いつも通り感想、誤字指摘お待ちしております。
ぞろぞろ、わらわら。
大き目の石をひっくり返した時の虫の群れを見た気分になり、思わず顔面がしわくちゃになる。目の前には同じ白い服を身にまとった人間が犇めいている。
これだけでも集合体恐怖症になりそうなのに、個々の感情も入り混じって視界がカラフル通り越してどどめ色に見えてきた。気持ち悪いヤバい。
今日はボーダーの正式入隊日ということで、またしても足を運んだ次第である。入らないって言ってたくせに?それな。
綾辻さんに秘密を暴かれてからしばらく、実は色々と変化があったのだ。
まず、進学することを決めた。無論一人で決めたわけじゃなく、話し合いはしている。綾辻さんとだけど。親いねーしな俺。
まともに生きていくと腹を括った以上、中卒では格好がつかない。進学校じゃなくても高校は出ておくべきだということで、とりあえずボーダー提携校の三門第一高校を希望することにした。綾辻さんは一緒の高校がいいとぶうぶう言っていたが、俺の学力を鑑みて言ってほしい。進学校行けるほど頭良くないので……。
それに付随して、少しでも生活が楽になるように、ボーダーに入隊することを決めた。
本来であれば試験や面接があるらしいのだが、俺は元々スカウトされてた身なので、その辺は免除になった。嵐山隊の皆様方の口添えもあって、その辺はスムーズに進んだらしい。
というか、俺が前近界民に襲われたことは知られているんだと。そりゃそうか。上層部からしたら一般人が巻き込まれた重大案件だし。
ボーダーに入れば給料が出るし、俺みたいな孤児には提携校の授業料免除もあるという。進路は狭まるが、その分費用が浮くため、そこは思う存分利用させてもらうとしよう。
もう一点。携帯電話を買った。
…………はい、今まで持ってなかったんだよね、実は。だって連絡する人もいないし、端末高いし、持つメリットが今までかけらも存在しなかったんだよ。
ボーダーに入ることになったのなら連絡先は必須だし、綾辻さんや嵐山さんと連絡が取れるから、と説得されて渋々購入した。流石に最新機種は手が出ないので、型落ちして安くなった機種だ。電話やメッセージのやり取りに支障はないので問題はないだろう。
そんなところか?短期間で変わりすぎだと思われるだろうが、安心しろ。俺もそう思ってる。
思えば、綾辻さんと知り合ったことで俺の人生は様変わりしたと言っていい。勧誘され、友達になり、何を思ったか家に入り浸られ、近界民に襲われ…………。まさしくジェットコースターのような日々だった。
恐ろしいことに、知り合ってからまだ二か月程度しか経っていないのである。濃密にもほどがある。通常数年かけて味わうんじゃなかろうか、こういうのは。
「……あ、諏訪さん」
「よう朝田。まさかここで会うとはな」
がしがし頭をかき回す腕をぺしんと振り払う。こっちもまさか会うとは思ってなかったよ。
図書館で拉致られ無理やり飯を食わされて以降、出くわしては飯に連れていかれている。ファミレスだったり諏訪さん家だったり、場所はまちまちだ。諏訪さんと二人のときもあれば、風間さんや木崎さんがいることもある。寺島さんていう人もいたことあったっけ。ともかく、諏訪さんとはそういう仲だった。いわば野良犬と餌やってる近所のおじさんみたいな感じだ。
「ボーダーだったんすね」
「おう。風間も木崎も寺島もそうだぞ」
まぁお互いのことはあんまり話さなかったし知らんのもしょうがないか。身の上の話はほぼ無意識に避けてたし。話すことと言えば、読んだ本の感想とかそういうのばっかだった。
「おめーは今日入隊だろ?わかんねーことあったら聞けよ。俺でも風間でもいいからよ」
「あざす。…………木崎さんは?」
「あいつは支部所属だから本部にあんまいねーんだ」
正隊員らしい諏訪さんはなんでここにいるのか。聞けば、部隊新設にあたってめぼしいのがいないか見に来ていたとのこと。ここにはいないが風間さんも見に来るらしい。
部隊かぁ。今日入ったばっかりで気にすることでもないが、いつかは俺もどっかに入ったりすんのかな。
「そういえばお前、最初の対近界民戦闘訓練のスコアどうだった?」
「えー…………言いたくねぇ」
「言えや。俺その場面見てねーんだよ」
