ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む 作:神切優羽
そして沢山の感想もありがとうございます!!
とても嬉しいです!!
そして『ここすき』もたくさんある事に気が付きました!
気付くのが遅れてすみません!
めちゃくちゃ嬉しかったです!!
引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです。
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください。
では、本編をお楽しみください!
※文字数が多くなってしまいました。
大広間の入口に掲示された羊皮紙の告知を目にしたとき、集まった生徒たちの間には興奮と好奇心の混ざり合ったざわめきが広がっていた。
『決闘クラブ設立のお知らせ――本日放課後、大広間にて』
「決闘クラブだって! すごいわ、セラフィナちゃん! 実戦的な防衛術を教えてもらえるのかもしれないわね!」
隣ではしゃぐエマの声をよそに、セラフィナ・ヴァレンティスは掲示板の羊皮紙を見上げ、アイスブルーの瞳を静かに細めた。
(決闘術の指導……。ホグワーツにおいて決闘の技術を教わるのであれば、元・決闘チャンピオンであるフリットウィック教授こそが指導者に最も適任はずですわ。なぜその告知に教授のお名前が書かれていないのでしょう……?)
胸の中に胸騒ぎに似た違和感を覚えながらも、セラフィナは予定通り放課後に大広間へと足を運んだ。
しかし、大広間の長いテーブルが取り払われ、中央に豪華な金箔で装飾された長い舞台が設置されているのを目にした瞬間、彼女の胸の胸騒ぎは冷ややかな落胆へと変わった。
舞台の上に現れたのは、プラム色の煌びやかな高級ローブを身にまとったギルデロイ・ロックハートだったのだから。
「さあさあ、集まってくれたまえ、皆諸君! 私の声が聞こえるかな? 見えるかね?」
ロックハートは大広間を埋め尽くす生徒たちに向かって輝くような白い歯を見せ、大げさに両手を広げた。
「校長先生のお許しを得て、この私、ギルデロイ・ロックハートが君たちに今まさに必要な『決闘の技術』を授けるために、この決闘クラブを発足させた! 昨今の城内の不穏な事件……ミセス・ノリスの痛ましい事件などを受け、君たちが身を守る術を知っておくべきだと私が進言したのだよ! なあに、心配はいらない。この私がついている限り、君たちに害が及ぶことは絶対にない。私がこれまでに解決してきた数々の危機――バンシーの叫びを静め、イエティを撃退してきたあの経験からすれば、城の脅威など造作もないことだからね!」
延々と続く自己顕示欲に満ちた自分語りに、セラフィナは密かに小さく息を吐いた。
(……やはり。組織としての指導体制ではなく、単なる個人の売名行為とパフォーマンスのための場ですわね。フリットウィック教授が指導を行わない理由も理解できましたわ)
「そして! 本日は心強い助手を一人お呼びしている!」
ロックハートが舞台の端を指さすと、そこには普段の黒いローブを翻し、死神のような冷徹で苦々しい表情を浮かべたセブルス・スネイプ教授が立っていた。
「スネイプ教授だ! 彼は魔法薬学の専門家だが、実はいささか決闘術にも心得があるとおっしゃるのでね。快く私の助手役を引き受けて下さった! 大丈夫、生徒諸君、模範演技が終わっても、君たちの魔法薬学の先生をそのままお返しすると約束しよう!」
ロックハートのお調子者めいたジョークに対し、スネイプの薄い唇が極限まで引き結ばれ、その黒い瞳には明確な殺意すら滲んでいた。
「では、模範演技をご覧入れよう!」
