転生スタンド使いの日常。 作:匿名の読む専
冬休み。
12月25日。
今日はクリスマスである。
午前十時、俺はクラスメイト全員とボウリング場にいた
中学三年生の冬休みともなれば、受験だの進路だのといった話題がどうしても増えてくる時期ではあるが、だからといって遊ぶ時間までなくなるわけではない
むしろ、冬休みに入ったばかりの今だからこそ、クラスメイトと集まって遊ぶ機会を作っておきたかった
そんなわけで、俺が企画したのがクリスマスパーティーである
クリスマスを祝うという名目を掲げているものの、実際のところはみんなで集まって遊び、冬休みの思い出を作ろうというのが主目的だった
参加者は俺を含めて二十五人、つまりクラスの全員だ
ボウリング場の隣にはカラオケ店もあったため、今回はそちらも利用することになり、参加者はボウリング組とカラオケ組に分かれていた
もちろん、ずっと別々に過ごすわけではない
気が向いた人間がカラオケ店からボウリング場へ顔を出したり、反対にボウリング組の人間がカラオケ店へ遊びに行ったりと、行き来は自由だった
ただし、カラオケを利用していない人間が歌うことはない
料金を払っていない以上、そこはきちんと区別する必要があるからだ
あくまでも、ちょっと顔を出して雑談する程度の交流である
そして俺は、ボウリング場で全力ではしゃいでいた
「おっしゃ!ストラーイク!!」
ボールがピンをまとめて倒した瞬間、俺は思わず声を張り上げた
狙い通りの結果が出ると気持ちがいいもので、こういう単純明快な遊びには理屈抜きの楽しさがある
「バッターアウッ!!」
「それ野球じゃね?」
勢いよく叫んだ友人Dに対し、友人Cが冷静に突っ込む
ボウリングと野球では競技が違うし、そもそもストライクの意味からして異なる
そんなことは全員が分かっているのだが、だからこそ勢い任せの冗談が成立するわけだ
「ぬわー!ガーターだー!?」
別のレーンでは友人Fが悲痛な声を上げていた
ボールはピンに触れることもなく、レーンの端へと吸い込まれていったらしい
「ピッチャー交代、変われF」
友人Zがすかさず口を挟む
もちろん、ボウリングにピッチャーなど存在しない
「「「「「ほざけ名誉ガーター王」」」」」
その場にいた複数人から一斉に罵声が飛んだ
もはや誰が最初に言い出したのかも分からないほど、全員が遠慮なく好き勝手に発言している
「ナメてっとちゃうぞ!?オ゙ォ゙ン゙!?」
友人Zも負けじと声を張り上げた
何を言っているのか分かるような分からないような叫び声だったが、本人が勢いよく反論している以上、周囲もそれに乗っかって笑うだけである
こんな調子で、ボウリング場は朝から賑やかだった
誰かがストライクを取れば騒ぎ、誰かがガターを出せばさらに騒ぎ、順番待ちの間にも会話が途切れることはない
真面目にスコアを競っている人間もいれば、投げる前から妙なポーズを取って笑いを誘う人間もいる
遊び方はそれぞれだが、少なくとも退屈している人間はいなかった
一方、その頃カラオケ店でも、別方向の盛り上がりが発生していたらしい
「君が代70点以下非国民な」
「おいおい…ビビってんのかA?」
「日本人なら君が代くらい90越えるだろ?」
どうしてそうなったのかは知らないが、友人Aたちは君が代の採点を巡って妙な勝負を始めようとしていた
国歌の採点結果で国民としての資格を判定するなど、どう考えても無茶苦茶である
そもそも、歌唱力と国民性に何の関係があるというのか
「上等だオラァ!非国民バトルやる人このマイク止まれ!!」
「小学生か?」
友人Aが勢いよく参加者を募り、友人Rが呆れたように突っ込んだ
こちらもこちらで、ボウリング場に負けず劣らずの騒がしさである
もっとも、こうした馬鹿馬鹿しい勝負を本気で楽しめるのも、気心の知れたクラスメイト同士だからこそだろう
大人から見れば、何をやっているのかと呆れられるかもしれない
それでも、本人たちが楽しいのなら問題はない
俺だって、わざわざクリスマスを口実にしてクラス全員を集めたのだ
今日くらいは、余計なことを考えずに遊び倒してもいいだろう
ボウリング場ではボールが転がり、ピンが倒れ、誰かの歓声や悲鳴が響く
カラオケ店では歌声と笑い声が飛び交い、採点画面を見ながら一喜一憂する声が上がる
時折、両方の施設を行き来するクラスメイトが現れては、短い雑談を交わしてまた自分のいた場所へ戻っていく
それぞれ好きな場所で好きなことをしながら、全員が同じ一日を楽しんでいる
そんな時間が、午前十時から始まっていた
そして、三時間が経過する
時計の針は午後一時を指していた
