ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む 作:神切優羽
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引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです。
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください。
では、本編をお楽しみください!
※今回も文字数が多くなってしまいました。
ハリーたちと別れ、静かな石造りの回廊を歩いていたセラフィナたちの後ろから、ドタバタと威勢の良い靴音が勢いよく迫ってきた。
「――待ってくれ、セラフィナ!」
振り返ると、そこに立っていたのは赤と金のネクタイを乱したグリフィンドールの2年生――カイル・ブランフォードだった。肩で息を切りながらも、その大きな瞳には燃えるような情熱が宿っている。
「ブランフォードさん? どうかいたしましたの?」
「さっきの決闘クラブでの、お前……いや、君の戦い方を見たんだ!」
カイルは拳を握り締め、熱っぽい眼差しでセラフィナへと一歩踏み出した。背後に控えるエマとルーカスがその迫力に思わず一歩引くほどだ。
「あんなの、すごすぎるだろ! ロックハートの授業やあの決闘クラブなんて、ただの生ぬるいお遊戯だ。あんなスカしたパフォーマンスじゃ、いま城内で起きている本当の恐怖から自分や仲間を守ることなんて絶対にできない! おれはさ……ずっと自分の無力さに腹が立ってたんだよ!」
熱血主人公のように真っ直ぐで力強いカイルの言葉には、一切の嫌みも屈折も存在しなかった。
「噂で聞いたぞ。セラフィナは有志で実戦的な魔法の修行をしてるんだろう? ……おれにも、その勉強会に参加させてくれ! おれはもっと強くなりたい! 仲間を守れる本物の強さを身につけたいんだ!」
燃えるような真摯さと、自らの課題から目を背けない純粋な求道心。
セラフィナは静かにカイルを観察し、その裏表のない直情的な性格を頭の中で瞬時に分析した。
(グリフィンドール生らしい熱血漢ですが……感情に振り回されるのではなく、自らの無力さを認め、向上心を持って直球で行動を起こせる素直さを持っていらっしゃいますわね。この純粋さは、決して悪くありませんわ)
思考が極端になりがちな他寮の生徒たちとの架け橋として、また真っ直ぐな情熱を持つ仲間を加えることは、今後の情報収集や防衛ネットワークを構築する上でも大きな利点となる。
セラフィナの唇に、どこまでも穏やかで柔らかな微笑みが浮かんだ。
「ええ、喜んで。向上心を持ち、自らを鍛える努力を惜しまない方ならば、寮の違いなど何の問題もありませんわ。歓迎いたします、ブランフォードさん」
「本当か……! やった、感謝するぜ、セラフィナ!」
カイルの顔が一気に弾け、太陽のような眩しい笑顔が咲いた。彼はニッと白い歯を見せ、胸を叩いてみせる。
「あとさ、ブランフォードさんなんて堅苦しい呼び方はなしだ! おれの事もカイルでいいぜ!」
「……ふふ、わかりましたわ。よろしくお願いしますね、カイル」
◇◇◇
決闘クラブの一件から数日が経過しても、ハリーを取り巻く状況は悪化の一途をたどっていた。
廊下を歩けば生徒たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、どこへ行っても「スリザリンの継承者」という忌々しい囁き声が付き纏う。誰ひとりとして自分を信じてくれない孤立無援の恐怖に、ハリーの精神は限界まで擦り減っていた。
そんなある日の放課後、人目のない中庭の回廊で、ハリーは藁にもすがる思いでセラフィナに声をかけた。
「……セラフィナ、少し……話を聞いてくれないか」
立ち止まったセラフィナの前に現れたハリーは、目の下に濃い隈を作り、痛々しいほどに疲弊していた。背後には、心配そうに寄り添うロンとハーマイオニーの姿もある。
「ハリー……随分とお疲れのようですわね。大丈夫ですか?」
セラフィナがどこまでも穏やかで澄んだ声をかけると、ハリーは張り詰めていた糸が切れたように、吐露するように言葉を漏らした。