「…………失格」
ばつが悪そうに目を逸らすくせにちょっと吹き出しやがったこの金髪野郎をぶん殴ってもいいと思うんだ俺は。
いや、ちょっと言い訳をさせてくれ。俺はバリバリ近接タイプの自覚があるんだが、割り当てられたトリガーが射手用?の奴だったんだよ。アステロイドだっけ。ナタデココみたいなやつ。
撃ち方がまるで分からなくて四方八方にナタデココが散らばって、自分の頭をぶち抜いて終了。とんだ面白ムービーだろあんなの。
「指先だけになら思い通りに出せるし、指先を銃口に見立てればある程度思い通りになるんですけど、実戦で使うとなるとどうにも」
「あーそれはもう慣れだな。元々射手トリガーは扱い辛いで評判だし」
そんなもん初心者に扱わすな。諏訪さん曰く、最初はトリオン量に見合った武器が勝手に選択されるらしい。俺はトリオン量が多かったから、それが活きる射手トリガーにされたようだ。
「開発に言えばトリガー変えられるぜ。弧月とか人気だけど、変えるか?」
「うーん…………ちょっと考えます」
普通の射撃センスは俺には無いことが分かったが、何と言うか、使えそうな気はする。弧月は手に持たなきゃいけないというのが何となく気に入らないが、アステロイドは手に持たなくていいからな。無手で扱える近接武器があればいいんだけど。メリケンサックとか。
C級ランク戦をしばらく見ていくという諏訪さんと別れ、待ち合わせ場所のラウンジへ赴く。思ったよりたくさん人がいて、白い服のC級から全く違うデザインの服を着た隊員もいる。
きょろきょろとあたりを見回していると、一際目立つ赤色の服の集団が目に留まった。
「おーい晴久くん!こっちこっち!」
ヘーゼルの頭がぴょこんと跳ねる。緩みそうになる頬を引き締めてテーブルに足を運んだ。
「お待たせ。お疲れ様です、皆さん」
「やあ朝田、お疲れ。入隊おめでとう」
「ほら晴久くん、こっちおいで。クッキーをお食べ」
ぐいぐい引っ張られて綾辻さんの隣に座らされる。服が伸びる…………って今トリオン体か。慣れないな。
そういえば綾辻さんもOLみたいなスーツ姿だ。なんかちょっと大人っぽく見える。
「綾辻さんはスーツ?それもトリオン体?」
「オペレーターの制服なの。どう?似合う?」
「似合う」
C級服はちょっとダサいというか、芋っぽいというか。正隊員になったら好きな服に変えられるらしいから、もうちょっと見せられる奴にしたいな。
「嵐山隊は毎回入隊のレクリエーションやってんですか?」
「ああ、そうだな。一応ボーダーの顔だし、新規隊員のモチベーションにも繋がるから、毎回進行や引率はやってるよ」
…………やっぱり広報って大変なんだな。市民向けにいい顔しなけりゃならないし、ボーダー内部でもそうあることを求められる。気を抜けるところはそう多くないんだろう。大人でもない、同年代がそれをこなすんだから、尊敬に値するというものだ。
「そうだ、入隊のあれこれ、手伝ってくれてありがとうございます」
「気にしないでください。そういうのも仕事の一つだし、何より先輩の頼みですから」
「充の言うとおり。そもそもお前は既にスカウト済みだったからな。上層部もお前が入りたがってるって聞いてわかりやすく喜んでたぞ」
時枝がいい子過ぎる。これで後輩ってマジ?俺より人間出来てる。そして柿崎さんもいい人すぎ。お世辞でも嬉しくなっちゃう。
「一回蹴っておいてどの面下げてって思われてないかな」
「あはは、そこはあんまり気にしてないんじゃないですか?今が一番人欲しい時期だし」
「そうだな。何事も最初が肝心だから」
厚顔無恥が人の形をして歩いていると指差されても文句は言えない。啖呵切って断っておいて、大怪我かまして、やっぱ入れてください、だ。恥ずかしい。穴があったら入りたい。いや入るだけじゃ足らん。埋まりたい。
どこからともなく湧き出る気恥ずかしさに後頭部をがりがり搔きむしっていると、不意に嵐山さんが真剣な声を出した。
「ところで朝田、体の具合はどうだ」
「あー…………大丈夫ですよ」
左腕をこれ見よがしに振りながら答える。しかし、十対の目は俺を突き刺すように向けられたままだ。逃がさないと釘を刺すように。
