ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む 作:神切優羽
いつも読んでくださる皆様ありがとうございます!!
引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです。
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください。
では、本編をお楽しみください!
ミセス・ノリスの石化事件以降、ホグワーツの城内には目に見えない毒のような恐怖と、スリザリン過激派による差別意識が蔓延していた。
マグル生まれの生徒に対する心ない暴言や、教科書を散らかすような陰湿な嫌がらせが日常茶飯事となり始めていた。
だが、セラフィナ・ヴァレンティスはそのような理不尽を黙って見過ごすような真似はしなかった。
「――そこまでになさい」
石造りの廊下の影で、スリザリンの上級生たちが怯えるハッフルパフの1年生を取り囲んでいた場に、セラフィナは静かな足取りで割って入った。
氷のように冷ややかなアイスブルーの瞳が、いじめを主導していた男子生徒を射抜く。
「下級生を束になって脅すことが、スリザリンの誇る気高き伝統とおっしゃるのですか? 大変見苦しい振る舞いですわ。直ちに謝罪し、引き下がりなさい」
「なっ……! 調子に乗るなよ、ヴァレンティス! たかが2年生が……!」
上級生が怒りに顔を真っ赤にして杖を抜きかけるが、セラフィナは微動だにせず、ポケットの中のアスペンの白杖に静かに魔力を通させた。
その全身から漂う圧倒的な威厳と隙のない佇まいに圧され、上級生たちは吐き捨てるように去っていくしかなかった。
セラフィナはうずくまっていた1年生の前に膝を突くと、優しく手を差し伸べた。
「怪我はありませんか? 恐怖に屈する必要はありませんわ。何かあれば、いつでもわたくしやセドリック先輩を頼りなさい」
「あ、ありがとう、セラフィナ先輩……!」
散らばった教科書を丁寧に拾い集めて手渡すセラフィナの姿は、傷ついた生徒たちにとってまさに「ハッフルパフの聖女」そのものであった。
◇ ◇ ◇
ある日の放課後、セラフィナは泣きそうな顔で青ざめているマグル生まれの2年生の女子生徒から、「スリザリンの生徒たちに大切な私物を城内のどこかに隠されてしまった」という相談を受けていた。
「見つかるまで、私、怖くて授業にも出られなくて……」
「安心しなさい。一緒に探しましょう」
セラフィナはそう微笑むと、持ち前の鋭い洞察力と論理的な足取りで、城内の古い物置やタペストリーの裏、使われていない廊下の隅々までを丁寧に捜索した。
いくつかのトラップや陰湿な隠し場所を見抜き、彼女が私物(母親から譲り受けた大切な銀のペンダント)を綺麗に拭き上げて手渡すと、女子生徒は涙を流して何度も礼を言った。
「本当に……本当にありがとうございます、セラフィナ先輩!」
「いいえ、気になさらないで。困ったときは、いつでも声をかけてちょうだい」
温かな笑顔で見送られ、その生徒と別れた直後――。
セラフィナが一人で石造りの薄暗い回廊を歩いていた時、背後から冷笑を含んだ声がかけられた。
「おや、正義感の強いおチビちゃんかい。そのおせっかいなところ、亡くなった姉そっくりだな」
足を止めたセラフィナが振り返ると、そこに立っていたのはスリザリンの3年生の男子生徒――現在悪質な嫌がらせを主導している一味のひとりであった。
彼は薄気味悪い笑みを浮かべ、セラフィナを値踏みするように見下ろしながら言った。
「……何とおっしゃいました?」
「聞こえなかったか? お前の自慢の姉、アリシアだよ。あいつもお前みたいに正義面して僕たちの邪魔をして、いつもおせっかいを焼いていて本当にうっとうしかった。だから、ちょっと可愛がって遊んでやったんだよ……そしたら、案外簡単にポッキリ折れちまって、そのまま死んでしまったけどさ!」
侮蔑と冷笑に満ちた、あまりにも残忍な告白。
それは学校や魔法省が発表した「不慮のアクシデント」という虚構を根底から打ち砕き、悪意あるいじめと加害の末の結果であったという真実だった。
セラフィナの全身の血液が凍りつくような静寂の中、彼女の手は自然とポケットの中のアスペンの白杖を強く握りしめていた。
怒鳴り散らしたい衝動は湧かなかった。ただ、沸き上がったのは、この城に巣食う悪意と、それを野放しにしてきた組織に対する絶対的なまでの殺意に似た冷徹な怒りであった。
「……その言葉、ご自身が今、過去の重大な犯罪行為への関与と加害事実を自供なさったという自覚はおありですの?」
セラフィナの低く、氷のように冷たい声に、スリザリンの3年生はわずかにたじろいだ。しかし、すぐに虚勢を張るように鼻を鳴らした。