「みんな……僕を見るなり逃げていくんだ。まるで僕が明日にも誰かを襲うモンスターみたいに……。僕は『継承者』なんかじゃない! 秘密の部屋の場所だって、中に何がいるのかだって、何も知らないんだ……!」
頭を抱え、苦痛に顔を歪めるハリー。
セラフィナはアイスブルーの瞳に慈愛の光を宿し、静かに頷いた。
「ええ、知っていますわ。決闘クラブの日にも申し上げた通り、あなたの瞳にも行動にも、悪意など存在しませんでしたもの。わたくしや、ここにいる仲間たちは誰もあなたを疑っていませんわ」
「……ありがとう、セラフィナ。君のその言葉だけが、今の僕の救いなんだ……」
ハリーは深々と息を吐き出すと、意を決したように声を潜め、セラフィナの目をまっすぐに見つめた。
「……それでね、セラフィナ。僕たち、本当の『スリザリンの継承者』が誰なのか考えていたんだ。……ドラコ・マルフォイなんじゃないかって」
「マルフォイさん……ですの?」
セラフィナが静かに問い返すと、隣にいたロンが身を乗り出して言葉を継いだ。
「そうだ! あいつの家柄は筋金入りの純血主義だし、普段からマグル生まれを見下してる! ミセス・ノリスが襲われた時だって、『次はマグル生まれの番だ』なんて嬉しそうに叫んでただろ? あいつが『秘密の部屋』を開けた張本人に決まってるんだ!」
「それに」とハリーも言葉を重ねる。「あいつなら、僕を『継承者』に仕立て上げて追い詰めることなんて喜びそうなことだ……。セラフィナ、君はどう思う? マルフォイが犯人だと思わないかい?」
三人の視線がセラフィナに集中する。
セラフィナは思考を巡らせ、彼らの推測に含まれる過剰な感情論と、客観的な事実の整合性を冷静に天秤にかけた。
(マルフォイさんの偏狭な血統主義と攻撃的な言動は事実ですわ。ですが……彼が真の『継承者』であり、五十年前の封印を解くほどの高度な魔術や知識を有しているかと言われれば、極めて懐疑的ですわね)
しかし、猜疑心と恐怖で混乱している彼らに、いま冷徹な事実だけを突きつけても更なる焦りを生むだけだとセラフィナは理解していた。
セラフィナは温かな微笑みを浮かべ、穏やかに語りかけた。
「確かに、マルフォイさんの普段の言動や態度は、疑いを抱かせるに十分な要素を含んでいますわね。彼が事件に対して邪悪な喜びを感じているのも事実でしょう」
「だろ!? やっぱりセラフィナもそう思うだろ!」
身を乗り出すロンに対し、セラフィナは静かに手制した。
「ですが、ハリー。推測と事実は明確に区別しなければなりませんわ。確たる証拠もないまま『彼が犯人だ』と決めつけて行動すれば、あなた方が恐れている『根拠のない噂で人を追い詰める者たち』と同類になってしまいます」
「……っ」
ハリーはハッとしたように息を呑んだ。
「焦る気持ちは分かりますわ。ですが、今はどうか冷静さを失わないでください。言葉や態度に惑わされず、客観的な事実を見極めること。それが、あなた自身の無実を証明し、心を守るための唯一の盾となります」
「……うん。分かったよ、セラフィナ。……冷静になるよ」
セラフィナの理知的で落ち着いた言葉に、ハリーの瞳から焦燥の毒気が抜け、幾分かの理性が戻ってきた。
(……ハリーたちは間違いなく、マルフォイさんの口から『証拠』を引き出そうと何らかの行動を起こすでしょうね。ですが、彼らが自分の頭で考え、行動しようとしている以上、これ以上の介入は不要ですわ)
セラフィナはハリーたちに静かに一礼すると、そっとその場を後にした。
◇◇◇
放課後、城内の静かな空き教室。
そこには、セラフィナを中心に、エマ、ルーカス、カイルをはじめ、ハッフルパフや他寮から集まった十数人の生徒たちの姿があった。下級生から、セラフィナの立ち振る舞いに敬意を抱く上級生まで、その顔触れは多岐にわたっている。
「ふむ! 素晴らしい集中力です、ミス・ヴァレンティス! 呪文の弾道が寸分違わず一点に収束していますね!」
小さな踏み台の上にちょこんと立ちながら、フリットウィック教授は満足げに白い髭を揺らして頷いた。
「ありがとうございます、教授。基礎的な魔力集束と、呼吸のタイミングを一定に保つことを意識しておりますわ」
