ベロニカ・ウィーズリーと運命の稲妻   作:皮装備の忍者

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 偉大なる先駆者様はいらっしゃいますが、こんなんなんぼあってもいいですからね。


ハリー・ポッターと賢者の石
第一章 友だちと勘違い


 今日から魔法使いとなるべくホグワーツなる学校に通うはずの僕──ハリー・ポッターは、常識の通用しない魔法界の洗礼を受け、キングズ・クロス駅で立ち往生する羽目になっていた。

 原因は9と3/4番線なる意味不明なプラットホームだ。どんなに9番線と10番線を往復しようが見つからないし、駅員に聞いても要領を得ない。

 

 絶望していると、ちらりと視界の端で妙な一家を見つけた。全員が赤毛で、強い血の繋がりを感じさせる。そしてなによりも、荷物が変だった。妙に多いし、なにより梟がいる。

 すれ違った時、赤毛の少年がこちらを振り返ってくる。顔はそばかすだらけで背は僕より少し高いくらいだった。明らかにサイズの合ってない上着を着ていて、体がすっぽりと収まっている。

 目が合うと、少年は口を開いた。

 

「ねぇ、君も新入生?」

 

 声変わりしていないためか、同年代としては高い声だと思った。

 僕が咄嗟に声が出せずにあわあわしていると、少年の方も所在なさげになってしまう。

 

「どうしたの?ロン」

 

 少年の後ろから大柄なおばさんが声をかけてくる。多分というか絶対、彼の母親だろう。

 ロンと呼ばれた少年は僕のことを指さす。

 

「何か、この子が迷ってそうだったから」

 

 この子と来た。さっき"君も"と言っていたため同い年のはずだけど、ちょっと未熟扱いをされているようで気になる。

 

「あら坊や、9と3/4番線への行き方が分からないのかしら?なら教えてあげるわ。偉いわね、ロニー」

 

 母親に頭を撫でられると、ロンは顔を綻ばせた。

 その様は僕なんかよりもよほど愛らしく、どっちが幼いんだか、なんて思ったがそんなことを考えている僕が惨めになってきて、すぐに考えるのをやめる。

 僕が黙っていると、おばさんが目線を合わせて優しく語りかけてきた。

 

「行き方は簡単、9番線と10番線の間の柵に入ればいいだけよ。フレッド、お手本を見せてあげなさい」

 

「俺はジョージだよ。双子の見分けも付かないの?ママ」

 

「あらごめんなさい、ジョージ」

 

「嘘、合ってるよ。へい少年、華麗に決めるから目を逸らすなよ。ミスったら向こうの汽車に轢かれるからな!」

 

 フレッドと呼ばれた赤毛の上級生?が柵に向かって突っ込んだかと思うと、次の瞬間には姿が消えていた。

 

「もう、あの子ったら不安を煽るようなこと言って。安心して、汽車に轢かれるようなことは無いわ」

 

「そうだぜ、ただここのレンガと混ざり合っちまって一部になるってだけなのにな」

 

「ジョージ!」

 

「お〜怖い!」

 

 ジョージと呼ばれたフレッドとそっくりな上級生も同じようにして消えていく。

 

 次はロンの前に僕が譲られ、覚悟して突っ込む。すると、柵にぶつかるような感触もなく、ただ景色が変わった。

 ホームの上には『ホグワーツ行特急11時発』と書かれている。

 

 僕は途方もない安心感の中で機関車に向けて足を進める。

 おしゃべりをする人の中に紛れてそこら中から聞こえる梟の鳴き声がうるさい。そんなホームを歩きながら車両の様子を伺うが、もう後ろの方しか空いてなさそうだった。

 

 最後尾近くでやっとこさ空いているコンパートメントを見つけると、荷物を運びこもうとするが、分けて運んだも一個一個が重すぎる。息を切らして四苦八苦していると、後ろから声がした。

 

「手伝おうか?」

 

