ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む 作:神切優羽
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引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです!
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください!!
では、2話もどうぞ!!
九月一日、キングズ・クロス駅の9と3/4番線ホームは、蒸気機関車の白い煙と乗客たちの熱気に包まれていた。
真っ赤な車体を誇るホグワーツ特急の傍らで、セラフィナは両親と向き合っていた。
「体には気を付けるのだよ、セラフィナ。
何か困ったことがあれば、すぐにふくろうを飛ばしなさい」
父エイブラハムは娘の肩に温かな手を置き、少しだけ掠れた声で語りかけた。
その瞳の奥には、昨年、娘を学校へと送り出し、二度と逢えなくなった日の記憶がかすかに影を落としている。
「ええ、お父様。お父様とお母様から教わったことを守り、誠実に学んできますわ」
セラフィナは完璧な淑女の佇まいで微笑み、母イザベラと深く抱き合った。
「困っているお友達がいたら、優しく手を差し伸べてあげてね。あなたなら大丈夫ですよ」
「はい、お母様」
胸元に飾られた百合の銀ヘアピンにそっと触れ、セラフィナは背筋を伸ばして列車へと足を踏み入れた。
専用の籠の中にいる銀灰色の猫シルヴィアは、周囲の騒がしさにも顔色ひとつ変えず、アイスブルーの瞳で静かにセラフィナを見つめている。
◇ ◇ ◇
コンパートメントを探して廊下を歩いていたセラフィナは、空いている一室を見つけ、優雅な動作で腰を下ろした。
膝の上にシルヴィアを抱き上げ、車窓の外を流れる風景に目を向けていると、トントンと軽くドアが叩かれた。
「あの……ここ、入ってもいいかな? 他がどこもいっぱいで……」
ドアを少し開けて顔を出したのは、黒髪にくしゃくしゃの寝癖をつけた少年――ダイアゴン横丁のマダム・マルキンの店で出会ったハリー・ポッターだった。
そのすぐ後ろには、赤毛で顔にそばかすのある背の高い少年が、少し遠慮がちに立っている。
「まあ、ハリー。ええ、もちろんですわ。どうぞお入りになって」
セラフィナが柔らかく微笑んで手招きすると、ハリーの表情が一気に明るくなった。
「良かった! セラフィナ、また会えて嬉しいよ。あ、彼はロン。ロナルド・ウィーズリーだよ」
「よろしく、セラフィナ……さん」
ロンは、セラフィナのプラチナブロンドの髪とアイスブルーの瞳、そして十一歳とは思えぬ気品溢れる立ち振る舞いに圧倒されたように、少し緊張した面持ちで挨拶をした。
「セラフィナで構いませんわ、ウィーズリーさん。私のことはどうぞ呼び捨てにしてくださいね」
セラフィナが膝の上のシルヴィアを撫でながら優しく応えると、ロンの緊張もようやく解けたようだった。
「なら僕の事もロンでいいよ!」
列車が走り出すと、三人は互いの家庭環境や魔法界についての会話に花を咲かせた。
ハリーがマグル(非魔法族)の親戚の家でどれほど不遇な扱いを受けてきたかを淡々と語ると、ロンは信じられないといった様子で目を丸くした。
セラフィナは、ハリーの語る「虐待に近い不遇」に対し、胸の奥で静かな悲しみと憤りを覚えた。
(……非魔法族の不条理な悪意によって、これほど素直な少年が傷つけられていたなんて……。やはり、無知と偏見を正し、彼のような境遇の人を守るための健全な秩序が必要なのだわ)
セラフィナは悲壮感を出すことなく、温かな眼差しでハリーを見つめた。
「ハリー。これからはホグワーツという正当なルールと秩序が存在する場所で過ごすのですから、もう理不尽に怯える必要はありませんわ。困ったことがあれば、いつでも私やロンを頼ってくださいね」
「ありがとう、セラフィナ……君と話していると、すごく安心するよ」
ハリーは今日何度目かになる素直な笑顔を見せた。
ロンもまた、セラフィナが買い求めた魔法界のお菓子を分け隔てなく勧めてくれる大らかさに、すっかり打ち解けていた。
◇ ◇ ◇
列車が田園風景を抜け、山あいの景色へと差し掛かった頃、コンパートメントの扉が勢いよく開いた。
「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのカエルが逃げ出しちゃったのよ」
入ってきたのは、ふさふさした茶色の濃い髪をした少女だった。
彼女の後ろには、泣きそうな顔をした丸顔の少年のネビルが立っている。
「カエル、ですか……?」
セラフィナはそっと立ち上がり、アイスブルーの瞳で静かに室内の足元を見渡した。
「湿生動物であるヒキガエルは、乾燥と光を嫌い、体温調節と皮膚の湿度維持のために狭く湿った暗所を好む習性がありますわ。……ハリー、申し訳ありませんが、そちらの足元のトランクを少しだけ動かしていただけますか?」
「えっ? あ、うん!」
ハリーが慌ててトランクを退けると、座席下の最も薄暗い隙間から、小さなイボイボのついたカエルがひょっこりと顔を出した。
「あ! トレバーだ! 僕のカエルだ!」
ネビルが感動の声を上げてカエルを両手で抱きかかえると、茶髪の少女は驚きで目を丸くし、セラフィナを凝視した。
「すごいわ! 一瞬で生物的な習性から潜伏場所を論理的に割り出して見つけ出すなんて……あなた、只者じゃないわね! 私、ハーマイオニー・グレンジャーよ!」
「セラフィナ・ヴァレンティスと申します。見つかって本当によかったですわね」
セラフィナが控えめかつ優雅に微笑むと、ハーマイオニーは目を輝かせて空いている席に腰掛けた。
「私ね、練習で簡単な呪文をいくつか試してみたけれど、どれも全部うまくいったの。教科書も丸暗記してきたわ!」
ハーマイオニーは自分がどれほど勉強してきたかを熱心に語り始めた。
ロンが少しげんなりとした表情を浮かべる中、セラフィナは姿勢を正し、真剣な眼差しでハーマイオニーの言葉に耳を傾けた。
「素晴らしい知識量ですね、グレンジャーさん。1年生の段階でそこまで正確に理論を読み解いているなんて、感服いたしました」
「えっ……?」
これまで周囲から「知ったかぶり」や「生意気」と見られがちだったハーマイオニーは、セラフィナの濁りのない真摯な称賛に目を丸くした。
セラフィナは優しく微笑み、語りかける。
「変身術の基本原理においては、手首の角度による魔力の指向性と力学的なベクトルの変化を意識すると、さらに魔力の伝達効率が向上すると思いますわ」
「手首のベクトル……? ええ、確かに『変身術入門』の第3章に似たような記述があったわ!
