借金10億の採掘奴隷、無人惑星に捨てられる 作:スペース
今現在、人類は45の星系と10万を超える居住惑星を保有している。
ワープや不老など、人類の到達点と思われていた数々のテクノロジーが生み出され、人類は宇宙の覇者となっていた……
が……
それでも、人の本質というものは一切変わっていない。
「さっさと歩け、殺されてぇのか?」
炎と煙に包まれた街の中に着陸した巨大な黒い戦艦に、手錠を掛けられた人間たちが一列になって進んで行く。
俺もその内の一人だ。
その誰もが絶望的な表情を浮かべている。
その横で、この光景を生み出した宇宙海賊たちは愉悦の含んだ表情を浮かべていた。
崩壊の少ない建物の中から、女の悲鳴と謝罪の声が聞こえてくる。
人体の焦げた匂いが、炎と煙によって運ばれて来る。
逆らうことはできない。
それだけの武力差がこの星と海賊の間には存在する。
助けを呼ぶことはできない。ワープといっても無限の距離を跳躍できるわけじゃない。
現代のワープ技術でもこの国の首都から軍から来るまで最短でも三日はかかる。
俺はこれからどうなるのだろう……
そんな恐怖と不安よりも、腹が減ったという感想が強い。
海賊から逃げ続けて、朝からなにも食べてなかったんだ。
バカだよな、この星のどこにも逃げ場なんてないのにさ……
家族がいた。
俺の将来のことに煩い母親。俺にサッカーやらせたかったらしい父親。いつも俺のために弁当を作ってくれた妹。
でも、このままこいつらに連れて行かれたら再会の可能性はほとんどゼロだろう。
そもそも、逃げてる途中ではぐれたから、まだ生きているのかすらわからない。
生きていてくれたらいいな。
ワープ機能のある避難所まで辿り着いて、逃げられてたりしてくれてたら最高だな。
自分の救助が絶望的になった今、俺に願えるのはその程度のことだけだ。
「ラナ……」
短く、妹の名前が口から洩れた。
凄腕の傭兵や、非番のタクティカルウェアの操縦士や、王国の軍隊や、帝国の騎士隊や、商国の富豪が……
ヒーローが、俺たちの前に現れてこの場の全員を救ってくれる。
なんて、都合の良い展開はない。
船の中に連れ込まれると注射を打たれた。
なんの薬かはわからない。
けれど、そのあとすぐに俺は意識を手放した。
◆
目が覚めると、そこはゴツゴツとした地面の上だった。
灰色の大地と星の光すらなく黒が覆う空。
俺が元居た星とは明確に違う。
だって、月が四つもある。
それに太陽も見える。
太陽があるのに青空ではなく夜空に近い。
空が青いのは空気によって光が反射するからだ。
逆に、青くないってことはこの星には空気がないってことだ。
でも、俺はスーツに身を包んでいるわけでもなく生身でここにいる……
「どこだよここ……俺は生きてるのか?」
太陽の上った黒い空を眺めながら呟く。
周囲に人がいないのは確認済み。
質問でもなければ、誰に向けた言葉ってわけでもない。
ただ単に疑問が口から零れただけ。
けれど、そんな俺の言葉に答える声があった。
『惑星№23502634【ロータス】』
『重力:1.42』
『平均温度:寒冷(日照面は常温)』
『大気:None』
『磁気圏:微弱』
『動物:生存不能』
『植物:栽培不能』
『水資源:凍結。毒性なし』
『鉱物資源:豊富』
その音声はどう聞いても人間のものじゃなかった。
声の高さは女に近いが、喋り方は人間的じゃない。
ロボット……AIか……
「どこだ。どこから喋ってる?」
『あなたから見て右手側にある売買用タブレットに私はインストールされています』
「売買用タブレットだと?」
すぐに右を向けば、そこには薄い本のような形状とサイズをした端末が置かれている。
現代の個人用端末にしてはかなり大型だ。
通信やインターネット接続以上の機能でもあるのか?
