ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

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続:あこがれの話
冒険者と語り聞かせ


 テーブルに並べられた質素な夕飯を食べ終え、ルミナは首をかしげる。村に立ち寄って、ルミナを泊めてくれた夫婦のうち妻の方が、パン粥を両手に持ってやってきた。

 

 夫婦も食事を終えているはずであるが、パン粥は作りたてのようだった。

 

「あのルミナさん。無理なお願いかもしれないんだが、息子に粥を食べさせてやってくれないか」

 

 向かいにいた旦那が、神妙な面持ちで願いを乞う。

 

「どう、して?」

 

 母親が食べさせたほうがいいのではないだろうか。

 

「息子の夢が冒険者なんです」

 

 震える声で、母親が笑う。

 

「でも、病気になってしまって。お医者様の話だとどうにもできないと」

 

 深刻な話であった。ルミナは言葉が出ない。

 

「ルミナさんは冒険者だと言いましたよね。少しだけでもあの子にお話してほしいんです、冒険者のことを」

「ボク。うまく、話せない」

 

 ルミナは首を振る。ルミナの動きに合わせて、二つに結んだ金髪が揺れる。

 それから、ルミナは「でも」と続けた。

 

「やるだけ、やる」

 

 立ち上がって、パン粥の器を受け取った。母親に子どもの部屋に案内してもらい、中に入る。

 

「お母さん……」

 

 かすれた声で、ベッドの上の少年が母親を呼んだ。

 

「ヴェルト。こちら冒険者のルミナさん」

「カットサファイア、ルミナ。よろしく」

 

 人差し指と中指を立てて、ルミナは自己紹介する。するとヴェルトは体を起こした。ぼーっとした表情でルミナを見る。

 

「ぼうけんしゃさん……」

「そ。これ、カード」

 

 ルミナは片手で冒険者カードを取り出すとそれをヴェルトに渡す。恐る恐るといった感じで受け取ったヴェルトは目を凝らしてカードを間近にまで近づけて確認した。どうやら目が悪いらしい。

 

「すごい。冒険者だ」

 

 母親に促されるまま、丸椅子に座る。

 

「ルミナさんがお話してくれるって。ご飯も食べさせてくれるから、食べながら、いろいろ聞くのよ?」

「……いいの?」

「あまり得意じゃない。それで、いいなら」

 

 ヴェルトは笑みを浮かべて、涙を流した。

 

「ありがとう。お姉さん」

 

 ルミナはカードを返してもらい、パン粥を掬う。母親はルミナに深くお辞儀をしてから部屋を去る。二人きりのほうが遠慮なく話ができると思ったのだろう。

 

「食べれる?」

「うん」

「あーん」

 

 パン粥をヴェルトの口の中に入れる。少し食べづらそうだったが、難しいというほどではなさそうだった。

 

「何、聞きたい」

「ドラゴン退治!」

 

 夢見がちな話だった。ルミナは体験しているが、体験していない冒険者のほうが多いだろう。

 レニーだったら、どんな話をするだろうか。彼のほうが話すことは得意だろうから、今回の仕事にも手伝いを頼めばよかったと思う。

 

「ならワイバーン退治の話」

 

 口下手であるから、参考になりそうなレニーの話し方を思い出しながら、精一杯話を始めた。

 

 

 

○●○●

 

 

 

 いつの間にか、ヴェルトは眠っていた。空になった器を持って、ルミナは部屋を出る。

 テーブルで両親が向かい合っていた。母親が駆け寄って、ルミナから器を受け取る。

 

「ありがとう」

「……本当に、何もできない? 治らない?」

 

 ルミナが尋ねると、ふたりとも首を振った。

 

「ないわけじゃないが、わたしたちには無理なの」

 

 母親が痛々しい笑みを浮かべる。父親は強く拳を握りしめた。

 

「東の方、森に生息するコウミョウナマケから採れる苔が手に入ればどうにかなるらしい」

 

 コウミョウ苔か。

 ルミナは記憶を掘り起こした。解熱効果の高い苔だ。軽く潰して煮るだけでいい。ナマケモノの仲間であるコウミョウナマケの体に生えている。

 

 ただこのコウミョウナマケから採取するというのが難しい。

 

「ヨートゥン」

 

 ルミナの呟きに二人が頷く。ヨートゥンというのは巨人と呼べる体を持つ、毛むくじゃらの魔物だ。穏やかではあるが、縄張り意識が強く、縄張りに入ると群れで襲われる。コウミョウナマケはヨートゥンの毛に隠れていて、ヨートゥンの毛に引っかかった虫などを食し、コウミョウ苔はヨートゥンの食料になる。つまり、共生関係だ。

 

「依頼するほどのお金もないし。ヨートゥンは危険だから」

 

 諦めた顔の母親に、ルミナは自分の胸を叩く。

 

「ボク、行ってくる」

「え、でも」

「ボク、その方が得意。依頼料は宿代」

 

 両親が顔を見合わせる。そして、二人で頭を下げた。

 

「よろしく頼む」

 

 ルミナは強く頷いた。

 

 

 

○●○●

 

 

 

 ヨートゥンは討伐対象になることはほぼない。凶暴化したヨートゥンと言われるトロールは別ではあるが、ヨートゥンは縄張りに踏み込まなければ無害であり、そして特段素材に価値があるわけでもない。群れで固まっていることもあり、集団で襲われる可能性もある。危険性の方が高いのだ。

 

 そのため、ヨートゥンの討伐依頼が出ることはほぼない。討伐してもメリットは少ない。

 

 コウミョウ苔はコウミョウナマケにしか生えないわけではない。この地域で確実に手に入る手段がコウミョウナマケからの採取なのだろう。苔としては見分けがつきづらく、また生える条件も通常の苔とは違い、湿気が重要になってくる。

 

 コウミョウナマケが夜、ヨートゥンが眠りきった状態で排泄のために地上に降りる瞬間を狙って採取するのが安全な手口だ。それでもならず者(ローグ)のような忍び込むスキルに適した人物がいた方が良い。

 

 ルミナは森の中を突き進む。

 

 昼間である。

 

 これからヨートゥンの縄張りに踏み込んで、コウミョウナマケから苔を採取する。

 

 ヴェルトを治療するために、悠長に待っていられない。ルミナ自身も気長には待てない。ヨートゥン相手に怯える等級でもない。ルミナはシンプルなやり方のほうがしっくり来る。

 

 正面突破。

 

 ルミナにとっての最適解だ。

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