ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

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冒険者とアイデア

 肉料理の店でフリジットはルミナと向かい合っていた。

 

 目の前に置かれたステーキにナイフを入れる。ルミナはフリジットの平均的な量のステーキではなく三枚積みにされたステーキの上に目玉焼きがのっているものを食べていた。

 フリジットはルミナの髪を見つつ、口を開いた。

 

「……髪型変わると結構印象変わるね」

 

 ルミナの髪型がいつもと違ってストレートになっている。束ねられているとあまり実感がわかなかったがフリジット以上に長いかもしれない。

 この間結ぶのに使っていた紐が千切れたらしく、ストレートヘアになっていた。イヴェールという災害級の魔物と戦った直後であったし、限界だったのだろう。

 

「変?」

「いやぁ、凄い綺麗だと思う」

 

 ステーキを食べながら会話を続ける。

 ルミナが髪を二つに束ねているときは若干幼さを感じたが、今は薄れている。普段よりも大人びて見えた。

 

「ありがと。フリジットもショート、似合ってる」

「ふふん、そうでしょ? ありがと。でもこれショートボブじゃないんだなぁこれが」

 

 髪を触りながらフリジットは笑みを浮かべる。

 

「どう、してるの?」

「えーっと三つ編みをつくって、内側にくるくるっと。説明難しいなぁ……今度やってあげようか?」

 

 ルミナはコクリと頷いた。ちょっとだけ嬉しくなる。

 

「フリジット、たまに髪型変える。なんで?」

「気分転換かなぁ。普通に髪が邪魔に感じてまとめ上げるときもあるし」

 

 長い髪は楽しい。いろいろアレンジができる。ショートカットにはできないが、そういう風に見せることもできる。今回フリジットが試したのがそういう髪型だった。

 

「ところでさ、ルミナさんはヴァレンティーナの双日どうするのー?」

「ヴァレンティーナ……」

 

 ルミナは首を傾げてから小さく声を漏らす。

 

「……忘れてた」

「えぇ……」

 

 長年ソロ冒険者をしているせいかエルフの文化では馴染みがないのか、あまり重要ではなさそうにルミナが呟く。

 

「……ヘアピン」

「へ?」

「ヘアピン。買おう、かな」

「……あ」

 

 言われてレニーがたまに前髪を鬱陶しそうにしている時期があることを思い出した。大体その数日後等に軽く髪を切ってはいる感じは何となくあった。レニーは他の男性冒険者に比べて長めの髪を意識して維持しているようで髪を切ってもあまり印象が変わらないのだが。

 

「頑丈なヤツ。きっといろいろ使える」

 

 確かに。

 と、フリジットは納得した。普段使いでなくても髪が長くなって、作業中などはつけたほうが楽な場面もあるだろう。

 

 さっきまでヴァレンティーナの双日のことを忘れていただなんて嘘のようだった。

 

 恋のライバル恐るべし。

 

 一緒にあれこれ考えようと思ったのだが、フリジットの悩みが強まるばかりだった。

 

 ステーキは美味しかった。

 

 

 

 ○●○●

 

 

 

 受付嬢の仕事を終え、セリアと更衣室で駄弁る。

 

「助けてぇセリア先生」

「助けてって言われてもねー」

 

 受付嬢の制服を脱ぎながら、セリアに救いを乞う。セリアはフリジットの全身を眺めながら、目を細めた。

 

「婚約までいったんでしょー? 何かアイデアない?」

「ちょっ、人の恋愛を自分の恋愛と同一視しないほうがいいわよ。全然中身違うんだから。私の彼氏とレニーさんじゃ全然タイプ違うんだし」

「うぅーでもぉ、でもなんかあるじゃない。私よりは何か」

 

 セリアは下着姿でフリジットに近づくと、同じく下着姿のフリジットの腹部を指でなぞった。

 

「おんぎゃっ!?」

「見た目は完璧なんだから、誘惑でもしたら」

「見た目はって何!? というかヴァレンティーナのプレゼントの話してるんだけど」

 

 セリアは口角を片方だけ上げる。

 

「いやぁ反応に色気がないというか」

「びっくりしてるんだから当たり前でしょ!」

「それ」

 

 耳元で息を吹きかけられる。

 

「おっぼばっ!?」

 

 さっと後ずさり、自分の体をかばうように若干背を向ける。

 

「……真面目に本人に聞いた方が間違いないんじゃない?」

 

 上着を着ながらセリアは告げる。

 

「というかレニーさんなら大体受け入れてくれそうだけど」

「それが、困るの! 好みが全然っ、わからないからっ!」

「じゃあ、チョコレートでもつくる? 甘いモノ平気ならだけど」

「チョコ?」

 

 セリアは頷く。

 

「ドライフルーツとか使って、手作りのチョコつくるのよ。なんなら形も自分の好きにできるわよ? ハートとか」

「そ、それは直接的過ぎて恥ずかしいかも」

「鈍感相手にはストレートでいった方がいいわよ」

 

 手をひらひらさせながらセリアが力説する。

 

「鈍感……なのかな」

「でなきゃ同性が好きでしょ」

「それ本人に言ったら怒るよ」

「うわ、怖そう」

 

 想像だけで体を震わせるセリアに苦笑いしながら、フリジットは考える。レニーは果たして恋愛感情に鈍感なのだろうか。

 

 感情を読み取るのは得意なようだし、鈍感とはまた違う気がする。言葉の機微の問題でしかないのだが。

 

 着替えを済ませ、荷物を持って二人で更衣室を出る。

 

「あ、言っておくけど手作りだからって血とか混ぜないでね」

「どんな人!? 普通につくるよ!?」

「普通がどれだけ難しいか」

 

 哲学的な呟きと共にため息を吐くセリア。あまり掘り下げない方が良い気がした。

 

「ま、レニーさんに聞いてみて、それでも思い浮かばなかったら私んとこに来なさいな。私は手作りチョコにするから。ついでよついで」

「お願いします、師匠」

 

 セリアはいたずらっぽい笑みを浮かべる。

 

「お菓子作り苦手だもんね、フリジット」

「あっははは……」

 

 冒険者時代は簡単なものしか作らなかった為、料理などは少し凝ったものになるとすぐに失敗する。この間はハンバーグを作ろうとしたらただのミンチ焼きになっていた。

 

 包丁をはじめとした道具は一級品なのだが、宝の持ち腐れだった。

 

 ……何をプレゼントするにせよ、喜んでもらえるといいなぁ。

 

 セリアと並んで歩きつつ。フリジットはそう思った。

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