「なにを買うってんだ? いや、つーか聞きたいことが山ほどあるんだが」
『私の知ることならお答えします。早急に行うべきミッションもありませんから』
「ミッション? まぁいい、だったら答えてくれ」
それから俺は近くの岩に腰を下ろし、タブレットに向かっていくつも質問をした。
まず、どうやら俺の身体は八割方機械化されているらしい。実際身体に触ってみると人体らしからぬ金属音が響く。全身を肉ではないが肉に近い材質のなにかが覆っているようだ。
味覚や他の感覚もちゃんとあるし、見る限り身体的特徴もそのままだから見た目もそんなに変化してないだろう。
体内には数百憶個のナノマシンが蠢いており、その影響で呼吸は必要ないらしい。
ただ身体能力は現時点では普通の人間と変わらない。
次に俺には任務があるらしい。
海賊に捕まった。そして資産家に採掘奴隷として買われた。
その後、機械化の手術を受け、ここに連れてこられて放置された。
その資産家からのメッセージはタブレットに残っていた。
『10憶CM分の鉱石を回収しろ。それが達成できたらお前は自由だ』という内容の文面が非常に高圧的に書かれていた。
10憶CM……俺の星の普通に生きてる人間が生涯に稼ぐ額の三倍から四倍の金だ。
そしてこの『売買用タブレット』だが、小型のワームホールを生成する機能があるらしい。
それを使って俺の掘った鉱石と俺が購入した商品の運送が瞬時に可能なようだ。
とはいえ、ワームホールのサイズはかなり小さいので俺がそれに入って移動するのは不可能だ。
まぁ、どこに繋がってるかもわからんし入る勇気もないけど。
タブレットによって大手通販サイトが利用でき、大抵の物は購入できる。
採掘用の機械。食料。組み立て式の家。
それに、俺のサイボーグ部分のアップデートパーツ。
つまり、金で身体能力を買うこともできる。
「奴隷……けど、そんなモンを機械化してこんなタブレット与えるなんて案外太っ腹な資産家なのか?」
『機械化と言っても呼吸による生命維持を電力での維持に変換し、高重力下でも耐えるようにカスタムされただけです。タブレットの購入費およびあなたの購入費は手術費と足しても300万CMほどです。あなたが10憶CMの利益を出すのであれば利率は300倍以上となります。おそらくは同じような境遇の鉱員が大量にいるのでしょう』
「なるほど、数撃ちゃ当たるってわけか……」
その300人の内一人でも成功すればいいわけだし、成功しないまでも300万CM分の鉱石を回収できればマイナスじゃなくなる。
嫌な話だ……
「で、お前は?」
『私のモデル名は【リゼ】。ヴァージョンは0.71。目的はあなたの補助。試作機ではありますが、現在一般的に使用されているAIよりはかなり高スペックです』
自分で言うのか……
『今、自分で言うのか、と思われましたね?』
「……」
『このような心理推察機能は他のAIにはないものであると思いますが、いかがでしょうか?』
「そうだな。けどなんでそんな高スペックなAIが奴隷の補助なんて?」
『私のテストを兼ねているのでしょう』
「なるほどね、俺は試金石ってわけか」
機械より下の扱いなんて泣けてくるね。
『それでは登録をお願いしてもよろしいでしょうか』
「登録?」
『私の主人となるあなたのお名前をお聞かせください』
「ロア……ロア・ユーラスだ」
『マスター名の登録完了いたしました。それでは次に、あなたの目的をお聞かせください』
俺の目的……?
『私はあなたになにを達成させるために存在していますか?』
「俺は家に帰りたい」
『【故郷への帰還】を登録』
「母さんや父さんや妹……ラナの安否が気になる。もし苦しんでるなら助けたい」
『【家族の救助】を登録』
「生きなきゃいけない。まだ死ぬわけにはいかない」
『【生存】を登録』
そんなところだろうか?
いや、もっとなにかある気がする。
そもそも俺はなんでここにいる?
海賊のせい。
奴隷なんて制度のせい。
資産家の金儲けのせい。
違うな。違うだろ。
俺がここにいるのは、俺のせいだ。
俺が弱かったからだ。
「できるならさ……海賊にも金持ちにも、誰にも負けない力が欲しいな。もう二度と奪われたくないから」
俺がそう言うと、人間なんて到底敵わない演算速度を持つはずのリゼは、少し溜めを造って答えた。
『登録いたしました。ロア、あなたの最終目標は――【最強】ですね』
「あぁけど、その前に腹が減ったな……」