ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む 作:神切優羽
更新されるたびに読んでくださる皆様に感謝です。
引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです!
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください!!
では、本編をお楽しみください!
ハロウィーンの夜、ホグワーツの大広間は千個もの本物のカボチャが空中に浮かび、無数のろうそくが橙色の温かな光を投げかける幻想的な空間へと変貌していた。
テーブルにはご馳走が所狭しと並べられ、生徒たちの弾んだ歓声が天井に反響している。
セラフィナはハッフルパフのテーブルで、エマやルーカスと共に静かにナイフとフォークを動かしていた。
「見てセラフィナちゃん! あのコウモリたち、天井で本物のダンスをしているみたい!」
「ええ、エマ。見事な空間効果呪文ですわね」
無邪気にはしゃぐエマに優雅な微笑みを返しつつも、セラフィナの意識の片隅には、先日の夕刻にハリーから告げられた「壁の中の殺意に満ちた声」の存在が重く居座っていた。
(あの声の主が何であれ、今夜のような大勢が集まる宴の裏で動き出す可能性は十分にありますわ……)
教員席を見上げれば、ダンブルドア校長やスネイプ教授が穏やかに歓談している。
大人たちの警戒の薄さと防衛システムの緩さに密かな溜め息を飲み込み、セラフィナは早々に宴を切り上げると、静かな佇まいで大広間を後にした。
◇ ◇ ◇
異変は、宴が終わり生徒たちが寝室へと戻る途中で起きた。
2階の石造りの廊下に差し掛かった瞬間、前方を歩いていた生徒たちの足がピタリと止まり、地鳴りのような悲鳴と騒然としたどよめきが広がった。
廊下の水たまりの先に立っていたのは、呆然と立ち尽くすハリー、ロン、ハーマイオニーの三人であった。
松明の光がかすかに届く湿った壁面には、見る者のおぞましさを掻き立てる、鮮血のような赤い塗料で太々と文字が刻まれている。
『――秘密の部屋は開かれたり。継承者の敵どもよ、気をつけるがいい――』
そして、その禍々しい血文字の真下。
トーチの鉄金具に尾を引っ掛けられ、全身を硬直させて宙吊りにされているのは、管理人の飼い猫であるミセス・ノリスであった。
その瞳は生気を完全に失い、まるで精巧な石像のように冷たく固まり切っている。
「ひっ……! 猫が……石みたいになっちゃってる……!」
生徒たちが一瞬にして恐怖と狂乱のパニックに包まれ、押し合いへし合いを始める中、セラフィナは取り乱すことなく、静かに人混みの先頭へと歩み出た。
研ぎ澄まされたアイスブルーの瞳が、一瞬にして現場の状況を冷静に切り取っていく。
(外傷は一切見当たらない……。呪文による破壊や生命活動の停止ではなく、細胞組織そのものが瞬時に鉱物化させられたような『生物学的密度の変化』――即ち石化ですわ。塗料の質感と匂いから見ても、犯行はごく短時間で行われたもの……)
恐怖で震え、セラフィナのローブの裾に縋りつくエマをはじめ、周囲の生徒たちの動揺が頂点に達しようとしたその時――。
セラフィナは凛とした、だがどこか空間全体を鎮静化させるような静謐な声を響かせた。
「みなさん、落ち着きなさい。パニックを起こして足元を乱すことこそ、犯人の思う壺ですわ」
彼女のブレない気品と圧倒的な静けさに、興奮していた周囲の生徒たちが毒気を抜かれたように息を呑み、静まり返った。
そこへ、愛猫の悲惨な姿を目にした管理人のアーガス・フィルチが狂乱しながら駆け込んできた。
「ポッター! お前だ! お前が私の猫を殺したんだな! 許さんぞ!!」
目血走らせたフィルチが、第一発見者であるハリーの胸ぐらに掴みかからんばかりに詰め寄る。
ハリーが恐怖と混乱で弁明の言葉を失う中、セラフィナはそっと一歩前へ出ると、優雅かつ冷ややかに介入した。
「静粛になさい、フィルチさん。根拠も明確な証拠もなく生徒を犯人扱いすることは、管理人の権限を超えた暴挙ですわ。彼らが第一発見者であることと、加害者であることは論理的にイコールではありません」
「な、なんだと……! 貴様、生意気な……!」
「わたくしは客観的な事実を申し上げているだけですわ。無実の者を感情任せに詰問しても、真相の解明には1ミリも寄与いたしません」
セラフィナの退路を断つ冷徹な論理と気品に、フィルチは激昂しながらも言葉を詰まらせ、それ以上ハリーに手を出すことができなくなった。