二人の教授が舞台の中央で向かい合い、お辞儀を交わした。ロックハートは花を散らすような大げさで華美な手つきで杖を振り回し、構えをとった。対するスネイプは、無駄な動きを一切削ぎ落とした鋭い所作で杖を構える。
「一……二……三――」
「エクスペリアームス!!」
ロックハートのカウントが「三」に達した瞬間、ロックハートが呪文を唱え終えるよりも遥かに早く、スネイプの白杖の先端から目も眩むような白銀の閃光が放たれた。
ドォン!!という重厚な魔力の炸裂音が大広間に響き渡る。
衝撃波を真正面から浴びたロックハートは、綺麗な放物線を描いて舞台の上を後方へ吹っ飛び、そのまま壁に激しく激突して無様に転がり落ちた。
「きゃあっ!」
「す、すごい……!」
グリフィンドールの生徒たちが歓声を上げ、スリザリン生たちが冷笑を浮かべる中、ロックハートはおずおずと立ち上がり、乱れた金髪を必死に整えながら言った。
「ふう……! 見事だ、スネイプ教授! 今のは実に素晴らしい『武装解除呪文』の模範演技だった! 君たちも見たかね? 私が本気で防御呪文を唱えていれば、君の呪文は簡単に弾き返せていたのだが……あえて生徒たちのために防がずに受けてみせたのだよ!」
苦しい言い訳を重ねるロックハートを、セラフィナは冷ややかなアイスブルーの瞳で見つめていた。
(……ロックハートの醜態はどうでもよいですが。スネイプ教授のあの初速、無駄のない魔力集束、そして相手の詠唱の隙を完璧に突くタイミグ――。フリットウィック教授の決闘術とはまた異なる、実戦的な『殺気』を含んだ技術として、観察する価値は十分にありましたわね)
このような形で、原作の持つコメディ性とセラフィナの冷徹で合理的な視点がより際立つ描き方になりました。
◇ ◇ ◇
「さあ、それでは実際に生徒同士の公開実技を見てもらうとしよう!」
ロックハートが明るく声を張り上げたその時、教壇の脇で腕を組んでいたスネイプが、冷たい黒い瞳をハッフルパフの集団の中のセラフィナへと向けた。
「――ロックハート教授。ただのペア練習では、生徒たちの本当の度胸や実戦対応能力は測れません。ここは一つ、評判の良い生徒を舞台に上げ、高度な実技の模範を見せるべきです」
スネイプは大広間全体に響く声で提案した。
「例えば……ハッフルパフのミス・ヴァレンティスなど如何かな」
周囲の生徒たちがどよめく中、セラフィナの表情には一切の動揺も浮かばなかった。
(……わたくしを舞台に上げ、上級生との差を見せしめにしようというお考えですわね。ですが、ここで感情的に反発するのは愚かというもの。求められた役割を、静かに全ういたしましょう)
セラフィナが静かに舞台へ上がると、スリザリンの集団から3年生の女子生徒――アンジェリカが、自信ありげな微笑を浮かべて前に出た。
「先生、私がお相手をしても? 2年生相手でしたら、手加減をして差し上げますわ」
ロックハートが「おや、3年生と2年生では少し学年差が……」と制しようとしたが、セラフィナは優雅にお辞儀をし、どこまでも穏やかで澄んだ声を響かせた。
「ご心配には及びません、ロックハート教授。上級生の先輩から学ばせていただける貴重な機会ですもの。――アンジェリカ先輩、どうぞよろしくお願いいたします」
相手を見下すことも、トゲのある皮肉を言うこともない、完璧な礼節と佇まい。
「……ふん、せいぜい怪我をしないように気をつけることね」
アンジェリカが不機嫌そうに杖を構えた。
「一……二……三――はじめ!」
ロックハートの合図とともに大振りな動作で呪いを放った。
「デンソージオ!」
迫り来る呪いに対し、セラフィナは身を翻すことなく白杖を小さく振った。
「――インペディメンタ」
アスペンの白杖から放たれた無色の衝撃が、迫り来る呪文を空中で正確に減速させ、軌道を逸らして霧散させる。焦ったアンジェリカが畳みかけるように次の呪文を叫んだ。
