気づいたら月の住人になっていた件   作:新月

2 / 4
日記:月②

 

 

 

 

 

 ℃月♩日

 

 初めての友達ゲットだぜ!

 

 屋敷に侵入した俺は、苦労の末お姫様のもとに辿り着いた。

 

 色々イカしたセリフを用意していたが、とにかく一番大事なことを伝えなきゃと思い、会って早々すべて伝えた。

 今振り返れば、なんて無茶苦茶な計画だったのだろうかと思う。彼女が了承してくれたから良いものの、次からはこんな無茶はしないようにしよう。

 

 

 

 

 

 ×月°日

 

 今日も秘密の経路からお姫様のもとへ向かった。

 

 この世界に来て初めての友達。どんなことをして遊ぼうか、そう胸を躍らせながら向かったのだが。

 なんと、彼女は仕事をしていた。そして俺が来てからも筆を止めることはなかった。

 な、なんて社畜魂……お姫様は悠々自適な生活を送っているものとばかり思っていたが、その実誰よりもワーカーホリックだった。

 

 今日は彼女の仕事のお手伝いをして終わった。

 いつもより早く終われたことに驚いている様子だった。

 

 

 

 

 

 ♀月〒日

 

 閃いた。先に仕事を終わらせてしまえば、彼女と思う存分遊ぶことができるのではないかと。

 

 ということで、仕事を一緒にやり、パパッと終わらせて、ほんの僅かな時間を彼女と遊ぶ時間に費やそうとした。

 しかし、いざ何から始めればいいか分からなかった。彼女も“遊ぶ”とは、そもそも“友達”という存在の意味すらも曖昧な感じだったし。

 

 どーしましょ、と悩んでいたら、またしても彼女が地球を眺めているのに気がついた。

 だから、ちょっとした地球の小話をしてあげれば、とても驚いた様子で、めちゃくちゃ質問責めされた。

 よほどあの星に興味があるようだ。確かに綺麗だもんね、地球。

 

 今日はひたすら話すことに費やした。外野から見ればとても友達同士の交流とは思えないものだろう。

 だけど、昨日よりかは全然楽しかった。久しぶりに心の底から楽しいと感じた。

 ありがとう、母なる星地球。彼女との話題を作ってくれて。

 

 

 

 

 

 △月仝日

 

 お姫様の質問は日を跨いでも止まらない。

 どうしてあの星は青いのか。あの星は暖かいのか、寒いのか。あの緑の陸地は何か。どんな生物がいるのかetc。

 聞かれたことを具に返していると、興味の矛先が俺自身に変わったようで、どうしてそこまで詳しいのか尋ねられた。

 別に減るもんじゃないので、あの星で暮らしていた記憶があると正直に答えた。

 お姫様はすぐに信じて、もっと話をするようにせがんできた。お兄さん、もっと人を疑うべきだと思うな……

 

 

 

 

 

 ∞月⁂日

 

 今日もお姫様とお話しした。

 毎度の如く地球のことばかり聞きたがるが、今日は俺自身のことについても聞いてくるようになった。

 よほど昨日の話のインパクトが強かったのだろう。そりゃ「地球で暮らしてた記憶ありますー」なんて自称するヤツ、俺でもおもしれーヤツって思っちゃうもん。

 

 それと、なんとなく、徐々にお姫様の目に光が見えるようになった気がする。

 どうやら“死んだ魚の目”から“死にかけの魚の目”へと進化したらしい。

 ……変わったのか変わっていないのかよく分からない。

 

 

 

 

 

 §月☆日

 

 今更ながら名前を聞いていないことに気付いた。

 友達なのに名前も知らないとは如何なものか。

 

 というわけで、お姫様に聞いてみたが、どうやら自分の名前が分からないらしい。

 いや、そもそも月人に名前なんて概念が存在するのだろうか?月で暮らすようになって暫く経つが、一度も名前という名前を聞いたことないし、聞かれたこともないような……

 

 お姫様は名前を欲しがってそうだったので、安直だが『かぐや』と呼ぶことにした。由来は言わずもがな、かの有名な『竹取物語』からである。

 普通に嬉しそうに喜んでくれたのでよかった。

 

 ちなみに俺の名前も決まった。

 その名もサクである。結構カッコいい名前でよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆★

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───あの青い星は、今日も回っている。

 

 仕事をして、たまにあの星──彼いわく、地球というらしい──を眺めて、仕事をして、また眺める。

 ここまでなら何ひとつ変わらない、私の日常。永久的な日常のサイクル。

 

 でも、最近変わったことといえば。

 

 

 「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜〜ん!!ハローお姫様!」

 

 

 彼という存在が、この日常のサイクルに組み込まれたことぐらいだろうか。

 

