ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

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冒険者と狩り

 リトルヘッドベア。名前の通り頭の小さい熊だ。とはいえ、その小さいの基準は、体に対して小さく見えるというだけで人間にとっては普通に大型であるし、恐怖の対象だ。

 巨大な体と丈夫な骨格を維持するために栄養を求め過ぎ、単体で生態系を破壊するときもある。

 

 縄張り争いに勝ち続けた熊が進化し続けた結果、たどり着く姿のひとつであるが、食料を求めて人里までやってきて人を喰うこともある。非常に厄介な存在と言わざるを得ない。

 

 暗闇の中で気配と音を消しながら、レニーはリトルヘッドベアを探した。

 重い体ゆえに刻み込まれる足跡や食べた痕跡を探りながら、森を進む。

 

 常に杖に手をかけて、姿勢を低めて歩く。

 

 こちらもフクロウの目(スキル)で夜目が効くが、あちらも夜目が効くのは同じだ。油断しきって不意打ちされればひとたまりもないのは変わらない。

 

 熊は臆病な性格で人間を襲う積極性はあまり持ち合わせないが、リトルヘッドベアは反動なのか、積極的に襲う。

 危険を気にしなくてよくなったと判断したのか、空腹でそれどころでないのか、レニーにはわからない。

 

 森の少し奥の方に入ったところ、沢の近くを歩く。

 

「――――ん?」

 

 視界に何か違和感があった。沢の流れが一部おかしいような、そこだけ盛り上がっていたような。

 

 疑問を明確化する前にそれが現れた。

 

 激しい水の音と、巨大な影。

 リトルヘッドベアだった。レニーに覆いかぶさるように大きな影をつくり、両前足を広げて、レニーに襲いかかる。

 

「なっ」

 

 水生でもないリトルヘッドベアが沢から現れたことに驚く。それでも反射的に手をかけていた杖を引き抜き、カースバレットを放った。

 

 振るわれた前足の爪にカースバレットが打ち消される。だが、全くノーダメージではないようで、前足が弾かれ、隙ができた。

 

 レニーは舌打ちをしながら、大きく後ろにさがった。すり足で間合いを図りながら、杖に手をかける。

 

 あまり体を傷つけたくない。

 

 可食部が減る。素材の価値が下がる。できれば頭を潰して討伐したい。

 エンチャントカートリッジは論外だ。

 

「すぅ」

 

 精神を研ぎ澄ませて、狙いを定める。

 水しぶきをあげながら、リトルヘッドベアがこちらに走ってくる。体が大型化して鈍足になったとはいえ、人間からすれば十分なスピードだ。

 

 間合いを詰められるまで、まさに瞬く間、であった。

 

 咆哮と共に振るわれる爪。

 

 レニーは怯まず、魔弾を撃った。

 

 咆哮に怯えた鳥たちが木々から飛び立ち、水の流れる音を打ち消すように、地鳴りのような轟音が響く。

 

 レニーの体は完全にリトルヘッドベアの下敷きになってしまっていた。体に埋もれて、姿さえ見えない。

 

 ……そして、数十秒後。

 

「……よっと」

 

 下敷きになっていたレニーは、上に乗っていたリトルヘッドベアの体を持ち上げる。

 魔弾は眉間を貫通。脳を破壊して無事討伐成功、である。

 

 熊の急所は三か所だ。基本的にリトルヘッドベアでも変わらない。

 頭、喉、心臓だ。喉は四足歩行の熊では狙いづらく、心臓は横から撃たなければならない。

 

 頭は頑丈な骨と毛皮のせいで適切な角度かつ眉間をピンポイントで攻撃しなければ意味がなかったが、レニーの持つ早撃ちの技術と杖の性能を合わせても正直難しい。

 そこでレニーはあらかじめ杖に魔力を注ぎ込み、中位の魔法を使った。以前、魔弾専門のバレットウィザードというロールの男から教わった魔法のひとつだった。

 

 スパイラル。貫通力に秀でた魔弾だ。

 

 心臓は食料としたいし、喉は狙いづらい。となれば頭を狙うしかない。そう判断したレニーの最善策だった。

 

「さてさて。解体の順序はどうだったかな」

 

 リトルヘッドベアを担ぎ、レニーは沢にその体を沈める。体格もあって、完全に沈むことはない。重さから、流されることもほぼなさそうだった。

 解体をする前に体温を下げたかった。血抜きも必要だ。レニーはリトルヘッドベアの足から頭に向かって、水が流れていくように倒していた。

 

 解体用のナイフを取り出して、その喉をかき切る。血が水とわずかな傾斜により、流されていく。

 

 喉をかき切ったのは血抜きのために他ならない。

 

 あとは毛皮を剥いで、内臓を取り出す。

 

 注意を払わなければならないことは多くあるが、ある程度は解体技術のスキルが補正してくれるだろう。

 

 自分のマジックサックから皮袋をいくつか取り出す。自分自身が使っている皮袋やアシュイムから借りたものもある。なるべく小分けにして、マジックサックに入るものは入れる。マジックサックであればある程度鮮度を保てるからだ。入りきらないものはさすがに手で持っていくしかない。

 

 帰ったらなるべく干し肉や燻製にして、熊鍋で食べきれないものや素材になるものをギルドで換金する予定だ。

 

「さぁて、上手く処理しなきゃな」

 

 舌で唇を舐める。

 

 今日は熊鍋だ。

 

 

 

○●○●

 

 

 

 その後の食事は豪勢だった。

 持ち帰ったリトルヘッドベアの各部位を三人で改めて適切に処理をして、三人分の肉を切り分けて大鍋に入れた。酒や山菜などと一緒にリトルヘッドベアの骨と肉を入れ、じっくり煮込んだ。

 

 しっかりした設備があるわけではない為、アシュイムの家にある鹿や猪を狩ったとき用の備蓄を使わせてもらった。

 

「いやっほー! 熊肉じゃー酒じゃー」

 

 顔を真っ赤にしてすっかり出来上がったラウラが酒瓶片手に騒いでいた。レニーはその様子を眺めながら肉を楽しんだ。濃厚で、甘さのある牛肉のような味だ。脂が特に美味い。

 

 血抜きは上手くできていたようであまり獣臭さを感じられなかった。

 

 通常の熊より気持ち固く感じるくらいである。レニー自身、自分で処理した熊を食べることはなかったのでレニーの腕によって変わったのかリトルヘッドベアの肉質なのかはわからない。

 

「レニー、ありがとう。恩に着るぜ」

 

 安堵した表情でアシュイムが頭を下げる。

 

「どういたしまして」

「悩みの種が美味いもんに早変わりだ。めぐり合わせてくれた神に感謝だ」

 

 アシュイムの言葉にラウラが眉をひそめる。

 

「ちょっとアシュイム! あたしは?」

「感謝してるさもちろん」

「ならよろしい」

 

 得意げに胸を張るラウラ。

 アシュイムはそんなラウラの体をぼうっと見て、慌てて目線をそらした。さっきより顔が赤い。

 

「また食料頼むぜ」

「あいよ!」

 

 アシュイムとラウラで笑い合う。

 レニーは静かに酒を飲む。

 

 それからしばらく豪華な食事を楽しんだ。

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