Cyberpunk: After Glow — Short Stories   作:AfterGlow

2 / 3
#2 RUN LIKE HELL/逃げろ!

 

【挿絵表示】

 

 

冷却ケースを固定していた電子ロックが解除される。温度管理・密閉状態ともに正常の表示。

 

「よし、盗った!」

 

ノヴァの明朗な声が響く。

 

ワトソン地区、カブキ。今回のギグは、冷却管理が必要な特殊データシャードをケースごと盗み出すこと。300kgはあろうかという巨大なケースをSTELLAに乗せた。あとは脱出し、依頼者に引き渡せば仕事は終わりだ。

 

アレックスは扉の前に立つと、二人へ視線を向けた。

 

「よし、早く逃げよう。極力見つからないように……」

 

その時、出し抜けに保管庫のドアが開いた。そこには、物流拠点の警備員が立っている。

 

「……」

 

「……」

 

一瞬の沈黙。

 

「侵入者……」

 

言い終わる前にアレックスはOmahaを発砲した。弾丸は警備員の右目と喉に吸い込まれ、その場に倒れ伏した。

 

鳴り響くサイレンの中、アレックスは振り返った。

 

「……極力見つからないようにいこう」

 

「もうバレてんのよっ!」

 

ノヴァが怒鳴ると、リリィは大きく息を吐きながら首を横に振った。

 

ノヴァの眼が橙に輝く。ホロ画面に、施設内の監視カメラ映像が次々と開いた。

 

「……敵は右から6、左から4。奥からもまだ来てるよ」

 

「出口は?」

 

リリィが短く問いかける。

 

「正面搬入口だけ。けど、ぶあつ~い防弾シャッターで閉じられてるよ」

 

「そこでいいよ」

 

アレックスが口を開いた。

 

「……話聞いてた?」

 

「出口は作るもん……だろ?」

 

口の端を持ち上げると、搬入口に向かって走り出した。

 

「ぶっ壊す気満々じゃん……」

 

ノヴァは軽く息を吐き、リリィと共に後を追った。

 

◇

 

「ふんぬっ!」

 

搬入口に到着するや否や、案の定閉じていた防弾シャッターを、アレックスは思い切り殴りつけた。一撃でシャッターの中央が陥没する。

 

「もう一発!」

 

再び渾身の力を込めて拳をふるうと、シャッターは大きな音を立てて吹き飛んだ。重い鋼鉄の塊が宙を舞い、

 

「ぎゃっ!」

 

搬入口付近で待ち伏せしていた警備員を数名、まとめて押しつぶした。

 

「今だ!」

 

アレックスが叫ぶ。

 

「やっぱりね」

 

ノヴァは小さく肩をすくめた。

 

「急いで!」

 

リリィが檄を飛ばす。

 

三人は遠隔で呼び寄せたチームの愛車━━マッキノーに乗り込もうと駆けだした。背後からは鳴りやまない銃声。ロケットランチャーでも撃たれたのだろうか、何やら飛来物の甲高い音も聞こえる。

 

「来た!」

 

三人の眼前にマッキノーが現れた。

 

━━その時だった。

 

ドォォォン!

 

マッキノーの上に、先ほど撃たれたのであろうロケット弾が着弾した。外装が弾け、窓が吹き飛び、車体の一部が大きくひしゃげる。車体はそのまま炎に包まれた。

 

「く、くる……車……」

 

普段からマッキノーの整備を一手に引き受けているリリィは、その場で呆然としていた。右目には涙が溜まっている。

 

「車が……」

 

よろよろと頼りない足取りで振り返る。ロケットランチャーを撃ったのであろう者を囲んで、敵がハイタッチしている。リリィの中で、何かが切れた。

 

「きっさまらぁぁぁぁ!!!」

 

腰に差した赤熱刀━━ERATTAを抜き放ち、猛然と斬りかかる。……斬りかかろうとしたところを、アレックスとノヴァが必死に止めた。

 

「今はヤバいって!!」

 

「死んじゃう! 死んじゃうから!」

 

そうこうしているうちに、またもや銃弾の雨が降り注ぐ。

 

「ノヴァ!」

 

リリィを羽交い絞めにし、なんとか制止しながらノヴァの名を呼ぶ。

 

