長い時間が経った。
ワタシはあの時以来、人について行かないようにしていた。でも、気づいたら人のそばにいて、話しかけて、人ではないものに変化させていた。
どれくらいの人を変えたのだろう。大人も子供も、男も女も問わず、既に数え切ることはできなかった。
そして話しかけてしまう度に人はワタシを見ず、どこかを眺めて呟き、アレらに変わる。
「(手も、足も、声もない。そして人を人ならざるモノに変える。ワタシはもしかしたら…いや、既に人ではないの?)」
ワタシが人を救いたい、道を示したいと思うことはきっと本物だ。でも、人ならざるものにしたくないという気持ちも本物だと思う。
けれど、それはワタシの思い込みなのかもしれない。他の人にとって、この行動はどうなる?傍迷惑なものかもしれない。
「(怖い。)」
そう思った。ワタシは人?バケモノ?この行動は救い?害?何もかもわからない。誰かが決めて欲しい。この行動は外の世界では普通なの?
「(ああ、分からないな…。)」
一つの噂が耳に入る。異邦人が来た。今までにない勢いでランクを上げていると。
「(ついて行かなきゃ。)」
またこの思考に蝕まれる。
彷徨っていると、ここでは見慣れない服装の人たちが歩いていた。きっとあの人たちだ。近づこうとすると時計頭の人がこちらを向いた気がした。…目がどこにあるか分からないけど、初めてワタシと目が合った気がした。
「(異邦人…外から来た者。きっとあの人なら…。)」
きっとワタシが何者かを決めてくれるはず。ワタシは初めて人に対して釘付けになった。
様々な部屋を回っていった。赤い部屋、黒い部屋、家具が置いてある部屋、食事場、製糸場。どれも見慣れた場所だった。そして、ワタシが声をかけた人もたくさんいた。そういえば、食事場でワタシも真似をして食べてみようとしてみたけど、結局体をすり抜けた。
異邦人たちについて行ってると、人の呟きが聞こえた。
「あぁ、声よ…。どこにいるのですか?あなたの場所は?姿は?衣装は?何もかもがわからない…。ですが、きっとあなたは私たちの側に…。暖かい…。」
ワタシはただアナウンスの声を求めていると思い、異邦人について行く。どこか、似たような雰囲気を感じた。
「あぁ…!暖かい日の光が、遠のいて行く…!」
ワタシと似たような気配を感じる虫を手に入れ、製糸場で金色の糸を手に入れた。あの人もワタシが声をかけたっけ?人ならざるモノたちは黄金のものを欲しがる。様々な妨害にあったが、赤い部屋で赤い人に糸を渡す。どうやらかなり危なそうだ。
"存在意義が分からなくなっているみたい。"
じゃあ助けなきゃ。教えてあげなきゃ。急いで、早く。
「"大丈夫?"」
「管理人様。」
<うん、私も聞こえた。恐らく、ねじれになる前の声。だけど…。>
「どこか…悲しそうな感じがしませんか?」
とても近くから声が聞こえてきた。私が聞いた声とは似ているけど、もっと幼くて、シンクレアが行った通りに悲しそうな感じがした。何もできないもどかしさなのだろうか。焦っているようにも聞こえる。
「…。」
ムルソーは何も言わない。だけど、どこか恐れているような雰囲気は感じ取れた。
またやってしまった。さらに人ならざるモノにしてしまった。
でも異邦人たちは止まらない。二階の赤い部屋へ入って行く。黒い軍勢が赤い人を倒していく。その流れに乗じてさらに奥の部屋へ入っていく。
「(懐かしい…。)」
昔に多くの人をアレらにした後、疲れきったワタシは偶々この繭を見つけた。中には小さな赤い人がいた。確か赤ちゃんだったっけ?
赤ちゃんには子守唄を歌うらしいから、近くで、声は出せないけど暫く歌っていた。
異邦人たちが繭を切り裂く。中から赤ちゃんのようで大人のような赤い人が出てきた。
ソレはワタシが歌っていた子守唄を歌った。何か意味が分かっているわけではない。ただ繰り返しているだけ。
「(きっと、聞こえていたんだね。)」
虚しさが広がる。異邦人たちは赤い人を倒した。その結果は黒い人たちが力をつけていって、この百貨店の全てを止めた。
何も変わらない、動かない、聞こえない。そんな止まったこの場所でワタシは漂っているだけ。