ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む 作:神切優羽
早くも感想を頂けたのは嬉しいです!ありがとうございます!!
引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです!
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください!!
※タイトルを『聖母』から『聖女』に変更しました。
では、3話もどうぞ!!
黒い湖を渡り終えた新入生たちは、麦わら色の髪をした背の高い魔女――副校長のミネルバ・マクゴナガル教授に導かれ、ホグワーツ城の巨大なオーク材の扉をくぐり抜けた。
石造りの重厚な回廊を進み、案内された大広間の扉が開いた瞬間、子どもたちから一斉に感嘆の声が漏れた。
頭上には、まるで天井が存在しないかのように、星々が煌めく夜空がそのまま広がっている。
無数のろうそくが宙に浮かび、四つの長いテーブルをあたたかく照らし出していた。
(魔法によって施された天候投影の術式……実に見事な空間構造ですわ)
セラフィナはアイスブルーの瞳を輝かせ、構造美に密かに感嘆した。
そして彼女の視線は、教壇の中央、金の高背椅子に座る一人の老魔術師へと注がれた。
銀の髭を長く伸ばし、半月型の眼鏡の奥から温かな眼差しを注ぐ人物――校長アルバス・ダンブルドアその人であった。
(あの方こそが、当代最強と謳われる偉大な魔法使い……。
このような高潔な権威のもとで学べますことを、心から誇りに思いますわ)
セラフィナは胸元に手をおき、心の中で深く一礼を捧げた。
◇ ◇ ◇
マクゴナガル教授が大広間の中央に一本の脚付きスツールを置き、その上に使い古された帽子――『組み分け帽子』を載せた。
帽子が裂け目のような口を開き、四つの寮の特質を謳いあげる歌を披露し終えると、いよいよ組み分けの儀式が始まった。
「ハンナ・アボット!」
「スーザン・ボーンズ!」
名前が呼ばれるたび、生徒たちが次々とスツールへ向かい、帽子を被せられていく。
「ハーマイオニー・グレンジャー!」
ハーマイオニーが呼ばれると、帽子はしばらく長考した末に「グリフィンドール!」と叫んだ。
ハリーとロンも無事にグリフィンドールへと組み分けされ、赤と金のテーブルから歓声が上がる。
そして――。
「セラフィナ・ヴァレンティス!」
その名が呼ばれた瞬間、大広間のあちこちから微かなざわめきが起こった。
透き通るような白い肌、気品に満ちたプラチナブロンドの髪、一筋の乱れもない完璧な所作。
まるで物語から抜け出してきたかのような少女の登場に、上級生たちも目を奪われている。
セラフィナは背筋をすっと伸ばし、優雅な足取りでスツールへと上った。
帽子が頭にそっと載せられた――瞬間。
(おや……これはまた、驚いたな)
頭の中で、古めかしくも賢しげな声が直接響いた。
(透き通るように研ぎ澄まされた論理的な思考、万物の法則を分解して理解しようとする鋭い観察眼……レイブンクローに入れば間違いなく歴史に名を残す智者となろう。
いや、それだけではない。内面に秘めた強固な意志と、目的を成し遂げるための冷徹なまでの決意……スリザリンでも大きな野望を果たせるはずだ)
帽子の評に、セラフィナは心の中で静かに答えた。
(私は、理屈や野心のために魔法を修めるのではありません。
ただ正しくあり、大切な家族の教えを守り、誰よりも誠実に人々を慈しみ、守る存在になりたいのです)
(ほう……正義と慈愛、そして徹底的な誠実さ……。
これほどの才能と冴え渡る知性を持ちながら、求めるものが無償の奉仕と調和だと言うのか。
なるほど……なんという危ういまでに純粋な、歪みのない心根だろう)
組み分け帽子は感嘆の溜め息を漏らすと、大広間全体に響き渡る声で叫んだ。
「――ハッフルパフ!!」
黄色と黒の飾りが踊るハッフルパフ・テーブルから、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。
グリフィンドールのテーブルからは、ハリーやハーマイオニーが嬉しそうに手を振っている。
セラフィナは帽子を丁寧に脱いでマクゴナガル教授に返し、満足感に満ちた笑みを浮かべてハッフルパフのテーブルへと歩み寄った。
◇ ◇ ◇
セラフィナが席に着いて間もなく、次の名が呼ばれた。
「エマ・ブライト!」
元気に返事をして前へ飛び出したのは、ハニーブロンドの髪を肩のあたりで跳ねさせた小柄な少女だった。
