ホグワーツの聖女――アスペンの杖は灰色の秩序を刻む 作:神切優羽
お気に入りが日々増えていくのが嬉しいです!
引き続き誤字脱字がありましたら教えてくれると幸いです!
キャラの性格や言動も一貫していないと感じたら教えてください!!
では、7話もどうぞ!!
大広間は、1000個以上の生きたコウモリが天井で羽ばたき、魔法で彫られた巨大な南瓜(パンプキン)が、怪しくも温かな光を放っていた。
「わあ……セラフィナちゃん、見て! あの南瓜、ウィンクしたわ!」
エマ・ブライトが楽しそうに声を弾ませ、山盛りのご馳走を前に若草色の瞳を輝かせている。
「ええ、本当に賑やかですこと。魔法界のハロウィンは、まるでおとぎ話の舞踏会のようですわね」
セラフィナは穏やかに微笑み、エマの皿に好物の糖蜜パイを取り分けてあげた。
周囲ではハッフルパフの仲間たちが笑い合い、平和そのものの空気が流れていた。セラフィナは、この温かな光景こそが正義の守られている証なのだと、疑いもなく信じていた。
――その平穏が、一瞬で砕け散るまでは。
大広間の重厚な扉が激しく開き、クィレル教授がなりふり構わず駆け込んできた。 ターバンは傾き、顔面を蒼白にさせた彼は、教職員席の前で叫ぶように言い放った。
「ト、トロールです! 地下牢にトロールが……! ……お伝えせねばと……」
クィレル教授はその場にバタリと倒れ込み、気絶した。
一瞬の静寂の後、大広間はパニックの坩堝と化した。 悲鳴が上がり、生徒たちが混乱して出口へ押し寄せようとする。
「静粛に!!!!」
ダンブルドア校長の杖先から爆音のような衝撃音が響き渡り、静寂が戻った。
「うろたえるでない。監督生はただちに各自の寮の生徒を談話室へ避難させるのじゃ。教師陣は儂と共に地下牢へ」
スプラウト教授や監督生たちの指示に従い、ハッフルパフ生たちも列をなして移動を開始した。
セラフィナはまず、怯えるエマやルーカスたちに優しく声をかけ、信頼できる女子監督生と共に移動を開始した。
「セラフィナちゃん、どうしよう……トロールって、すごく怖い怪物なんでしょう!?」
エマの顔から血の気が引き、彼女の小さな肩が、目に見えて震えている。
「大丈夫ですわ、エマ。私と手を繋いで。離してはダメですよ」
セラフィナは自分自身の心臓が早鐘を打っているのを感じながらも、エマの手を強く、優しく握りしめた。
彼女の指先は氷のように冷たかったが、その瞳には「友を守らなければ」という強い使命の光が宿っていた。
ハッフルパフの生徒たちは、監督生の誘導に従い、談話室へと急いだ。
しかし、監督生に従って地下へ向かう列の中、セラフィナの鋭い感性が異変を捉えた。
人混みを縫うようにして列から離れ、上の階へと駆け上がっていく2つの影。赤毛と、乱れた黒髪。
(ハリーと、ロン……? どうしてあんな方向へ?)
