シャーレ所属の高校生医師は多忙 作:ミレニアムニキ
この作品はフィクションです。
(書かれてることの大体は本当か定かではありません)
シャーレの執務室兼、臨時診療所に設置された大型の冷蔵庫が、静かな駆動音を立てていた。
その前にしゃがみ込み、冷気で真っ白な煙が上がる庫内を真剣な目つきで物色しているのは、シャーレ専属主治医――ミレニアムサイエンススクール所属の河井ケイジである。
白衣のポケットに手を突っ込み、長めの前髪を指先で払いながら、彼は庫内の最奥に隠されていたプラスチックケースを取り出した。中に入っているのは、ミレニアムの生物科学部が「疲労困憊時の急速糖分補給用」として試作した、鮮やかな蛍光ブルーの固形ゼリーである。
「……よし。味のベースは青りんご。だが、糖度は通常の清涼飲料水の約八倍。カフェイン濃度はエナジー・ドリンク三本分……。よし、今日の三時のおやつはこれだな」
「ねえ、ケイジ君……。それ、本当に人間が食べて大丈夫な色をしてないんだけど……」
執務デスクで書類の山と格闘していた先生が、呆れと引きつった笑いが混ざったような顔で振り向く。すっかり健康体を取り戻した先生ではあったが、未だに主治医が日常的に口にする「毒々しい色の科学お菓子」には慣れていないようだった。
ケイジはゼリーのふたをペリッと剥がすと、付属のプラスチックサジで躊躇なく掬い、口の中に放り込んだ。
「安心しろよ、先生。毒性試験はミレニアムの臨床データでパスしてる。ただ、脳内のドーパミン受容体が一時的に飽和して、世界がちょっと色鮮やかに見えるだけだ」
「それが一番怖いんだよ! 完全に危険なやつの症状じゃないか!」
「ハッ、気の持ちようだよ。現代医学において、糖分は脳の絶対的なガソリンだ。……さて、先生の今日のバイタルチェックも異常なし。書類の消化速度も上々。この調子なら、今日の午後は平穏無事に平和なティータイムが過ごせ――」
ケイジが青りんご風味の超激甘ゼリーを喉に流し込み、至福の吐息をついた――次の瞬間だった。
**ドカァァァァン!!!!**
防音施工が施されているはずのシャーレの重厚な自動ドアが、まるで暴走した装甲車でも衝突したかのような破滅的な大音量を立てて吹き飛ぶ勢いで開け放たれた。
「ヒッ!?」と叫んで書類をぶちまける先生。
ケイジは一切動じることなく、青りんごゼリーの容器を保冷バックにサッと仕舞い、冷ややかな視線を入口へと向けた。
「……なんだ? また便利屋の奴らか? 今度は棺桶じゃなくて戦車でも担いできたのか?」
だが、入口の煙の中から現れたのは、赤いマフラーを巻いた少女でも、爆発物を抱えた少女でもなかった。
「あ……あ……あぁぁぁぁ……っ!!」
そこに立っていたのは、ミレニアムサイエンススクールが誇る優秀な会計――**早瀬ユウカ**であった。
しかし、その姿は普段の彼女からは到底想像もつかない、あまりにも凄惨で異様なものであった。
ツインテールは完全に解けかけ、ボサボサに逆立ち、制服のパーカーのジッパーは明後日の方向にズレている。何より恐ろしいのはその顔面だった。両目の下には、まるで墨でも塗ったかのような濃紫色のクマが落ち、見開かれた瞳は血走り、瞳孔が収縮と拡大を不規則に繰り返している。
その両手には、なぜか二台の大型電卓が握りしめられており、パチパチパチパチと人間業とは思えない超高速でキーが叩かれていた。
「数字が……! 数字が飛んでくるのよ……! 会計監査が……円周率の千位から襲いかかってくるの……! 逃げなきゃ……! 補正予算を組まなきゃ……!!」