ローブの下にマグル風のカラフルなボーダーシャツを覗かせ、ネクタイの結び目も少し曲がっている。
帽子が頭に載せられてから、わずか数秒。
「ハッフルパフ!」
威勢よく宣言されると、少女――エマ・ブライトは「やったあ!」と無邪気に声を上げ、弾むような足取りでハッフルパフ・テーブルへと走ってきた。
そして、空いていたセラフィナのすぐ隣の席へと勢いよく飛び込んできた。
「はじめまして! 私、エマ・ブライトっていうの!エマって呼んで!」
澄んだ若草色の瞳をキラキラと輝かせ、エマはセラフィナの顔を覗き込んだ。
「わあ……! すごい、間近で見るともっと綺麗! あなた、お人形さんか妖精さんみたい! 髪の毛、まるで本物の銀と金が混ざったみたいにピカピカしてるね!」
悪気の一片すらない、あまりにもストレートで無邪気な賛辞。
セラフィナは一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに柔らかく口元を緩めた。
「ありがとうございます。セラフィナ・ヴァレンティスと申しますわ、エマ。よろしくお願いいたしますね」
「うん、セラフィナちゃんね! 私ね、マグルの世界では周りの子から『不思議ちゃん』って浮いちゃってたんだけど、魔法界って本当にすごいところだね! 毎日が冒険みたいでワクワクしちゃう!」
エマは身を乗り出し、身振り手振りを交えて楽しそうに話し始めた。
マグル出身でありながら、魔法界を「本当の居場所」だと信じて疑わない純粋な眼差し。
その輝きを見つめていたセラフィナの胸の奥で、カチリと何かが噛み合う音がした。
(……なんて、無垢で純粋な光なのでしょう)
セラフィナのアイスブルーの瞳に、静かな影が落ちる。
この世界は、彼女が思うほど光に満ちた美しいだけの場所ではない。
現に、愛する姉アリシアは、このホグワーツの不条理な事故によって命を落としたのだから。
(この子は純粋すぎる……)
セラフィナは、エマの弾むような手元を、そして彼女の屈託のない笑顔を見つめた。
亡き姉アリシアが遺した、庭に咲く花を愛でていた優しい笑顔が、エマの姿と強く重なり合う。
(……お姉様。私は見つけましたわ。
私が命を賭してでも守るべき、この世で最も尊く、儚い光を。
私がお姉様にしてもらったように……この子をどんな脅威からも完璧に護り抜いてみせますわ)
胸元の銀のヘアピンをそっと撫でながら、セラフィナの心に温かくも歪んだ使命感が静かに、けれど強固に根を張ったのだった。
◇ ◇ ◇
豪華で温かな祝宴の料理を堪能したあと、新入生たちは男子・女子の監督生に導かれ、厨房の近くにあるハッフルパフの談話室へと向かった。
陰気な地下道を進んだ先、巨大な積み樽が整然と並ぶ小部屋で行進が止まる。
女子監督生が「ヘルガ・ハッフルパフ」の旋律に合わせて、下から二番目の樽の底をトントンとリズミカルに叩くと、樽の蓋がすうっとスライドし、丸く温かなトンネルが開いた。
「さあ、入って。ここが私たちの温かい家よ」
傾斜のゆるやかな木製のトンネルをくぐり抜けると、そこにはまるで明るい日差しが差し込んでいるかのような、優しく心地よい空間が広がっていた。
黄色と黒の温かな織物で飾られた低い天井。
アーチ型の窓からは、校庭の草花や地下のやわらかな土の匂いが漂ってくる。
部屋の至るところには銅製のハンギングバスケットが吊るされ、そこから青々と茂るシダやツタなどの珍しい植物が幾重にも垂れ下がっていた。
大きなパチパチとはじける暖炉の周りには、ふかふかの黄色いソファや丸い木製のテーブルがいくつも置かれている。
「うわあ……! すごい! お日様の匂いがする!」
エマが若草色の瞳を輝かせ、談話室の植物を見上げて声を上げた。
「土の微小な湿度管理と、植物の光合成を促す温熱魔術が完璧に組み込まれていますわね……実に快適で美しい設計ですわ」
セラフィナが感心したように室内を見渡していると、一人の誠実そうな面持ちをした少年が近づいてきた。
「君がセラフィナ・ヴァレンティスさんだね。僕はルーカス・ヘイウッド。よろしく」
「よろしくお願いいたします、ヘイウッドさん」
ルーカスはセラフィナの気品あふれる佇まいに深々と一礼し、敬意を表した。
「ルーカスで良いよ。君の組み分けの時の佇まいや言葉遣い、とても感銘を受けたよ。君のような素晴らしい人と同じ寮になれて嬉しいよ」
「お褒めいただき光栄ですわ。お互い、この素晴らしい寮で誠実に励みましょうね」