 いつの間にか後ろにいた、さっきの赤毛の双子の片方だ。

 

「ハァ……ハァ……ありがとう、お願い」

 

「あいよ。フレッド!こっち来てくれ!」

 

 双子が片割れを呼び、二人でヒョイとトランクを持ち上げて運んでくれる。

 任せきりというわけにもいかないので僕も一緒に客室の隅に荷物を押し込むと、何とか入りきった。汗を袖で拭う。

 髪をかき上げると、双子が目を丸くした。

 

「君さ、その傷……」

 

「いや、驚いた。イカしてるけど、君、ファンって訳じゃないよね?」

 

「……何の話?」

 

 僕は薄々察しながらも、要領を得ない二人に聞く。

 

「ハリー・ポッターのことさ」

 

 声を合わせて二人が言った。僕はぶっきらぼうに答える。

 

「あぁ、うん、そうだよ。僕はハリー・ポッターだ」

 

 ポカンと双子が口を開けた後、目を見合わせる。

 

「わお、マジかよ!運がいいっていうか、善行ってのはやっぱり進んでやるもんだな」

 

「ああ、あのハリー・ポッターのお荷物をお運びさせていただいたんだ。ウィーズリー家最大の栄誉だぜ」

 

 双子がそんなことを言い合っていると、外から二人を呼ぶ声がした。

 二人は汽車から飛び降り、プラットホームの一車両分ほど離れた場所に向かう。家族で集まっているらしい。

 ここからでは話している内容は分からないが、少年が妙に可愛がられているというか揶揄われていることは何となく伝わってきた。その少年も、泣き出しそうな妹と思しき女の子のことをあやしている。

 

 僕は窓から目を離して一人になったコンパートメントで、ボーッとする。どこのコンパートメントもいっぱいだったのに、誰も入ってくる雰囲気は無い。もしかして、避けられているんだろうか。

 もしや、このままだと魔法界でも、僕はずっと一人ぼっちなんじゃないか。無理をしてでも人のいるコンパートメントに入るべきだったんじゃないか。

 

 そんな不安に襲われていると、コンパートメントの戸が開き、ぼさぼさの赤毛の少年が入ってくる。

 プラットホームで話した家族の中で最初にこちらに話しかけた、汽車に乗った中では一番年下の子だった。

 

「ねぇ、ここ空いてる?どこも埋まっててさ」

 

 こくりと頷くと、いそいそと荷物を運んで僕の前に座る。

 駅ではどこか焦燥感があったためふんわりとしか捉えていなかったが、改めて正面から見ると何というか垢抜けない印象で、どことなく親近感を感じる。人が入ってきて、僕は無性に安心した。

 

「おい、ロン。俺たちはリー・ジョーダンのところ行ってくるぜ。お前はどうする?」

 

 双子が戻ってきて、ロンというらしい少年に声を掛ける。

 

「ここでいい」

 

 ロンはどことなく僕のことを横目でちらちら見ながらボソボソと双子に言う。

 

「ああハリー、自己紹介がまだだったな。俺たちはフレッドとジョージ・ウィーズリー。こっちのちっちゃいのはロン。仲良くしてくれよ、『生き残った男の子』。またな!」

 

 嵐のように騒がしい双子は去っていった。

 少しだけ静かになった車内で見つめ合う時間が続いたが、ロンが僕の額あたりに目を凝らしているであろうことは明白だった。

 意を決したように僕は口を開いた。

 

「さっきはありがとうね。汽車に乗れたのは君のおかげだよ」

 

「いや、別に……結局ぼくは説明したわけじゃないし……ああ、そうだ。さっきフレッドが言ってたけど、ぼくはロン・ウィーズリー。兄がうるさくしてごめんね」

 

「うるさくしたなんてとんでもないよ。荷物を入れてもらって感謝しても仕切れない。僕だけじゃとても運びきれなかった。頼れる人もいないしね……ごめん、名乗るのが遅れたけど、僕の名前は──」

 

