ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む   作:神切優羽

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第6話も来てくださりありがとうございます!!

お気に入りが日々増えていくのが嬉しいです!

引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです!
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください!!

では、6話もどうぞ!!


第6話:白の杖と小さな灯火

翌朝の大広間は、昨日の余韻と真新しい噂話で持ちきりだった。

 

「知ってるか? 昨日の魔法薬学で、ハッフルパフの1年生がスネイプ教授に真っ向から意見したらしいぞ」

 

「あのスネイプに!? 嘘だろ、即座に退学にならなかったのか?」

 

「それどころか、未履修の高度な調合理論を完璧に答えて反論したんだってさ。理不尽に減点された同級生を必死に庇って……」

 

「しかも魔法の才能もあって教師陣からの評価も高いらしいぞ」

 

大広間のあちこちから流れてくる囁き声。

グリフィンドールやレイブンクローのテーブルからも、ハッフルパフの席に佇む一人の少女へと好奇と感嘆の視線が向けられていた。

 

プラチナブロンドの髪を流し、凛とした美しい所作で優雅に紅茶を口に含む少女――セラフィナ・ヴァレンティス。

 

「セラフィナ、朝から城中で君の話題ばかりだよ!」

 

隣に座るルーカス・ヘイウッドが、感動とどこか誇らしげな表情で声をかけてきた。

 

「スネイプ教授に一歩も引かずに僕たちのために戦ってくれたって、もう上級生まで知ってるんだ。……僕、本当に感動したよ」

 

そこへ、ハッフルパフの女子監督生が心配と感銘の入り交じった複雑な面持ちで近づいてきた。

 

「ヴァレンティスさん、昨日の活躍は聞いたわ。あそこまで言われるがままにされていたハッフルパフの意地を見せてくれたのは本当にスカッとしたし、みんな感謝しているのよ。……でもね、あのスネイプ教授相手にこれ以上目をつけられるのは危険だわ。どうかお願いだから、あのお方はこれ以上刺激しないでね……?」

 

「ご心配をおかけして申し訳ありません、先輩。ですが、理不尽に誇りを踏みにじられるのを見過ごすわけにはまいりませんでしたわ。ご教言、胸に刻んでおきます」

 

セラフィナが気品あふれる動作でお辞儀を返すと、監督生は安堵と感嘆の溜め息をつきながら去っていった。

 

ふと、セラフィナは教職員席からの刺さるような鋭い視線に気づいた。

壇上の中央寄りに腰掛けるセブルス・スネイプが、漆黒の瞳でセラフィナを静かに射抜いていたのだ。その瞳には冷徹な憤怒と、どこか深い警戒の色が混ざり合っている。

 

セラフィナは逸らすことなく視線を受け止めると、優雅に口元を緩め、教職員席に向かって淑女の礼儀正しい会釈を一礼送った。

スネイプは不機嫌そうに顔を背け、銀のゴブレットを口に運んだ。

 

「ふふ、少し誇張されて広まっているようですわね」

 

セラフィナは柔らかく微笑み、首を振った。

 

「私はただ、間違っていることに対して正当な事実を述べたまでに過ぎません。

それよりもルーカス、ゆうべの調合理論の復習はしっかりと頭に入りましたこと?」

 

「うん! 君が作ってくれた図解のおかげで、温度管理の仕組みがすっかり理解できたよ! 今日の実技なら、絶対に失敗しない自信があるんだ」

 

ルーカスの若々しい瞳に宿る確かな自信と明るい光。

昨日の授業の終わりで見せた落胆と怯えは完全に消え去っていた。

 

100%の善意と純粋な好意から差し伸べた手が、こうして友人の力となり、小さな希望の灯火となって灯る。

セラフィナの胸に、静かで確かな喜びがじんわりと広がっていった。

 

(正しく理解し、正しく努力を重ねれば、必ず成果となって報われる……。

それを諦めさせないことこそが、私の成すべきことですわ)

 

◇ ◇ ◇

 

談話室での小さな勉強会は、その後も毎夜のように続けられた。

 

セラフィナの指導法は、ただ解答を教え込むものではなかった。

難解な呪文の構築や魔力伝導のメカニズムを、手首の角度や力のベクトルといった物理的・直感的な概念へと噛み砕き、誰にでもイメージしやすく翻訳してみせるのだ。

 

