋らないなんてできるのか?」
「できましたね」
意外と喋らなくても生きていけるものなのです人間は。俺がこの中学校生活三年間で学んだことの一つである。なんて不毛な三年間だ。見ろよ、みんなすごい引いた目で俺を見ている。綾辻さんだけ困ったように笑っていた。
「……そうか!なら今日からは友達だな!」
「そうですね。お友達としてよろしくね、朝田君」
ほんとすごいなこの人達。めげないししょげないんだけど。黄金の精神すぎる。漫画の主人公とその一派みたい。
「もちろん俺も友達になるぞ。よろしく朝田!」
「オレもオレも!よろしくおねがいします朝田先輩!」
「……それじゃ俺も。よろしくな」
ぺっかぺかのにっこにこに笑うヒーローたちに思わず目を細めてしまう。太陽が生ぬるく思えるほどに優しく温かい人たちだ。俺にはもったいないとどうしても思ってしまう。
こんなに気を遣ってくれてるのに「お断りします」はあまりにも人情がないしな。
「…………んじゃ、まぁ、よろしくお願いします…………?」
「間がすごいな」
「ようし、それじゃちょっとボーダーを見て回ろうか!」
「出口まで行くだけじゃないんすか?」
「俺も君にボーダーに入ってほしくなってな。色々見たら考えも変わるんじゃないかと思ったんだ。本当はダメなんだが、忍田さんから許可は取っているから問題ない!」
「いつの間に」
そうしてあれよあれよと連れ去られ、たどり着いたのはだだっ広い空間。壁にはマンションのように扉がずらりと並び、中央にはでっかいモニターが鎮座している。いくつかに分割された映像には戦っているらしき隊員が映し出されていた。
「ここはランク戦ロビーといってな。隊員同士が戦って競い合うことで、個々の戦力を伸ばしているんだ。俺たちは近界民相手に戦っているが、奴らがいつでも出てくるとは限らないし、戦わないと腕も鈍るからな。定期的にここを訪れて腕を磨くようにしているんだ」
「はえー」
壮観だなぁ。飛んだり跳ねたり、撃ったり切ったり。おおよそ人間から逸脱したような動きをしてる人もいる。
あ、真っ二つに切られた。痛そう。
「アレ痛くないんですか?」
「痛みはないぞ。トリオン体は痛覚を消すことができるから」
便利なもんだ。痛みは肉体の反応、危険信号だ。生身においてはなくてはならない機能だが、生身に影響はないらしいトリオン体では邪魔でしかないのだろう。そこをON/OFFできるのは合理的だ。
ふんふんと感心しながらモニターを見つめていると、じんわり紫色に染まる視界のそこかしこから視線を感じてきた。そりゃ天下の嵐山隊が見知らぬ一般人を連れてたら見るに決まってる。俺でもそうするし。
「…………そろそろ帰っても?」
「お、もうそんな時間か?そうだな、出口まで送るよ。綾辻、頼んでもいいか?」
「もちろんです。行きましょ、朝田君」
綾辻さん以外の嵐山隊の面々と別れ、先導する綾辻さんの後ろについて歩く。ヘーゼルの髪がぴょこぴょこ跳ねるのをぼんやりと眺めていた。
「今日は急にごめんね。わざわざ来てもらってありがとう」
「別に…………暇だし問題ない」
「それでもね。時間をくれたわけだし、お礼は言わないとでしょ?」
首を傾げてにっこり笑う。軽率にそんなことをするんじゃない。自分の顔の良さを自覚しているのかこの子は。そんなんだから厄介ガチ恋勢が増えるんだぞ。
「――――そうかい」
「そうだよ。…………ねぇ朝田君。これから学校で話しかけてもいい?」
足を止め、上目遣いで俺の目を覗き込む。髪の色に似た瞳からは得も言われぬ圧力が漂っているような気がした。
「なんで」
「もうお友達でしょ?だったらお話するのなんて普通のことだよ」
「そりゃ、まぁ」
「だったらいいよね?」
「…………ほどほどになら」
「えへへ、やった」
負けた。完膚なきまでに押し負けた。
ていうか超絶美少女の上目遣いの懇願に勝てる人がいるなら教えてほしい。釈迦とか仏陀くらいだろアレに勝てるの。
にこにこと笑顔を浮かべながら歩く背中を見つめ、思わずため息を吐いた。あと半年の学校生活が、せめて安穏に過ぎるようにと願わずにはいられなかった。
タイトルに意味はあんまりないです。それっぽいのをひねり出してるだけで