 あの日以降、毎日、秘密の通路を辿って会いに来てくれる男の子。

 この星ではない、地球で暮らしていた記憶を持つという、ちょっと不思議な男の子。 

 でも、その話がどれも面白くて、ついつい聞き入ってしまう。

 

 「しっかし、ここは月だってのに、ウサギ一匹もいないのか。見たことない?餅ついてるウサギ」

 「うさぎ?なにそれ?」

 「あぁ、えっと、うーん…………こ、こんな感じの動物で、白くてモフモフしてるやつ」

 「……ぷっ。絵へたくそ」

 「今喧嘩売った?全然買うけど?」

 

 彼と一緒にいると、うまく言葉に出来ないけれど、心がポワポワする。

 彼と一緒だと時間の進みが早く感じて、彼と別れてもすぐに明日を楽しみにしてしまう私がいて、「また明日」って言葉を待ち遠しく感じてしまう。

 これが“楽しい”って感情なのかな。

 

 「そうそう、聞きたいことあったんだ。名前なんていうの?」

 「なまえ……?」

 「うん、名前」

 

 なまえ……意味は知ってる。

 だけど、それは私たち月人にはないものだったから、どう答えるべきか悩んでしまう。

 

 「あー……名前、分からない感じ?」

 「うん」

 「そっかぁ〜……」

 

 どうして名前がないだけで、うんうんと頭を悩ませるのか分からなかった。

 

 「どうしたの?」

 「いや、友達なのに名前も呼べないのは、ちょっとなぁって思って……」

 「トモダチって名前で呼び合うの?」

 「普通はね」

 

 ……そっか。普通はそうなんだ。

 

 「……じゃあ、ほしい」

 「えっ?」

 「名前で呼んでほしい」

 「いやそうしたいのは山々なんですけどね、ない名前は呼べなくてですね……」

 「じゃあ付けて」

 「俺が?いや、落ち着けもちつけって。そういうセンスねぇのよ俺。もっと、ほら、あのお目付け役の人にでも頼んだらいいじゃん?」

 「あなたじゃなきゃやだ。早く付けて。今すぐ」

 「こんな我儘だったっけ?」

 

 ワガママ……これがワガママなんだ。

 随分と意固地で、自分の意志を大事にする気持ちなんだね。

 

 彼はさっきよりも悩んでいる様子で、頭を抑えながら“あーでもないこーでもない”と考えて、考えて。

 そして───

 

 「………かぐや」

 「かぐや……?」

 「そう、かぐや。地球の日本っていう国には、月からお姫様がやって来る御伽話があるんだけど、そのお姫様の名前がかぐやっていうの。月のお姫様だし、ピッタリかなって」

 「かぐや……かぐや……!」

 

 瞬間、ぶわりと何かが身体中に注ぎ込まれたような気がした。

 朧げだった私という存在が、初めてこの世界に確立されたような。今この瞬間初めて生を受けたような歓喜の気持ちが溢れ返る。

 それに何より、彼から私という個人を──私だけの名前を呼んでくれたことが、本当に本当に嬉しくて。

 

 「私は、かぐや!かぐやにする!」

 「お気に召して良かった」

 「うん!ありがとう、………あれ?」

 「ん?どうかした?」

 「……知らない」

 「?」

 「あなたの名前、分からない」

 

 重要なことに気がついた。

 彼は、名前が大事と言いながら、彼自身の名前を打ち明けていないのだ。

 

 「私には聞いておいて、自分のは教えないんだ」

 「うぐっ、確かに。これじゃあ不公平だよな。………っていっても、俺も自分の名前分かんないんだったわ。今考えるから待って「じゃあかぐやがつける!」……あい」

 

 そう啖呵を切り、彼が感涙し咽び泣くほどの名前を授けよう───そう思うこと数十分。いまだに名前の“な”の文字も出てこなかった。

 名前を考えるのってこんなに難しいんだ。仕事の時だってこんなに考えたことないのに。今なら彼の苦悩を分かってあげられる気がする。

 でも、彼はトモダチだから。唯一無二な人だからこそ、ちゃんとした名前を考えてあげたい。

 ……あぁ、彼もきっと、私と同じ気持ちだったんだ。だから、あんなにも真剣に考えてくれたんだ。

 

 「──サク。サクにしよう!」

 「ほう。サク、か……サクねぇ……」

 

 意味深な相槌を打つ彼に、恐る恐る反応を伺う。だけど、それも杞憂だとすぐに気づいた。

 だって、あんなに嬉しそうな顔してたから。

 

 「ちなみに意味は?」

 「うーん、なんとなく?」

 「ないんかい。……まぁいっか!いい名前ありがとう、かぐや」

 「ッ、うん!」

 

 今日はお互い何時間も名前を呼び合い続けた。声を枯らしても呼んだ。

 

 かぐや──彼が付けてくれた名前。

 サク──私が彼に贈った名前。

 

 今日は特別な一日になった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。