あなた、本当に凄いわね! 感心しちゃったわ!」
二人が知的な会話を交わし、ロンが口を開いた。
「二人ともすごい知識量だね。組み分けはレイブンクローかな?」
「レイブンクロー?」
ハリーが疑問の声を上げる。
ロンが少し得意げに、しかしどこか不安げな表情を混ぜて答えた。
「学校には四つの寮があるんだ。僕は絶対に、勇気あるグリフィンドールがいい。僕の家族はみんなそこだったから。……でも、一番嫌なのはスリザリンだ。あそこは悪い魔法使いをたくさん出してるから、近寄らない方がいい」
ロンは一度言葉を切ると、ため息をつきながら肩を落とした。
「……で、二番目に嫌なのがハッフルパフだよ。あそこは、他に行き場がない奴らが集まる、落ちこぼれの寮だって有名なんだ。兄貴たちが言ってたよ、『ハッフルパフに入るのは、ただのバカ正直な奴か、何の取り柄もない奴だ』ってさ。……もし僕がそこに入っちゃったら、それこそ笑いものだよ」
その瞬間。
セラフィナの顔から、花が萎むように色が失われていった。
「……ハッフルパフが、二番目に嫌……なのですか?」
その声は、震えていた。
威圧するような鋭さではなく、心の大切な場所を無造作に踏み荒らされた、か細い悲鳴のようだった。
セラフィナのアイスブルーの瞳には、みるみるうちに溢れんばかりの澄んだ涙の膜が張っていく。
「えっ、あ、いや……そんなに落ち込まなくても。ただの一般論というか、僕の家ではそう言われてて……」
ロンは慌てて手を振った。
これまで完璧な淑女として凛としていたセラフィナが見せた、痛々しいほどの傷つきと涙に、自分がとんでもない罪を犯したような気分になったのだ。
「私の……私のお姉様は、そのハッフルパフでしたわ」
セラフィナは俯き、銀のヘアピンにそっと指を触れた。
声は嗚咽を堪えるように断続的になる。
「誰よりも優しくて、一生懸命で……。困っている人がいたら、自分のことを後回しにしてでも助けるような人でした。私は、そんなお姉様を誇りに思っていましたのに……。魔法界では、そんな風に一生懸命生きることが『落ちこぼれ』と蔑まれ、嫌われる理由になってしまうのですか……?」
「セラフィナ……」
ハーマイオニーが心配そうに彼女の肩を抱き、眉をひそめ、ロンを厳しく睨みつけた。
「最低だわ。人の家族がいた場所をそんな風に言うなんて、ちっとも面白くないわよ」
「わ、わかったよ! ごめん! 僕が悪かった! そんなつもりじゃなかったんだ、本当に!」
ロンは顔を真っ赤にして、椅子から浮き上がりそうなほど狼狽して謝罪した。
セラフィナはハンカチでそっと目元を拭うと、悲しげな、しかし健気な微笑みを無理に作った。
「……いいのです、ロン。あなたが悪いわけではありませんわ。ただ、そんな風に言われてしまう場所なのだとしたら、それはきっと、まだ誰もその寮の本当の素晴らしさを知らないだけですものね……」
その言葉と健気な佇まいに、ロンだけでなくハリーもまた、胸を突かれるような思いを抱いていた。
(……セラフィナのお姉さんは、そんなに素敵な人だったんだ。ハッフルパフが落ちこぼれだなんて、絶対に違う)
ハリーの中で、ハッフルパフという寮への偏見が一気に消え去り、セラフィナという少女への尊敬と強い絆が芽生えた瞬間だった。
◇ ◇ ◇
やがて外が深い濃紺の夜に包まれる頃、列車はホグワーツの最寄り駅であるホグズミード駅へと滑り込んだ。
「1年生! 1年生はこちらへ!」
大きなランプを掲げた大男――ハグリッドの誘導に従い、セラフィナたちは真っ暗な小道を歩いていった。
ぬかるんだ道を抜け、視界が急激に開けた瞬間、子どもたちの間から息をのむような感嘆の声が上がった。
巨大な黒い湖の対岸。
星空が広がる漆黒の夜空を背にして、無数の窓に明かりを灯した重厚で壮麗な城――ホグワーツ城が聳え立っていた。
「わあ……」
ハリーや他の新入生たちが言葉を失う中、セラフィナもまた胸の上にそっと手を当てて見上げていた。
(お姉様……私が今、あのアリシアお姉様の歩んだ聖域の前に立っていますわ)
黒い湖を渡る小さな舟の上で、夜風にプラチナブロンドの髪をなびかせながら、セラフィナのアイスブルーの瞳は、未来への凛とした決意と希望で静かに澄み渡っていた。
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