セラフィナは足を止めた。
「……エマ、監督生のお姉様と一緒に、先に談話室へ行っていて。ハリーとロンが、談話室とは別の場所へ向かってしまいましたわ。トロールに見つかったら大変です」
「えっ、でも、セラフィナちゃんまで行かなくても……!」
「大丈夫。すぐ連れ戻して、追いかけますわ。約束よ、エマ。必ず談話室で会いましょう。ルーカス、エマを頼みますね」
セラフィナはエマに安心させるような微笑みを一度だけ向けると、迷いなく列を飛び出した。
◇ ◇ ◇
石造りの廊下を駆け抜け、セラフィナが辿り着いたのは、嫌な予感が漂う女子トイレの前だった。
「お待ちになって! お二人とも、ここで何を――」
「セラフィナ!? なんで君がここに……!?」
二人の声は、奥から響いた凄まじい轟音にかき消された。
石壁が砕ける音。そして、鼓膜を震わせるような獣の咆哮。
そこには、今までに見たこともない異臭と、身の丈12フィート(約3.6メートル)を超える巨体。岩のように硬い灰色の皮膚を持ち、太い棍棒を手に引きずりながら進む巨大な巨怪――トロールだった。
「キャアアアアッ!」
その時、女子トイレの奥から甲高い絶叫が響き渡った。 トロールが個室のドアを破り、中で逃げ場を失ったハーマイオニーへと迫っていたのだ。
「ハーマイオニー!」
ハリーとロンが飛び込み、木屑を投げてトロールの気を引こうとするが、興奮したトロールは棍棒を振り上げ、ハリーへと向かって振り下ろそうとした。
(……動かなければ。私が、守らなければ!)
セラフィナの指先は、恐怖で凍りついたように冷たかった。
けれど、彼女は震える手でアスペンの白杖を強く握りしめた。
亡き姉アリシアの面影と、父の教えが脳裏をよぎる。
「――フリペンド!」
セラフィナが放った澄んだ光の弾が、トロールの背中に命中した。
直撃のエネルギー衝撃波は致命傷には程遠いが、怪物の注意をハーマイオニーから逸らすには十分だった。
「グアアアッ!?」
トロールがゆっくりと振り向く。その醜悪な顔と、血走った目がセラフィナを捉えた。
「セラフィナ、逃げろ!」
ロンが叫ぶ。だが、彼女は逃げなかった。ここで自分が背を向ければ、隅にいるハーマイオニーが再び狙われる。
「ハーマイオニーさん、今のうちに逃げて! ハリーさん、ロンさん、気を逸らしてくださいな!」
セラフィナは必死に声を張り上げ、再びアスペンの白杖を滑らかな円軌道で振った。
「――ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
彼女が狙ったのはトロール本体ではない。床に散らばった石の破片を浮かせ、トロールの顔の周りで激しく旋回させたのだ。
「ウガアッ! ウガッ!」
目の前で旋回する無数の砂利と破片に視界を塞がれ、トロールが、苛立ち混じりに腕を振り回す。その一瞬の隙を見逃さず、ハリーがトロールの背中に飛び乗り、決死の覚悟で杖を鼻穴へと突き刺した。
「ロン!空き教室で 練習した手首の振りですわ! 旋回軸を意識して重力を先端に集中させて!」
セラフィナのアドバイスを受け、ロンは恐怖を振り払ってアスペンの白杖に似せた手つきで力強く杖を振った。
「――ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」
ロンの放った呪文が見事に決まり、トロールの持っていた重厚な木製棍棒が宙へとふわりと浮き上がった。
そして、脳天へと垂直に落下する。
ドカッ!!
