転生スタンド使いの日常。 作:匿名の読む専
高校入学後はプロセカキャラが出る度に視点変更ってのは無いと思います。
十二月中旬の休日、朝。
いつも通りの朝食を終えた俺は、自室に戻るとパソコンを起動し、動画投稿サイトを開いた。
確認するのは自分の歌ってみた動画の投稿状況である。
別に毎朝確認したところで何かが劇的に変わるわけではないのだが、投稿した動画がどうなっているのか気になるのは仕方がないだろう。
趣味で始めたこととはいえ、誰かに聴いてもらえるのなら嬉しいし、反応があるなら知りたい。
そんなわけで、いつものように自分のチャンネルを開いた俺は、画面に表示された数字を見て少しだけ手を止めた。
……あれ?
登録者数が増えている。
しかも、ちょっと増えたという程度ではない。
以前に確認した時と比べて明らかに数字が伸びており、投稿した動画の再生回数も全体的に上がっていた。
少し前までは、趣味で投稿している人間のチャンネルとしてはそれなりに見られている、くらいの認識だったのだが、今では総登録者数が七千人ほどになっている。
動画によって差はあるものの、再生回数も数万回に届いているものが複数あった。
さすがに一万人を超えるような高評価が付いた動画はまだないが、それでも十分すぎるほどの反応だと思う。
「……いや、増えたなぁ」
思わず声に出してしまった。
ここ数週間で急激に伸びたという感覚はあったものの、こうして改めて数字を並べて見ると実感が違う。
七千人という数字は、俺が普段の生活で顔を合わせる人間の数とは比べるまでもない。
学校のクラスどころか学年全体を何度も埋められる人数が、俺の歌を聴くために登録しているということになる。
もちろん、登録した全員が毎回動画を見ているわけではないだろうし、登録したこと自体を忘れている人もいるかもしれない。
それでも、誰かが俺の歌を聴いてくれているという事実は変わらない。
自分で歌って、自分で録音して、動画として投稿する。
基本的にはそれだけのことだ。
そこに誰かが興味を持ってくれたのなら、趣味としては上々どころか、かなり恵まれた状況なのではないだろうか。
そんなことを考えながら、俺は各動画の再生数や高評価の数を確認していった。
どの動画が特に伸びているのか、どんな曲が聴かれているのか。
以前から確認していることではあるが、数字が増えてくると見方も変わってくる。
単に再生された回数だけではなく、どの部分が好まれたのか、最後まで聴いてもらえているのか、他の動画にも興味を持ってもらえたのか。
そういったことまで気になってくるのだから、人間というのは欲深いものだ。
「まぁ、見てもらえるならそりゃ気になるよな」
誰かに聴いてもらうために投稿している以上、反応が気になるのは当然だと思う。
自分の歌がどう受け取られているのかを知ることは、今後の参考にもなる。
ただし、数字が良いからといって必ずしも歌が上手いとは限らないし、数字が伸びなかったからといって歌に価値がないわけでもない。
そういう部分を混同するつもりはなかった。
人気と技量は関係することもあるが、完全に同じものではない。
曲そのものの知名度や投稿するタイミング、動画の見せ方など、歌以外の要素だっていくらでも絡んでくる。
だからこそ、数字だけを見て一喜一憂するよりも、参考にできる部分を拾っていく方が有意義だろう。
そんなわけで、ひとしきり投稿状況を確認した俺は、今度は歌そのものについて調べ始めた。
発声や呼吸の使い方、音程の安定性、声の響かせ方。
歌に関する情報は探せばいくらでも出てくるし、同じ内容でも説明する人によって着眼点が違う。
以前に読んだ説明をもう一度確認してみると、当時は理解できなかったことが分かるようになっていたり、逆に説明の曖昧な部分が気になったりすることもあった。
知識が増えれば、同じ文章を読んでも受け取り方が変わる。
それは歌に限った話ではないが、実際に自分で試している分野だからこそ、違いが分かりやすいのかもしれない。
俺は参考になりそうな情報を読みながら、ふと最近の自分の歌を思い返した。
……そういえば。
以前と比べて、普通に歌っている時の感覚が変わってきている。
最初は気のせいかと思っていた。
調子の良い日と悪い日があるのは当然だし、たまたま上手くいった歌唱を基準にしてしまえば、成長したように錯覚することもある。
けれど、ここ最近は一度だけではなかった。
以前なら不安定になりやすかった音程が安定してきているし、声を出す時に余計な力が入ることも減っている。
音を外さないように意識するだけで精一杯だった部分でも、今は曲の雰囲気や歌詞の意味に意識を向ける余裕が生まれていた。
高い音が出せるようになった、という単純な話だけではない。
自分が出している声を以前より細かく把握できるようになり、どう歌えば狙った響きに近づけるのかも、少しずつ分かってきているのだ。
