ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

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冒険者と男装

「おかえりなさいませ、お兄さん」

「何言ってるんだキミは」

 

 デイリスの家に案内され、先に帰ってきた受付と対面する。

 

「大人の階段は登れましたか?」

「そういうお店じゃないでしょ」

 

 女性との会話を楽しむ店だ。それ以上でもそれ以下でもない。

 

「レニーさん素っ気ないから、女の子とたくさんお話できるだけでも結構珍しいことだったりするんじゃないですかぁ?」

「いやフリジットとかルミナいるし」

「否定された上に知らない名前も出てきた!? わーん、知らない間にビッグになってモテてるぅー!」

 

 あわあわと頭を抱える受付嬢。

 

「バカやってないで中入るよ。家でもレニーさんが守ってくれるって」

 

 デイリスがそう言うと家に入ろうとする。受付嬢は身を下げてデイリスを通す。

 

「お姉ちゃん、いいの? 男の人だよ」

「レニーさんは大丈夫そうだから。アイリスはいやだったりした?」

 

──アイリスっていうんだ。

 

「私も大丈夫だけど、レニーさんどこで寝るの」

「そこの床」

 

 アイリスの疑問に、レニーは出入り口近くの床を指さす。

 

「侵入者に真っ先に気づけるし。野宿で使う外套使えば十分だからね。じゃ、お邪魔します」

 

 中に入り、アイリスが鍵を締める。

 

「わたしたちはベッドで寝るのにレニーさんがそれだと気が引けるんだけど」

 

 デイリスが困り顔で言う。

 

「仕事だ、気にしなくていい。荷物はここに置いても」

「構わないけど」

 

 レニーは武装を解除し、玄関扉付近に置いた。寝ているときでもすぐに武器を持てたほうが良い。リビングと玄関が直結しているので食事中でも間に合うだろう。

 

「ま、ひとまずご飯にしましょうか。私スープおおめにつくったので。レニーさんも遠慮せず食べてください」

 

 胸に手を当てて、自慢げにアイリスが言う。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 

  ○●○●

 

 

 

 翌日、夕方ごろ。

 

「リジーちゃーん指名だよー」

 

 受付の店員から名前を呼ばれたレニーは、そちらに目を向けて、「げっ」と声を漏らした。

 

 やってきた客は二人組で、案内されたテーブルに座る。そこにレニーは向かっていった。

 

「やだ、格好いい……」

「イケメンと可愛い系で良いわね」

 

 そんな囁きを聞きつつ、レニーはため息を吐き、額に手を当てる。

 

「キミら、何してんの」

「可愛いね、お嬢さん。オレらとお茶しよう。ほら」

 

 二人組の間に、レニーは座る。

 

「……まじなにしてんの、フリジット」

「おやぁ? 誰かなそんな美少女っぽい名前の子は。知らないな」

「いや無理がある」

 

 サングラスの隙間から青と朱色の瞳が覗く。

 

「オレの名前はブルーノだ、よろしくお嬢さん」

 

 低くつくった声で、サングラスを光らせるフリジット。男らしいシンプルなデザインの布服に、ズボンを履いている。髪型は短く見えるように後ろを複雑にまとめている。くるりと髪を円を描くようにしてから下から上へ上げて、そこから下ろしてから大きなヘアクリップで留めているようだった。正直実際どうなっているかわからない。

 

「靴も盛っちゃって……」

 

 見た目は普通の靴だが、かなり身長が高く見えるように厚底になっているタイプの靴を履いていた。変装で重宝するシークレットブーツだ。

 

「で、ルミナは」

「ボ、ボク。ルキウス、だよ? お姉、さん」

 

 目を泳がせながら、ルミナが誤魔化そうとする。

 

「恥ずかしいならノらなくていいんだぞ」

 

 ルミナは顔を真っ赤にして俯いた。ルミナもポニーテールにしており、フリジットとあまり変わらない服装であった。サングラスはかけてはいない。

 

「靴は盛ってなさそうだな」

「可愛い系で攻めたほうがウケいいかなって。体のラインが出づらい服にして、あれこれやって、こうなりました」

 

 レニーの呟きにフリジットが自慢げに答える。

 

「で。何しに来たの」

「えーっと、サービス受けて来たらとは言ったけど、本当に目移りしてたら困るかなーって。心配で」

 

 指を絡めながら、フリジットが頬を赤くする。

 

「本音は?」

「アイリスさんから店員側やってるって聞いたから見たかった」

 

 てへっ、と。舌を出すフリジット。

 

「や、でも不安だったのはホント。真面目な人ほどハマるって聞いたし」

「キミら以上の女性探すの、オレにはできないよ」

「ぐっ、嬉しい……! 嬉しいけど付き合ってから言われたい……!」

「悪いね。甲斐性無しで」

 

 デイリスの接客が特に問題なさそうであることを確認しながら、レニーは会話をする。

 

「ルミナは?」

「気になった、から」

「そっか。意外だ」

「変? この格好」

「いや、そういうわけではないけど。こういうのノるタイプじゃないでしょ」

「レニーが、気になる、から」

「がんばったわけか」

 

 こくりと頷かれる。

 

「それにしてもびっくりするくらい似合ってるわね。うちの制服のときもそうだったけど――というか何その胸」

「パット」

「……あー」

 

 納得したようにフリジットが頷く。まじまじと胸元を見ていた。

 

「どうですかつけ心地」

「良くはないと言っておく。重いだけだし」

 

 開いていたボタンをつけ、ネックレスの位置を直す。

 

「わーしぐさも女性チック。さすが性別偽造持ち」

「ほしくはなかったスキルだけどね」

「でも。すごく、似合ってる。かわいい」

「あんま嬉しくないんだけど、ルミナに言われると否定しづらい」

 

 純粋に褒められたりすると抵抗しづらい。ルミナに女装を頼まれたときもそうだが、悪意がなさすぎて願望を叶えてあげたいと思ってしまうし、気持ちの良い褒め言葉ではなくとも、印象は悪くなくなってしまう。

 

 おそろしいものだ。

 

「どうせならリジーちゃんとして接客してよ」

「やだ」

「えー、ルミナさんも見たいよね」

 

 ねーとルミナに話を振るフリジット。

 

「え、と。ボクは、見れれば満足」

 

 目をそらされる。

 

「ああいうのされたら、耐えられない。から」

 

 べったりしている女性と客を見ながら、ルミナが呟く。

 

「純真すぎて可愛い……」

 

 両手を合わせながらフリジットが喜んだ。

 

 その後他愛のない話を時間いっぱいして二人は帰っていった。

 

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