Cyberpunk: After Glow — Main Story   作:AfterGlow

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EP2 GET BACK/あるべき場所へ PART 3

 

【挿絵表示】

 

 

アレックスは男の懐へ潜り込んだ。反射的に手にしたマチェットを振るうが、間に合わない。

 

男は自分の人生を思い返していた。これが走馬灯というものか、と理解した時には、迫るGorilla Armsが男の顔面を捉えていた。

 

その勢いのまま床に叩き伏せられ、元々顔があった場所には大きな穴が空いていた。アレックスは素早く立ち上がると、床へ沈んだ死体からサブマシンガンを拾い、そのまま他の敵に乱射した。

 

三人ほど血の泡を吹いて倒れた。

 

「このガキ!」

 

別の男がアレックスの背後に回り込み、その小さな背中を叩き潰してやろうと持っている解体用の大型ハンマーを振りかぶった。

 

その時だった。

 

男は自分の肘から先が無くなっていることに気づいた。男はゆっくりと顔をあげる。視線の先にいるのはリリィだった。

 

いつのまに抜いたのか、Errataの加熱された刀身から血が音を立てて蒸発する。

 

「坊ちゃんには、指一本触れることは許しません」

 

そのまま、次の太刀で男を唐竹割りに切り捨てる。男は状況を理解できていない顔のまま、ゆっくりと二つに分かれ、崩れ落ちた。

 

「坊ちゃん、突っ込みすぎです!」

 

リリィがアレックスに声をかける。

 

「後ろ!」

 

雑な指示を飛ばすと、アレックスは目の前の敵の喉へ手刀を突き刺す。その身体を掴み上げ、そのまま別の敵へ放り投げようとした。

 

「そっちはやばいって〜!」

 

ノヴァの声に、アレックスは咄嗟に身体を捻った。男の身体は二人ほど仲間を巻き込み、患者たちへ伸びる配線の束をかすめることなく、床を派手に転がっていった。

 

床を転がった男の一人が、血を吐きながら身を起こし、その銃口がアレックスへ向く。だが、その射線の先には患者たちがいる。

 

リリィのSandevistanが起動した。周囲の音が低く、長く引き延ばされる。

 

男が引き金へ指をかける。

 

指先の動きは、ほとんど止まって見えた。止まりかけた世界を、リリィだけが駆けると、銀白の髪が大きく流れる。

 

刃が走る。

 

男の手首が、銃ごと宙を舞い、暴発した一発が天井を穿つ。

 

返す刀で、喉を裂いた。

 

「このっ……」

 

生き残った男が手にしたリモコンを押すと、左右の壁から一台ずつ、二台のタレットが展開された。

 

二つの銃口がアレックスへ向く。男は高笑いした。

 

「ガキが!地獄で後悔しな!」

 

ノヴァがタレットへ視線を向ける。

 

その瞬間、別回線へ逃がしていた生命維持系の警告が、ホロの端で赤く点滅した。ノヴァの視線が一瞬そちらへ逸れる。

 

「あーもう!」

 

タレットが火を吹く。

 

アレックスはGorilla Armsを構え、降り注ぐ銃弾を受け止めた。

 

「チッ……!」

 

男は苛立ったようにリモコンを操作する。

 

「今度こそ死ねっ!」

 

二台のタレットが再びアレックスへ照準を合わせる。

 

次の瞬間、銃口が揃って男の方へ向いた。

 

「へ?」

 

集中砲火が男の身体を貫き、哀れにも男は穴だらけのエメンタール・チーズになった。

 

「やっすいICE積んでるね。人の身体売っぱらったお金でセキュリティ強化した方がいいんじゃない?」

 

アレックスは目もくれず奥の扉へ走る。

 

扉はノヴァによってアレックスの目の前で開いた。そのまま速度を落とさず走り抜ける。扉を抜けた先には横たわる患者と、新品のクローム。患者は小型の生命維持ユニットごと搬送用の電動キャスターに載せられ、その脇には新品のクロームを収めたケースが固定されている。

 

「ガキィ」

 

身長190cm、体重300kgはあろうかという熊のような巨漢が姿を見せた。ショットガンを持つ腕は、アレックスのものの3倍ほどの太さのGorilla Armsだった。

 

「商売の邪魔すんじゃねぇ!!!」

 

男のショットガンが火を吹いた。アレックスは横っ飛びに避ける。

 

入ってきた扉がひしゃげ、後方に吹っ飛んだ。その時、敵を殲滅したリリィとノヴァが駆けつけた。

 

「坊ちゃん!」

 

「生きてる?」

 

アレックスは視線を敵から外さない。

 

「ああ。あいつで最後だ」

 

「うへぇー、強そう」

 

ノヴァが苦虫を噛み潰したような顔で言う。その視線が一瞬だけ、巨漢の背後にある電動キャスターへ向いた。

 

回線を切らされても転送だけは生かせるよう、ノヴァはデーモンのアップロード処理をSTELLAへ移した。ホロの端に、小さな進捗表示が灯る。

 

「援護します」

 

リリィはErrataを霞に構えた。

 

「いち、にぃ、さん」

 

巨漢はアレックスたちを指差して数える。

 

「メスが三匹か、高く売れそうだぁ」

 

「ぶっ殺す」

 

アレックスは吐き捨てると、自分の背の戦闘用OS、Berserkを起動しようとする。

 

「Berserkか」

 

出し抜けに巨漢が口を開いた。

 

「いいのかなぁ、ここでそんなの使っちまって」

 