「素の歌唱力が上がってるんだな、これ」
口にしてみると、思った以上に納得できた。
自己証明を使わずに歌っている時点で、以前よりも上手くなっている。
それなら、自己証明を使った時の歌唱力も変わっているはずだ。
俺にとって自己証明は、単純に願った結果を無条件で与えてくれるようなものではない。
土台になるのは、俺自身が納得しているという事実だ。
自分が何をできるのか、何を証明できるのか。
そこを曖昧にしたまま、根拠もなく自分を過大評価しても意味はない。
自己証明によって得られる効果は、俺が持っている技量とも結びついている。
歌なら、俺自身の歌唱力が土台になる。
つまり、素の状態で歌が上手くなればなるほど、自己証明を使った後の歌唱力も跳ね上がる。
この仕組みは以前から理解していたし、実際に歌ってみることで確かめてもいた。
だからこそ、最近の変化には心当たりがある。
素の歌唱力が上がったことで、自己証明を使った時の歌も、以前より明確に上の段階へ到達しているのだ。
以前の俺が自己証明を使った時と、今の俺が使った時では、出てくる結果が違う。
能力の効果そのものが別物になったわけではない。
土台となる俺自身の技量が上がったから、そこから導き出される結果も大きくなっている。
理屈としては単純な話だ。
ただ、実際に自分の身に起きている変化として捉えると、なかなか面白い。
自己証明を使えば何でもできる、という話ではないからこそ、自分の技量を磨く意味がある。
能力に頼るだけではなく、能力を使わない自分自身も成長している。
それは、俺にとって結構大事なことだった。
仮に自己証明が使えない状況になったとしても、今まで身につけた技術まで消えるわけではない。
自分の努力や経験によって得たものなら、自分の中に残る。
もちろん、能力を使った時のような結果を素の技量だけで出せるわけではないが、だからといって普段の自分を軽く見る理由にはならないだろう。
むしろ、自己証明を使った時に得られる結果が大きくなるのなら、素の技量を上げること自体にも意味がある。
そのうえで、能力を使わずにできることが増えれば、選択肢も増えていく。
悪い話ではない。
「歌も能力も結局は土台がしっかりしてないと上手くは行かないって事だな」
そう呟いて、俺は参考にしていたページを閉じた。
歌唱力が上がっているという実感はある。
自己証明を使った時の歌唱力も、以前と比べてかなり高くなっている。
その二つを把握できただけでも、今朝の確認には意味があったと思う。
ただ、せっかくの休日にいつまでも部屋にこもっているのも何だ。
歌について調べるのは楽しいが、今日は外に出て遊ぶつもりだった。
「ビビッドストリートに行くか」
動画の確認も終わったし、必要な情報もひとまず整理できた。
俺はパソコンを閉じて、出かける準備を始めた。
…………………………………………………………………
身支度を済ませて玄関へ向かい、靴を履いて外に出る。
十二月中旬ともなれば、朝の空気はそれなりに冷たい。
とはいえ、出かけるのをやめるほどの寒さではなかったし、歩いていれば体も温まるだろう。
玄関の扉を閉めたところで、ちょうど隣の家から人が出てくるのが見えた。
天馬司だった。
近所に住んでいる同年代の知り合いで、顔を合わせること自体は珍しくない。
頻繁に遊ぶほどの仲ではないものの、会えば挨拶くらいはする間柄だ。
ついでに言うと本人から敬語は無くて良いと言われているので基本タメ口だ。
これでそんなに接点が無いというのもどこかおかしな話に思えるが。
「あ、おはよう司」
「うむ!おはよう考調!」
「うぉ……!?びっくりした……」
思わず肩が跳ねた。
いや、声がでかい。
朝からよくそんなに通る声を出せるものだと思う。
挨拶を返してくれたこと自体はありがたいのだが、予想以上の音量に一瞬だけ頭が追いつかなかった。
「む?スマンな」
「いや、いいけど……朝から元気だな」
「当然だ!一日の始まりから活気がなくては、何事も始まらんからな!」
胸を張って言い切る司に、俺は思わず笑いそうになった。
相変わらずというべきなのか、朝から勢いがある。
もっとも、近所の人間に挨拶をする時点で元気なのは悪いことではないだろう。
俺だって、朝から不機嫌そうな顔で無言のまま通り過ぎられるよりは、ずっと気分が良い。
「考調はこれから出かけるのか?」
「うん、ちょっと遊びに」
「そうか!休日を有意義に過ごすのは大切なことだからな!」
「司も出かけるところ?」
「いや、少し用事があってな」
そんな具合に話をしているうち、俺はふと、司の着ている服に目を向けた。
正確には、服そのものではなく、以前から何度か見かけていた制服のことを思い出したのだ。
朝に外を歩いていると、司が学校へ向かう姿を見かけることがある。
その時に着ていた制服から、彼が神山高校に通っていることは知っていた。