「待った!」

 

 ロンは手を僕の前にかざして自己紹介を遮った。

 それから目を何度か宙空に彷徨わせた後、顔を覗き込むように下から見てきた。何を期待しているのか少しニヤついている。

 

「二人が言ってたけど……君、本当に"あの"ハリー・ポッターなの?」

 

 僕はさっきの双子もそうだし、ダイアゴン横丁で何度も聞かれたせいでどこか辟易としながらも頷く。

 本当にと聞いてこそいるが、みんな偽物ですよと返ってくるとは思っていないんだろうな、なんて益体の無いことを思う。

 

「じゃああの傷も……?」

 

「うん、多分"あの傷"もあるよ。見る?」

 

「見る!」

 

 僕が髪をかき上げると、ロンが稲妻型の傷を見て感嘆の声を漏らす。

 何だか気恥ずかしくなってくる。

 

「他に"あの"は無いよね?後から言われるのも面倒だし今言ってよ」

 

「えー!?そうだなぁ……じゃあさ、"あの"『例のあの人を倒した時』ってどんな感じだったの?」

 

「赤ん坊の時だから覚えてないよ……いや、なんか緑の光がいっぱいだったことを薄ら覚えてるだけ」

 

「へ〜、すっごい!」

 

 何が面白いのかロンは楽しそうに笑う。

 

 その後も色々と僕のこれまでについて話している中、車内販売が来た。僕は初めて見る魔法界の食べ物がどれもこれも欲しくなって、全部少しずつ買った。

 それぞれ自体は大した量では無いのに、思ったより多くなってしまったから、分けたいと言ったら、母親に撫でられた時のようにロンが顔を綻ばせる。

 

 一人じゃ到底消費しきれないたくさん買ったパイやお菓子を分け合いながら、僕が半分受け取ったロンのサンドイッチを発端にして、ロンの家族の話を聞いた。

 ロンは本来だったら自分が末っ子になるはずだったのに、両親が年子でもう一人作っちゃったせいで妹が特別扱いされていることがとても不満のようだった。

 新品を何個も買う余裕が無いから妹のジニーにばかり回されて、自分はお下がりばかりだと言う。ローブや杖はもちろん、ペットすらお下がりなのだと言って眠りこけた大きなネズミを見せてきた。

 

「ほんとぼくが末っ子だったらよかったのに。目的自体は果たしてるわけだしさぁ。ジニーはいっつもぼくの後をついてくるし……まあ、ぼくがジニーに色々譲っちゃってるところもあるんだけどね。……あっ、ごめんね、ぼくばっかり喋っちゃって。しかもこんな貧乏話……」

 

「いや、全部が新鮮で面白いし……それに、貧乏なら僕だって同じだよ!」

 

 恥ずかしそうに俯くロンに向かって、僕も自分の身の上話をすることにする。

 嫌味で邪険にしてくるおじさんやおばさん、虐めてくるいとこ。

 ロンの兄への文句はダドリーに通じるところがあって盛り上がったが、それでもその中に僕よりもずっと大切にされているということが見え隠れしていることは、僕には辛かった。

 それでも、お互い恵まれてないことが分かって、何となく愉快になる。

 

「ぼく、お小遣いも全然無いし家族以外と遊ぶことなんてまるで無かったんだ。クィディッチもろくな箒が無いから見るだけ。フレッドとジョージは愉快だけどさ、ホグワーツに通うようになってから何かぼくのこと子ども扱いしてあしらってくるし。ハリーみたいな友だちができて嬉しいよ」

 

「えっ……」

 

 友だち?……友だち!なんて素敵な響きだ。

 僕は感動で動けなくなって、何だかロンの顔が輝いて見える気がしてきた。鼻の頭についてる汚れもサマになっている。いや流石にそれは無いな。

 

「あっ、ごめん……馴れ馴れしかったかな」

 

 僕が黙っていると、ロンがしょんぼりして謝ってくる。

 それで僕はハッと意識を取り戻して、慌てて

 

