ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

205 / 209
冒険者とナゾの獣

 震えながら冒険者カードを返される。

 

「ななんなんなな、なんでルビー冒険者様がこんなへんぴなところへ」

「獣退治に来たんだけど。要件はそれでしょ」

「そそっ、そうでございますけれども」

 

 冒険者カードを仕舞い、マジックサックからクロウ・マグナとミラージュを取り出して武装する。

 

「敬語とかいいよ。煩わしいし」

「い、いやしかし」

「オレは気にしないよ。話すのが楽なほうでお願い」

「で、では。レニーさんはなぜこんなパール冒険者の応援を」

「興味あったから」

 

 クロウ・マグナをホルスターに入れ、ミラージュを背負う。依頼は人を襲う獣の退治の協力を要請するものだった。

 

 冒険者でもギルドのある街を拠点にして依頼をこなす者、旅をして各地を転々とする者、そして村や地域に雇われ定住しつつ依頼をこなす者がいる。

 

 定住して活動する冒険者を常駐冒険者と呼ぶ。正式に冒険者が分類されているわけではないため、俗称だ。

 

 ベアトリスはそれに該当する冒険者である。等級は上がりづらいが、住んでいる地域から信頼を得やすく、安定して依頼をもらえて報酬も出る。自分の気に入っている地域を守りたいと思った人間にはぴったりの働き方だ。

 

 レニーが受けたのはその常駐冒険者の支援依頼だ。

 

「捕まんないんでしょ、その獣」

 

 周辺の村々で人を襲う獣。食い荒らされた死体だけが増えていっている。

 

 ベアトリスは暗い表情で頷く。

 

「活動範囲が広いようでな。犠牲者は増える一方だ。遭遇できるのなら私の手で倒すのだが」

「うーん、ただの獣じゃない可能性もあるからなぁ」

 

 モンスターにしろ害獣にしろ、パール冒険者ひとりでは危うい可能性は十分にある。協力を要請したのは正解だろう。

 

「それで、ヴァイスっていうのは」

 

 レニーの質問に、ベアトリスは嘆くようにため息を吐いた。

 

「若者で構成された反社会集団だ。この地域で色々好き勝手やっている。最近じゃ、ひとつ村を形成してそこにメンバーが住んでいる。やつらが巡回と称して集団でここらをまわるようになってから獣の被害が少なくなってな。おかげでやつらの行動もどんどん尊大さが増していっている」

 

 三人ですらうるさいくらいに騒いでいた連中だ。村を形成できるほどの人数であれば、いくつかのグループで騒音を立てながら歩き回れば、音を聞いた獣が警戒して近づかなくなるのだろう。

 

 巡回そのものは村に良い影響なのかもしれないが、問題は巡回や日常生活において問題を起こすことだろう。この地域にとっては第二の恐怖でしかない。

 

「リーダーは」

「ファーカーという男だ」

「ついでに叩くか」

 

 とりあえず面目を丸つぶれにすればいい。獣がいなくなって巡回の有用性がなくなり、リーダーも倒されれば大きい顔はできないだろう。

 

「ま、あちらさんが来るまでのんびり待つか」

 

 エサはまいてある。食いつくのを待とう。

 

 

 

  ○●○●

 

 

 

 日が沈んできた。

 魔光石でテーブルの上を照らす。そこにはこの周辺の地図が置かれていた。

 

「よく調べてある。さすが常駐冒険者だ」

「レニーさんは常駐冒険者と仕事することがあるのか」

「賊を相手にするときに何度もね。事前にほしい情報はほとんどある」

 

 地図には獣の目撃情報や出現地点、時間、犠牲者の特徴等、細かい情報が書き込まれ、また分類されている。

 

「見た目は狼に似てて、赤い毛皮に背中は黒い縞模様ねぇ」

 

 他にも塀を乗り越えていった話や家畜を無視して人を襲った話。頭を噛み砕かれた死体や、女性や子供が被害にあいやすい傾向にあるなどかなり分析されている。

 

「おそらくだが狼ではない可能性のほうが高い」

「まぁ外見からしてねぇ……熊は?」

 

 この地域に住んでいる人間にとって馴染みのある肉食獣が狼しかいないというだけだろう。他の獣の可能性は十分にある。

 

「ないな。狼も熊も優れた跳躍力は

ない。この獣は跳躍できる」

「出現時間からして二匹はいるか」

「同種か別種かはわからないが二匹はいるな」

 

 様々な情報を二人で吟味する。

 

「……こいつ」

「どうしたんだ、レニーさん」

「いや明らかに獣が避けてた場所が、ある日を境にそこに出始めてる」

 

 村々が密集している、地図でいう内側の方の地域。そこは全く最初は襲われていないようだった。村々の一番外側を周るように人を襲っている。女性や子供も多いが男性も襲われている。

 

 だがある日をきっかけに内側の方も襲われ始めた。そこからは正に神出鬼没といった動きをしているようだ。

 

 ここらから男性の被害が急に少なくなる。女性や子供が狙われやすくなっていた。そして徐々に襲われる頻度が緩やかになっていき、男性はほぼ襲われなくなっている。

 

「時期的にヴァイスの村ができたあたりだな」

 

 ベアトリスがある円を指差す。地図上では村と認められていないからだろう。円で書き足されていた。

 

「ヴァイスに追い立てられた……?」

 

 ベアトリスの推論にレニーは首を小さく振る。

 

「いやたぶん……とにかく調べてみないとわからないな。このヴァイスの本拠地、明日案内してくれる?」

 

 ベアトリスは顎に手を当て難しそうな顔をした。

 

「うーむ……」

「どうしたの」

「その、申し訳ないのだが」

 

 ベアトリスは顔を赤くして、レニーから視線をそらす。

 

「新しい場所なので私が案内しようとすると確実に迷う」

「……へ?」

「に、苦手なのだ。慣れ親しんでいない場所に行くのは。歩いていったら迷って予定より大幅に時間がかかってしまう。村人も怖がって行きたがらないだろうし」

「……常駐冒険者さん?」

 

 うぅ、とベアトリスが俯く。

 

「面目ない」

「……いや、まぁ。オレも名前覚えるの苦手だし」

 

 できないことを責めても仕方がない。むしろこれだけ情報を集めてまとめているのだから優秀なくらいだ。

 

「なら」

 

 レニーが言葉を続けようとしたところで扉が強く叩かれた。

 

『オラァ! 出てこいや!』

 

 レニーは扉を指さす。

 

「案内してもらうか」

 

 ベアトリスは拳を握りながら頷いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。