俺自身も神山高校を受験して合格しているため、入学前の今は、学校についての情報が少し気になる時期でもある。
「そういえば司って、神山高校なんだよな?」
「うむ、そうだが?」
「実際、どんな感じの学校なんだ?俺も来年から通うことになるし、ちょっと気になって」
そう尋ねると、司は少し考えるような顔をした。
普段の勢いからすると、学校の話になった瞬間に何かしら熱く語り始めるのではないかと思ったが、意外にもすぐには答えなかった。
「そうだな……可もなく不可もなく、といったところか」
「へぇ」
「勉強が特別難しいというわけでもないし、教師たちも生徒がやりたいことを全力で応援してくれるぞ!少なくとも、オレはそう感じている!」
なるほど。
特別に学業へ力を入れている学校というわけでもなく、かといって自由な校風を理由に生徒を放置するような場所でもないらしい。
生徒が何かをやりたいと思った時に、教師がそれを支えてくれる。
言葉だけを聞けば当たり前のようにも思えるが、実際にそういう環境が整っているのなら悪くない。
「生徒がやりたいことを応援してくれるっていうのは良いな」
「だろう!何かに打ち込むというのは素晴らしいことだからな!」
司はまたしても力強く頷いた。
本人がそういう考え方をしているからこそ、学校のそういった部分を好意的に捉えているのかもしれない。
少なくとも、今の話を聞く限りでは、神山高校に対して特別に悪い印象を持つ必要はなさそうだ。
「ちなみに、司は学校で何かやってるのか?」
「オレか?オレは将来、世界一のスターになることを目指している!」
「……世界一のスター?」
「そうだ!そのために日々努力を重ねているのだ!」
あまりにも堂々と言い切られたので、俺は一瞬だけ返事に困った。
世界一のスターという言葉自体は理解できる。
ただ、具体的にどういう方向を目指しているのかまでは分からない。
歌手なのか、俳優なのか、それとも舞台に立つ人間なのか。
そのあたりを聞いてみると、司は自分の目標について、楽しそうに話してくれた。
人前に立つことが好きで、誰かを楽しませることに喜びを感じているらしい。
目標に向かって努力することも苦ではないようで、学校生活について話している時よりも、さらに生き生きとして見えた。
そういう話を聞いていると、世界一のスターという目標も、ただ大きなことを言っているだけではないのだろうと思えてくる。
少なくとも、本人は本気なのだ。
俺自身、何かに本気で取り組んでいる人間の話を聞くのは嫌いではない。
自分と同じ考え方をしている必要はないし、目標が同じである必要もない。
何を大事にしているのか、何を目指しているのか。
そこが分かれば、話を聞く意味はある。
「なるほどなぁ……司らしい目標だと思う」
「む?オレらしい、か?」
「うん、少なくとも今の話を聞いてると、そう思うよ」
司の事をよく知っている訳では無いが…どこか、らしいと思える様な目標だ。
「ははは!そうか!ならば、その期待に応えられるように頑張らねばな!」
司は気持ちよく笑った。
その反応を見て、俺も自然と口元が緩む。
近所で顔を合わせる程度の関係だったから、これまでは挨拶を交わして終わることがほとんどだった。
こうして少し長く話してみると、普段の挨拶だけでは分からなかった部分が見えてくるものだ。
もっとも、俺ばかりが質問しているのも何なので、今度は司からの質問にも答えることにした。
「ところで考調は、何か目指しているものがあるのか?」
「俺?うーん……これっていう大きな目標は、今のところないかな」
「そうなのか?」
「やりたいことは色々あるんだけど、何か一つに決めてるわけじゃないんだよね」
これは嘘ではない。
趣味としてやっていることはいくつもあるし、興味を持っている分野もそれなりにある。
ただ、それらのうち何か一つを選び、人生を懸けると決めているわけではなかった。
今は色々なことを試して、自分が何を面白いと思うのかを確かめている途中だ。
それを話すと、司は否定することなく頷いた。
「なるほどな!まだこれから見つけていくということか!」
「まぁ、そんな感じ」
「それもまた良いだろう!自分が何をしたいのかを考えることは大切だからな!」
押しつけがましい言い方ではなかった。
司自身は目指すものがはっきりしている一方で、他人が同じように生きることまで求めているわけではないらしい。
そういうところは、話していて気楽だった。
大きな夢を持っている人間の中には、自分と同じ熱量で夢を追わない人間を見下すような人もいる。
もちろん、司がそういう人間だと思っていたわけではないが、少なくとも今の会話からは、他人の生き方を一方的に否定するような雰囲気は感じなかった。
その後も、話題は自然に家族のことや昔の思い出へと移っていった。
俺の家族について話すと、司は興味深そうに耳を傾けていた。