「ゆ、ユウカちゃん!??? 一体どうしたのその格好!?!?」
先生が悲鳴を上げて立ち上がる。
ユウカは足元をふらつかせながら、まるでゾンビのような覚束ない足取りで執務室へと雪崩れ込んできた。
「あ……先生……? いいえ、違う……! あなたは変数の『X』ね!? 私を因数分解しに来たのね!? 渡さないわよ……ミレニアムの予備費だけは絶対渡さないんだからぁぁぁっ!!」
「キャーッ!? 抱きつかれて威嚇されてる!?? 助けてケイジ君!!」
「……はぁ」
ケイジは深いため息をつくと、白衣の袖をゆっくりと捲り上げた。
「……おいおい、酷い有り様だな。自律神経が崩壊して、中枢神経系が過度の興奮状態にある。瞳孔の対光反射異常、幻視、支離滅裂な言語反応……完全な過敏性精神錯乱状態だ」
ケイジは躊躇なく足を踏み出すと、先生に噛みつこうとしていたユウカの首の後ろ――自律神経のツボと頸動脈の圧迫を避けつつ、衣類の襟元を掴んでひょいと引き離した。
「きゃあぁぁっ!? 離しなさい! 私の計算式を乱さないで! 私は今、一秒間に三万回の演算を行っているのよ! 止めないでぇぇっ!!」
暴れるユウカ。しかし、ケイジの手取りは完璧だった。彼女の腕の関節を無駄のない動きで抑え込み、暴れる力を効率よく逃がしながら、素早く手首の脈拍を測定する。
「……脈拍、毎分百四十五。体温上昇、発汗過多。……おい、ユウカ。俺だ、ミレニアムの河井ケイジだ。俺の顔が分かるか?」
「ケイジ……? うそよ……あんたは……あんたは『アスクレピオスの定数』よ! 私に複雑な微分方程式を解かせに来たのね! 嫌ぁぁぁっ! 私はもう疲れたのよぉぉっ!!」
「完全にイかれてるな。言葉が通じない」
ケイジが冷淡に言い放った直後、廊下からバタバタと慌ただしい複数の足音が近づいてきた。
「あ、あった! こっちだ! ユウカ、待ってくれーっ!」
「ダメですよウタハ先輩! 被験者(ユウカさん)の脳波データがまだ計測途中なんですから、勝手に走らせたら実験結果が台無しです!」
部屋に駆け込んできたのは、ミレニアムエンジニア部の部長・**白石ウタハ**と、部員の**猫塚ヒビキ**、そして**豊見コトリ**の三人だった。
彼女たちの手には、異様なデザインのヘルメットと、怪しげなカプセルが詰まった試薬瓶が握られていた。
「あ! 先生! それにケイジ! ユウカを捕まえてくれたのか、助かったよ!」
ウタハは額の汗を拭いながら、晴れやかな笑顔でそう言った。
しかし――ケイジの視線が、極寒の絶対零度まで冷え切った。
「……ウタハ先輩。エンジニア部」
ケイジの声は低く、そして静かだった。だが、その背後に浮かぶ『アスクレピオスの杖』のヘイローが、不穏な威圧感を放ち始める。
「説明しろ。……このポンコツ会計に、一体何をしやがった?」
「え、あ、いやね……?」
ウタハは一瞬気圧されたように後ずさりしたが、すぐに誇らしげに胸を張った。
「素晴らしい発明なんだよ、ケイジ! 名付けて『全自動脳波同調型・超・短縮睡眠ヘルメット・スーパーキュア』**と、副産物の**『超集中型ニューロ・アクティベーター・サプリメント』さ!」
「長くて怪しい名前ね……」と先生が横から引きつった声を出す。
コトリが待ってましたと言わんばかりにメガネを光らせ、早口で説明を引き継いだ。