「ファーナンキュラス!」
連続する攻撃に対し、セラフィナは危害を加えることなく、ただ安全に事態を収めるための魔法を選択した。
「――エイビス。オパグノ」
白杖の先から現れた小鳥の群れが、飛来する呪光を優しく相殺し、そのままアンジェリカの周囲をフワフワと取り囲んで視界を穏やかに遮る。
「なっ……前が見えない……!?」
動転して杖を止めたアンジェリカに対し、セラフィナは静かに一歩を踏み出し、危害を与えない最も安全な角度で白杖を定めた。
「――エクスペリアームス」
澄んだ声とともに放たれた完璧な集束密度の光が、アンジェリカの手から杖をそっと弾き飛ばした。杖は美しい弧を描き、セラフィナの差し出した左手の中に吸い込まれるように収まった。
視界を塞いでいた小鳥たちが霧散し、舞台の上で呆然と佇むアンジェリカに対し、セラフィナは弾き飛ばした杖を両手で丁寧に差し出し、優雅に頭を下げた。
「……素晴らしい攻撃のキレでしたわ、アンジェリカ先輩。大変勉強になりました。ありがとうございました」
相手のプライドを傷つけず、暴力でねじ伏せることもせず、ただ圧倒的な技量と慈愛をもって場を鎮めてみせたセラフィナ。
大広間に静寂が広がった後、彼女のあまりにも気高く思いやりに満ちた立ち振る舞いに、ハッフルパフや他寮の生徒たちから割れ物のような大きな拍手が巻き起こった。
スネイプは苦々しく顔を歪めるしかなかったが、セラフィナは静かに舞台を降り、ハッフルパフの生徒たちの元へと穏やかな微笑みをたたえて戻っていった。
セラフィナが穏やかな微笑みとともに舞台を降りた後、ロックハートは張り詰めた空気を紛らわすように、明るい声を大広間に響かせた。
「す、素晴らしい! これぞ実技模範の手本だな! では次に、2年生同士の対戦を見てもらうとしよう! ハリー・ポッターくん、ドラコ・マルフォイくん、舞台へ上がりたまえ!」
セラフィナと入れ替わるように、ハリーとマルフォイが互いに強い敵意を剥き出しにしながら舞台の上へと登っていった。
二人はお辞儀もそこそこに杖を構え、合図とともに激しい呪文の応酬を始めた。
マルフォイの放った『エヴァーテ・スタティム』でハリーが宙を舞い、それに対し、ハリーが『リクタスセンプラ』で応戦し、マルフォイが舞台の上を大きく転がる。しかし、すぐに立ち上がったマルフォイは、歪んだ笑みを浮かべて杖を突き出した。
「――サーペンソーティア!」
パンッという乾いた爆音とともに、マルフォイの杖の先から太く長い黒蛇が飛び出し、石造りの舞台の上に重たい音を立てて落ちた。黒蛇は鎌首をもたげ、威嚇するようにシューと嫌な音を立てる。
「動くな、ポッター。私が消してやろう」
スネイプが冷ややかな声を発しながら前に出ようとしたが、ロックハートがそれを大げさに制止した。
「いやいやスネイプ君、私に任せたまえ!」
ロックハートが意味のない呪文を派手に振りかざすと、呪文を受けた黒蛇は消えるどころか逆に激昂し、舞台の端にいたハッフルパフの生徒――ジャスティン・フィンチ=フレッチリーめがけて目にも留まらぬ速さで滑り出した。
「ひっ……!」
ジャスティンが恐怖でしりもちをつき、硬直する。その瞬間、ハリーは反射的に一歩前へと踏み出していた。
ハリーの口から漏れ出たのは、人間のものではない、冷たく不気味な擦過音だった。
シュウシュウと響く蛇の言葉。ハリー自身はジャスティンを襲わないよう蛇を制止しようとして発した言葉であったが、その場にいる他の生徒たちには、ハッフルパフの生徒を標的にするようモンスターへ命令を下しているようにしか聞こえなかった。
「……ハリー・ポッターが、パーセルマウス……?」
大広間は一瞬にして凍りつくような恐怖と凄まじい動揺に包まれ、生徒たちはハリーから逃れるように一斉に距離を取った。
