ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む 作:神切優羽
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引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです!
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください!!
では、10話もどうぞ!!
クリスマス休暇が明け、ホグワーツに生徒たちの元気な声が戻ってきた。
だが、大広間で再会したハリーの瞳には、どこか深く重い疲労の色が滲んでいた。
「……ハリー、少しお顔色が優れませんわね。休暇中はよく休めませんでしたの?」
心配そうに覗き込むセラフィナに、ハリーは戸惑いながらも、声を潜めて打ち明けた。
「実はね、セラフィナ……休暇中の夜、誰もいない空き教室で不思議な鏡を見つけたんだ。そこに立つと、亡くなった僕の両親や家族が……僕と一緒に笑っている姿が映るんだ」
ハリーの言葉を聞いた瞬間、セラフィナの表情から温もりが消え、静かな緊張が走った。
「ハリー。夜間徘徊という校規違反については後ほど厳しくお話しするとして……その鏡には二度と近づいてはいけませんわ」
「えっ……でも、両親に会えるんだよ!?」
「いいえ、それは会えているのではありません。……それは『みぞの鏡』と呼ばれる、見る者の心深くに潜む強い欲望や幻視を反響させる危険な魔道具ですわ。真実も知識も示さず、ただ捉われた者に虚妄の幸福を見せ続け、正気を失わせるものです」
セラフィナのアイスブルーの瞳が、ハリーを優しく、けれど強く射抜く。
「失われた過去や叶わぬ妄執に囚われ、鏡の前で人生を費やしてはなりません。現実で歩むあなたの足を止め、心を蝕むものに寄り添ってはなりませんのよ」
理知と深い慈愛に満ちたセラフィナの言葉に、ハリーは息を呑み、ゆっくりと俯いた。
「……そっか。あれは……僕の願望が見せていた幻だったんだね。わかったよ、セラフィナ。二度と行かない」
「賢明なご判断ですわ、ハリー」
セラフィナが安堵の笑みを浮かべたその時、隣でノートをめくっていたハーマイオニーが溜息をついた。
「ハリーが危険な鏡に惹かれていたのも問題だけど、私たちの探している『ニコラス・フラメル』についての調査も完全に行き詰まっているわ。図書室のどの本を探しても載っていないのよ」
「……ニコラス・フラメル、ですか?」
セラフィナは首を少し傾げ、整った眉を寄せた。
「ええ、ハグリッドがうっかり口を滑らせた名前なんだけど……セラフィナ、何かご存知なの?」
「勿論ですわ。ニコラス・フラメル氏は、歴史上唯一『賢者の石』を完成させた伝説的な錬金術師ですもの。あらゆる金属を純金に変え、服用者に永遠の命を与える『命の魔法薬』を生み出す触媒……」
そこまで口にして、セラフィナとハーマイオニー、そしてハリーの視線が交差した。
「――つまり、3頭犬が護っている地下の仕掛けの正体は、『賢者の石』ですわね」
点と点が完璧に繋がり、一同の背筋に冷たい緊張が奔った。
◇ ◇ ◇
「フラメルの名をハグリッドが知っていたのなら、彼に直接確かめるのが一番ね」
放課後、セラフィナたちはハリー、ロン、ハーマイオニーと共に、禁じられた森の脇に佇むハグリッドの小屋を訪れた。
「やあ、お前さんたち! よく来てくれたな!」
大柄なハグリッドは温かく迎え入れてくれたが、室内は妙に暑く、暖炉にはこうこうと火が焚かれていた。
そして暖炉の火の真ん中に、巨大な黒い卵が鎮座しているのをセラフィナは見逃さなかった。
「ハグリッド……あの暖炉の中にある大きな卵は一体何ですの?」
「あっ、いや! これは……その、昨日の夜、酒場でカード賭博をした見知らぬ男から勝ち取ったものでな……」
ハグリッドが慌てて言い訳をするが、セラフィナのアイスブルーの瞳は誤魔化されなかった。
「ノルウェー・リッジバック種……ドラゴンの卵ですわね」
セラフィナの声から一切の感情が失われた。
「ハグリッド。1692年の魔法界の取り決めにより、ドラゴンの個人飼育は厳密に違法化されていますわ。このような木造の小屋で孵化させようとするなど、火災のリスクはもちろん、マグルへの秘匿義務違反、さらにはあなた自身の身の安全すら脅かす無計画な暴挙です」
「で、でもな、セラフィナ! まだ孵化しちゃいねえし、俺はずっとドラゴンを飼うのが夢だったんだ! ちゃんと自分で何とかするから――」
