ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む   作:神切優羽

12 / 13
第12話も来てくださりありがとうございます!!

お気に入りが日々増えていくのが嬉しいです!

今回は時間をかけて考える事ができなかったので設定やら何やらがおかしいかもしれないです…。
違和感があれば教えてください。

では、12話もどうぞ!!


第12話:白の杖と防衛の規則

大広間での減点騒動から数週間が経過しても、城を包む重苦しい空気は晴れることがなかった。

かつて首位を誇っていたグリフィンドールの砂時計は底をついたまま放置され、すれ違う生徒たちの間には冷ややかな隔意が横たわっていた。

そんな折、ハリーたちに下された罰則の具体的な日時と内容を知らされ、セラフィナは思わず小さく息をのんだ。

 

「……深夜の『禁じられた森』での奉仕活動、ですか?」

 

図書室の窓辺にて、隣でエマからその事実を聞かされたセラフィナのアイスブルーの瞳に、極めて冷ややかな色が宿った。

ホグワーツ創立以来、数々の危険生物が生息するために「足を踏み入れることすら固く禁じられている」と告知されてきた区域。

そこに、反省と指導の名のもとに未成熟な1年生の生徒を深夜に足を踏み入れさせる――。

それは正当な教育的指導などではなく、単なる安全管理の欠如であり、組織としての絶対的な不備に他ならなかった。

 

(普段は立ち入りを固く禁じておきながら、懲罰として死の危険が潜む暗闇へ放り込むなど……ホグワーツ危機管理体制は一体どうなっているのでしょうか……)

 

マクゴナガル教授をはじめとする教授陣の杜撰な判断と、制度の矛盾に対し、セラフィナの胸には深いあきれと強い不信感が刻み込まれた。

 

◇ ◇ ◇

 

罰則が実行された翌日、中庭の回廊を歩いていたセラフィナは、古びた噴水の縁にポツンと座り込んでいるハーマイオニーの姿を見かけた。

かつての気丈で論理的な面影は影を潜め、顔色は蒼白で、細い身を縮めてかすかに震えていた。

セラフィナは静かに足音を忍ばせ、彼女の前にそっと佇んだ。

 

「……ハーマイオニー。顔色がよろしくありませんわ」

 

セラフィナの澄んだ声に跳ね上がるように顔を上げたハーマイオニーは、セラフィナのアイスブルーの瞳を見つめると、張り詰めていた糸が切れたようにぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。

 

「セラフィナ……あそこは、あそこは本当におそろしい場所だったわ……」

 

ハーマイオニーは震える手で目元を覆い、昨夜の森での恐怖を途切れ途切れに語り始めた。

漆黒の暗闇の中で出会った、ユニコーンの銀色の血を吸うおぞましい黒い影――そして、間一髪で救われたものの、ハリーが命を落としかけたという惨状を。

 

「……生徒をそのような死の危険に直結する現場へ晒すなど、言語道断ですわ」

 

静かに耳を傾けていたセラフィナは、痛ましそうに胸の前で白い指先を組み、冷酷な組織の不備に胸を痛めた。

 

「ハーマイオニー。おそろしい思いをされましたね。ですが……もしこれ以上、何か危険な兆候を感じていらっしゃるのなら、自分たちだけで解決しようとしては絶対にいけません。今すぐ大人や教員に正確な事実を告げ、身を守ることを最優先になさってください」

 

「でも……誰も信じてくれないかもしれない……。スネイプ教授が石を狙っているなんて言っても、マクゴナガル先生は取り合ってくれないわ……」

 

「正当な事実と理知をもってお伝えすれば、教員方も必ずや動かれるはずですわ。自分たちの本分を越え、無謀な危険行為に飛び込むことだけは、どうかおやめなさい」

 

静かだが毅然としたセラフィナの言葉に、ハーマイオニーは涙を拭いながら、小さく頷くことしかできなかった。

 

◇ ◇ ◇

 

最後の実技試験が終わり、羊皮紙とインクの匂いが漂う大教室に、試験終了を告げる重々しい鐘の音が響き渡った。

セラフィナは静かな所作で羽ペンを置き、インク壺の蓋を閉めた。

どのような状況であれ、生徒としての本分を誠実に果たす――それこそが彼女の貫く美徳であり、秩序であった。

書き上げられた答案用紙には、完璧な論理と隙のない呪文理論が整然と並んでいる。

だが、答案を回収する監督教師の周囲で、他の生徒たちが安息の息を漏らす中、数列離れた席に座るハリーたちの空気だけは異様であった。

ハリーは額の傷痕を執拗に押さえながら焦燥に駆られた様子を見せ、ロンは落ち着きなく周囲を気に病んでいる。

そしてハーマイオニーは、いつもの聡明な輝きを曇らせ、固く口を結んだまま厳しい表情で手元の羊皮紙を見つめていた。

森での恐怖と、「今日にも賢者の石が奪われるのではないか」という疑心暗鬼に囚われ、彼らは学ぶべき本分すら手につかないまま試験を終えたのだ。

教室内を退出する生徒たちの波に紛れ、急ぎ足で去っていくハリーたちの背中を、セラフィナは氷のように澄んだ瞳で見つめていた。

 

(学びの本分を見失い、焦燥と感情に支配されている……。このままでは彼らは遠からず、取り返しのつかない暴挙に出てしまう……)

 

胸の奥に深まる予感を抱えたまま、セラフィナが中庭へと続く回廊を歩いていると、城内にひとつの報せが駆け巡った。

 

「ダンブルドア校長が、急遽ロンドンへ向かわれたそうだ」

 

「魔法省からの緊急のふくろう便を受け取って、さっき飛炉粉で発たれたらしいよ」

 