「はい! 説明しますと、ミレニアムの会計仕事に追われるユウカさんを見かねて、私たちが開発した画期的なシステムなのです! このヘルメットはですね、特殊な電磁波を脳の視床下部に直接照射することで、たった『一分間の着用』で『八時間の熟睡効果』を脳に錯覚させるという、夢のような睡眠短縮装置なのです! さらに、このサプリメントは神経伝達物質の放出量を一時的に一千倍に引き上げ、脳の処理能力を格段に跳ね上げるという代物でして――」
「で、それをユウカに試したと?」ケイジの問い。
「ええ!」ヒビキがうなずく。「ユウカさんは最初『そんな怪しいもの使えません!』と拒否していたのですが、私たちが『これを使えば溜まった書類が数分で終わりますよ』と提案したところ、背に腹は代えられないとばかりに着用してくれたのです!」
「結果として!」ウタハが胸を張る。「ユウカはヘルメットを被って一分で目を開け、サプリを飲んで恐ろしい速度で書類を処理し始めた! 実験は大成功……だったんだが、三十分ほど経った頃から急に『数字が私を殺しに来る!』と叫び出して、電卓を二台持って脱走してしまったんだよ」
ウタハたちは「いやあ、初期バグかな?」と呑気に笑い合っている。
……その瞬間。
**ドスッ!!**
ケイジが手にしていた診察用カルテのボードが、執務デスクに突き刺さるような勢いで叩きつけられた。
「「「ひっ!?」」」
エンジニア部の三人と先生が、同時に肩を跳ね上げる。
ケイジの顔から、普段の倦怠感や気怠さは跡形もなく消え去っていた。そこにあったのは、患者の肉体を理不尽に損なわれたプロの医師としての、静かで圧倒的な「怒り」であった。
「……全員、そこに直立不動で並べ」
「「「は、はいっ!!」」」
ウタハ、ヒビキ、コトリの三人が、あまりの威圧感に背筋をピンと伸ばして整列した。
「……お前らはバカか? いや、バカを通り越してただの狂人か?」
ケイジは白衣のポケットからペンライトを取り出すと、暴れ疲れてケイジの腕の中で「ぐぬぬ……」とうめいているユウカの目元に光を当てた。
「脳波同調型の睡眠短縮? 視床下部への電磁波照射?……ハッ、笑わせるなよ。人間の睡眠ってのはな、単に脳を休ませるだけじゃねえんだよ。脳毒素の洗浄、ホルモン分泌の調整、記憶の再統合、細胞の修復……生理学上の複雑極まりない代謝プロセスなんだよ!」
ケイジの手指が、ウタハの持つヘルメットを指さす。
「それを『一分間の電磁刺激』で代用できるわけねえだろ! お前らがやったのは睡眠の再現じゃねえ、『強制的かつ人工的なてんかん様脳波の誘発と、脳の強制麻痺』だ! ユウカの脳は今、睡眠をとったどころか、激しい電気ショックを受けてパニックを起こしてんだよ!」
「え……ええっ!?」ウタハが青ざめる。
「さらにだ!」
ケイジはヒビキが持つ試薬瓶をひっつかみ、ラベルの成分表(ミレニアムの科学式)を目でスキャンした。
「神経伝達物質の一千倍放出サプリ……? 冗談だろ……? カフェインと高濃度安息香酸、それに合成アセチルコリンの過剰前駆体かよ! こんなもん、『脳内に直接灯油を注ぎ込んで火をつけた』ようなもんだ! 睡眠不足でボロボロの脳にこんな劇薬ブチ込んだら、自律神経が暴走して幻覚や錯乱を起こすのは当たり前だろ! 現代医学を舐めてんのか!?」
「「「ひ、ひええぇぇぇっ……!!」」」
ケイジの容赦のない、完璧なロジックに基づく医学的説教。
ミレニアムの誇る天才技術者たちも、生体反応と生理学の現実を叩きつけられ、ぐうの音も出ない様子で小さくなっていた。