「――いいですか、ルーカス。変身術の際、杖先で物質の『質量』を押し潰そうとしてはいけませんわ。

手首を十五度ひねり、魔力の波長を物質の表面に滑らせるように乗せるのです」

 

「こうかな……? ――あっ!」

 

地下談話室の丸テーブルで、ルーカスがアスペンの白杖のアドバイス通りに杖を振るう。

テーブルの上のボタンが見事に美しい銀色のコインへと姿を変えた。

 

「出来た……! 出来たよセラフィナ! マクゴナガル教授の課題、僕にも出来た!」

 

「素晴らしいですわ、ルーカス。正しい理論とイメージが揃えば、魔法は決して裏切りません」

 

セラフィナが心からの称賛を贈ると、ルーカスは照れくさそうに頭をかきながら、まっすぐな瞳でセラフィナを見つめた。

 

「全部セラフィナのおかげだよ。……僕、ハッフルパフに入って、君と同じ寮になれて本当に良かった」

 

芽生えた固い絆と、絶対的な信頼。

ルーカスだけでなく、エマやハンナ、スーザン、アーニー、ジャスティンたちも、着実に成績を伸ばしていた。

 

しかし、セラフィナの丁寧な指導と劇的な成果の噂は、やがてハッフルパフの談話室の中だけに留まらなくなっていった。

 

◇ ◇ ◇

 

数日後の放課後。図書室の回廊を歩いていたセラフィナのもとに、恐る恐る近づいてくる生徒たちがいた。

 

「あの……ヴァレンティスさん」

 

声をかけてきたのは、グリフィンドールの1年生と、レイブンクローの1年生だった。

 

「ハッフルパフの勉強会の話を聞いたんだ。……僕たち、授業についていくのがやっとで……。

もしよかったら、僕たちにも魔法のコツを教えてもらえないかな……?」

 

他寮の生徒からの、突然の申し出。

同伴していたエマが少し驚いた顔をしたが、セラフィナは少しの躊躇もなく、鈴を転がすような声で微笑んだ。

 

「もちろんですわ。学びたいというお気持ちがあるのなら、寮の違いなど何の意味も持ちません。

ですが……さすがにハッフルパフの地下談話室へ他寮の方をお招きするのは規律上難しいですわね」

 

セラフィナは思考を巡らせると、その足で寮監のポモーナ・スプラウト教授のもとへと向かった。

 

「――まあ、他寮の生徒たちも含めた自主的な勉強会ですって?」

 

温室で植物の手入れをしていたスプラウト教授は、目を丸くした後に、溢れんばかりの笑顔を浮かべた。

 

「ええ、素晴らしいことですわ、ミス・ヴァレンティス! 助け合いと献身、それこそがハッフルパフの誇る真の精神です。

3階の西側廊下に、現在は使われていない日当たりの良い空き教室があります。そこを勉強会の場所として使う許可を出しましょう」

 

「ありがとうございます、スプラウト教授」

 

◇ ◇ ◇

 

許可を得たセラフィナたちは、さっそく放課後に3階西側廊下の空き教室へと向かった。

 

重々しい木製扉を開けると、そこは長い年月使われていなかったらしく、分厚いホコリと蜘蛛の巣が張り巡らされ、古い机や壊れた椅子が雑然と積み上げられていた。

 

「うわあ……すごいホコリ! でも、窓が大きくて日当たりは最高だね!」

 

エマが若草色の瞳を輝かせ、腕をまくり上げた。

 

「さあ皆様、まずはここを快適な学びの場に整えましょう」

 

セラフィナがアスペンの白杖を構え、滑らかな円軌道を描く。

 

「――テルジオ(掃除せよ)」

 

澄んだ閃光とともに、室内を覆っていた分厚いホコリや蜘蛛の巣が一瞬にして綺麗に拭い去られた。

 

「すごい! 一瞬でピカピカになった!」

 

ルーカスやジャスティンたちも歓声を上げながら、散らばっていた机や椅子を使いやすいように円形に並べ替えていく。エマは日当たりの良い窓辺に、談話室から分けてもらった小さな観葉植物の鉢植えを並べた。

 

さらにセラフィナは、勉強会を始める前に地下厨房の近くにある隠し扉――大きな果物の絵画の「パパイヤ」をくすぐり、屋敷しもべ妖精たちの厨房へと足を運んでいた。

 