セラフィナが優雅に一礼して杖を下ろすと、傍らで汗を拭っていたカイルが感嘆の声を漏らした。
「すげえな、セラフィナは……。フリットウィック先生の指導って、ただの呪文の練習じゃなくて、相手の隙を突くための『実戦の体捌き』まで叩き込まれるから、ものすごく身に付くぜ!」
「カイルの反射神経と直感力も素晴らしいわ。この調子で互いの死角をカバーする連携を磨けば、不測の事態が起きても十分に対処できます」
セラフィナが微笑みかけると、カイルは「おう、任せとけ!」と頼もしく胸を叩いた。
「――いいですか、皆さん。フリットウィック教授からご指導いただいた実戦における最も重要な要素は、魔力の無駄な拡散を防ぎ、最小限の身体運動で着弾速度と精度を最大化することにあります」
セラフィナの美しく澄んだ声が教室内に響き渡る。生徒たちは一言一句聞き逃すまいと真剣な表情で耳を傾けていた。
セラフィナと中心メンバー(エマ、ルーカス、カイル)がフリットウィック教授から直接受けた高度な戦闘訓練のノウハウを噛み砕いて実演し、それを全体でペアやグループに分かれて反復練習していく。
「すげえ……! セラフィナの教え方、ロックハートの100倍分かりやすいぜ!」
「こうやって手首のスナップを利かせるのね……! 呪文の出が全然違うわ!」
カイルが熱血漢らしく周囲の生徒たちを「よし、お前らもっと腕を引け! 集中だ!」と鼓舞し、エマやルーカスも丁寧に下級生たちのフォローに回る。セラフィナを軸としたこの勉強会は、単なるお勉強会を超え、城内の恐怖に抗うための確かな『防衛ネットワーク』として着実に成長していた。
練習の合間、活気にあふれる教室を見渡しながら、セラフィナの心の一角には小さな引っ掛かりがあった。
(……それにしても)
ふと、教室の隅を見据えるセラフィナのアイスブルーの瞳に、かすかな思案の色が宿る。
(最近、ハリーたちの姿をほとんど見かけませんわね。図書館や食堂でもどこか様子がおかしく、いつもコソコソと動き回っています……。彼らのことですから、何か危険な単独行動――あるいは無謀な調査に手を出しているのは間違いありませんわね)
練習の小休止中、フリットウィック教授が紅茶のカップを片手にトコトコと歩いてきて、セラフィナの隣に並んだ。
「やれやれ、ミス・ヴァレンティス。ポッターくんたちの様子は、少し気懸かりですねえ」
「教授も、そう思われますか?」
「ええ。最近の私の授業でも、どうにも心ここにあらずといった様子で、上の空です。何か思い詰めているようですが……彼らなりの事情があるのでしょう。しかし、城内がこれだけ騒がしい時期です。あまり無茶な真似をしなければ良いのですがねえ」
教授の憂いを含んだ言葉に、セラフィナは静かに頷いた。
(ハリーたちは今、わたくしが止めるような『危険な博打』に手を出しているのでしょう。……ですが、自分で限界にぶつかるまで他者の忠告を聞き入れないのも、あの年齢特有の愚かさというものですわね。いざという時に手遅れにならないよう、最低限の備えだけは怠らないでおきましょう)
セラフィナは静かに白杖を握り締めると、再び仲間たちとの訓練へと意識を切り替えるのだった。
◇◇◇
早朝。静まり返ったホグワーツの7階、八本足のトロールが刺繍されたタペストリーの向かいにある壁の前に、セラフィナ・ヴァレンティスは一人佇んでいた。
壁の前を三度行き来し、強く望む。
(わたくしが求めているのは――誰の目にも触れず、いかなる高威力の魔法の試行にも耐えうる絶対的な演習場)
すうっと石壁に浮き出た美しい木製のドアを押し開けると、そこには音をすべて吸収する分厚い石造りの壁と、無数の標的、そして魔法の測定器が整然と並ぶ『必要の部屋』が広がっていた。
セラフィナはローブを脱ぎ壁にかけ、アスペンの白杖を静かに構えた。
彼女が挑んでいるのは、既存の呪文の模倣でも、単なる魔力のぶつけ合いでもない。
――理論物理学における『電荷の移動』と『電位差の極小集束』を、体内魔力の変質によって実現する完全なオリジナル攻撃魔術の構築。
「……さて、最終段階の調整に入りましょう」
セラフィナは澄んだアイスブルーの瞳を刃のように研ぎ澄まし、呼吸を整えた。
これまでの実験で、課題は明白だった。