俺は意識がなかったので知らなかったが、俺が襲われていた時、助けに駆け付けたのは目の前の嵐山隊だったという。応急処置などをしたのも彼らとのことで、俺の怪我の深さもある程度は知られている。
「本当か?」
「…………」
「綾辻」
「晴久くん、正直に言いなさい」
「…………本当に大丈夫なんですよ。多少痺れが残ってるだけで」
「それは大丈夫とは言わないんですよ、先輩」
はぁ、と大きなため息をついた時枝。怖い。後輩にビビるとはなんて情けない。
とはいえ、迷惑をかけたことは事実。非難も説教も甘んじて受け入れなければならないだろう。
「…………あの時のお前の選択を責めはしない。近くに隊員がいないタイミングのことだったし、お前はもちろん、綾辻にも対処する手段はなかった」
俺も、選択を誤ったとは微塵も思っちゃいない。ああしていなきゃ、綾辻さんに消えない傷が残ったかもしれないし、最悪は。
「だけどな、朝田。お前が命を捨てる気でいたことを、簡単には認めないぞ」
「…………」
「友達として、お前が死んだら俺は悲しい」
────そうなのか。死んだら悲しまれるのか。
泣いてくれるのだろうか。悔やんでくれるのだろうか。俺を、覚えていてくれるだろうか。
それは少し、嬉しいな。
「…………何で笑ってるんだ?」
「いや、なんでもないです。心配せずとも、もうしませんよあんな無茶。痛かったし病院代だって嵩む」
持ち上がった口角を撫でる。
綾辻さんが視界の端で微笑んでいた。
「それに、これからは退治する側です。前よりもっとうまくやります」
「…………そうか!それなら安心だな!」
ぱっと輝く笑顔で、いつも通りの嵐山さんに戻る。真剣モードの嵐山さんは怖かった。アレが兄の本気というやつか。俺の兄でもないのに身内に怒られてる気分だった。恐るべし嵐山准。
「そういえば先輩、訓練のスコアどうだったんですか?」
佐鳥が空気を緩めるようにクッキーをかじった。おいやめろその話。
「失格だった」
「えっ……そんなバカな」
「モールモッドを生身で二体倒してるのに…………?」
「初期設定のトリガーがアステロイドで、うまく撃てなかったんだよ。それで自分の顔面ぶち抜いて終わり」
「うわぁ…………」
引いた目で見るんじゃない。お前が始めた話だろうが佐鳥。こっちを見ろ佐鳥。目を背けるんじゃない佐鳥。
「色々試してみると良い。時間はたっぷりあるし、C級の間は実戦もないからな」
そう言って嵐山さんは爽やかに笑った。眩しい。太陽じゃん。
嵐山さんと柿崎さんは仕事があるというので、ラウンジで解散となった。佐鳥は訓練へ、時枝はランク戦へ行き、俺と綾辻さんは帰路についた。ランク戦するべきなんだろうが、今日はちょっと疲れたし。
「どうだった?初めてのトリガーは」
「難しい……いきなり非現実に放りこまれた感じがする」
「そうだよねぇ。飛んだり跳ねたり、切ったり撃ったりなんて今までじゃ考えられないもん」
「面白いとは思うけどな。どれだけ慣れられるかが大事な気がする」
実際に防衛に出て、近界民を前にしてビビッて即
そう考えると、俺は他より実戦向きかもな。殴られるのも蹴られるのも経験あるし。この間切られるのも経験した。
「晴久くんならきっとすぐに強くなれるよ。あれだけ思い切りがいいんだもん」
「その節はほんとにご心配をおかけしまして」
「ほんとだよ。嵐山さんが説教してくれたし、これ以上は何にも言わないけどさ」
ぷく、と頬を膨らませ、桃色を散らす。ハムスターみたい。
「…………色見てるでしょ」
「バレたか」
ぼすぼす背中に襲い来る衝撃を甘んじて受け止める。
ちらりと振り向いても、綾辻さんに怒りの色はない。むしろ楽しんでいるかのように、ひまわりのように咲く黄色があった。
「ふー、すっきり。お買い物して帰ろっか。晩ご飯なに食べたい?」
「ん-…………お肉」
「ふふ、了解。からあげたくさん作ったげる。お祝いにね」
やったぜ。
嵐山隊の書き分け難しい。!マーク多用したくないしどうしたものか。
あと色々見直したり調べ直したところ、原作開始前の情報を仕入れきれてなかったようで、ところどころ公式設定と齟齬があるっぽいですが、原作とは別世界線ということでひとつよろしくお願いします。
後日タグ追加します。