「違う!違うよ!こっちこそごめん、うん、友だちだ。僕もホグワーツに着く前にロンに会えてよかった。何てたって人生で初めて友だちができたんだから。もう今日は僕の人生で2番目にいい日だよ!」

 

 その後は、ペットのヒキガエルを探しているという少年や、少し時間を置いて捜索を手伝っているという妙に早口で賢そうな女の子が訪れたが、このコンパートメントにいるはずもなく、挨拶をしたら去っていく。ハーマイオニーの話し方が少し鼻についたしロンはグチグチ言ってたけど、どうせ学校生活で関わることはあんまり無いようなタイプだろう。そんなに気にするようなことはない。

 

 また2人だけになったが、話題は当然魔法界の話になる。ロンの好きなスポーツらしいクィディッチ?なる競技のルールやらチームやら選手やらを楽しそうに話しているのを聞き流している中、コンパートメントのドアがノックされた。返事も待たずにドアが開くと、1人の女の子と2人の男の子がズカズカと入ってくる。

 

「ここにハリー・ポッターがいると聞いたけど……あなたがそうだったのね。言ってくれればよかったのに」

 

「ごめんね、聞かれなかったから」

 

 僕のことを興味深そうに見ながらそう話す女の子には見覚えがあった。マダム・マルキン洋装店で制服を買った時に同時に採寸していて話しかけてきた女子。

 無遠慮に話しかけてきた上、ハグリッドのことを酷く言ったのを覚えている。

 

「私はドラセナ・マルフォイ。彼がクラッブで、こっちがゴイル。今後とも宜しく、ハリー・ポッター」

 

 マルフォイが引き連れている二人はガッチリしていて、意地悪そうな顔を浮かべている。ダドリーを思い出してどうにも嫌な感じがする。

 そして、そんな二人に守られているマルフォイもどこか見覚えのあるポジションで、鼻にかけたような態度が一々癇に障る。逆に安心するくらいダイアゴン横丁で会った時の第一印象とまるで変わらない。

 

 ロンがその名乗りを聞いて吹き出すような素振りをしたが、3人に睨まれた途端咳払いをして誤魔化す。

 マルフォイはそれを見逃すほどお優しくはないようだった。そこで初めてマルフォイはロンに目をやる。

 

「私の名前が何かおかしいのかしら?赤毛でみすぼらしい、ウィーズリー」

 

「……名前が変なんじゃなくて、家名を誇るような言い方がおもしろくってね。元死喰い人のマルフォイさん」

 

 ロンは少しだけ躊躇ったようだけれど、売り言葉に買い言葉といった風で、嫌味を投げた……と思う。死喰い人というのがどういう意味なのかは分からない。

 

「パパは無罪よ、発言には気を付けることね。それにしても……」

 

 マルフォイは一瞬僕の方を見ると、お返しのように鼻で笑った。

 

「卑しいウィーズリーは没落しすぎて、さっそく子どもに英雄を籠絡するように教育しているのかしら?うちと違って生き延びるのにも大変そうね、同情するわ」

 

 難しい言葉も多くて言っている意味を全部理解することはできなかったが、それでもロンのことをひどくコケにしているということは察することができた。

 マルフォイが言い終えるのも待たずにロンは立ち上がっていきり立つ。

 

「ぼくの家族を馬鹿にするな!」

 

「ああごめんなさい。違うなら、ただの本能だったのね。あなたの家は家計も把握せず子どもを無計画にたくさん作るくらい野生味が強いらしいから」

 

 ロンの顔が髪と同じくらい赤く染まったかと思うと、マルフォイに詰め寄る。

 しかし、掴みかかる前にクラッブとゴイルが間に立ちはだかった。

 

「あら、やる気?栄養失調でひょろいけれど、押しても死なないでよ?」

 

「くぅっ……!」

 

 ロンが少し怯えるように後ずさった。少し意外だ。

 3人がせせら笑う。明らかにロンを見下している。

 