「感情論で法令と安全管理を無視することは許されません」
セラフィナの冷徹な正義感に、ハグリッドは思わず言葉を詰まらせた。
さらにセラフィナは追及の手を緩めない。
「そもそも、そのような貴重で危険な種族の卵を、見知らぬ男が都合よく賭けに出すなど不自然極まりありませんわ。ハグリッド、その男と何を話しましたの?」
「な、何って……別に大した話はしてねえよ! 俺が番犬を扱えるって言ったら、男が『3頭犬の扱い方は難しいか』って聞いてきたから、『音楽を聞かせればコロリと眠っちまう』って教えてやったくらいで……あっ」
ハグリッドが口を押さえた時には、すでに遅かった。
ハリーたちが青ざめる中、セラフィナの瞳に冷ややかな光が宿る。
「……言葉を失いますわ。城の最重要機密であり、防衛の要である3頭犬の無力化手順を、見知らぬ素性の知れぬ相手にあっさりと漏洩なさったのですか」
「ち、違うんだ! 酒が入っていて、うっかり……!」
「『うっかり』で済まされる問題ではありません! あなたの軽率な失言は、この城に通うすべての生徒の安全を絶望的な危機に晒しましたのですよ!」
温厚なハグリッドの人間性はともかく、管理責任者および機密保持者としてあまりに無能で危険な存在であると、セラフィナは冷徹な評価を下した。
◇ ◇ ◇
ハグリッドの小屋を出た直後、城へと続く静寂な道で、セラフィナは足を止めた。
「新学期が明けたらダンブルドア校長へご報告する予定でしたが、事態は一刻を争いますわ。ドラゴンの違法な卵の持ち込み、そして3頭犬の機密漏洩……今すぐ校長室へ向かい、すべてをお話しいたします」
「待ってくれ、セラフィナ!」
ハリーが慌ててセラフィナの前に立ちふさがった。ロンとハーマイオニーも険しい表情で続く。
「校長先生に言ったら、ハグリッドが逮捕されちゃうよ! まだ卵だし、孵化したわけじゃないんだ! ハグリッドは悪気があってやったんじゃないんだよ!」
「悪気がなければ何をしても許されるとでもおっしゃるのですか、ハリー?」
セラフィナは静かに、だが一切の揺らぎなくハリーを見つめ返した。
「違法な魔法生物の卵の持ち込み、そして校内の安全を脅かす機密漏洩。これらは個人の『悪気のなさ』や『夢』などという感情論で隠蔽してよい罪ではありませんわ。放置すれば、ドラゴンが孵化して城を全滅させる火災を起こすか、機密を盗み出そうとする者にハグリッド自身が利用され、破滅するだけです」
「だからって、友達を売るような真似をするのかよ!?」
ロンが顔を真っ赤にして叫んだ。
「ハグリッドは僕たちの大切な友人なんだぞ! 卵だってまだ生まれてないんだ、僕たちが説得してハグリッドに諦めさせるから!」
「規範と法令、そして全生徒の安全を曲げてまで庇い立てすることが『友情』とおっしゃるのですか? それは友情ではなく、単なる共犯と甘やかしですわ」
冷徹な正論で一蹴するセラフィナに対し、今まで黙っていたハーマイオニーが痛切な表情で二人の間に足を踏み入れた。
「……セラフィナ、あなたの言うことが全面的に正しいわ。法令違反だし、ハグリッドのしたことは取り返しのつかない大問題よ。……でも、お願い」
ハーマイオニーは葛藤に唇を噛み締め、必死の眼差しでセラフィナを見つめた。
「今すぐ校長先生に告発したら、ハグリッドは弁明の余地なくアズカバンへ送られてしまうかもしれないわ! 私からもハグリッドに強く警告して、卵を手放すよう説得するわ。だから……お願い、私たちがハグリッドを説得する『少しの時間』だけ猶予を頂戴!」
「ハーマイオニー。正しさを理解していながら、情に流されて処置を遅らせることは、時に悪意よりも致命的な災厄を招きますわ」
セラフィナの声はどこまでも穏やかで、それゆえに絶対に曲げられない鋼の意志を宿していた。
「法と安全を前にして、情で目を瞑ることはできません。……失礼いたしますわ」
セラフィナは気品あるお辞儀を一つ残すと、ハリーたちの制止を振り切り、一人凛とした背筋で校長室のある中央塔へと歩き出した。
「セラフィナの分からず屋! 冷血漢!」
背後から飛ぶロンの叫び声と、切なげに言葉を失うハーマイオニーの視線を受け止めながらも、セラフィナは一度も振り返らなかった。
正しい理と正義を貫くことの孤独と摩擦。その重みを胸に抱きながら、夕陽を浴びるアスペンの白杖は、美しくも静かに澄み渡っていた。
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次話の投稿は23日の0:00になります!
これからもよろしくお願いします!!
……猫のシルヴィアの出る機会が無い…。