「ちょっと待って! えーと、えーと……」

 

橙に光るノヴァの眼が、何かを捉えた。

 

「こっち!」

 

搬入口に並ぶ配送車へ向けてSTELLAを滑らせる。アレックスも、リリィを羽交い絞めにしたまま後を追う。その中の一台を大急ぎでハックすると、ロックを開けた。

 

「乗って乗って!」

 

「乗ってって……」

 

アレックスが車を見上げる。白い大型食品配送トラック。側面には陽気な食品会社のマスコットが描かれている。どう見ても戦闘用ではない。

 

「早く!」

 

ノヴァが運転席を後ろにスライドさせると、STELLAごと乗り込んだ。

 

「離してください坊ちゃん! あいつら殺します!」

 

そう言って暴れまわるリリィを、アレックスは強引に助手席に押し込んだ。

 

「あいたっ!」

 

Gorilla Armsの力で押されたリリィが、助手席へ頭から滑り込んだ。

 

「ごめん!」

 

助手席のドアを閉める。アレックスはSTELLAに載せられていた冷却ケースを持ち上げると、そのまま開いていた荷台へ運び込んだ。

 

「ケースは俺が見る!」

 

300kg近いケースを床へ降ろし、自分も荷台へ飛び乗る。

 

「捕まってな! とばすよ」

 

ノヴァはSTELLAからコードを伸ばすと、車両側のローカルポートへ接続する。助手席では、ようやく身体を起こしたリリィがシートベルトへ手を伸ばした。

 

「ちょっと待って下さい! シートベルト……わっ!」

 

言い終わらないうちに、三人を乗せた配送車は脱兎の勢いで飛び出した。

 

◇

 

配送車の内部は、外観よりも広く見えた。運転席と助手席の背後は荷台と繋がっており、車内からそのまま前後を行き来できる構造になっている。

 

ノヴァはアクセルを全開にした。時速150km程度まで一気に加速する。

 

「うわっ!」

 

荷台では乱雑に積み込まれた食品、備品が滑り始め、冷却ケースがアレックスに迫った。後部ドアと冷却ケースの間に自分の身体を挟み込み、なんとか激突を防ぐ。

 

「ノヴァ!気ィつけろよ!安全運転!」

 

後部ドアと冷却ケースの間で人間つっぱり棒になりながらアレックスが叫ぶ。

 

「わーかってるって!」

 

「坊ちゃん!ご無事ですか!?」

 

リリィが荷台へ声を飛ばす。

 

「何とか!リリィこそ大丈夫!?」

 

その声を聴くと、リリィは顔を赤らめた。

 

「……すみません。先ほどは取り乱しました……」

 

「別にいーけどー!」

 

その時、リリィが何かに気付く。

 

「追手です!」

 

背後の物流拠点から、黒い装甲SUVが五台飛び出した。さらにバイクが四台。追手が迫ってきている。

 

「え?なに?見えないんだけど?」

 

アレックスが荷台からわめく。

 

「あれはまさか……」

 

ノヴァは目を細めた。敵の車両それぞれに、カラスが荷物を運ぶアイコンが刻み付けられている。

 

「RAVENHAUL!」

 

「知ってるのですか、ノヴァ!?」

 

リリィは右目を見開いた。

 

「いんや、今検索しただけ」

 

アレックスとリリィの力が抜ける。

 

「なんだよそれ!」

 

「えーと……荷物奪還専門の傭兵だってさ!」

 

ノヴァは器用に運転しながらデータを検索する。

 

その時だった。何かを発射するような、胃の底に響く重低音が聞こえた。

 

「なん……」

 

その時、アレックスが両足を突っ張っていた後部ドアを、巨大な鋼鉄製の杭が突き破った。

 

「うぉ!?」

 

後部ドアがべきべきと嫌な音を立ててひしゃげていく。

 

「……まさか……」

 

アレックスは慌てて冷却ケースを車両前方へ押した。

 

次の瞬間、後部ドアが吹き飛んだ。荷台が野ざらしになり、急に視界が開ける。ネオンの明かりが目を刺した。

 

追跡車両から伸びたワイヤーの先で、引き剥がされた後部ドアが大きく揺れていた。敵が大型ハープーンを後部ドアに撃ち込み、ワイヤーを巻き取って強引に引っ剥がしたようだった。