父親や母親との普段のやり取り、家で過ごす時間、昔に出かけた場所での出来事など、特別な話ばかりではない。
それでも、誰かと自分の思い出を共有するのは案外楽しいものだ。
自分にとっては当たり前だった出来事でも、相手から質問されることで、改めて思い返すことがある。
司の方も家族の話をしてくれたし、学校へ通うようになってからのことについても聞かせてくれた。
話をしている間、スタンドのことは一切話題にしなかった。
そもそも、近所に住む知り合いだからといって、自分の持つ能力について何でも話す必要はない。
司がスタンドの存在を知っているわけでもない以上、こちらからわざわざ話す理由もなかった。
俺にとっては日常の一部になりつつあることでも、他人にとってはそうではない。
その区別をつけることくらいはできる。
しばらく話していると、最初に挨拶を交わした時よりも、互いに気兼ねなく言葉を返せるようになっていた。
今までは顔を合わせれば挨拶をする程度だったが、今日の会話で少し距離が縮まった気がする。
そんな中、司がふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、考調!」
「ん?」
「高校入学後はいつでも声をかけろ!もちろん入学前でも困りごとがあれば相談にのるぞ?」
真っ直ぐな言葉だった。
わざわざ大げさに考える必要はないのだろう。
近所に住んでいる人間として、何かあれば相談してくれと言っているだけだ。
それでも、入学前の今からこうして声をかけてくれるのはありがたい。
「ありがとう、そういうことがあったらありがたく頼らせてもらうよ」
「うむ!遠慮する必要はないからな!」
「分かった、覚えておく」
俺がそう答えると、司は満足そうに頷いた。
その後、互いにこれからの予定を確認し、俺は改めて出かけることにした。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「そうか!気をつけてな、考調!」
「司もな」
軽く手を振って別れ、俺は歩き出した。
休日の朝に、近所の知り合いと少し長く話した。
ただそれだけのことではある。
けれど、これまで挨拶程度だった相手のことを少し知ることができたのは、悪くない出来事だったと思う。
来年から通う神山高校についても、実際に通っている人間の話を聞けた。
学校がどんな場所なのか、そこでどんな生活が待っているのか。
まだ分からないことは多いが、少なくとも入学前に話を聞ける相手が一人増えたのは確かだ。
俺は冷たい朝の空気を吸い込み、今日の予定を頭の中で確かめながら、街へ向かって歩いていった。
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その後、天馬司は妹である天馬咲希のお見舞いへ行き、今まであまり話さなかったご近所さんと仲良くなったので退院したら一緒に挨拶に行こう、と話した。
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午前九時。
ビビッドストリートに到着した俺は、通りの様子を眺めながら歩いていた。
休日の朝ということもあって、街にはすでに人の姿が多い。
道沿いでは歌を披露している人がいて、少し先では音楽に合わせたパフォーマンスが始まっている。
それぞれが自分のやりたいことを表現していて、通りを歩くだけでも飽きない。
「毎週来てるけどやっぱ飽きないな、ここは……熱気もこんな時間からそこかしこで吹き上がってる」
思わずそんな感想が漏れた。
俺はビビッドストリートに何度も足を運んでいるが、同じ場所であっても毎回まったく同じ光景が広がっているわけではない。
歌う人が違えば選曲も違うし、パフォーマンスをする人が変われば雰囲気も変わる。
同じ人が歌っていたとしても、その日の調子や気分によって表現が変わることだってあるだろう。
そういう変化を眺めるのが面白い。
自分でも歌っているからこそ、他人がどんな風に歌っているのか気になる部分もある。
声の出し方やリズムの取り方、歌詞のどこに力を込めるのか。
単純に上手いかどうかを判断するだけではなく、どうしてそういう歌い方をしているのかを考えるのも楽しいのだ。
もちろん、毎回そんな分析ばかりしているわけではない。
気に入った歌が聞こえてきたら、素直に足を止めて聴くこともある。
音楽を楽しむために来ているのだから、難しいことを考えずに楽しむ時間があってもいい。
そんなことを考えながら通りを歩いていると、少し先から聞こえてきた歌声に意識を引かれた。
人だかりの向こうで、二人の少年がパフォーマンスをしている。
一人は鮮やかなオレンジ色の髪をした男、もう一人は濃い青みがかった黒髪と空色に近い髪色が混ざった、特徴的なツートンカラーの男だった。
どっちも俺と同年代くらいか…?