男の背後には手術中の患者と目的のクローム。男がそちらへショットガンを向ける。

 

「……てめぇ」

 

アレックスは睨むが、男は意に介さない。

 

「おまえら、どうせ依頼で来たサイバーパンクかなにかだろ? なら、依頼の内容は救助か回収か、いずれにせよこいつらがダメになっちゃ不味いわけだ」

 

当たっていた。いかにも愚鈍そうな見た目に反し、男の頭は冴えていた。

 

「武器を捨ててうつ伏せになりな」

 

アレックスが、次いでリリィが武器を地面に置く。

 

巨漢の視線がノヴァへ移った。

 

「お前は回線を切れ。両手は見えるところに出しな」

 

「ねぇねぇ」

 

ノヴァが口を開く。

 

「あぁ?」

 

「あたし、こんな足なんだけどどうやってうつ伏せになればいい?」

 

ノヴァが自分の足を示した。

 

「チッ、そのままでいい。回線を切れ。妙な真似すんな」

 

「うつ伏せにならなくてもいいの?」

 

ホロの端で、アップロード表示が伸びていく。

 

「なんでもいいっつってんだろ」

 

ノヴァは素直にニューロポートの接続を切った。

 

それでも、STELLAへ移しておいたアップロードは止まらない。

 

表示が最後まで埋まった。

 

「そう、残念」

 

「あ?」

 

ノヴァが悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「あたしをうつ伏せにできてれば、あんたは今から起きることを防げたかもしれないのに」

 

その時だった。

 

仕込まれていたデーモンが起動する。

 

患者とクロームを載せたキャスターが、三人の背後にある入口へ向かって脱兎の勢いで走り出した。

 

「あっ!」

 

男は短く声を上げると、慌ててショットガンをキャスターへ向ける。

 

「遅い!」

 

リリィは床へ置いたErrataを蹴り飛ばす。刀は一直線に飛び、銃を持った男の肩を貫いた。

 

「ぎゃっ」

 

男が悲鳴をあげる。

 

「言ったよな?」

 

アレックスは少しだけ口の端を持ち上げる。

 

「ぶっ殺すって」

 

視界の端で、患者を乗せたキャスターが部屋の外へ抜けていくのを確認する。

 

今度こそ、Berserkを起動した。

 

視界が赤く染まる。心臓が暴れ、背骨に焼けた鉄棒を突っ込まれたような不快感が走る。全身のアクチュエータが一斉に唸りを上げた。

 

「よくもぉぉお……!許さねぇぞメスブタどもが!!!」

 

男はショットガンを放った。Gorilla Armsで事もなくそれを払うと、アレックスは走り出した。

 

「うわぁぁぁあぁ」

 

悲鳴とも雄叫びともつかない絶叫を上げながら男は目の前の小さな少年へ右拳を振り下ろす。

 

アレックスは左拳を振り抜く。両者の拳がぶつかり合う。

 

Berserkによって強化されたアレックスの腕のピストンが唸りをあげる。

 

金属が悲鳴を上げ、巨漢の右拳が粉々に砕け散った。

 

「んなぁっっ!?」

 

アレックスはステップを踏み、さらに一歩、男の懐へ入ると——。

 

「ふっ」

 

短い吐息と共に右ストレートを撃ち放った。

 

右拳が、巨漢の腹を貫いた。

 

「うぼろぁっ……!」

 

男の身体が硬直する。

 

腹部には向こう側が見えるほどの大穴が穿たれ、その中心に、拳を振り抜いたアレックスの姿が見えた。

【挿絵表示】

 

 

巨漢の膝から力が抜ける。

 

その巨体は糸が切れたように崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 

「はっ……はっ……」

 

「坊ちゃん!」

 

肩で息をしているアレックスへ駆け寄ると、リリィはその手を優しく握る。

 

「坊ちゃん、Berserkを解除してください」

 

「わかってる」

 

「ゆっくり……ゆっくりですよ」

 

アレックスは目を閉じる。

 

リリィの手を握り返し、呼吸を合わせた。赤く染まっていた視界が元に戻り、鼓動が遅くなっていく。

 

「……ふう」

 

アレックスが振り向く。

 

「ありがとう、もう大丈夫」

 

次いでノヴァが駆け寄った。

 

「見た見た!?スーパー美少女ネットランナーノヴァ様のウルトラミラクルファインプレー!」

 

場にそぐわない明るい声を上げる。

 

「やっぱりあたしがいないとダメだねぇ」

 

アレックスは汗ばんだ顔で少し笑う。

 

「ああ、そうだな。助かったよ」

 

予想外の返事だったのか、ノヴァは一拍遅れてまばたきをした。

 

「珍しく素直じゃん」

 

「一言余計だよ」

 

リリィは二人のやり取りに小さく笑うと、患者の方へ視線を移した。

 

「坊ちゃん」

 

「ああ」

 

三人は患者のもとへ向かう。

 

電動キャスターの上で、男は麻酔により意識を失っていた。

 

ノヴァが端末を確認する。

 

「生命維持は問題なし。さっき逃がした回線もまだ生きてる」

 

ホロに並ぶ患者たちのバイタルを確認し、少しだけ肩の力を抜いた。

 

「これなら、回収が来るまでは持たせられるよ」

 

「マーリンに回収の手配をします」

 

「ああ」

 

アレックスは目的のクロームへと視線を移した。

 

「これで返せる」

 

廃工場は、先ほどまでの激闘が嘘のように静まり返っていた。

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