 それがどうにもイラついて、僕も立ち上がってロンと三人の間に入ってマルフォイを睨みつけた。

 ロンが少し不安そうにも安心したようにも見える表情で僕を見る。

 

「あ……ハリー」

 

「ハリー・ポッター。あなたが動物園じゃなく学校に行く気なら、付き合う相手は考えた方がいいわ。人間の程度というのは移るものだから」

 

「そりゃどうも。ゴリラ二頭の飼育員の君が言うなら間違いない」

 

 僕は勇気を振り絞って嫌味を返す。

 ダドリーとの喧嘩がフラッシュバックして逃げ出したくなるが、初めてできた友だちを置いていくことはもっと怖かった。

 

「……あなたはもっと賢いと思ってたけど。人に対する態度はよく考えなさい。あなたの親と同じ末路を辿りたくないんだったらね」

 

 頭が白くなる。

 反射的にマルフォイに向かって突き出した手がクラッブに掴まれる。

 

「もっぺん言ってみろ!今から僕の親に会わせて謝らせてやるぞ!」

 

「そっちも言うじゃない……!立場ってものを分からせてやる必要があるみたいね!」

 

 マルフォイの言葉に呼応するようにゴイルが拳を振りかぶった瞬間、悲鳴を上げてのけぞった。

 痛みを覚悟していた僕は、予想外の事態に「へ?」という素っ頓狂な声を口から漏らす。

 全員の視線が集まったゴイルの手には、スキャバーズがくっついていた。歯形が付くくらいにガッツリと食いついている。アレは痛いだろうな、と敵ながら思ってしまった。

 

 みんなが距離を置く中ゴイルが暴れ、やっとのことでスキャバーズを振り切って窓に叩きつけると、場が一瞬弛緩した気がした。

 マルフォイはキッと僕を睨みつけてきたが、二人を連れて足早にその場から立ち去る。

 ネズミに噛まれるかもしれないのがよほど嫌だったらしい。

 

 ロンはマルフォイ達が去るとスキャバーズを拾い上げた。

 

「マルフォイは君のことを知ってるふうだったけど、会ったことあるの?」

 

「うん……まぁ、そこでも嫌な奴だったよ。より悪い方に更新されたけど」

 

「ほんとだよ。ぼくは直接会うのは初めてだったけど、パパに聞いた通りだった。パパはちょっと濁してたけど、闇の魔法使いの一味だよ、絶対にね」

 

 そのタイミングでハーマイオニー・グレンジャー──マグル出身の賢そうな女の子がまた姿を現した。

 運転手に聞いたところもうすぐ着くからそれを伝えに来たらしい。頼んでもないのに律儀なものだ。ちょっとした騒ぎを起こしたことへのお小言とロンの鼻についた泥汚れにも触れていた。余計な一言を言って嫌われるタイプだな、と思う。ロンは小言よりも汚れの方を気にして恥ずかしそうなのは、意外だった。

 車内に響き渡った声からしても、もうまもなくだ。ローブに着替えなきゃいけない。

 

「ちょっと……ハリー、後ろを向いててもらっていい?」

 

 ロンにそう言われて、僕は理由も聞かず後ろを向いて着替える。

 上着を脱いでローブを着るだけなのに変なところを気にするものだと思う。それとも僕の距離感がおかしいんだろうか。友だちというものが初体験なので、ちょっとしたことで失敗したくない。ロンに嫌われるのは、それこそマルフォイに好かれるくらい嫌なことだった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 汽車が停止し、そんなに経っていないのに懐かしく感じるハグリッドの案内に従ってホグワーツに近づいていく。

 ワクワクする気持ちがだんだんと大きくなり、ホグワーツが見えた時には周りと一緒に歓声を上げた。

 ……ホグワーツが近づくにつれて、一緒にいるロンの顔がゆっくりと曇っていくのだけが気掛かりだった。

 