髪色だけでも十分に目を引く二人だが、注目した理由はそれだけではない。
歌とパフォーマンスそのものが、通りを歩く人間の足を止めるだけの力を持っていた。
オレンジ色の髪の少年は、歌に込める力が強い。
勢い任せに声を張り上げているわけではなく、曲の流れに合わせて力を込める場所を選んでいるように見えた。
声の印象もはっきりしていて高音が自然に伸びる、聴いている側に自分の存在を強く意識させるような歌い方だった。
もう一人の少年は、そこから少し違った印象を受ける。
声の出し方が安定していて、動きにも無駄が少ない。
ただ上手く歌うだけではなく、パフォーマンス全体を通して曲の雰囲気を表現しているように感じられた。
見た目からは静かな印象を感じさせる、だが予想を裏切るように張り上げられる声を聞くと驚きと共に低音のままあの声量を保てる確かな技術を感じさせる。
同じ曲を披露していても、二人の見せ方には違いがある。
それでいて、片方がもう片方を邪魔しているような感じもない。
互いの歌や動きを意識しながら、二人で一つのパフォーマンスを成立させているように見えた。
「凄いな…」
足を止めて、しばらく眺めることにした。
最初に目を引いたのは、オレンジ色の髪の少年だった。
生まれつきなのか、それとも染めているのかは分からないが、かなり鮮やかな色をしている。
自然にあの色になるものなのかと少し疑問に思ったものの、わざわざ本人に聞くようなことでもない。
そもそも、俺は彼と知り合いですらないのだ。
見た目について考えるのはそこまでにして、改めて歌へ意識を戻した。
声量だけなら、もっと大きな声を出せる人間もいるだろう。
けれど、聴き手の注意を引きつけるという意味では、声の大きさだけが重要なわけではない。
歌い方やリズムの取り方、表情や動作まで含めて、その場にいる人間へ何を伝えられるのかが大切なのだと思う。
その点で、二人のパフォーマンスは十分に魅力的だった。
俺は歌の流れを追いながら、二人の顔を覚えておくことにした。
これだけ印象に残るパフォーマンスを見せられれば、次に見かけた時にも気づけるだろう。
とはいえ、今の段階でそれ以上の意味はない。
俺は彼らの名前を知らないし、話したこともない。
どこかの学校に通っているのかどうかさえ、知る由もなかった。
当然ながら、来年から同じ神山高校へ通うことになる相手だとも思っていない。
顔を覚えたのは、あくまで歌とパフォーマンスが印象に残ったからだ。
やがて曲が終わり、周囲から拍手が起こった。
二人のパフォーマンスを見届けた俺も、軽く拍手を送ってから再び歩き出した。
もう少し見ていてもよかったが、今日はほかにも行きたい場所がある。
ビビッドストリートで歌を楽しむこと自体は目的の一つだし、気になるパフォーマンスがあれば足を止めるつもりでいる。
ただ、いつまでも同じ場所に留まっているわけにもいかない。
俺は通りを進みながら、先ほどの二人について改めて考えた。
オレンジ色の髪の少年は、歌に勢いがあって目を引くタイプだった。
対して、ツートンカラーの少年は、全体の完成度が高く感じられた。
どちらが上という話ではなく、それぞれ違った強みがある。
同じ歌を歌っていても、表現の仕方によって受ける印象は変わるのだ。
自分が歌う時にも、そういった違いを意識してみる価値はあるかもしれない。
そんなことを考えつつ、俺は二人の顔を記憶に留めた。
…………………………………………………………………
しばらくビビッドストリートを歩いた後、俺はWEEKEND GARAGEへ向かった。
ここも、休日に足を運ぶ場所の一つになっている。
店の雰囲気は居心地がいいし、食事をするにも休憩するにも都合がいい。
何より、ここでは音楽に触れる機会がある。
店内で誰かが歌い始めることもあれば、客同士の会話から音楽の話題が広がることもある。
いつも必ず何かが起きるわけではないが、そういう予測できない部分も含めて気に入っていた。
店に入ると、俺は昼食を注文し、空いている席で食事を始めた。
ビビッドストリートを歩いていた時からそれなりに時間が経っているため、ちょうど腹が減っていたのだ。
