転生をしたらそこは流星街?ゴミ溜めから始まる物語 作:板前さん
受け入れの村での暮らしは、三週間続いた。
朝は日の出とともに起き、畑を耕す。昼は木を伐り、家を建てる。夜は、日が沈めば眠る。機械も、薬も、時計もない。それだけの日々だった。
移住希望者は、四十人ほどいた。誰も、自分のことを多くは語らなかった。語らなくても、目を見れば分かった。皆、どこかで何かを失ってきた顔をしていた。
アッシュは、黙々と働いた。
四日目に、気づいた。
この村は、作りに無駄がなかった。
井戸から畑までの道が、一番短い。薪置き場は、どの家からも同じ距離にある。道具小屋は、作業場のすぐ脇。誰がどこで何をしても、余計な一歩を踏まずに済むように、何もかもが並べられていた。
アッシュは、井戸の前で、足を止めた。
レンガの山を、小さく分けて並べておく。積み手の手が届くところに。
まわりみち、しない。むだ。
「どうした、新入り」
村の世話役の男が、声をかけてきた。日に焼けた、人の好さそうな男だった。
「……この村、誰が作ったんですか」
「ああ、よく気づいたな」
男は、誇らしげに笑った。
「この村は、国ができるずっと前、まだ小さな団体だった頃に、一番最初に作られた村なんだよ。その頃に、誰かが全部考えたらしい。どこに井戸を掘って、どこに畑を開いて、どこに家を建てるか。おかげで、誰も無駄に疲れずに済む」
「誰か、って」
「さあな。俺みたいな新しい連中は知らねえよ。古株の爺さんたちなら、知ってるかもしれねえが」
男は、それだけ言って、畑の方へ戻っていった。
アッシュは、井戸の縁に手をついたまま、しばらく動けなかった。
三週間目の朝、受け入れの村の広場に、移住希望者が集められた。
残っていたのは、二十人ほどだった。半分は、途中で村を去っていた。機械のない暮らしに、耐えられなかったのだろう。
広場の中央に、国境の門で会った、あの生成りの服の女が立っていた。
「皆さんは、今日から、この国の民です」
女は、穏やかに言った。
「この国に入る者は、一つだけ、誓いを立てていただきます。この国が生まれた時に定められた、ただ一つの誓いです」
女は、両手を胸の前で組んだ。
広場の周りに立っていた村の者たちが、同じように手を組んだ。そして、声を揃えて、唱えた。
「我らは、自然と共に生きる。我らは、何も奪わない。我らは」
一呼吸、間があった。
「人に、迷惑をかけない」
アッシュの体から、音が消えた。
広場の風も、鳥の声も、周りの人間の息遣いも。何もかもが、遠くへ引いていった。
人に、迷惑を、かけるな。
名前も呼ばなかった男が、息子に与えた、たった一つの命令。
「では、皆さんも、ご一緒に」
女の声が、遠くで聞こえた。
周りの移住希望者たちが、手を組み、たどたどしく誓いを唱え始めた。我らは、自然と共に生きる。我らは、何も奪わない。我らは、人に、迷惑をかけない。
アッシュの唇は、動かなかった。
動かせなかった。
手を組むことも、できなかった。ただ、広場の真ん中に立ち尽くして、二十人の声が、あの言葉を繰り返すのを聞いていた。
「……あなた」
生成りの服の女が、アッシュの前に立っていた。
「誓いを、唱えていただけますか」
静かな声だった。目が、じっとアッシュを見ていた。
アッシュは、ゆっくりと、手を組んだ。
「……我らは、自然と共に生きる」
声が、掠れた。
「我らは、何も、奪わない」
喉の奥が、焼けるように熱かった。
「我らは、人に」
一度、言葉が途切れた。
「……迷惑を、かけない」
女は、穏やかに微笑んで、頷いた。
「ようこそ。ネオ・グリーン・ライフへ」