 

「野郎……」

 

追撃車両の無線が開いた通信帯へ流れ込んだ。

 

『目標車両を確認。ケースの損傷は禁止』

 

『乗員は全員殺して構わない』

 

「聞いた!?」

 

ノヴァが後方へ叫ぶ。

 

「戦争がご所望らしいよ!」

 

「……OK!」

 

アレックスはOmahaを抜いた。

 

◇

 

最初のバイクが荷台へ並んだ。運転手の後ろに乗った兵士が、ワイヤーランチャーを構える。

 

「右!」

 

リリィの声が響き、アレックスがOmahaを撃つ。弾丸が運転手の側頭部ごと、ヘルメットを貫いた。バランスを崩したバイクは後続車の下へ滑り込み、車体ごと爆発した。

 

「一ポイント!」

 

「ポイント?」

 

「競争だよ」

 

アレックスはOmahaへ新しい弾倉を挿入する。

 

「乗った、負けたらチェン爺のラーメン奢りね」

 

「仕事中ですよ」

 

リリィは助手席の窓を開くと、愛銃Nueを二発撃ち込んだ。左側のバイクに乗っていた兵士の胸と首が弾ける。車体がガードレールへぶつかり、乗員ごと下層道路へ落ちていく。

 

「私も1ポイントです」

 

アレックスが運転席の方へ目をやる。

 

「参加してんじゃん!」

 

「負けませんからね」

 

追撃SUVが距離を詰める。車体前部のラムバーが荷台へ激突した。衝撃で、荷台奥の業務用冷蔵庫を留めていた固定具が、嫌な音を立てて外れた。アレックスが冷却ケースを抱えたまま跳ねる。

 

「ノヴァ!」

 

「わかってる!」

 

SUVの屋根から兵士が二人飛び移った。一人目が荷台へ着地し、アサルトライフルを向けてくる。

 

アレックスが冷却ケースを盾にしようとして、直前で止まった。

 

「これ壊しちゃダメなんだよな」

 

「当たり前です!」

 

ケースを固定具へ押し込み、そのまま敵へ突っ込む。銃弾がGorilla Armsの装甲を叩く。アレックスは構わず拳を振り抜いた。

 

敵兵の頭部がヘルメットごと潰れ、身体だけが荷台の外へ消える。

 

二人目が背後からナイフを振るう。リリィが助手席から荷台へ転がり込んだ。その勢いのまま蹴りを浴びせる。兵士の膝が逆方向へ折れる。倒れた首へNueを一発。

 

「二ポイント目です」

 

「俺も!」

 

リリィはそのまま助手席へ戻った。

 

「坊ちゃん、後ろ!」

 

アレックスが振り返る。業務用冷蔵庫が荷台を滑ってきていた。

 

「うぉっ!?」

 

「アレックス、大丈夫ー?」

 

「あぶねーな、固定しとけよ!」

 

「急いでたから!」

 

アレックスが両手で受け止める。冷蔵庫の扉が開き、中から袋詰めの合成鶏肉が大量に飛び出した。

 

「最悪!」

 

後方のSUVが再び接近する。Omahaを向ける……が。

 

カチッ。

 

「……?」

 

カチッ。カチッ。

 

「チッ」

 

ポケットを弄る。予備の弾倉はもうなかった。

 

「弾切れだ……」

 

SUVに乗る敵は、今にも突入しようと息巻いている。

 

「くそっ……何かないか!なにか……」

 

ふと、先ほどの冷蔵庫が目に止まった。アレックスは冷蔵庫を見る。SUVを見る。持ち上げる。

 

「クリスマスプレゼントだ!」

 

投げた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「なぁっ!?」

 

敵の表情が驚愕と恐怖に染まり、冷蔵庫がSUVのフロントガラスへ直撃した。車体が大きく横を向き、隣の追撃車を巻き込んで中央分離帯へ突っ込む。二台が炎に包まれた。

 

「はっはぁー!二ポイント追加!」

 

「いや、今のは冷蔵庫の点」

 

アレックスは運転席のノヴァへ顔を向けた。

 

「そんなのアリ?」

 

◇

 

『前方車両、封鎖位置へ移動』

 