食事を終えた後はコーヒーを頼み、ひと息つくことにした。
カップを手に取り、ゆっくりとコーヒーを飲む。
外を歩いている時とは違い、座って落ち着ける時間も必要だ。
歌を聴きながら歩くのも楽しいが、こうして一度腰を落ち着けると、また違った気分になる。
店内の様子を眺めながらコーヒーを飲んでいると、ふと聞き覚えのある声が響いた。
そちらへ顔を向けると、白石杏が歌っていた。
どうやら急に歌い始めたらしい。
特別な前触れがあったわけでもなく、店内にいた人たちが彼女の歌声に気づいて視線を向けている。
「お、珍し……くもないか?杏は意外と気が乗る時多いし」
独り言を呟きながら、俺はカップを置いた。
杏が歌う姿を見ること自体は、そこまで珍しいことでもない。
むしろ、気分が乗った時には自然と歌い始めるようなところがあるため、こうして店内で歌声が響くことにも、それほど違和感はなかった。
俺はコーヒーを飲む手を止め、彼女のパフォーマンスを楽しむことにした。
杏の歌には、聴いている側を引き込む勢いがある。
声に力があるだけではなく、歌っている本人が楽しんでいることまで伝わってくるのだ。
身体の動きも曲に合っていて、歌声とパフォーマンスがばらばらになっていない。
その場にいる人間を楽しませようという気持ちが、歌い方にも表れているように感じられた。
俺は以前から杏の歌を聴いているが、何度見ても飽きない部分がある。
同じ曲であっても、歌う時の気分や周囲の雰囲気によって、細かな印象が変わるからだ。
今回も、彼女の歌を聴きながら自然と気分が良くなっていった。
やがてパフォーマンスが終わると、店内から拍手が起こった。
俺も拍手を送り、再びコーヒーに手を伸ばしたところで、杏がこちらに気づいた。
「あ!考調!来てたんだ!」
「うん、昼飯食いに来てた」
「そっか!どうだった、今の?」
「良かったよ、相変わらず楽しそうに歌うなって思った」
「でしょ?やっぱり歌うなら楽しくないとね!」
杏は満足そうに笑った。
自分の歌を楽しんでもらえたことが嬉しいのだろう。
俺としても、率直な感想を伝えただけなので、そこまで大げさに受け取られると少し照れくさい。
とはいえ、わざわざ取り繕う必要もなかった。
良いと思ったものは良いと言えばいいし、気になるところがあれば、その時に考えればいい。
杏は俺の近くまでやって来ると、空いている席に腰を下ろした。
「考調は今日は何してたの?」
「さっきまでビビッドストリートを歩いてたよ、路上で歌ってる人も結構いたし」
「おっ、何か気になる人いた?」
「二人組で歌ってる人がいたな、オレンジ色の髪の人と、青っぽい黒髪に水色っぽい色が混ざった人」
「あー、そういう人たちがいたんだ」
杏は知っているのか、あるいは心当たりがあるのか、少し考えるような顔をした。
ただ、俺から名前を尋ねることはしなかった。
別に名前を知らなくても、今日のパフォーマンスが良かったという感想は変わらない。
「二人とも上手かったよ、特に歌の見せ方が違ってて面白かった」
「へぇ、いいね!私も見てみたいな」
「また見かけたら教えるよ」
「うん、お願い!」
そんな会話を交わしながら、俺たちはしばらく今日のパフォーマンスについて話していた。
杏から見た歌い方の話も聞けたし、俺が気になった部分について意見を交わすこともできた。
同じ歌を聴いていても、どこに注目するのかは人によって違う。
自分ではあまり意識していなかった部分を指摘されると、確かにそういう見方もあるのかと納得することがある。
そういう会話は、単純に楽しい。
歌の話がひと段落すると、今度は店の料理についての話題になった。
「そういえば考調、今日の料理ってどう思う?」
「普通に美味いと思うよ、俺は結構好き」
「でしょ!私も最近厨房で料理の練習させてもらってるんだ!」
杏は嬉しそうに頷いた。
話しているうちに料理の話も思いのほか盛り上がった。
どの料理が好きか、どういうところが気に入っているのか。
そんな話をしながら、俺は残っていたコーヒーを飲んだ。
音楽の話ばかりをしているわけではない。