ボウリングの利用時間が終わり、カラオケ組も十分に歌って満足したところで、俺たちは再び全員で合流することになった
次の目的地は、近くにある大きな食事処だ
午前中に動き回ったり歌ったりしたのだから、そろそろ腹も減っている
全員で昼食を取るために移動を始めたのだが、その道中で俺は周囲の様子を見て思わず口を開いた
「死屍累々だな…」
友人Aから友人Yまで、あちらこちらで疲労の色を見せている
歩き方が妙にゆっくりになっていたり、会話の合間に深いため息をついていたり、さっきまでの勢いが嘘のように静かになっている者もいた
午前中の騒がしさを考えれば、無理もない話ではある
「まぁあんだけはしゃげば3時間でもバテるか」
友人Zが、そんなクラスメイトたちを見ながら呟いた
その本人はというと、疲れた様子などほとんど見せていない
俺も同様だった
「何でお前らケロッとしてんの??」
友人Aが、俺たち二人を見比べながら疑問を口にした
言いたいことは分かる
周囲の人間が疲れ切っている中で、俺とZだけが普段と大差ない様子なのだから、気になるのも当然だろう
「鍛えてるから」
俺はそう答えた
実際、身体を動かすこと自体は苦ではない
前世の記憶を持ったまま生まれ変わった影響なのか、ゴールデンエイジ云々をフワッと齧り程度に理解していた俺は幼い頃から勉強なり運動なり何でもやっていた。
そのおかげか今では努力を重ねることへの抵抗感が薄く、身体を動かした後の疲労についても周囲が感じているものとは少し違うように思える
もちろん、何をしても疲れないというわけではない
ただ、三時間ほど遊んだ程度なら、まだまだ余裕があるというだけの話だ
「才能…かな?」
友人Zは、妙に爽やかな顔でそう言った
こいつは山の中でキャンプをしても平然としているし、ツチノコを探すために山中を歩き回ることすら苦にしない
そういう意味では、体力があるという説明だけでは片付けにくい部分もあるのだろう
「考調はともかくZ!テメェは腹立つ!?」
友人Bが即座に噛みついた
その発言に、周囲のクラスメイトたちも次々と便乗していく
疲れている人間からすれば、平然としているZの態度は腹立たしいものらしい
だが、当の本人はというと、そんな声など意に介していなかった
「フッ…僻みは醜いぞ?」
その一言で、再び周囲から文句が飛び交う
それでもZは、持ち前のポジティブさで受け流していた
ある意味では、これも才能なのかもしれない
なお、昼食の席では別の事件も起きていた
Zが注文したイクラ丼から、クラスメイトたちが隙を見てイクラを数粒ずつ拝借していたのである
本人が周囲の罵声を受け流している間にも、複数の箸が丼へと伸びていた
その結果、Zのイクラ丼はイクラがまばらに残るばかりとなり、酢飯の割合がやたらと高くなってしまった
もっとも、Zはそれを見て騒ぎ立てることもなく、隣にあった刺身を使って寿司のように食べ始めた
イクラが少なくなったなら、刺身を乗せて食べればいい
そんな具合に、本人はあっさりと対応していた
昼食の時間まで騒がしいのだから、今日のクラスメイトたちは本当に元気なものだ
もっとも、その元気が午後まで続くかどうかは、また別の話である
…………………………………………………………………
午後二時、俺たちは学校に到着した
午前中はボウリングとカラオケで騒ぎ、昼食を食べて一息ついたところだが、今日の予定はまだ終わっていない
むしろ、ここからが今日のクリスマスパーティーの後半戦だった
そもそも、今回のパーティーは学校の担任にも参加を呼びかけていたのだが、仕事があるという理由で断られてしまった
それならば仕方ないと諦めるのが普通なのかもしれないが、俺たちのクラスメイトはそこで諦めるような連中ではなかった
「じゃあ俺たちが学校に行けばよくね?」
そんなわけで、担任を学校から連れ出すのではなく、俺たちの方から学校へ押しかけることになったのである
もちろん、学校側に無断で集まるわけにはいかない
事前に許可を取り、今日に限って自転車を学校に置かせてもらい、飲食物の持ち込みについても自己責任という条件で認めてもらった
その結果、俺たちは各自で持ち寄ったお菓子や飲み物を手に、無事に学校へ集まることができた
飲み物は一・五リットルのペットボトルが中心で、お菓子もそれぞれ好みのものを持ってきている
そして、今日の主役ともいえるクリスマスケーキも用意されていた
クラスメイトたちが事前に購入していたのは、二切れ入りのケーキが十三パックだった
つまり、合計二十六切れである
参加者は俺たちクラスメイト二十五人に担任を加えた二十六人なので、これなら一人一切れずつ配ることができる計算だった