 そして、その理由はすぐに判明する。歓迎式の前に寮の組み分けを行う、という説明があった。その内容について先生は何も言ってくれない。僕たち新入生全体にざわめきが広がる。

 

「試験があるんだって……それで合格しなければどの寮にも入れず帰らされるとか……」

 

 ロンが、僕の袖を掴んできた。不安が伝播するようでもロンの存在を感じられるようでもあって、僕は何も言えなかった。

 

 そんな僕らの様子なんて気にも留めず、マクゴナガル先生が薄汚れた帽子をスツールの上に置いた。

 すると、帽子の破れ目が一人でに動き出し、信じ難いことに歌を歌い出した。歌の内容は簡単に言えば、帽子をかぶれば帽子が寮分けをしてくれるということと、それぞれの寮特徴らしいものの説明だった。

 

 歌が終わると、後ろにいたロンが囁いてくる。いつの間にか袖から手を離している。でもローブには少しだけシワが付いていた。

 

「ただ帽子を被るだけ!試験でも何でも無いじゃん!フレッドの嘘つき!」

 

 僕も同じように少し安心したが、そもそも碌に魔法なんてみんな使えなさそうで試験は無いと薄々勘づいていたから、そんなに驚きはない。むしろロンのせいで不安になっていたくらいだ。

 多分、ロンは実家で色々吹き込まれた分緊張していたのだろう。こういうところは魔法使いが親じゃない人間の得なのかもしれない。

 

「アボット、ハンナ!」

 

 マクゴナガル先生が名前を呼んだ生徒が前に出ると、帽子を被せられる。

 

「ハッフルパフ!」

 

 一瞬の沈黙の後、帽子が叫んだ。おそらくハッフルパフのテーブルであろうところから歓声が上がり、ハンナはそちらに向かう。

 その後も、名前がABC順で呼ばれた生徒が組み分けされ、その度に拍手や歓声が上がる。ハーマイオニーがグリフィンドールに選ばれた時、ロンは苦しそうな声で唸っていた。

 みんなそう時間はかかっていないけど、それぞれでちょっとずつ寮を言うまでの間には差がある。どうやって帽子は組み分けをしているんだろう?

 

「ポッター、ハリー!」

 

 ついに僕の名前が呼ばれる。

 帽子をかぶる直前、パチリとロンと目が合った。

 ロンは不安げに僕のことを見ている。何を思っているんだろうか。やっぱり自分の番のことかな。

 その表情が妙に脳に焼き付いた。

 

 帽子を被った途端、耳元から声が聞こえた。

 

「ふぅむ、これは難しい……勇気に満ちており、頭も悪くなく、才能も、野心もある……どの寮の適性もある……実に面白い」

 

 僕は心臓が早鐘を打つ中、「グリフィンドールがいい」と、そう強くそう思った。

 

「ほう、なぜだ?」

 

 声が語りかけてくる。僕は、帽子が喋り出した時よりも耳元で声がした時よりもよほど驚いた。ここまで組み分けされた生徒は誰も一言も発していない。だから組み分けは帽子は勝手に決めるもので、要望が通るようなものじゃないと思っていた。

 

 僕はホグワーツのことなんて欠片も知らない。帽子が歌った寮の特徴もピンとこない。理由なんて、そんなのは一つに決まってる。

 

「ロンと一緒がいいから」

 

「ふむ……確かに、友人や家族と同じ寮がいいという生徒は毎年ままいるものだ。その希望を聞くこともあるし、聞かないこともあるが……君のそれはおかしいな。ロンという新入生はまだ組み分けを済ませていないぞ」

 

「ロンはグリフィンドールになる。だって、僕なんかが勇敢なんでしょ?」

 

 僕は困ってる見知らぬ人に助け舟を出したことなんてない。

 ロンがグリフィンドールになれない訳がなかった。

 

「そうか……いいだろう。グリフィンドール!」

 