敵の無線が流れる。高速道路の先で、大型トレーラーが横向きに停車した。その手前へ装甲車が二台、屋根には機関銃手。

 

「道塞がれた!」

 

ノヴァはハンドルを握ったまま叫んだ。

 

「止まれる?」

 

アレックスが尋ねる。

 

「止まったら後ろから囲まれる!」

 

「じゃあ突っ込む?」

 

「突っ込んだらケースが壊れる!」

 

「どうすんだよ!」

 

リリィが前方へ視線を送る。

 

「左側に、工事中の昇降路があります」

 

「でもあれ……」

 

アレックスも左へ目をやった。幅はなんとかなりそうだが、高さはどうにも厳しそうだ。

 

「上部の標識を破壊すれば通れます」

 

リリィはアレックスをじっと見つめた。

 

「俺?」

 

「坊ちゃんにしかできないことです」

 

「……俺にしかできない?」

 

リリィはアレックスの肩に手を置くと、にっこりと微笑んだ。

 

「カッコいいところを見せてくださいませ」

 

「ったく、仕方ねえな!」

 

——ちょろいなこいつ。

 

ノヴァは心の中で思った。

 

アレックスが屋根へ上がると、風圧で長い黒髪が激しく揺れた。リリィは助手席の窓からNueを構え、工事用標識を支えるワイヤーへと狙いを定めて発砲した。

 

ワイヤーが切れる。だが標識は落ちず、道路の上で傾いただけだった。

 

「まだ残ってる!」

 

ノヴァが叫ぶ。

 

「運転に集中しろ!」

 

アレックスが走る。トラックの先端から跳んだ。Gorilla Armsが標識の支柱へ叩き込まれる。金属が折れる。

 

巨大な標識が前方へ倒れ、封鎖していた装甲車の上へ落下した。機関銃手ごと車体が押し潰される。

 

「開いた!」

 

「坊ちゃんは!?」

 

空中に取り残されたアレックスが叫ぶ。

 

「ここ!」

 

トラックが昇降路へ突っ込む。リリィが助手席から身を乗り出した。アレックスへ手を伸ばす。

 

「坊ちゃん!」

 

「届かない!」

 

「まかせろぉおおおおおお!」

 

ノヴァが急ハンドルを切った。

 

「今!」

 

アレックスがリリィの手首を掴んだ。そのまま車体側面へぶつかる。

 

「痛ッ!」

 

「離さないでください」

 

「絶対離さない!」

 

リリィがアレックスの腕を引き、車体へ足を掛けた彼を助手席へ引き上げる。助手席へ転がり込んだアレックスを、リリィが抱き留める。顔を上げると、リリィと目が合った。

 

「重いですね」

 

「成長した証だよ」

 

「……はい、本当に」

 

ノヴァが前を向いたまま口を挟む。

 

「いちゃつくのは後ね」

 

「いちゃついてない!」

 

「運転に集中してください」

 

リリィの右目が冷えた。

 

「あたしを誰だと思ってんの!?」

 

ノヴァは不服そうにスピードを上げた。

 

「危険運転スピードジャンキー」

 

「ナイトシティのスピードクイーンとはあたしのことよ!」

 

「聞いていませんね」

 

背後では、倒れた標識と押し潰された装甲車が昇降路の入口を塞ぎ、追ってきたSUVとバイクが次々と急停止していた。

 

◇

 

アレックスは助手席からウォークスルーを抜け、再び荷台へ戻った。別の進入路から回り込んだRAVENHAULの指揮車は、それでも追跡をやめなかった。

 

黒い高速車両。助手席の狙撃手が、冷却ケースの固定具を狙う。

 

「ケースを奪う気だ」

 

アレックスがケースを庇うように前に立った。

 

「壊れてもいいっての?」

 

「壊さない自信があるのでしょう」

 

リリィはNueを構えた。だが指揮車は死角へ入り、射線を切る。

 

『こちらRAVENHAUL。逃走者に告ぐ、荷物を渡せ』

 

外部スピーカーから声が響く。

 

「渡すわけねーだろ。バカじゃないの?」

 

リリィは指揮車の動きを目で追っていた。

 

「前へ出ます」

 

「どうやって?」

 

指揮車が速度を上げ、トラックの横へ並ぶ。窓が開き、狙撃手の銃口が黒く光る。

 