すると今度は、人混みの後ろからドラコ・マルフォイがニヤリと歪んだ浅はかな笑みを浮かべて前に進み出た。
「『継承者の敵どもよ、気をつけるがいい』……次は穢れた血の番だぞ!」
生徒たちの間に再び怯えと緊張が走る。
だが、セラフィナはアイスブルーの瞳のピントをまっすぐにマルフォイへと合わせた。
「マルフォイさん。それはスリザリンの正当なる継承者が『あなた』であるという主張、あるいは犯人を知っているという告発と受け取ってもよろしいかしら?」
「なっ……! ぼ、僕がそんなことを言ったか!?」
「ご自身の発言が招く法的な責任と告発の重みを理解なさっていないのなら、浅はかな虚栄心で場を攪乱するのはおやめなさい。大変見苦しいですわ」
一瞬にして周囲のスリザリン生すら黙らせる、セラフィナの圧倒的な威厳と一刀両断の返し。マルフォイは顔を真っ赤にして口を噤むしかなかった。
直後、騒ぎを聞きつけたダンブルドア校長やスネイプ教授、マクゴナガル教授らが駆けつけてきた。
ダンブルドアは静かにミセス・ノリスを取り外すと、ハリーたちへ事情聴取を行う旨を告げ、「全生徒、直ちに各寮の寝室へ戻りなさい」と厳かに指示を出した。
教員方の狼狽した表情と、事件の発生を未然に防げなかったという事実。
セラフィナは教員たちの対応に一切の期待を抱くことなく、ハッフルパフの仲間たちを引き連れて静かに立ち去った。
◇ ◇ ◇
厨房の近くにあるハッフルパフの温もりある地下談話室に戻ると、暖炉の火がパチパチと音を立てて燃えていた。
室内は、かつてないほどの不安と重苦しい雰囲気に包まれている。
「本当に……スリザリンの継承者が復活したのかな……」
「マグルの生まれの生徒が狙われるなんて、そんなの恐ろしすぎるわ……」
ハンナ・アボットやスーザン・ボーンズが、身体を小さく丸めながら震える声で囁き合っていた。
ルーカスは腕を組み、冷めた表情で暖炉の炎を見つめている。
「城の防衛体制はどうなっているんだ。去年に続いてこんな事態を許すなんて、学校の安全管理は破綻している」
その時、上級生であり監督生を務めるセドリック・ディゴリーが、落ち着いた足取りで皆の前へ進み出た。
「みんな、不安になる気持ちはよくわかる。だが、セラフィナが廊下で言ってくれた通り、僕たちがパニックになるのが一番危険だ。ハッフルパフの安全は、僕たち上級生が責任を持って守る。だから今夜は安心して休み過ごしてほしい」
頼もしいセドリックの言葉に、後輩たちは少しだけ安堵の息を漏らした。
セドリックはセラフィナの方へと歩み寄ると、静かな感銘を込めた眼差しを向けた。
「セラフィナ、さっきの廊下での見事な対応、感謝するよ。君の冷静さと堂々とした振る舞いがなければ、あの場はもっと酷いパニックになっていた」
「いいえ、セドリック先輩。わたくしはただ、当たり前の理屈を口にしたに過ぎませんわ」
セラフィナは優雅にお辞儀を返すと、温かいお茶のカップを静かにソーサーへと戻した。
「ですが……皆様。恐怖に怯え、誰かの保護を待つだけに時間を費やすのは、あまりにも無力で無防備ですわ。大切なのは、いかなる未知の脅威が降りかかろうとも、自らの手でそれを打ち砕く『確実な手段』を備えておくことです」
その言葉に、エマも、ルーカスも、そしてセドリックすらも静かに息をのんだ。
自室へと戻ったセラフィナは、デスクの上に幾重もの数式と魔法陣が描かれた羊皮紙を広げた。
(相手が『秘密の部屋の怪物』であり、視界や不可視の手段によって対象を瞬時に石化させる攻撃手法を持つと仮定するならば……既存の盾の呪文や速度の遅い牽制術などでは対応が間に合いませんわ)
相手の攻撃が届くよりも早く、視界に入った瞬間に一撃で対象の運動機能を遮断する、超音速の絶対的指向性。
セラフィナはローブのポケットからアスペンの白杖を抜き取り、その冷たい木肌を指先で一撫でした。
脳裏に蘇るのは、夏休みに自宅の工房で父親と共に目撃した、あの鋭く空間を穿つ青白い静電気の残響だ。
(空気の抵抗を力技で穿ち、高密度の電荷を一点に集中させて放つ雷撃――。魔力を極限まで集束させ、思考速度と同等の速さで着弾させる『高密度雷撃魔法』を作成してみます)
セラフィナは羽ペンをインク壺に浸すと、流麗かつ精密な手つきでルーン文字と物理定数を組み合わせた新たな魔術構文を書き綴り始めた。
大人たちの無能さを冷ややかに見切り、未知なる恐怖を客観的な理論で凌駕するため、セラフィナは自らの白杖とともに、新魔法の錬成という孤高の領域へと足を踏み入れていった。
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