ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

22 / 24
冒険者と対人戦

 冒険者は死線を好む。

 それは己のスキルツリーが成長する、確たるものだからだ。いつ成長するかわからないスキルツリー、鍛錬だけでは芽吹かない新たな境地(スキル)。それを求めて、冒険者は時に危機を望む。

 

 とはいえ死の恐怖がないわけではない。いざその苦境に立たされると、逃げ出してしまうものも多い。多くの場合、死の危機というのはギリギリ切り抜けられるものではなく、圧倒的な絶望感と共にやってくるからだ。

 

 それでも歴戦の冒険者は死線を越える。

 

 何度もやっていると人間、適応してくるらしい。

 死線を好んでいると、副作用的に戦闘への適応が起こる。体ではない、趣味嗜好の範囲でだ。

 

 好戦的とまではいかないが、強い相手と対峙した場合、最初に沸き上がる感情は「期待と興奮」だ。

 

「何を笑っている」

 

 檻を背にし、レニーはカットラスで攻撃を捌きながら、投げかけられた問いに答えた。

 

「楽しいから」

 

 例えばフェイント。目線の動きに誘導されて、不意を突かれる。足の動きで対応を決めるが、予想を裏切られる。

 迫った死を、己の技量で持って流し去る。

 その過程、結果。

 全ての駆け引き。それが癖になる。

 

「ボルテックス」

 

 ドナティーリが魔法を唱えるとレニーの視界から消えた。スピードを上げるものだろう。

 

「後ろと見せかけて」

 

 レニーはカットラスを逆手持ちにする。

 

「上だ」

「ぬぅっ!」

 

 脳天割りを鍔(つば)で受け、刃に流す。だが、防いだのは一対のうち片割れのみ。着地後の隙を埋めるように、二撃目が振るわれた。

 レニーはカットラスを右手から左に持ちかえる。順手で持ったカットラスで、二撃目を迎え撃った。

 互いに力で押し切ろうとせず、距離を取る。

 

「やるぅ」

「……なぜさっきのように杖を使わない」

 

 剣先を向けられる。

 

「使ってほしいかい?」

「使わない理由、当ててやろうか」

「なんだい」

 

 まるで肉食獣のように歯を剝き出しにする。

 

「俺に当てることができないんだろう」

 

 確かに、目の前の男はバッギスより動きが速い。バッギスが射線上から逃れていたように、ドナティーリも同じことができるだろう。

 

「さぁ、どうだろうね」

「答えているようなものだなっ!」

 

 ドナティーリが駆ける。

 間合いを詰め、竜巻のように己を回転させながら二刀を振るう。レニーはカットラスで受けつつも、自分の体も意図的に逸らした。

 刃を凌ぎきるが、次に蹴りが飛んできた。

 

「あぶっ!」

 

 咄嗟にシャドーステップを発動させ、後ろに下がる。

 

「シャッ」

 

 逃げた先に、突きが放たれた。

 レニーは正確にその剣先を捉えると、カットラスで弾き上げる。

 弾きのスキル補正も乗って、相手の体勢を大きく崩した。

 懐に、入る。

 思わず、舌なめずりをしてしまった。

 

「ぐ」

 

 カットラスを横に振るう。

 相手は崩れたバランスを利用して上体をそらしながら跳んだ。そしてそのまま、後ろへ宙返りしてみせた。レニーの一撃は空を斬る。

 再び踏み込む。

 

「うん?」

 

 追撃を仕掛けようとするが、足が止まる。外から、かすかに紫色の光が見えたからだ。教会の中に、わずかな風が吹き込んでくる。

 

「魔力、か?」

 

 魔力の色は、正直重要ではない。本人のイメージした通りの色に出力されるだけだ。炎を燃やすイメージで魔力を操れば赤くなるし、水をイメージすれば青くなる、そんな曖昧な性質だ。

 

 ただ魔力が可視化されるほど放出される、という事態は異質だった。

 

 周りに影響を与えて風を起こしたり、物を壊したりできるので、威圧目的でやる者もいる。魔法で脅す方が圧倒的に効率がいいが。単純にそれをやる余裕があるということは強いということなので、脅しとしては案外効果的だったりする。見た目も派手なので、印象も残りやすい。

 

 ただ少なくとも戦闘中に、ましてや格上相手に行うものではない。

 

「弟が本気を出したか。もうあの女は終わりだろう」

「彼女、オレより強いのに?」

「たったひとりでアレは倒せんよ」

 

 腰のあたりから薬瓶を取り出し、飲み始める。

 レニーは外を気にしながら、その様子を眺めるだけだった。

 

「なんだ、狙わないのか? 絶好のチャンスだというのに!」

 

 ドナティーリの体から魔力があふれ出す。筋肉が膨張し、引き締まっていく。外見上の見た目は毛の生えた程度しか変わっていないが、大幅なパワーアップが起こっているのは火を見るよりも明らかだった。

 

「どうだ、素晴らしい力だろ」

 

 溢れんばかりの魔力がドナティーリから放出されていた。外で見えている光も、恐らく同じ手段によるものだろう。

 レニーは答えず、ただ黙って構えを解いた。

 

「フッ、この溢れ出る力に、恐怖を抱いたか」

 

 自然体になったレニーに、ドナティーリは勝ち誇る。

 

「仕方あるまい。先ほどまで互角だったというのに、ここに来て圧倒的な差が」

 

 二発。

 両肩を魔弾が貫いた。

 だらんと腕が垂れる。

 

「あ?」

「どうしたの。何か不思議なことでもあったかい」

「……いつ、杖を抜いた?」

 

 レニーの杖はホルスターの中だった。

 

「ちょちょいと今」

「……このパワーを手に入れた俺が、見えないだと」

「あのさぁ、そういうの(過剰なドーピング)って判断力鈍るんだよね。細かいところに気が行かなくなる」

 

 あくびをするレニーと、驚愕に目を見開くドナティーリ。

 両者の態度は真逆だった。

 

「バ、バカな。こんなはずは」

「射線で予測されるならさ、予測されない速度で撃てばいいだけ。でしょ?」

 

 こんな風に、と。

 両膝を撃ち抜く。たまらず、膝から崩れるドナティーリ。

 その顎に膝蹴りを叩き込む。

 

「がはっ」

 

 ドナティーリは意識を刈り取られ、仰向けに倒れた。無論、先ほどまで溢れ出ていた魔力は消えている。

 

「全く。ガッカリだよ」

 

 気絶したドナティーリに向けて、レニーは盛大なため息を吐いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。