ところが、担任も自分でケーキを一パック購入してきていたため、最終的には十四パック、合計二十八切れとなった
全員に一切れずつ配っても、二切れ余ることになる
せっかくのクリスマスなのだから、ケーキが多い分には何の問題もない
ただし、その余ったケーキをどうするかについては、俺たちのクラスらしい解決方法が採用されることになった
学校に集まった以上、ただ飲み食いして終わるのも面白くない
そう考えた俺たちは、まずは年末の集まりとして菓子や飲み物を囲み、しばらくの間、全員で雑談を楽しんだ
午前中のボウリングやカラオケの話題も出れば、昼食の席で起きたイクラ丼の事件について話す人間もいる
特に、イクラを拝借されたZが最後まで大して気にしていなかったことは、何人かのクラスメイトにとって不満だったらしい
本人が気にしていない以上、どうしようもないのだが
そうしてしばらく騒いだ後、俺たちは校舎を使った増え鬼を始めることになった
ルールは単純明快だ
最初の鬼は担任で、制限時間は一時間
その一時間以内に全員が捕まれば、余ったケーキは担任のものになる
逆に、一人でも捕まらずに逃げ切ることができれば、余ったケーキは生存者たちのものだ
ただし、逃げ切った人間が複数いた場合は、カードゲームで勝者を決めることになっている
要するに、ケーキ二切れを賭けた校舎内の鬼ごっこである
こうして文章にしてみると、クリスマスパーティーの余興としては妙な内容に思えるかもしれない
だが、当の俺たちは至って真剣だった
何しろ、ケーキが懸かっているのだ
普段なら適当に流してしまうような遊びでも、景品があるだけで妙にやる気が湧いてくるのだから不思議なものである
もっとも、担任も同じことを考えていたらしい
「ケーキは俺の物だァ!!」
開始前から、担任はやたらと気合いの入った声を上げていた
その姿を見た俺たちは、思わず顔を見合わせる
「おいあの担任大人気ないぞ!?」
「とても大人とは思えん…!」
「ケーキが食べたいあまり人の尊厳が…!」
「この1年あんなんが担任だったのか…」
次々と飛び出す容赦のない言葉に、担任の表情が引きつった
「ボロクソ過ぎない?泣くよ?先生泣くよ?」
当然ながら、誰もその程度では止まらない
俺たちが担任を誘った理由は、年末の集まりを一緒に楽しむためだったはずなのだが、気が付けばケーキを巡って争う敵同士になっていた
もっとも、担任の方も最初からケーキを奪い取る気満々なのだから、お互い様というものだろう
なお、ゲーム中に使用できる場所には制限が設けられていた
空き教室、廊下、体育館は使用可能だが、それ以外の場所には立ち入ってはいけない
屋上、保健室、校長室、理科室、音楽室、事務室、職員室、倉庫、連絡通路は立ち入り禁止となっている
屋上については念を押すように禁止事項へ記載されていたが、わざわざ危険な場所へ行く理由もないので当然のことだろう
一通りルールを確認したところで、いよいよゲームが始まった
担任が鬼となり、俺たちはそれぞれ散り散りになって逃げ始める
空き教室へ駆け込む者、廊下を走って距離を稼ぐ者、体育館へ向かう者など、行動は様々だった
もちろん、ただ闇雲に逃げ回ればいいというわけでもない
一時間という制限時間の中で、担任の動きを見極めながら捕まらないように立ち回る必要がある
しかも、今回は増え鬼なので、一度捕まった人間が新たな鬼となり、逃げている側にとっては時間が経つほど不利になっていく
最初は担任一人だけだった鬼が、少しずつ増えていくのだ
クラスメイト全員が同じ場所に固まっているわけにもいかないし、かといって単独行動を続ければ、捕まったときに逃げ道がなくなる可能性もある
それぞれが自分なりに考えながら、校舎内を動き回ることになった
そして、俺もまた逃げる側の一人として、ケーキを確保するために行動を開始した
何しろ、俺も甘いものは好きだ
クリスマスケーキを賭けた勝負である以上、ここで負けるつもりはなかった
もちろん、担任も同じ考えなのだろう
あの気合いの入りようを見れば、単なる余興として手を抜いてくれるとは到底思えない
こうして、二十六人の中学生と担任による、ケーキを懸けた一時間の戦いが幕を開けた
一時間後、最後まで捕まらずに残っていたのは、俺と友人B、そして友人Sの三人だった
担任の奮闘もむなしく、ケーキを独占するという野望は果たされなかったのである
「くそっ、あと少しだったのに……!」
担任が悔しそうに声を漏らす
「あの担任どんだけケーキ欲しかったんだよ…」
「常に先生が見える位置に居て良かったわ」