食事や普段の生活のことを話せるのも、杏と会話をする時の気楽なところだった。
しばらくして、話題は高校のことへ移った。
「そういえば考調って、どこの高校に行くんだっけ?」
「神山高校だよ、杏は?」
「えっ、私も神山!」
「お、同じか」
思わず顔を見合わせた。
杏が神山高校を受験していたことは知らなかったが、聞いてみれば納得できる部分もある。
俺たちはこれまで何度も話をしているものの、進学先について詳しく話したことはなかった。
同じ高校に通うことになると分かっただけでも、来年からの生活を少し想像しやすくなる。
「じゃあ来年から同じ学校だね!」
「そうなるな」
「そっかぁ……同じ高校かぁ」
杏は何やら考え込むような顔をした。
その表情を見て、俺は嫌な予感がした。
いや、別に杏が何か悪いことを考えているとは思っていない。
ただ、こういう時の彼女は、何かを思いつくとすぐに行動へ移すことがある。
そして、その予感は間もなく的中した。
「ねえ、考調!」
「……何?」
「私と相棒にならない?」
来た。
俺は内心でそう呟きながら、杏の顔を見た。
彼女が相棒を探していることは以前から知っている。
歌やパフォーマンスを一緒にやれる相手を求めていて、その候補として俺を考えていることも、これまでの会話で察していた。
だからこそ、今回の誘いも完全な不意打ちというわけではない。
ただ、何度誘われても、答えは変わらなかった。
「ごめん、それはやっぱり断る」
「えー!また!?」
「また、って言われてもなぁ……」
杏は不満そうに頬を膨らませた。
俺としても、彼女と一緒に歌うこと自体を嫌がっているわけではない。
一緒に歌ってほしいと言われれば、予定が合う限りは歓迎する。
実際、こうして音楽の話をするのも楽しいし、歌を合わせることにも興味はある。
けれど、相棒という関係になるとなると、どうにも自分の中で引っかかるものがあった。
杏が求めている相棒という存在が、俺にとっては少し重いのかもしれない。
相手に問題があるわけではないし、杏の目標を否定したいわけでもない。
ただ、相棒になるという決断を、今の俺は納得して選ぶことができないのだ。
自己証明の土台が自分自身の納得であるように、何かを決める時にも、自分の中で納得できるかどうかは大切にしている。
相手が望んでいるからという理由だけで、引き受けることはできなかった。
「一緒に歌うくらいなら全然いいんだけどさ、相棒ってなると、どうしても自分の中で引っかかるんだよ」
「うーん……それって、私と組むのが嫌ってことじゃないんだよね?」
「そこは違うよ、杏と一緒にやるのは歓迎だって」
「じゃあ相棒でもいいじゃん!」
「その二つは俺の中では別なんだよな」
杏は納得しきれない様子だった。
それも仕方がないと思う。
彼女にとっては、一緒に歌うことと相棒になることが、そこまで切り離されたものではないのかもしれない。
けれど、俺にとっては違った。
誰かと一緒に何かをすることと、その相手を自分の相棒だと決めることは、同じではない。
前者なら、互いの都合が合う時に楽しめばいい。
後者となると、相手との関係や自分が何を求めているのかまで考える必要がある。
少なくとも俺は、そういう区別をつけていた。
「……そっか」
杏は少し考えた後、そう言った。
一度は引き下がったように見えたので、俺もこれで話は終わりだと思った。
ところが、彼女はすぐに顔を上げた。
「でも、やっぱり考調が相棒だったらいいと思うんだよね!」
「あれ!?まだ続くのか!?」
「もちろん!だって、考調と一緒に歌うの楽しいし!」
思わず声が出た。
断った相手に、ここまで迷いなく再び勧誘してくるのは、ある意味で大したものだと思う。
杏は本気で俺を相棒にしたいらしい。
それ自体はありがたい話だし、彼女が俺の歌を評価してくれていることも伝わってくる。
だからといって、ここで返事を変えるわけにもいかなかった。
「気持ちは嬉しいけど、答えは変わらないよ」
「むー……考調、頑固だなぁ」
「お互い様じゃない?」
「それはそうかも!」
杏はあっさり笑った。
断られたことを気にしていないわけではないだろうが、少なくとも俺との関係を悪くするつもりはないようだった。