第一に、体内魔力を直接「雷」へと変質させる際のエネルギー損失。通常の魔法攻撃は魔力をそのまま外放するが、雷撃は「正と負の電荷差」を意図的に作り出さねばならない。ただ魔力を放つだけでは、バチバチと弾けるだけの不完全なスパークで終わってしまうのだ。
(体内の魔力を一度、胸孔の中央で極小まで圧縮……そこから回路を通すように、右手へとなだれ込ませる。単位時間あたりの電圧を極限まで跳ね上げるイメージですわ)
セラフィナは白杖を胸元で垂直に掲げ、魔力を静かに練り上げた。
白杖の先端から、青白いプラズマの微細な火花が散り、オゾンを焼くツンとした特有の匂いが部屋の中に漂う。
第二の課題は、腕の振りと魔力の放出タイミング。
大振りなキャストは動作を読まれる隙となり、逆に小さすぎれば魔力の集束が追いつかず自爆の危険が生じる。
セラフィナは試行錯誤を繰り返した。
肘を起点としたスナップではなく、「肩から指先までを一本の導線と見なし、インパクトの瞬間にのみ手首を数ミリだけ捻る」最小限の短縮動作。
そして最後に、最大の鍵となったのが呪文の発声と指向性であった。
ラテン語の「稲妻(Fulmen)」を基礎としつつ、集束率を高めるための語尾の音韻構成。
(最初は『フルメン(Fulmen)』と試しましたけれど、子音の抜けが遅く、魔力の指向性が拡散してしまいましたわ。『フルミナ(Fulmina)』では広範囲に拡散しすぎてしまい、一撃必殺の貫通力に欠ける……)
セラフィナは喉の振動と魔力の波長を完璧に同調させるべく、音の母音強度と子音の切れ味をミリ単位で調整していった。
「――『フルメニス(Fulmenis)』」
破裂音の「F」で魔力の圧縮を解放し、流れるような「ul」で導線へ乗せ、締めの「nis」で極小の針へと集束させる。
試行回数、実に数千回。
完璧な理論、完璧な動作、そして完璧な音韻が、いま一つに重なった。
セラフィナのアスペンの白杖が、極小の円を描いてターゲットの標的へと一閃される。
――パチッ、という静寂を切り裂く極小の放電音。
直後。
ドドドッッ!!!!
閃光すら置き去りにする速度で解き放たれた純白の雷撃が、空気を真空に切り裂きながら一直線に放たれた。
眩駕する雷光が室内を一瞬で真っ白に染め上げ、凄まじい衝撃波がセラフィナのプラチナブロンドの髪を激しく揺らす。
雷撃は標的として置かれていた分厚い鉄製のダミー人形を一瞬で貫通し、背後の石壁を抉り取って、高熱による赤熱の余韻を残して霧散した。
着弾までの到達時間、わずか0.02秒。
防衛呪文の展開はおろか、視認することすら不可能な超高速の貫通雷撃。
「……完成ですわね。『フルメニス(Fulmenis)』」
静まり返った部屋の中で、セラフィナはアスペンの白杖の先端から立ち上る一筋の紫煙を静かに吹き消した。
(フリットウィック教授に教わった『予備動作の極小化』、そして物理的な『電荷伝導の理』……。これならば、いかなる不測の事態、いかなる強敵が相手であれ、一瞬で無力化が可能ですわ)
ハリーたちが密造薬と疑心暗鬼の暗闇の中でもがき、他の生徒たちが無意味な恐怖に怯える中――。
セラフィナ・ヴァレンティスは誰にも知られることなく、絶対的な「理知の力」をその手の中に完成させたのであった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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次話の投稿は9日の0:00になります!
これからもよろしくお願いします!!
【オリジナル雷撃魔術『フルメニス』設定】
セラフィナ・ヴァレンティスが「理論物理学(電荷の移動と電位差)」と「古代ラテン音韻術」を融合させて独自に構築した、白杖から放たれる純白の高速雷撃魔術。
『Fulmenis(フルメニス)』
属性・分類: 単体速攻・基本雷撃
物理イメージ: 体内魔力を高圧電荷へと変換し、白杖の先から大気の絶縁破壊を起こして放つ純白の雷。
特徴: 通常の攻撃呪文(ステューピファイ等)とは次元の異なる「光速に近い弾道速度」を誇る。予備動作・音律ともに極小化されており、相手が呪文の着弾を視認・回避・防御(プロテゴ)することは物理的に不可能。