「最後十分くらい追いかけられたんだが…先生執念深過ぎるって」
上からB、S、俺の順で口々に担任に対する大人気無さを言い合っていく。
どうやら本気でケーキを狙っていたらしい
とはいえ、勝負は勝負だ
逃げ切った人間がいる以上、ケーキは俺たちの側に渡ることになる
ただし、俺たちは三人とも生き残ってしまった
ケーキは二切れしかないため、このままでは一人だけ食べられない人間が出てしまう
そこで、事前のルールに従い、最後の勝負としてババ抜きをすることになった
俺、友人B、友人Sの三人が向かい合い、それぞれ手札を持つ
単純なカードゲームとはいえ、ここまで来た以上は負けたくない
俺は手札を確認しながら、AXIOMの能力を使って相手の持っているカードを覗き見た。*1
それによって、誰がどのカードを持っているのかを把握し、相手の動きを見極めながらカードを引いていく
友人Bと友人Sが互いの手札を探り合う中、俺は必要な情報を得たうえで手を進めた
やがて、最後のカードが引かれ、勝敗が決まる
勝ったのは俺だった
「よし、勝った!」
これで、余ったケーキの一切れは俺のものだ
残りの一切れについても、もう一人の勝者が手にすることになる
担任の野望は潰え、俺たちのケーキ争奪戦は無事に決着したのである。
「さて…この一切れをチップとして俺はコールをするぜ!」
「何だと!?」
「ま、まさか…ケーキを2つとも独り占めするつもりか…?」
「B!S!考調からケーキを奪ってしまえ!」
「フハハハッ!ケーキは俺が貰うぞ!」
そんなこんなでババ抜きは白熱した。
※結局主人公が二切れとも独り占めしました。
…………………………………………………………………
その後は、体育館でさらに一時間ほど遊ぶことになった
用意していたUNOを囲んで盛り上がったり、バスケットボールで遊んだりと、思い思いに時間を過ごす
意外だったのは、UNOの方が予想以上に白熱したことだ
バスケットボールもそれなりに盛り上がっていたのだが、UNOの卓では次々と声が上がり、カードを出すたびに歓声や悲鳴が飛び交っていた
結局、体育館ではUNOの方が人気を集め、バスケットボールは相対的に影が薄くなってしまった
そして午後四時、俺たちはそれぞれ帰路につくことになった
朝からボウリングとカラオケで遊び、昼食を取り、学校で年末の集まりと増え鬼を楽しみ、さらに体育館で遊んだのだから、十分に充実した一日だったといえるだろう
クラスメイトたちと別れた俺は、自転車に乗って帰宅する……のではなく、そのままビビッドストリートへ向かった
まだ今日の予定は終わっていない
俺には、もう一つ立ち寄りたい場所があったからだ
…………………………………………………………………
午後四時、俺たちは学校を出た。
冬休み初日のクリスマスは、なかなか充実した一日だった。
午前中はボウリングとカラオケで騒ぎ、昼食を済ませてからは学校に集まり、クリスマス会と忘年会を兼ねた集まりを楽しんだ。
増え鬼では担任が予想以上に本気を出し、最後はババ抜きで余ったケーキの行方を決めるという、何とも締まらないようでいて楽しい展開になった。
その後もUNOやバスケで遊び、気づけば解散の時間である。
「じゃあなー!」
「また年内に集まろうぜ!」
「次はグループLINEで予定決めような!」
校門の前では、クラスメイトたちがそれぞれ帰り道へ向かっていく。
自転車で帰る奴もいれば、友達と一緒に歩いていく奴もいる。
俺も自転車に跨がり、ハンドルを握った。
さて、真っ直ぐ家に帰るのも悪くないが、まだ少し寄り道をする余裕はある。
今日の予定はこれで全部終わりというわけでもないし、せっかく外に出ているのだから、もう一箇所くらい立ち寄っていこう。
俺はペダルを踏み込み、ビビッドストリートへ向かって走り始めた。
冬の空気は冷たいが、自転車を漕いでいると少しずつ身体が温まってくる。
クリスマスだからといって、街のどこもかしこも同じように賑わっているわけではない。
人通りの多い場所もあれば、普段と大して変わらない場所もある。
それぞれがそれぞれの予定を過ごしているのだろう。
俺だって、午前中からクラスメイトと遊んでいたわけだし、これからはこれからで別の予定がある。
向かう先は、ライブカフェ&バー「WEEKEND GARAGE」。
白石杏の父親であり、今は解散しているものの、二年前に伝説の夜と呼ばれるイベント「RAD WEEKEND」を創り上げたメンバーの一人、白石謙さんが経営している店だ。
俺はそこへ向かって自転車を走らせていた。
特に約束をしていたわけではない。