セラフィナが淑女の礼を執ると、ルーカスは照れくさそうに、しかし誇らしげに頷いた。
ふと見ると、エマはセラフィナの足元に寄ってきた銀灰色の猫シルヴィアを見つけ、目を輝かせてしゃがみ込んでいた。
「わあ! この猫ちゃん、セラフィナちゃんのペット? すっごく綺麗な毛並み! 撫でてもいい?」
「ええ、もちろんですよ。シルヴィアも喜ぶと思いますわ」
エマが恐る恐る手を伸ばすと、シルヴィアは嫌がる風もなく、気品ある動作でエマの手のひらに額を擦り寄せた。
「きゃあ、可愛い! 私たち、絶対に最高の親友になれるね、セラフィナちゃん!」
無邪気に笑うエマを見つめながら、セラフィナは優しく、けれど絶対に揺らぐことのない誓いを胸に刻む。
(ええ、エマ。私たちがずっと笑っていられるように……私がこの聖域(ハッフルパフ)とあなたを、完璧に守ってみせますわ)
地下談話室の温かな暖炉の光が、少女のプラチナブロンドの髪と胸元の銀のヘアピンを、静かに照らし出していた。
◇ ◇ ◇
男子生徒たちが地下の奥にある寝室へと去ったあと、女子監督生から各部屋の部屋割りが発表された。
「1年生女子の寝室は、階段を下りて左側の部屋よ。セラフィナ・ヴァレンティス、エマ・ブライト、ハンナ・アボット、スーザン・ボーンズ。あなたたち4人が同室になります」
「やったあ! セラフィナちゃんと同じ部屋だ!」
エマが無邪気にセラフィナの手を両手で包み込んで喜んだ。
隣に立っていた丸顔で可愛らしいハンナ・アボットと、赤い髪を上品におさげにしたスーザン・ボーンズの二人も、少し緊張しながらも嬉しそうに微笑んだ。
「私、ハンナ・アボットよ! よろしくね、セラフィナちゃん、エマちゃん」
「スーザン・ボーンズです。私のおばあ様(アメリア・ボーンズ)から、ヴァレンティス家のご高名は伺っていますわ。同室になれてとても光栄です」
「アボットさん、ボーンズさん。どうぞ気兼ねなくセラフィナとお呼びくださいね。これから同室として、互いに支え合って仲良く過ごしましょう」
セラフィナが美しい動作でお辞儀を返すと、二人は安堵したように顔を見合わせた。
「これから一緒に過ごしていくんですもの。他人行儀な呼び方はやめてちょうだい」
「そうよ。お互いファーストネームで呼び合いましょう!」
4人は笑いながら部屋へと向かった。
案内された寝室は、円形の温かな部屋だった。
4つの四柱式ベッドには、黄色と黒の暖かなパッチワークの布団が敷かれ、壁には小さな丸窓が穿たれている。
荷物はすでに各ベッドの足元に運ばれており、セラフィナのベッドの傍らには、シルヴィアの専用の籠が丁寧に置かれていた。
「わあ、綺麗な猫ちゃん! 触っても大丈夫かしら?」
ハンナが興味津々にシルヴィアを覗き込むと、エマも目を輝かせて寄り添った。
「本当だ、ぬいぐるみみたいに毛並みがツヤツヤしてて素敵!」
「シルヴィアと申します。人見知りをする子ですが、危害を加えない相手には穏やかですよ」
セラフィナが微笑むと、シルヴィアは籠からしなやかに抜け出し、気品ある動作でエマの足元にそっと体を擦り寄せた。
「きゃあ! 私の足元にすりすりしてくれた! ねぇセラフィナちゃん、この子、私に懐いてくれたのかな?」
エマが床に座り込んで大喜びでシルヴィアの背中を撫で始めると、ハンナやスーザンも「私も触らせて!」と笑顔で加わった。
少女たちの弾んだ笑い声が、温かな寝室いっぱいに広がる。
ふかふかのベッドの端に腰を下ろし、ハンカチで膝を整えながら、セラフィナは静かにその光景を見つめていた。
(純粋で、温かく、害のない優しい少女たち……。
この小さな部屋こそが、私が守るべき世界の一番目の平穏なのだわ)
胸元の銀のヘアピンにそっと指を触れ、セラフィナは胸の奥で亡き姉へと語りかける。
(お姉様……見ていらっしゃいますか。
ハッフルパフは、決して誰かに蔑まれるような『落ちこぼれの集まり』ではありません。
ここには、世界で最も美しく尊い愛と平穏が存在しています。
私が……この白の杖をもって、彼女たちの笑顔と秩序を永遠に守り抜いて見せますわ)
地下談話室の優しい温もりと、友人たちの無邪気な寝息の予感に包まれながら、セラフィナ・ヴァレンティスは、ホグワーツでの最初の夜を静かに、そして確固たる意志とともに迎えるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
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