「技術を誇る前に、人間の肉体の基礎構造を学べ! 銃弾を弾くヘイローがあろうがな、脳みその神経伝達経路は生身の人間と大差ねえんだよ! 生徒の頑丈さに甘えてトンデモ科学を人体実験に使うな、このアホども!!」
「す、すみませんでしたぁぁぁっ!!」
エンジニア部の三人が、見事なシンクロで土下座をした。
「まったく……手間ばかり増やしやがって……」
ケイジは毒づきながらも、腕の中のユウカの体を慎重に持ち上げ、診察用のフカフカなソファへと寝かせた。
「先生、冷却シートと温かい毛布。それから生理食塩水のパウチを持ってきてくれ」
「あ、はいっ! すぐ準備するよ!」
先生が慌てて医療棚へ走り、指示された物資を揃える。
ケイジは手際よくユウカのパーカーのジッパーを下げ、首元を緩めて呼吸道を確保した。両手に握りしめられていた二台の電卓を優しく取り外し、デスクに置く。
「ユウカ、聞こえるか。もう数字は追ってこない。計算も終わりだ」
「う……うぅ……ケイジ……? でも……予備費が……補正予算が……」
「予算の話は後だ。今は目を閉じろ」
ケイジはバッグから、精神鎮静および自律神経の過緊張を和らげるためのマイルドな抗ヒスタミン系・鎮静成分の注射薬を取り出した。
アンプルをパチンと割り、シリンジ(注射器)で薬液を吸い上げる。空気抜きを行い、針先から一滴の透明な液体が飛ぶ。
「腕を出すぞ。少しチクっとするが、動くなよ」
ユウカの細い上腕に消毒綿を当て、慣れた手つきで血管へ針を滑り込ませる。薬液をゆっくりと注入していくと、興奮状態で高鳴っていたユウカの胸の上下が、次第に穏やかなリズムを取り戻していった。
さらに、ケイジはユウカのおでこに冷たい冷却シートを貼り、先生から受け取った厚手の毛布を首元までかけてやった。
「う……あ……なんか……頭のジリジリした音が……消えていく……」
「当たり前だ、過剰な神経伝達を薬でブロックしたからな。……ほら、これを含め」
ケイジがユウカの口元に差し出したのは、先ほどまで自分が食べていた例の「蛍光ブルーの青りんごゼリー」のスプーン一杯だった。
「ん……? 甘い……? ううん……すっごく甘い……」
「ミレニアム製の超高濃度ブドウ糖ゼリーだ。暴走して空っぽになった脳のエネルギーを補給しろ。一気に血清糖度を上げて、強制的に休息モードに切り替える」
ユウカはゼリーの強烈な甘みに瞳をうっとりとさせ、噛み締めるようにゴクリと飲み込んだ。
過剰なストレスと薬理作用、そして急激な糖分補給が重なり、彼女の瞼が急速に重くなっていく。
「ふあぁ……。なんか……急に……ものすごく……眠くなって……きた……」
「寝ろ。今度こそ本物の、生理的な睡眠だ。最低でも十時間は目を覚ますな」
ケイジがユウカの頭をぽんぽんと優しく叩いてやると、彼女は「う……うん……」と小さく呟き、そのまま深いまどろみの中へと落ちていった。規則正しい、穏やかな寝息が部屋に響き始める。
「……ふぅ。初期対応完了だ」
ケイジは注射器を医療用廃棄ボックスに捨て、手袋を脱いで長い息を吐き出した。
執務室には、しんと静まり返った空気が戻っていた。
土下座したまま顔を上げられずにいるエンジニア部の三人に向かって、ケイジは白衣のポケットに手を突っ込みながら見下ろした。
「……で? お前ら、まだそこにいるのか?」
「ひっ!? い、いえ! 申し訳ありませんでした! すぐに撤収します!」
「待て」
ウタハたちが跳び起きようとした瞬間、ケイジの低い声がそれを制した。
ケイジはデスクの上から紙とペンを取り出すと、スラスラと何かを書きつけ、ウタハの額にペタリと貼り付けた。