ただ、近くまで来たついでに顔を出そうと思っただけだ。
やがて見慣れた通りに入り、目的の店が見えてきた。
俺は店の近くに自転車を停め、入口へと向かう。
扉を開けると、店内は落ち着いた雰囲気に包まれていた。
客の姿はない。
クリスマスという日取りを考えると意外に思えるかもしれないが、今は午後四時を過ぎたばかりだ。
昼食には遅く、夕食には早い。
クリスマスらしい予定を入れている人たちなら、ちょうど別の場所で過ごしている時間帯なのかもしれない。
「こんにちは〜」
店内に入るなり、俺は軽く挨拶をした。
「お、考調か、いらっしゃい」
カウンターの向こうにいた謙さんが、こちらへ視線を向ける。
いつも通りの落ち着いた声だった。
「今日はどうした?」
「ちょっと寄り道です。さっきまでクラスの連中と遊んでたんですよ」
「そうか。冬休みだもんな」
謙さんはそう答え、手元の作業を続けた。
俺はカウンター席に腰を下ろす。
「コーヒーお願いします」
「いつものか?」
「はい」
短いやり取りを交わし、俺は店内を見回した。
クリスマスだからといって、店に特別な飾り付けが増えているわけでもない。
もちろん、普段から音楽を楽しむための場所なのだから、それでいいのだろう。
「杏は?」
「奥にいるよ。呼んでくるか?」
「いや、急ぎじゃないんで」
そう答えたところで、奥から足音が聞こえてきた。
「ん?あれ、考調じゃん!」
顔を出したのは杏だった。
「おう、メリクリ」
「メリクリー!どうしたの?」
「寄り道」
「理由が雑!」
杏は笑いながらカウンターの近くまでやって来た。
俺にとっては、こうして気軽に顔を合わせて話せる相手の一人だ。
今日はクリスマスということもあって、普段とは少し違う話題も出てくるだろう。
「さっきまでクラスの連中とクリスマス会やってたんだよ」
「へえ、いいじゃん!何して遊んだの?」
「午前中はボウリングとカラオケ、昼からは学校に行ってクリスマス会の続き」
「学校でも遊んだの?」
「そう。担任にも参加してもらってな」
「先生も一緒だったんだ!」
杏は興味深そうに身を乗り出した。
「それで、学校では何をしたの?」
「増え鬼」
「増え鬼?」
「担任を最初の鬼にして、一時間以内に全員捕まえられたら、余ったクリスマスケーキは担任のものってルール」
「何それ!先生も本気でやるやつじゃん!」
「実際、本気だったぞ」
俺は笑いながら、担任の様子を思い出す。
「ケーキは俺の物だァ!!って叫んでたからな」
「先生、ケーキ好きすぎでしょ!」
「生徒からも散々言われてたよ。大人気ないとか、人の尊厳を失ってるとか」
「それは言われても仕方ないかも!」
杏は声を上げて笑った。
「でも、楽しそうだね!クラス全員でそんなことする機会って、なかなかないんじゃない?」
「まあな。普段は学校で顔を合わせてても、こうやって一日遊ぶのは別だし」
毎日会っているからこそ、わざわざ全員で集まる機会を作ることは案外少ない。
授業が終われば部活や用事で帰る奴もいるし、休日に全員の予定を合わせるのも簡単ではない。
だからこそ、こういう時間には意味があるのだろう。
「それで、ケーキはどうなったの?」
「俺が勝ち取った」
「えっ、考調が?」
「最後まで逃げ切ったのが俺とBとSの三人だったから、ババ抜きで決着をつけたんだよ」
「へえ、三人でババ抜き!」
「そこで俺が勝った」
「すごいじゃん!」
杏は素直に感心した様子を見せた。
俺は少しだけ胸を張る。
「まあ、日頃の行いが良かったんだろうな」
「本当かなぁ?」
「何だその反応」
「いや、考調なら何か別の理由がありそうだなって!」
「失礼な奴だな、お前」
「だって、考調だし!」
何が「だって」なのかは分からないが、杏は楽しそうに笑っている。
俺もそれ以上追及することはせず、謙さんから受け取ったコーヒーに口をつけた。
温かいコーヒーが喉を通り、ようやく一息ついた気分になる。
「そういえば、ボウリングはどうだったの?」
「盛り上がったぞ。ストライクを出したら全員で騒ぐし、ガーターを出した奴には容赦なく野次が飛ぶ」
「うわ、楽しそう!」
「一人、名誉ガーター王に任命されてたな」
「何それ!称号がひどい!」
「本人も抵抗してたけど、誰も聞いちゃいなかった」
杏はまた笑い出した。
午前中の出来事を話しているだけなのに、思い返すと妙に面白い。
あの時はその場の勢いで騒いでいたが、後から話すと別の面白さがあるものだ。
「カラオケの方は?」
「そっちはそっちで、君が代の採点勝負が始まってた」
「君が代!?」
「八十点以下は非国民とか言い出してな」