鈍い音とともに、トロールは目を開けたままぐらりと揺れ、地響きを立ててその場に倒れ伏した。
◇ ◇ ◇
静まり返った女子トイレ。 壊れた木くずとホコリが舞う中 、セラフィナは膝をつき、激しく肩で息をしていた。
「……皆さん、お怪我はありませんか?」
震える声でそう問いかけ、彼女は真っ先にハーマイオニーに駆け寄った。
「大丈夫……大丈夫ですわ、ハーマイオニーさん。もう、怪物はいません」
泥を被り、プラチナブロンドの髪が乱れたセラフィナが、優しく手を差し伸べる。
ハーマイオニーはその手を強く握りしめ、溢れ出した涙を拭った。
「みんな……助けに来てくれたのね……!」
「無事で何よりですわ、ハーマイオニー」
そこへ、足音を荒げてマクゴナガル教授、スネイプ教授、そしてクィレル教授が駆け込んできた。 惨状を目にしたマクゴナガル教授は、顔を真っ白にして口元を抑えた。
「いったい何事です! なぜ談話室へ避難せず、このような危険な真似を……!」
激しい叱責が飛ぼうとしたその時、ハーマイオニーが前に進み出た。
「私のせいです、マクゴナガル教授。私が……自分でトロールを倒せると思い込んで探してしまい、みんなは私を助けるために来てくれたのです。ヴァレンティスさんも、私たちを護るために庇ってくれました」
自らを悪者にして自分たちを庇おうとするハーマイオニーの嘘。 セラフィナもハリーもロンも静かにそれに合わせ、共に怒られ、そして共にグリフィンドールとハッフルパフへ点数(各5点)を与えられた。
気まずい沈黙の中、教員たちが去っていく際、セラフィナはスネイプの歩調にわずかな不自然さがあることを見逃さなかった。
右足を引きずるような僅かな重心のブレ、そして黒いローブの裾から透ける、血の滲んだ痛々しい裂け目。
スネイプの鋭い黒い瞳と、セラフィナのアイスブルーの視線が交錯した。
◇ ◇ ◇
事件の後、寮へと戻る静かな廊下。ロンが不思議そうに尋ねた。
「……君、ハッフルパフだろ? なんであんな無茶したんだよ」
セラフィナは、少しだけ困ったように微笑んだ。
「お二人が列を離れて別の所へ行くのが見えましたから。放っておいて、もし何かに巻き込まれたら……一生、後悔すると思いましたの」
「……ありがとう、セラフィナ。君がいなきゃ、僕たちどうなってたか」
ハリーが素直な感謝を口にすると、ロンも深く頷いた。
「ああ、本当にすごかったよ! あの指示がなかったら呪文も成功しなかった!」
「ふふ、二人とも素晴らしい勇気と力でしたわ。命をかけて仲間を守る姿、心から尊敬いたします」
セラフィナが気品ある笑みを浮かべると、ハーマイオニーも恥ずかしそうに、けれど心からの笑顔を見せた。
「私たち……本当の友達になれたわね」
ただの顔見知りや勉強会の仲間ではない。 命を預け合い、共に戦い、秘密を共有した『絶対的な絆』。
だが、セラフィナの胸には、もう一つの静かな疑問が消えずに残っていた。
(ホグワーツの結界を破り、なぜトロールが侵入できたのか……。そして、スネイプ教授の足の負傷……)
「……今回の事件、単なる偶然ではないかもしれませんわ」
セラフィナが密やかな声で呟いた言葉は興奮した三人の耳には届かなかった。
◇ ◇ ◇
談話室の入り口で、泣きはらした目のエマが彼女を見つけるなり、弾丸のように飛びついてきた。
「セラフィナちゃん! 遅いよ、バカ! 本当に心配したんだから!」
「ごめんなさい、エマ。でも、約束通り帰ってきたでしょう?」
セラフィナはエマを優しく抱きしめ、その温もりに安堵した。
◇ ◇ ◇
エマの規則正しい寝息を確認すると、セラフィナは自分のベッドへ潜り込み、先ほどの激闘をじっくりと思い返していた。
暗闇の中で、枕元に置いたアスペンの白杖にそっと指先を触れる。
友を守るために杖を振るったその瞬間、彼女の心には、誇りと同時に、小さな、けれど確かな正義の手応えが残っていた。
(お姉様……。私、少しはあなたに近づけたかしら)
けれど、今の自分の魔法は、トロールという巨悪を単独で退けるにはまだあまりに未熟で、脆弱だった。
(直接的な威力を生み出す魔力も、理不尽を打ち破る技術も、まだまだ足りませんわ……。もっと、皆を護れる確固たる力が必要ですわ)
白く澄んだアスペンの杖を握り直す。
彼女のアイスブルーの瞳には、次なる学びと鍛錬への静かな決意が宿っていた。
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