 僕を迎える拍手に包まれながら、僕は安堵に包まれていた。

 割れるような拍手も耳に入らず、真っ先にロンを見る。ロンは笑いながらも泣きそうな顔をしていて、僕は慰めに近寄れないことがもどかしくなった。

 

 グリフィンドールのテーブルに着くと、来賓席が見える。ハグリッドがサムズアップしてくれたので、僕も同じ仕草で応える。

 僕と同じく"あの"という枕詞が付くアルバス・ダンブルドアや一度会ったクィレル先生も目に入った。他の先生もみんな特徴的で、元いたマグルの学校の先生たちとはまるで印象が違う。

 

 僕が気を取られている間にも、名前を呼ばれるのを待つ新入生はどんどんと減っていく。

 もう残り3人になっても呼ばれていなかった。

 順番としては緊張してよくない位置だ。ロンの内心を思うと自分まで肝が冷えてくる。我が事のように机の下で手を組んで祈っていた。もしも、もしも別の寮になったらどうしよう。帽子に言って僕の方を変えてもらうのは流石に無理だよなぁ。

 

「ウィーズリー、ベロニカ!」

 

 マクゴナガル先生の呼びかけがする。ロンが帽子に向かって歩き、そばのウィーズリー家の面々がにわかに浮足立つのを感じながら、僕はそれよりも衝撃的なことで頭がいっぱいになった。

 

 帽子はすぐに「グリフィンドール!」と叫ぶ。それはとても嬉しい。嬉しいけど……もっと大切な……いや、そんな訳は無い。大切な訳ないんだけど、どこかそうなるだろうなと思っていた組み分けよりも、ずっと驚いたことに意識を持っていかれたままだった。

 

 ロンは僕の隣に崩れ落ちるように座る。偉い偉いと言いながらパーシーにわしゃわしゃと頭を撫でられるのを鬱陶しそうに払っていた。

 それから校長先生のありがたくも本当に短い言葉があったようだが、僕の耳には入らない。ロンから目が離せなかった。

 よりどりみどりの豪華な料理が現れて初めて僕は少し意識を取り戻した。

 

「グリフィンドールでよかった……本当に心臓が止まるかと思ったよ。ハリーもこれいる?」

 

 目の前のローストビーフをフォークで取りながら、僕に向かってロンが言ってくる。

 着替えた後もローブでスニーカー以外すっぽり覆われていて気付きにくかったが、確かに座っている今よく見たらズボンではなくスカートを履いている。

 

「……どうしたの?さっきからぼくのことをそんなにジロジロ見て。マグル育ちからしたら珍しいものでも付いてる?にしてもちょっと恥ずかしいって言うか……」

 

 僕は照れたように少し顔を赤らめたロンに向かって、本題を切り出すことにした。

 "ベロニカ"は女性名だ。だけど、僕は魔法界について何も知らない。別の意味があるのかもしれないし、そういう風習があるのかもしれない。

 

「ロン、きみ女子だったの?」

 

 僕の放った言葉を聞いたロンは、口を半開きにして何とも言えない表情で固まる。堰を切ったような喧騒に包まれる食堂で、僕たちの間にだけ数秒間沈黙が訪れた。

 

「な……え……わ、悪かったね!男みたいで可愛げが無くてさぁ!」

 

 ロンは叫ぶと、僕から首ごと顔を逸らすと、そこにあったかぼちゃジュースの瓶を持って頬いっぱいになるように呷った。

 何かを口に入れないと耐えられないというような様で、勢い任せにやったせいで苦しそうに飲み込んでいる。

 

「ハリー、それは無いよ」

 

 聞き耳を立てていたフレッドとジョージが爆発するように笑い声をあげる横から、パーシーがボヤいた。




Q.なんでロンとハリーが主題なのにマルフォイも女体化してるの?
A.この概念の発端であることへの敬意を表しているため。あとツンデレ高飛車お嬢様チョロヒロインじゃないドラコのTSをちゃんと形にしたかった。
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