俺としても、こういうところで気まずくならないのは助かる。
相棒になることは断っても、一緒に歌うことまで断る理由はない。
それに、杏の歌を聴いていると、こちらも歌いたくなってくるのだ。
「ところでさ、考調」
「今度は何?」
「せっかくだし、一緒に歌わない?」
「それはいいよ」
「やった!」
杏はすぐに表情を明るくした。
相棒の勧誘とは違い、こちらは最初から断るつもりがなかった。
互いに歌うことが好きなのだから、一緒に歌って楽しめるなら、それで十分だと思う。
杏が曲を提案し、俺もその案に乗った。
選んだのは『劣等上等』だった。
勢いのある曲で、二人で歌うにはちょうどいい。
曲が始まると、杏はいつものように楽しそうに歌い始めた。
俺もそれに合わせて声を出し、互いの歌声がぶつからないように意識しながら歌っていく。
相手の声を聴き、曲の流れを確かめ、必要なところで自分の声を前に出す。
ひとりで歌う時とは違い、相手がいるからこそ生まれる感覚がある。
自分の歌だけに集中していればいいわけではないが、だからこそ面白い。
杏は曲の勢いをしっかりと引き出していて、歌っている最中も楽しんでいることが伝わってきた。
俺もその雰囲気に引っ張られ、自然と力が入る。
ただ音程を合わせるだけではなく、曲全体の勢いを落とさないように歌うことを意識した。
やがて曲が終わると、俺たちは互いに顔を見合わせた。
「やっぱり一緒に歌うの楽しいね!」
「うん、これはこれで良いもんだな」
「でしょ?だから相棒に――」
「それは別の話」
「え〜っ!」
杏がまた不満そうな声を上げたので、俺は苦笑した。
どうやら、相棒の勧誘を諦める気はまだないらしい。
とはいえ、無理に答えを変えさせようとしているわけではないので、そこまで深刻に考える必要もないだろう。
俺はコーヒーを飲み終え、そろそろ出かける時間だと考えた。
今日は午後二時ごろにゲーセンへ行くつもりだったし、まだ少し余裕があるとはいえ、いつまでも店にいるわけにはいかない。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「もう行っちゃうの?」
「この後ちょっと用事があるからな」
「そっか……じゃあ、また一緒に歌おうね!」
「それなら歓迎」
「相棒の話も、またするからね!」
「そこは諦めてくれないんだな……」
杏は楽しそうに笑っていた。
俺も軽く笑い返し、席を立った。
食事をして、コーヒーを飲み、杏の歌を聴いた。
そのうえ一緒に歌うこともできたのだから、十分に満足できる時間だったと思う。
相棒になるかどうかについては、まだ答えを変えるつもりはない。
ただ、杏と一緒に歌うことまで避けるつもりもなかった。
俺は杏に別れを告げ、WEEKEND GARAGEを後にした。
次に向かうのは、いつものゲーセンだ。
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主人公の歌唱力がここ2ヶ月で急激に上昇していてかなり刺激を受けると同時に少し焦った杏であった。
(主人公は歌ってみた投稿でAXIOM使って少し先の練度を先取り体験し続けてるから伸び悩むと言う概念が無い。)
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これからもう少しで高校生になる、プロセカ本編に入るであろうこの先の展開でどのくらい主人公とプロセカキャラ達を絡ませる?一応今までの接点よりは深く関わらせる予定。締め切りは高校入学時。
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滅茶苦茶いっぱい絡ませる(作者が大変)
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凄くいっぱい絡ませる(まぁ行ける)
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普通に絡ませる(今と少し変わる位)