「まあ! ヴァレンティスお嬢様! 何かお困りごとでございますか!?」

 

丁寧で礼儀正しいセラフィナの立ち振る舞いは、すでに屋敷しもべたちの間でも大評判となっており、大きな瞳をうるませたしもべたちが群がってきた。

 

「皆さんが放課後に励む勉強会のために、少しばかりのお茶と焼き菓子を分けていただけないかしら?」

 

「もちろんでございますとも! 喜んでご用意いたします!」

 

そうして整えられた空き教室には、窓から差し込む暖かな日差しと、焼きたての甘いバタークッキー、そして香ばしいカモミールハーブティーの芳しい香りが満ち溢れたのだった。

 

こうして、純粋な「学びたい」という情熱と「助けたい」という善意だけで結成された勉強会の拠点が誕生した。

 

◇ ◇ ◇

 

空き教室での第一回合同勉強会の日。

夕陽が優しく差し込む静かな教室には、ハッフルパフの生徒だけでなく、噂を聞きつけたグリフィンドールやレイブンクローの1年生たちが集まっていた。

 

そこには、ハリー、ロン、ハーマイオニーの姿もあった。

 

「わあ……セラフィナのノートって、噂通り本当にすごいわね!」

 

ハーマイオニーが羊皮紙をまじまじと見つめ、感嘆の声を上げる。

 

「図解と手順が完璧に論理化されているわ。これならビンズ教授の退屈な講義でも迷わずに頭に入るわね!」

 

「だろ? セラフィナの教え方は本当に分かりやすいんだ!」

 

ルーカスがまるで自分のことのように誇らしげに頷いた。

 

「ハーマイオニー、もしよろしければ変身術の『構造定着のコツ』について見て差し上げましょうか?」

 

セラフィナが優しく声をかけると、普段は誰よりも優等生でありたいハーマイオニーが、ほんの少しだけ照れくさそうに頬を染めた。

 

「ええ……実は、マッチ棒を針に変える際、銀の質感は出せるのだけれど、先端の鋭利さがどうしても不均一になってしまうの。どうすれば完璧に形を固定できるのかしら?」

 

「それは、魔力の出力を均等に保とうとするあまり、先端に向かってエネルギーの密度が減衰しているからですわ。手首の引きを最後の一瞬だけ三ミリ伸ばし、運動エネルギーの余韻を先端に集中させるイメージを持つのです」

 

セラフィナが手元で白杖の動作を実演してみせると、ハーマイオニーは「運動エネルギーの余韻……! なるほど、密度の減衰を防ぐのね!」と目から鱗が落ちたように叫び、さっそく試したマッチ棒を見事なまでに尖った銀針へと変身させてみせた。

 

「できたわ! 完璧な銀針よ! ありがとうセラフィナ、こんなアプローチがあるなんて思いつきもしなかったわ!」

 

知的な刺激に満ちた笑顔を咲かせるハーマイオニー。

 

ハリーも、セラフィナの優しい指導を受けながら浮遊呪文の軌道を修正し、見事に成功させていた。

 

「できた……! セラフィナ、ありがとう。僕、少し魔法に自信が持てるようになってきたよ」

 

「ふふ、ハリーの元々の魔力伝導が素直だからこそですわ」

 

教室のあちこちで生まれる笑顔と、高まる学習の熱気。

一人ひとりの疑問に耳を傾け、嫌な顔一つせず何度も優しく噛み砕いて教え続けるセラフィナ。

 

恐怖政治のように威圧するスネイプ教授に対しても、同級生を守るために気高く凛と立ち向かった高潔な立ち振る舞い。

そして、困っている者がいれば寮の垣根すら越えて手を差し伸べる、見返りを求めない無償の献身。

 

その二つの姿が城中の生徒たちの心で重なり合い、確固たる一つの評判となって昇華していった。

 

「知ってるか? 空き教室で勉強会を開いてるハッフルパフのヴァレンティスさんのこと」

 

「ああ……優しくて、可愛くて、頭が良くて、どんなに意地悪な教授の前でも仲間を決して見捨てない……」

 

「まるで、ハッフルパフの聖女様みたいだな」

 

誰からともなく囁かれ始めたその二つ名は、瞬く間にホグワーツ城全体へと駆け巡り、決定的なものとして定着していくのだった。




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