「……これは?」
「始末書のフォーマットと、人体生理学の基礎講座の受講申請書だ。次回までにレポート用紙十枚分、人間の自律神経と睡眠メカニズムについての論文を提出しろ。提出しないなら、今後エンジニア部が体調崩して駆け込んできても、全部激苦の漢方薬しか出さないからな」
「げぇぇぇっ!? 漢方は勘弁してください……! 分かりました、レポート書きますぅぅっ!」
ウタハたちは涙目になりながら、問題のヘルメットとサプリメントを回収し、蜘蛛の子を散らすようにシャーレから逃げ出していった。
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暴風雨のような大騒ぎが去り、夕暮れの赤い光が執務室を茜色に染め上げていた。
静かな部屋で、ソファに横たわるユウカは、毛布にくるまりながら幸せそうな顔で眠り続けている。両目の下の恐ろしいクマも、幾分薄くなっているようだった。
「……やれやれ。ミレニアムの連中は、ほっとくとすぐ自分の身体を実験台にしやがる」
ケイジは白衣を脱ぎ、パイプ椅子に深々と腰掛けながら、残っていた青りんごゼリーの最後のひとすくいを口に運んだ。
先生が温かい緑茶の入った湯呑みを二つ持って、ケイジの隣に腰掛ける。
「お疲れ様、ケイジ君。本当に凄かったよ……あんなにパニックになっていたユウカちゃんを、一瞬で落ち着かせるなんて」
「……プロだからな。目の前で患者が脳を焼き切らせそうになってるのを見過ごせるかよ」
ケイジは湯呑みを受け取ると、ふぅふぅと息を吹きかけてお茶を啜った。和風の渋いお茶と、口の中に残る科学的な激甘ゼリーの味が混ざり合い、彼は満足そうに目を細める。
「それにしても……」先生は眠るユウカの顔を優しく見つめた。
「ユウカちゃん、本当に限界だったんだね。ミレニアムの会計仕事と、シャーレの手伝いで……ずっと無理をしてたんだ」
「……だから言っただろ。生徒だって人間なんだよ」
ケイジはお茶を飲み干すと、肘を膝について先生をまっすぐ見つめた。
「銃弾を弾くヘイローがあろうが、技術がどれだけ発達しようが、無理をすれば心も体も壊れる。……それを止めるのが、医者である俺の仕事であり、大人であるアンタの役割だろ、先生」
「……うん。そうだね。肝に銘じるよ」
先生が微笑むと、ケイジは気まずそうに視線を外し、白衣のポケットから新しいお菓子――今回は蛍光オレンジ色のミカン風味タブレットを取り出した。
「……ハァーあ。これで今日の午後の昼寝プランは完全に崩壊だ。残業代、連邦生徒会に請求しておいてくれよな」
「あはは、善処するよ。あ、そのミカン味のお菓子、私にも一つくれないかい?」
「あ? アンタには刺激が強すぎるぞ」
「いいからいいから。主治医の味覚を体験してみたいんだ」
ケイジは呆れながらも、オレンジ色のタブレットを一つ先生の手のひらに転がしてやった。
先生がそれを口に入れた瞬間――
「〜〜〜〜〜っ!?!? 甘っっっ!! か、辛い!? 酸っぱい!?? 何これ!?」
「言わんこっちゃない。ミレニアムの『集中力持続型ミカンタブレット』だ。脳がバグるだろ?」
「バグるどころじゃないよ! 頭が痛い!!」
苦悶の表情を浮かべる先生を見て、ケイジは「ハッ」と楽しそうに鼻で笑った。
窓の外では、キヴォトスの街に夜の静寂が訪れようとしている。
シャーレの臨時診療所には、規則正しいユウカの寝息と、先生の悲鳴、そして「やれやれ」と呆れる高校生医師の笑い声が、温かく響き渡っていた。