「なんだよ、事実だろ? 証拠でもあんのかよ。せいぜいお姉様の後を追わないように気をつけるこっ……」
それ以上、言葉を続けさせる必要はなかった。
セラフィナはそれ以上彼と言葉を交わすことなく、冷徹に背筋を伸ばすと、一言の隙も見せない優雅な足取りでその場を去った。
向かう先は、校長室以外にあり得なかった。
◇ ◇ ◇
螺旋階段を登り、校長室の重厚な扉をノックすると、ダンブルドア校長が穏やかな微笑みでセラフィナを迎え入れた。
「やあ、ミス・ヴァレンティス。このような時間にどうしたね?」
セラフィナは一切の笑みを浮かべることなく、校長机の前で背筋を真っ直ぐに伸ばして立った。
「ダンブルドア校長。単刀直入に伺います。わたくしの姉、アリシアの死についてです。学校と魔法省はこれを『授業中の不慮のアクシデント』と処理しましたが……それは虚偽ですか? 彼女はスリザリンの生徒たちによる陰湿で過酷ないじめの果てに、追い詰められて命を落としたというのは本当ですか?」
ダンブルドアの穏やかな表情が、一瞬にして重く陰った。
彼は半月形の眼鏡を外し、深く痛痛しい溜め息を吐くと、視線を落とした。
「……事実じゃ、ミス・ヴァレンティス。当時の私は、寮間の対立を激化させぬよう慎重になりすぎ、アリシアくんの悲鳴を正しく拾い上げることができなかった。そして事態の波及を恐れた魔法省と共に、事故として処理することを選んだ……。私自身の不徳と事体隠蔽の至るところじゃ。君たちヴァレンティス家に、心から謝罪する……」
偉大な魔法使いとして称えられる男からの、直接の事実を認めた謝罪。
しかし、セラフィナの心に生じたのは安堵ではなく、氷のような絶対の「拒絶」と「幻滅」であった。
(大義や保身、大人の不都合を優先し、生徒の命と尊厳を『不慮の事故』という虚構で揉み消して蓋をした……。これが、この学校と魔法界の真実ということですのね)
1年前の危険な地下への放置、特別点による不条理なルール変更、そして姉の死の隠蔽と、その加害者を野放しにしている現実。
ダンブルドアという男も、ホグワーツという学校も、自身の掲げる大義や保身のために個人の犠牲と悪意を平然と容認する偽善の組織に過ぎないと、セラフィナは完全に断定した。
「……ご回答、感謝いたします。失礼いたします」
セラフィナは冷ややかに深く一礼すると、ダンブルドアの引き止める声を背に受けながら、一切振り返ることなく校長室を後にした。
(――この男も、この学校も、魔法省のシステムも……何一つ信用いたしません。大人たちの保護など当てにはしない。わたくしは、己の力で全てを完結させます)
絶望ではなく、透き通るような冷徹な独立心。自らの手で大切なものを護り、そして理不尽を討つための力が、今すぐに必要であった。
◇ ◇ ◇
周囲の視線を遮断し、高密度の雷撃実験を安全に行える場所を求め、セラフィナは城内を一人歩いていた。
(誰の目にも触れず、どれほど強大な破壊力を放とうとも城を傷つけない、完璧な遮断空間があれば良いのですが……)
強い意志を胸に8階の廊下を往復していたその時――突如として石壁が滑らかに変形し、重厚な木製の扉が静かに姿を現した。
不審に思いながらも扉を押し開け、室内に足を踏み入れた瞬間、セラフィナのアイスブルーの瞳が驚愕に細められた。
(ホグワーツの城内に……このような空間が存在していたなんて……)
そこは、広大な石造りの空間であった。
頑丈な魔法障壁で覆われた壁、湿度と電位差を自在に制御できる環境制御装置、そして実験器具。
(あとは高密度の雷撃を直接叩きつけても耐えうるような、完璧な『的』があれば……)
そう念じたその瞬間――石畳の床からズズ……と静かな響きを立てて、強靭な防衛結界を纏った重厚な金属製の標的が現れた。
その光景を目にしたセラフィナは、即座にこの場所のカラクリと構造を理解した。
(なるほど……。使う者の切実な意志に応え、望むままの空間と環境を自動で構築する部屋……『必要の部屋』ですわね)
望み通りの完璧な実験場を手に入れたセラフィナの口元に、冷たくも美しい微笑が浮かんだ。
(ここならば、誰の妨害を受けることもなく、心置きなく『新呪文』の開発と実証実験に没頭できますわ)
大人たちの庇護も、学校という組織の不全さも捨て置き、セラフィナはローブのポケットからアスペンの白杖をそっと抜き放った。
白杖の先端に、極限まで集束された電荷が小さくバチバチと青白い火花を散らす。
静寂に包まれた極秘の密室で、セラフィナは己の理知と白杖を武器に、さらなる高みへと確かな一歩を踏み出していった。
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