スネイプが冷徹な一振りで蛇を消し去った後も、ざわめきは収まらなかった。混乱の中、顔色を失ったハリーは、ロンとハーマイオニーに促されるようにして大広間を飛び出していった。
◇ ◇ ◇
誰もいない静かな回廊の影。ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は、激しい動揺を抱えたまま立ち尽くしていた。
「なんなんだよ、ハリー! きみがパーセルマウスだなんて知らなかったぞ!」
ロンが声を潜めながらも、焦燥感を隠せずに叫んだ。
「パーセルマウス……? 僕が蛇と話せることかい? でも、それの何がそんなに恐ろしいんだよ! 僕はただ、あの蛇にジャスティンを襲うなと言っただけなんだ!」
「ハリー、分かってないんだ。魔法界で蛇語を話せる魔法使いなんて滅多にいない。……ホグワーツの創設者、サラザール・スリザリン自身が有名なパーセルマウスだったんだよ!」
「……僕が、スリザリンの能力を持っているって言うのか……?」
「それだけじゃないわ、ハリー」
ハーマイオニーの声も震えていた。
「みんなは今、こう思っているわ……『スリザリンの継承者』しか持ち得ない力を持つあなたが、あの『秘密の部屋』を開けた張本人なんじゃないかって……!」
ハリーが絶望に顔を歪めたその時――静かで澄んだ声が、回廊に響いた。
「――パニックに陥った群衆の推論ほど、あてにならないものはありませんわ」
「!?」
驚いて振り返った三人の前に現れたのは、優雅な足取りで歩み寄ってくるセラフィナ・ヴァレンティスだった。背後には、心配そうに見守るエマとルーカスの姿もある。
「セラフィナ……! きみも、僕を『継承者』だと思って警戒しに来たのかい?」
ハリーが自虐的に身を引こうとすると、セラフィナは静かに首を横に振った。
「いいえ。わたくしは目撃した『事実』のみを信じます。あの時、あなたの放った音域と視線は、明確にジャスティンを守るために蛇の行動を制御しようとしていました。攻撃の意図など存在しなかったことは、客観的に見れば明白ですわ」
セラフィナの冷静で理知的な言葉に、ハリーはハッと息を呑み、胸のつかえが少し下りるのを感じた。
「セラフィナ……信じてくれるのか?」
「信じるのではなく、論理的に分析した結果です。ですが……」
セラフィナのアイスブルーの瞳が、少しだけ厳しさを増した。
「ロンやハーマイオニーの懸念も事実ですわ。サラザール・スリザリンの血統にまつわる伝承と、城内に蔓延する恐怖心が結びついた今、生徒たちの猜疑心を言葉だけで解き明かすのは困難でしょう。ハリー、あなたに対する周囲の風当たりは、これからさらに苛烈になりますわ」
「そんな……じゃあ、僕はどうすれば……」
うなだれるハリーに対し、セラフィナは穏やかだが力強い視線を向けた。
「感情論と偏見に惑わされず、ご自分の理性を保ちなさい。無実であるならば、怯えて身を縮める必要など1ミリもありませんわ。……根拠のない嫌がらせや過激な排除に直面した時は、遠慮なくわたくしや『勉強会』の仲間を頼りなさい」
「……ありがとう、セラフィナ」
絶望的な孤立感の中にいたハリーの瞳に、かすかな救いの光が宿った。
セラフィナは彼らに優雅に一礼すると、エマとルーカスを伴って静かにその場を去っていった。
(ハリー・ポッターという存在を軸に、城の混乱は加速していきますわね。……大人たちも生徒たちもあてにならない以上、わたくしたちも備えを急がねばなりませんわ)
白杖をローブの奥で静かに握りしめ、セラフィナは『必要の部屋』で試作中の白雷魔法を完成させるべく、密やかな歩みを速めるのだった。
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