「いや、小学生みたいなことしてるじゃん!」
「俺もそう思った」
実際、言い出した奴も、それに乗っかった奴も、やっていることは小学生の頃と大差なかった。
ただ、それを中学三年生になっても全力で楽しめるのは、ある意味では悪くないことなのかもしれない。
「何だかんだ、みんな楽しんでたよ」
「いいね、そういうの!」
杏は頷いた。
その後も俺たちは、今日の出来事を中心に話を続けた。
クラスメイトの騒がしい様子や、昼食で起きたちょっとした事件、学校でのUNOが予想以上に白熱したことなど、話題は尽きなかった。
「UNOって、そんなに盛り上がるものなの?」
「なるんだよ。バスケもできるようにしてたのに、結局UNOの方が人気だったからな」
「バスケよりUNO?」
「俺たちも予想外だった」
「何か想像できないなぁ」
「やってみれば分かるさ。あれはあれで、妙な熱が入る」
「ふふっ、今度友達とやってみようかな」
「人数が多いと面白いと思うぞ」
何でもない話をしているうちに、時間はゆっくりと過ぎていった。
謙さんも時折会話に加わり、店の様子や今日の過ごし方について話してくれた。
「そっちは今日はどうだったんですか?」
俺が尋ねると、謙さんは手元を片付けながら答えた。
「特に変わったことはないな。今日はこの時間、客もいないし」
「やっぱりクリスマスだからですかね?」
「それもあるだろうな。夕方から夜にかけては、また違うかもしれないけど」
「なるほど」
店が暇だからといって、何か問題があるというわけではない。
今日はクリスマスだ。
家族と過ごす人もいれば、友人と出かける人もいるし、家でゆっくり過ごす人もいる。
音楽を楽しむために店へ来る人だって、毎日同じ時間に現れるわけではないのだ。
「杏はいつも通り?」
「うん、店の手伝いとかね。特別なことはしてないよ」
「そうか」
「考調は、この後どうするの?」
「家に帰って家族とクリスマス。夜はクラスの連中とオンラインゲームかな」
「予定いっぱいじゃん!」
「まあ、せっかくの冬休み初日だからな」
「いいなぁ。楽しそう!」
「杏は?」
「私はいつも通りだよ。家のこともあるしね」
杏はそう言って笑った。
それ以上、特別な話をすることもなく、俺たちは気楽な会話を続けた。
クリスマスだからといって、何か特別な話題を用意する必要はない。
その日にあったことを話して、相手の話を聞いて、時折笑う。
それだけでも、十分に楽しい時間になる。
午後六時。
ふと時計を見ると、思っていたよりも時間が経っていた。
「……そろそろ帰るか」
「もう帰るの?」
「もう六時だしな。家でもクリスマスをやるから」
「あ、そっか!家族とのクリスマスもあるんだね」
「そういうこと」
俺は席を立ち、飲み終えたカップをカウンターへ戻した。
「ごちそうさまでした」
「おう、気をつけて帰れよ」
謙さんの言葉に、俺は軽く頷く。
「またね、考調!」
「おう、またな杏」
二人に挨拶を済ませ、俺はWEEKEND GARAGEを後にした。
外へ出ると、冬の空気が肌に触れる。
日が落ちた街は、昼間よりも一段と冷え込んでいた。
俺は自転車の鍵を外し、ハンドルを握る。
今日という一日は、まだ終わっていない。
家に帰れば家族とのクリスマスが待っているし、夜にはクラスメイトとのオンラインゲームもある。
冬休み初日から、なかなか忙しいものだ。
まあ、嫌いではない。
俺はペダルを踏み込み、家へ向かって走り出した。
…………………………………………………………………
白石杏。
Q「3人残ったって言ってもケーキ二切れあったのに一人勝ちしたの?」
主人公。
A「二人で1つずつ分けるより1人で全部食べるほうが美味しい思い出来るじゃん」
(友人BとSも同じ事言って勝負に臨んだ)
…………………………………………………………………
冬の空気を切りながら自転車を漕ぎ、家に帰り着いたのは午後六時を少し過ぎた頃だった。
玄関の扉を開けると、家の中から食べ物の匂いが漂ってくる。
「ただいまー」
「おかえり、考調。今日は楽しかった?」
母さんの声が返ってきた。
「楽しかったぞ。午前中からずっとクラスの連中と遊んでたからな」
「それはよかったわね。もうすぐご飯だから、手を洗ってきなさい」
「はーい」
俺は返事をして、洗面所へ向かった。
冬休み初日のクリスマス。
午前中はボウリングとカラオケ、昼からは学校でクリスマス会と忘年会を兼ねた集まり、夕方には杏のいるWEEKEND GARAGEにも顔を出してきた。
振り返ってみれば、なかなか予定の詰まった一日である。
それでも、まだ今日の楽しみは残っている。