上級生たちの噂話が耳に届いた瞬間、セラフィナは静かに足を止めた。

ホグワーツの絶対的な抑止力である校長の不在――それが何を意味するのか。

セラフィナが回廊の太い石柱の陰に視線を遣ると、案の定、そこにハリーたちが集まっていた。

周囲を警戒するように肩を寄せ合い、その瞳には危険な決意と焦燥感が宿っていた。

 

「今日だ……ダンブルドア校長がいない今夜、あいつが仕掛けてくる……!」

 

「僕たちで行くしかない……! 大人たちが動いてくれないなら、僕たちが石を守るんだ!」

 

「でも、3階の立ち入り禁止の部屋をどうやって突破する? 姿くらまし術も使えないのに……」

 

「ハグリッドから犬を眠らせる方法を聞いた。あの扉を開けて、地下へ降りるしかないんだよ!」

 

ひそひそと囁き合い、自室へ戻って夜の潜入の準備を始めようとする彼らの背中を見つめ、セラフィナは深く眉をひそめた。

 

(……やはり、彼らは自分たちの未熟さを自覚することもなく、本分を越えて危険へと飛び込もうとしているのですわ)

 

自分たちこそが正義であり、大人が頼りにならないから自分たちが解決しなければならないという無謀さ。

下手をすれば命を落としたり重傷を負いかねない3階の禁足区域とその地下へ、1年生が勝手に足を踏み入れるなど、言語道断の愚行であった。

 

(直接問い詰めても感情的に反発し、人目を忍んで強行するだけ……。当事者に悟られることなく、速やかに組織の正規の手続きを踏むべきです)

 

セラフィナは気配を消したままそっと身を引くと、背筋をすっと伸ばした。

ハリーたちに気づかれぬよう足音を殺して回廊を離れると、彼女は一切の躊躇なく足早に歩みを進めた。

夕闇が迫り、橙色から群青色へと染まりゆく静まり返った廊下を抜け、セラフィナは寮監であるマクゴナガル教授の執務室のドアを軽やかにノックした。

 

「お入りなさい」

室内から響いた厳格な声に応じ、セラフィナは静かに扉を開けた。

机に向かっていたマクゴナガル教授は、入ってきたセラフィナを見ると、わずかに表情を和らげた。

 

「ミス・ヴァレンティス。どうしましたか? 試験の手応えについてなら、心配する必要はありませんよ」

 

「いいえ、マクゴナガル教授。学業のことではございません。急を要する重大なご報告があり、伺いました」

 

セラフィナは姿勢を正し、寸分の狂いもなく堂々とした態度で言葉を紡いだ。

 

「ポッターさん、ウィーズリーさん、そしてグレンジャーさんの3名が、今夜、3階の立ち入り禁止区域へ侵入しようと企てております」

 

 一瞬、マクゴナガル教授の眉が跳ね上がった。

 

「何ですって? 3階の廊下へ侵入……?」

 

「はい。彼らはダンブルドア校長が不在となった今夜、『賢者の石』が何者かに狙われると固く信じ込んでおり、自分たちの手で防衛に向かう構えです。3階の部屋の番犬を眠らせ、地下の仕掛けへ進む具体的な手段についても議論しておりました。1年生の手には到底余る危険が潜む場所へ、彼らが暴挙に出ようとしているのは明白です」

 

セラフィナは客観的な事実と、ハリーたちの発言の論理構造を正確に伝えた。

個人的な感情や推測を排し、秩序ある生徒として、組織の責任者へ行った完璧な危機管理通報であった。

マクゴナガル教授は表情を厳しく引き締め、立ち上がった。

 

「……なるほど。状況は理解しました、ミス・ヴァレンティス。あなたが危機感を持って報告してくれたことは、非常に感心なことです。石は優秀な教授陣の魔法で固く守られていますが、彼らがそのような軽率な真似をするというなら、放置するわけにはいきません」

 

マクゴナガル教授は即座に執務室を出ると、グリフィンドール塔へ向かう途中の回廊でハリーたちを捕捉した。

セラフィナが少し離れた陰から見守る中、教授はハリーたちへ凄まじい剣幕で直接雷を落とした。

 

「ポッター! ウィーズリー! グレンジャー! あなたがたに厳重に言い渡しておきます! 今夜、もし3階の廊下に近づくようなことがあれば、即座にグリフィンドールから大幅な減点と、厳しい罰則を与えます! 今すぐ自寮へ戻りなさい!」

 

マクゴナガル教授の峻烈な警告と直接の釘刺しに、ハリーたちは顔を強張らせ、言葉を失ってうなだれるしかなかった。

 

教授はそのまま彼らが確実に寮へ戻るのを見届け、周囲の巡回を強化する動きを見せた。

 

その光景を静かに確認したセラフィナは、そっと胸を撫で下ろした。

 

(これで……大丈夫ですわね)

 

組織の責任者へ正確な事実が伝わり、当事者へ直接の厳重警告がなされ、現場の警戒も強められた。

どれほどハリーたちが感情的に焦燥を募らせようと、大人の毅然とした管理体制とルールの壁によって、その無謀は完全に阻止されたはずだ。

規律を守り、正当な手続きを果たした充足感とともに、セラフィナは夕闇の深まる廊下を、自室へ向かって穏やかな足取りで歩き出した。




最後までお読みいただきありがとうございました!

もし「面白かった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、下部にある『しおり』『お気に入り』登録、『評価』『感想』『ここすき』などをいただけますと執筆の大きな励みになります。

次話の投稿は頑張れたら25日の0:00になります!

これからもよろしくお願いします!!

シルヴィアどころかエマもルーカスも出てこない…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。