ワタシは異邦人たちが来る前の時間に戻った。残念だけどあの人たちはワタシを見ることはなかった。また異邦人の噂が流れる。
「(ついて行かなきゃ。)」
またこの考えに飲まれる。気づけばワタシは、また異邦人の元へやってきた。ワタシが何者なのか、まずワタシを見ることすらできない人たちについて行ったところで無意味だと思った。
でも、長身で短髪の男ムルソーと時計頭の管理人ダンテは一つ前の記憶を持っているようだった。
今回は赤い人が優勢のようだった。すぐさまムルソーたちは赤い繭の元へ向かった。大きい赤い人が言うには、繭からもうすぐ赤い人たちが望むものが産まれてくるらしい。ムルソーがハサミで繭を丁寧に切り裂く。
「……うぅ。」
そこから産まれたのは小さな子ども。それはきっと前の記憶の老いた赤ちゃんなんだろう。子どもはムルソーたちから逃げるようにしていた。異邦人たちはこちらが出ていけば付いてくると考え、この部屋から去って行った。
「あぅ…うぅ…。」
子どもは悩んでいるようだった。
「(ついて行かないと、置いてかれちゃうよ。)」
声としては出せないけど…そう言った途端、子どもは辺りを見渡して急いで異邦人たちの後を追って行った。
子どもは我儘と一人の怖さを知った。
階を変え、赤い人に子どもを連れて行くと意味が分からないことを叫びながら破裂した。その際、子どもは金髪の少年の服を掴んだ。きっと驚いていたんだと思う。
四階に登ると元気な女の人が子どもの名前を聞いた。その言葉を聞いた子どもは戸惑っていた。
「(あなたの名前は?)」
ワタシも興味が湧いて優しい雰囲気で…声としては出せないけど聞いてみた。
「プ…プ、ウイ。」
「プイと言うようですよ、ダンテさん。」
怯えているけど、異邦人たちを自分の名前を教えるぐらいには気を許していると思った。
赤い人たちを忌み嫌う黒い人たちの店へ入った。疲れきった四つ足の黒い人の問いに対して、プイは自分の気持ちを話した。生き返るか分からない、でもそうなって欲しいと。
一つ脚の黒い人はプイを蔑み、自身の高潔さを言った。それに対してプイはその言葉の穴を突いて黒い人を怒らせちゃった。
「謝った方がいいんじゃないんでしょうか?プイに。」
「……。」
プイは自分を庇う人に視線を向けた。そしてプイは赤い人と黒い人の自分に向ける態度が違うことに疑問を持った。
「プイ君。好奇心はよいものだが…、控えねばならぬ時もあるのだよ。」
プイは人を排除して雰囲気を良くしようとすることを嫌った。
「手を挙げるというのはどうでしょう?」
「(プイは何か知りたいことはある?)」
プイに…声としては出せないけどそう聞いた途端に沢山聞きたいことがあるのか、両腕をばたつかせて手を振り始めた。
プイは雰囲気の大切さと差別と手を挙げることを覚えた。
プイはお腹が空いた様子だった。
家具が沢山並んでいる部屋についた。それらは前と同じく、クローゼットの中身を全て奪っていった。でもプイの一言でそれらは互いに奪い合い、家具としての価値を失った。
金髪の少女は自身のバッジを一つ置き、プイもそれに倣って赤いハンカチを置いた。
プイは欲望の醜さと哀れみを覚えた。
前の時間では行っていない場所についた。そこに一つの桃色の花で作られた人形があった。それを見た途端、とてつもない安心感と達成感を得た、得てしまった。そして、それを異邦人たちが倒しているのを見て悲しみのようなものが込み上げた、込み上げてしまった。
花に塗れた赤い人から桃色の靴が現れた。プイはそれを履いて不思議な気持ちだと言った。歩いても足が痛くならないための靴。
四階に行って、赤い人に出会った。その人は赤い人でありながら別のものに従えていた。…ワタシが話しかけたからなんだろうか。赤い人が塗った壁に近づくとワタシに囁く声が聞こえてきた。
"こんな近くで会うのは初めてね。"
「(あなたは、ワタシの何?)」
ずっと知りたかった。ワタシの頭に響く声。
"それはここで証明することは難しいわね。"
ワタシの代わりに、人に見られるあなたの正体を知りたい。あなたはワタシの何?ワタシとあなたの関係、ワタシが産まれてきた理由。
"そうね…いろんな疑問があると思う。でも、答えるには時間が足りないわ。"
声が遠くなっている気がした。
"あなたの望ましい答えがあることを祈るわ。"
「君たちも、あの声を見つけたんだね。」
赤い店の人が異常に気づいた。別のものに従っていた人は壁に埋められた。けれど、とてもいい顔をしていると思う。
プイは質問した。黒い人と赤い人の違いは何、と。ムルソーは答えた。記憶と経験の違いだと。
プイは質問した。ムルソーはどちらを選んだのか、と。ムルソーは答えた。どちらを必ず選ぶ必要はないと。
ワタシは異邦人の後について行く。
「陽射しが…遠のいている。…いいえ、近くにいる。…どうして?どうして陽射しが…二つもあるのですか…?」
プイが私たちに聞いてきた。ずっと一緒にいてくれないのかと。でも、私たちはまだやることが沢山ある。
「残念だが、それには答えられそうにないのだ…。」
「…どこにいるのか分からないけど、"あなた"は一緒にいてくれる?」
「…プイ。それは誰に対して聞いている?」
「"声"。わたしが産まれる前も、前の時も、今も、わたしたちについてきてる"声"。」
「それに応答してはいけない。」
「ううん、壁から聞こえた声とは違う。外から来たものじゃなくて、わたしと同じもの。」
恐らく私たちが聞いた幼い声。
<ムルソー、多分大丈夫。>
そう言うと、ムルソーはそれ以上言うことはなかった。
ワタシはプイの問いに答えることができなかった。プイがワタシの声を聞くことができるのは驚いた。けど、異邦人たちは百貨店の崩壊を目指してる。ここが崩壊した時、ワタシがプイとずっといられる保証はない。
…だからワタシは答えられなかった。
プイの服を仕立てるために黄金の皮を集めた。けど、完成させるためには黄金の繭…うにょりを動かなくする必要があった。
プイは反対した。でも様子がおかしくなった。何かに怯えていると同時に使命感に駆られているようだった。
そしてうにょりを食べた。それを見たワタシは気づいた。
プイもワタシも似たような存在だと。本能のようなものが理性を上回り、苦しんでしまうことに。
黒い獣を倒して、五階に着いて、プイは繭になった。黒い大きい人も倒して、プイは羽化した。
プイは…ビュッフェは赤い神として完成した。百貨店にビュッフェの声が響く。
ビュッフェは食事を始める。赤い人たちも、それぞれの階で貪り始める。
はじめは他の人たちを食べた。でも満足しなかった。人を、部屋を、…そして赤い人たちも。
「(満足した?ビュッフェ。)」
何も残らなかった。あるのはビュッフェと何もない部屋。ビュッフェのお腹は膨れ上がっていた。でも、全く満たされてはいない様子だった。
「満たされない…。お腹が空いた。」
ワタシはビュッフェから離れる。過程が違くても、結果は同じだった。
百貨店は死に、ワタシは虚しい気持ちを持って揺蕩うことに変わりはなかった。
今回の章は本当に難解すぎます。哲学的なものが多すぎて…。