家族とのクリスマスだ。
手を洗って居間へ戻ると、テーブルには料理が並び始めていた。
フライドポテトに、ポテトサラダ。
それからピザに、その他いくつかの料理。
クリスマスらしい豪華な食卓ではあるのだが、毎年のことながら、我が家の食卓には妙な特徴がある。
とにかくジャガイモの割合が高い。
「……今年もジャガイモ多くない?」
「そう?」
母さんは不思議そうに首を傾げた。
「いや、ポテトサラダにフライドポテトだぞ。ピザもあるけど、ジャガイモの存在感が強いって」
「好きでしょう?」
「好きだけどさ」
好きか嫌いかで言えば、そりゃ好きだ。
フライドポテトは美味いし、ポテトサラダも美味い。
ただ、クリスマスの食卓におけるジャガイモの勢力が、毎年かなり強いのである。
「別にいいじゃないか。美味ければ」
父さんがそう言いながら、料理をテーブルへ運んできた。
「それはそう」
俺も即答した。
結局のところ、食べて美味しいなら文句を言う理由もない。
毎年似たようなことを言いながら、俺は結局しっかり食べるのだから、説得力も何もあったものではないだろう。
やがて料理が揃い、家族全員が席に着いた。
「それじゃあ、メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
挨拶を交わし、食事を始める。
フライドポテトを摘まみ、ピザを食べ、ポテトサラダも口に運ぶ。
やっぱり美味い。
ジャガイモの比率については、来年も同じことを言う気がするが、それはそれとして今日の食卓には満足していた。
家族と他愛もない話をしながら食事を進め、最後にはクリスマスケーキが登場した。
濃厚なチョコレートケーキだ。
甘さの中にチョコレートの味がしっかりと感じられる、なかなか贅沢な一品である。
「おお、今年のケーキも美味そうだな」
「でしょう?ちょっと奮発したのよ」
母さんが嬉しそうに言った。
「ありがたくいただきます」
俺はケーキを口に運び、しっかりと味わった。
美味い。
友人たちと分け合うケーキもいいが、こうして家族と食べるケーキもまた違った良さがある。
そんなことを考えながら食べていると、父さんがこちらを見た。
「そういえば、考調。クリスマスプレゼントがあるぞ」
「おっ、マジで?」
「ほら」
差し出された箱を受け取り、俺は早速開けてみた。
中に入っていたのは、高品質な録音用マイクとヘッドセットだった。
「……おお!」
思わず声が出た。
どちらも安物ではない。
録音環境を整えるための機材としては、かなり質のいいものだ。
「これ、結構高かったんじゃないか?」
「まあな。でも、お前が歌を録音する時に使うんだろう?」
父さんはそう言って、母さんと顔を見合わせた。
「だったら、ちゃんと使えるものの方がいいと思ってな」
「ありがとう!」
俺は素直に礼を言った。
これは嬉しい。
今まで使っていた機材でも録音はできるが、これなら歌ってみた動画の音質をさらに良くできる。
録音環境が改善されれば、今まで以上に自分の歌を聴いてもらえるかもしれない。
もちろん、機材を変えたからといって、それだけで歌が上手くなるわけではない。
歌うのは俺自身だし、録音したものをどう仕上げるかも自分次第だ。
それでも、良い機材を使えるというのは大きい。
自分のやりたいことを応援してもらえるのは、やっぱり嬉しいものだ。
「大切に使うよ。これなら、今までより良い音で録音できそうだ」
「そうか。それならよかった」
父さんは満足そうに頷いた。
「これからも楽しみにしてるわね」
母さんも笑顔で言った。
「おう!」
俺はもう一度、二人に礼を言った。
毎年のことではあるが、こうしてプレゼントをもらえるのはありがたい。
我が家では、クリスマスプレゼントをサンタクロースからではなく、両親から直接渡すようになっている。
小学生の頃から、ずっとそうだった。
もちろん、最初からそう決まっていたわけではない。
俺がまだ小さかった頃、両親はサンタクロースからのプレゼントという形で渡そうとしていたらしい。
ところが、プレゼントを受け取った俺は、毎回のように両親へお礼を言っていたそうだ。
サンタクロースからもらったのだと説明されても、結局は両親に向かって感謝していた。
それを見た二人は、俺が誰からプレゼントをもらったのか分かっているのだと気づいたらしい。
それでも、クリスマスにプレゼントを贈るという習慣そのものは続けたかった。
その結果、いつの間にか両親から直接プレゼントを渡す形に落ち着いたのである。
今となっては、我が家ではすっかり当たり前のことになっていた。
