ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

150 / 150
冒険者とディバング

 酒場ロゼア。

 久しぶりの角の席でレニーはぼうっと酒を飲んでいた。

 

 ティングルは温泉でメタモライムを巨大化させ、パニックに陥れる予定だったらしい。それを未然に防いだレニーたちの宿泊費はタダになり、決定事項ではないがギルドロゼアとの提携契約も前向きに考えてくれるということだった。一日交渉していたフリジットはホクホク顔で喜んでいた。

 

 浮いた宿泊費は今回のティングル逮捕の報酬として支払われることになった。要はボーナスだ。

 

「レニー、相席いいかい」

 

 目を向けるとノアが立っていた。珍しく相棒のメリースはいない。

 

「……構わないけど」

「ありがと」

 

 ノアが座る。そして、レニーの方へ顔を寄せた。そして、口元に手をあてる。耳元で囁くときに手を立てて、口の近くに当てるあの形だ。

 

「ディバング行ったんだって?」

「まぁ」

「温泉はどうだった」

「気持ちよかったよ」

 

 ノアがディバングに興味あるとは意外だった。そも、レニーは早撃ちの勝負を持ち掛けられるだけでツインバスターのことは大して知らないのだが。

 

 顔を赤くしながら、小声で話される。

 

「こ、混浴は入った?」

「……入った」

 

 目を見開かれる。

 

「だ、誰と。一人で?」

「フリジットとルミナ」

 

 口に手を当てて驚かれる。

 

「うわぁ、大胆」

「ミズギ着てるしね」

「あっ裸じゃないんだ」

「場所によるけど、裸は基本ないんじゃないかな。それ用の身に着けるタイプのバスタオルとか、ミズギとかが基本だと思う」

 

 もしかしたら本当に男女区別なく入る混浴もあるのかもしれないが、レニーは興味がないので知らなかった。

 

 ノアは顎に手を当てて考え込む。

 

「そういうことなら、大丈夫なのかな」

「大丈夫って」

「今度、メリースにディバングに行こうって話をしようと思って」

 

 それから小声で「デートだよ、デート」と呟かれる。

 

 まぁ、年頃の男女だからそういう楽しみを求めるのは当然か。

 

「できればメリースと一緒に温泉入りたいなって」

「いいんじゃないかな。ついでに店もまわっておくといい。フリジットもルミナも美容品買ってたし。メリースもそういうのを買いたいかもしれない」

 

 レニーが見た限りでは香水もよかった。女装用に少し購入したくらいだ。使う機会はほとんどないだろうが。とれる行動が多いに越したことはない。フリジットもルミナも毎日髪の洗浄剤を変えていたし、メリースも女性であるからそういったものを欲しがるだろう。

 

「レニーが混浴できたくらいなんだ、俺でもメリースと入れるよね」

「何を比較してるかわからないけどキミらの仲なら平気でしょ」

 

 ノアとメリースは両想いだろうし、発言を振り返るに付き合っているであろう。付き合っているからこそ恥ずかしかったりするのだろうか。

 

 なんにせよ、レニーに乙女心まではわからない。ただ、断る姿が想像しづらいというだけだ。

 

「そうかな。嫌がられない?」

「ないんじゃないかな。オレの印象でしかないけど」

 

 ノアは嬉しそうに笑った。

 

「なら、がんばって誘ってみるよ」

「……うん? まぁがんばりな」

「ありがとう、レニー。邪魔して悪かったね」

 

 ノアは立ち上がると離れていった。

 

 混浴。

 

 フリジットとルミナのミズギがちらついてかぶりを振る。

 カンナギを出る際に武器を背負い、杖をホルスターに収めたとき、妙に安堵したことを覚えている。

 

 冒険者でも何でもない日々。まぁ、ティングルのせいで半分仕事をしたようなものだったが、それでも、普段仕事仲間である相手との、仕事でも何でもない日々を過ごすのは、妙に気持ちが浮ついてしまって落ち着かなかった。軽い食事や、飲みに行って愚痴を聞くことはあった。しかし、そういう軽い人付き合いではなく、旅行という大きなイベントは、ほとんどなかったように思う。楽しくはあった。楽しかったが、そう何度も行きたいと思えるものでもなかった。

 

 戻ってきてからは依頼をいろいろこなしている。浮つきがすっかりなくなって、すっぽり収まっている実感があった。

 

 酒を一気にあおって、ため息が漏れる。

 

 やっぱり冒険者をやっている時が一番落ち着く。

 この性格が冒険者に向いており、人として致命的なことを、レニーは気にしない。

 

 気にしない方が、楽だからだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

特任騎士のオレの仕事は、暴れる王女サマを見ていることです(作者:月待 紫雲)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

戦闘狂のエルゼ王女は今日も無双する。オレは見てれば良いという楽な仕事。▼王女が倒した魔物はオレが倒したことになり、オレの騎士としての評価が上がっていく。▼今朝もオレの魔物討伐のことが新聞に載っていた。▼そんな全然――戦ってないのに。▼……え? 剣の指南役? 王女様の? オレが??▼※カクヨム、小説家になろうにも投稿しております


総合評価:4631/評価:8.56/連載:47話/更新日時:2026年10月16日(金) 07:15 小説情報

義務レットは自由に生きてみる(作者:POTROT)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

義務と責務に追われて死んで、転生しても義務と責務に追われる日々。▼そんなある日、全てが嫌になったギムレットは義務を捨て、レットになった。


総合評価:3495/評価:8.46/連載:9話/更新日時:2026年07月26日(日) 15:56 小説情報

駆け出しハンターは英雄に憧れる ~だけども、どうやら人間は滅んでいるらしい~(作者:木乃実なぎ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

▼ これは、英雄に憧れた少年が――いつか、誰かにとっての英雄になるまでの物語。▼ 生まれてから十七年。▼ 母と二人、森の奥で暮らしていた少年ルキウスは、物語に登場する英雄へ憧れ、ハンターになるため旅へ出る。▼ 胸が躍るような冒険を夢見て辿り着いた、自由交易都市エルドラン。▼ そこで彼は、この世界の常識を初めて知った。▼「え? 人間は千年前に滅んだ種族?」▼「…


総合評価:1933/評価:8.56/完結:77話/更新日時:2026年09月08日(火) 21:00 小説情報

崩壊世界でルートシューター(作者:穴熊拾弐)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

ルートシューターってジャンルのゲームがある。広大な廃墟に放り出されてゴミを漁って持ち帰る。それを売ったり、施設を改良したりして成長していくってゲームだ。俺はそれをやらされている。何故か人を喰う怪物が闊歩し、滅亡寸前の現実世界で。▼金が尽きれば命が尽きる。崩壊世界で生きる1人の傭兵の話。▼


総合評価:4470/評価:8.37/連載:68話/更新日時:2026年10月10日(土) 11:00 小説情報

処女の女冒険者に気をつけろ(作者:三つ眼の荒木)(オリジナル:ファンタジー/恋愛)

冒険者は命がけの仕事だ。▼だからパーティを組めば、いつの間にか誰かと誰かがくっつく。▼フリーでやっていて弱い女には、体目当ての依頼しか回ってこない。▼つまり、フリーで長く続いていて、下世話な噂が一つも聞こえてこない女冒険者。▼そういう相手は、体を売らずに済むほど強く、それでいて誰ともパーティを組めなかった人間ということになる。▼強くて訳アリの女。▼「処女の女…


総合評価:3714/評価:7.07/連載:12話/更新日時:2026年09月29日(火) 20:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>