リリィは機先を制して発砲した。初弾が狙撃手の肩を砕き、次弾が運転手の側頭部を貫いた。指揮車が蛇行する。

 

後部座席から指揮官が運転席へ手を伸ばし、車体を立て直した。

 

「しぶといな」

 

アレックスが荷台の積み荷へ目をやる。かなり大きなサイズの冷媒ボンベが二本転がっていた。さらに後方へ視線を向ける。後方のドアはなくなり、依然としてナイトシティの街並みが高速で吹き飛んでいた。

 

「ノヴァ」

 

「何?」

 

「……いいこと思いついた」

 

アレックスが冷媒ボンベを二本抱えた。

 

「リリィ」

 

短く呼びかける。アレックスの紅い眼を見た瞬間、リリィはその意図を察して小さく息を吐いた。

 

「危ないことばかり覚えて」

 

「いいから!」

 

アレックスがボンベを投げる。二本が指揮車の前方へ落ちる。リリィがNueを撃つ。着弾。

 

圧縮冷媒が路面へ爆発的に広がった。道路が白く凍結する。指揮車のタイヤが滑る。車体が横を向き、ガードレールへ激突した。

 

指揮官は窓から這い出す。まだ銃を握っていた。リリィは銃口を上げた。

 

「これで終わりです」

 

弾丸は指揮官の額を正確に捉え、小さな穴を作った。指揮官は数歩よろめき、そのまま高架下へ落ちていった。

 

後方に、動く車両はもうなかった。

 

「終わったぁ」

 

ノヴァが大きく息を吐いた。

 

「撃破数は?」

 

アレックスが聞く。

 

「あっ、忘れてた!……でも」

 

「でも?」

 

「MVPは冷蔵庫だね」

 

ノヴァは歯を見せて笑った。

 

◇

 

受け渡し地点は、廃業した自動車整備工場だった。依頼人の女が、トラックの到着を目にして眉を上げる。

 

「その車は?」

 

「借りた」

 

アレックスが短く答えると、女はそれ以上聞かなかった。冷却ケースを荷台から下ろす。

 

「復号鍵。温度も中身も問題なし」

 

依頼人はケースを確認し、安堵したように息を吐いた。

 

「マーリンの言った通りね。いい仕事するわ」

 

アレックスは誇らしげに口の端を持ち上げた。報酬の振り込み通知が三人へ届く。

 

「お仕事完了!」

 

ノヴァが両腕を上げた。

 

依頼人は冷却ケースを奥へ運ばせながら、ふとトラックの荷台へ目をやった。

 

「ところで……積み荷は?」

 

アレックスも振り返る。荷台には、破れた合成肉の袋と、転がった清掃用品しか残っていない。

 

「途中で使った」

 

「使った?」

 

「ああ。すごい威力だったよ」

 

依頼人が黙る。ノヴァが指を一本立てた。

 

「冷蔵庫が追跡車を二台」

 

「一台は冷媒です」

 

リリィが訂正する。

 

「じゃあ冷蔵庫一台、冷媒一台」

 

「どっちでもいいよ」

 

依頼人は三人を見比べた。

 

「食品配送車だったのよね?」

 

「うん」

 

依頼人は額を押さえた。

 

「依頼に無関係な車両と積み荷の損害は、経費として認められない可能性があるわ」

 

「「「えっ」」」

 

三人が固まった。三人の視界UIへ、マーリンから経費控除の通知が届いた。リリィが金額を確認する。

 

「……赤字ですね」

 

その時、アレックスが何かを思い出したような顔をした。

 

「リリィ!車!」

 

「あっ……」

 

ノヴァがマッキノーの車載システムへ接続する。

 

「……一応、生きてる」

 

そのまま遠隔で呼び寄せた。依頼人は冷却ケースを回収すると、三人を残してさっさと整備工場を後にした。

 

一時間ほど待つと、ほぼ骨組みのみになった愛車が三人の前に現れた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……よく動いたね、これ」

 

ノヴァとアレックスの視線に、リリィは反応しない。

 

「……先ほどの発言は訂正します」

 

リリィはがくりと肩を落とした。

 

「……めちゃくちゃ赤字ですね」

 

三人の目の前には今回の収支が計算されたホロ画面が、痛々しく瞬いていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。