そして俺も、毎年こうして感謝を伝えている。
「本当にありがとうな、二人とも」
「どういたしまして」
母さんが柔らかく笑った。
父さんも、特に気取った様子もなく頷いている。
こういう何気ないやり取りが、俺にとっては結構好きな時間だった。
前世の記憶があるからといって、今の家族との時間を当たり前だと思うつもりはない。
むしろ、こうして自分を気にかけてくれる人たちがいることは、ありがたいと思っている。
だからこそ、感謝はきちんと言葉にして伝えておきたい。
そんなことを考えながら、俺は新しいマイクとヘッドセットを箱へ戻した。
食事も終わり、クリスマスケーキも食べ終えた頃には、時計の針もそれなりに進んでいた。
「さて、と」
俺は自室へ戻り、さっそく新しい機材を確認する。
説明書を一通り眺め、付属品を確認して、録音に使う時のことを考える。
今日はもう遅いので、本格的な録音はまた今度にしよう。
せっかくのクリスマスプレゼントなのだから、慌てて使い始めるより、きちんと準備してから使いたい。
それに、今夜は別の予定もある。
俺はスマートフォンを手に取り、クラスのグループLINEを開いた。
案の定、メッセージがいくつも届いている。
昼間にあれだけ遊んだというのに、まだ元気が有り余っている奴らがいるらしい。
『誰か今からゲームやる奴いる?』
『やる』
『俺も』
『今日のUNOで負けた奴、オンラインでも負ける説』
『関係ねえだろ!?』
『いや、あいつ今日ババ抜きでも負けてたし』
『それは別の奴だろ!』
画面の向こうでも、いつも通りの騒がしさだった。
俺は笑いながら返信する。
『俺もやるわ』
すぐに反応が返ってきた。
『考調も来たぞ!』
『今日はクリスマスだからな、全員集合だ!』
『クリスマス関係ある?』
『あるだろ!』
『何が?』
『気分!』
『雑すぎるだろ』
そんなやり取りをしながら、俺はオンラインゲームを起動した。
結局、何人かのクラスメイトが集まり、いつものようにゲームを始める。
昼間の出来事を振り返ったり、ゲームの展開に一喜一憂したり、どうでもいい話で笑ったり。
学校で一緒に遊ぶのも楽しいが、こうして家にいながら気軽に遊べるのも便利なものだ。
気づけば、あっという間に時間が過ぎていた。
「……もうこんな時間か」
時計を見ると、午後十一時になっていた。
明日も冬休みとはいえ、夜更かしを続ける理由もない。
俺はゲームを終え、クラスの連中に挨拶をしてからスマートフォンを置いた。
『じゃあ、俺はそろそろ寝るわ』
『おやすみー』
『また明日な』
『メリークリスマス!』
『もうすぐ終わるけどな!』
最後まで騒がしい連中である。
俺は軽く笑い、寝る準備を済ませた。
ベッドに横になり、今日一日を思い返す。
午前中はクラスメイトたちとボウリングやカラオケで騒いだ。
昼食を食べ、学校で増え鬼をして、ケーキを賭けたババ抜きにも勝った。
夕方には杏と謙さんのいるWEEKEND GARAGEへ寄り、夜は家族とクリスマスを楽しんだ。
そして最後は、クラスメイトたちとオンラインゲーム。
冬休み初日から、随分と充実した一日になったものだ。
特別な事件が起きたわけではない。
世界を救ったわけでもなければ、誰かと命懸けの戦いをしたわけでもない。
ただ友人たちと遊び、家族と食事をし、知り合いの店へ顔を出しただけ。
けれど、こういう一日も悪くない。
いや、むしろ俺はこういう一日が好きなのだと思う。
何でもない時間を楽しめること。
誰かと笑い合えること。
自分の好きなことを続けられて、それを応援してくれる人がいること。
そういうものを大切にしていきたい。
「……明日も楽しむか」
小さく呟き、目を閉じる。
明日からも冬休みは続く。
まだまだ遊べる時間はあるし、やりたいことも残っている。
新しい録音機材も手に入ったことだし、歌ってみた動画の準備も進めたい。
もちろん、ゲームもしたいし、外にも出たい。
考えるだけで、これからの日々が楽しみになってくる。
俺はそんなことを考えながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
冬休み初日のクリスマスは、こうして終わった。
そして明日もまた、俺の日常は続いていく。
これからもう少しで高校生になる、プロセカ本編に入るであろうこの先の展開でどのくらい主人公とプロセカキャラ達を絡ませる?一応今までの接点よりは深く関わらせる予定。締め切りは高校入学時。
-
滅茶苦茶いっぱい絡ませる(作者が大変)
-
凄くいっぱい絡ませる(まぁ行ける)
-
普通に絡ませる(今と少し変わる位)