――出会いと癒やしの街、ディバング。
温泉が有名なこの街は、様々な観光客がやってくる。レニーのような冒険者も、エレノーラのような店を経営している者もだ。
「お、お尻と腰が痛い」
腰を曲げてさするエレノーラの後ろで馬車が去っていく。荷物はマジックバッグに収まったようで、かなりの軽装だった。普段の店での白衣姿ではなく、白のシャツに黄緑色のベスト、紺色のスカートを着用していた。レニーは周りを見ながら道を確認する。
「温泉をいくらかサンプルでもらいたいものだな」
「入るんじゃなくて、そっちなんだ」
「無論入るのがメインだ」
エレノーラは腰をそらして体を伸ばす。そして、猫背の状態で気だるげに歩き始めた。レニーはそのななめ後ろをついていく。
「聞けば、混浴というものもあるそうじゃないか。出会いとは良く言ったものだ。私は入らないぞ」
「オレに視線向けられても困るんだけど。宿からは別行動だろ」
「そうだ。お互い気ままに好きなところをまわれたほうがいいだろう。というか私は好き勝手したい」
護衛依頼は行きと帰りのみだ。つまりディバングで過ごす期間はお互いに自由。好きなように楽しめるということだ。露骨に人気のない道を行かなければ危険も少ないだろう。
「道わかる?」
「地図は頭の中に入っている問題ないさ」
自分の頭を指さしながらエレノーラが答える。道を間違えている様子もなく、問題なさそうだった。
呼び込みをしている食事場や商店、並ぶ看板を眺めつつ、宿を目指す。
しばらく歩くと、大きな建物が見えた。レニーにとっては二度目だ。エレノーラは一度足を止め、こちらに振り返る。
「カンナギというのはあのバカみたいに大きな建物か」
立ち上る湯気を見ながら、レニーは頷く。
「あそこだね」
「宿泊費……大丈夫か」
「パトロン代だと思って貰えればいい。もしくは今後サービスしてくれればいいさ」
宿泊費はレニー持ちとした。懇意にしている店だ。恩を売れるに越したことはない。
「精進しよう」
震え声で答えられる。
再び歩み始め、カンナギの中に入る。
相変わらず広いエントランスに様々な観光客がいる。ひとまず受付に並ぶ。エレノーラは周りをキョロキョロと見渡しながら隠れるようにレニーの後ろに並んだ。
「人酔いしそうだ」
「多いからね、利用客」
しばらく並んでいると自分たちの番が来る。
「お待たせしました! 何名様でしょうか」
「二名でそれぞれ個室をお願いしたいんだけど空いてますか?」
「はい。お名前をよろしくお願いします」
「レニー・ユーアーン、こっちがエレノーラ・キャンディ」
「レニー様にエレノーラ様ですね! ……レニー様?」
受付がまじまじとレニーの顔を見る。
「あのティングルを捕まえてくださったレニー様です?」
「誰そいつ」
「え……」
戸惑う受付に、レニーは記憶を掘り起こす。顎に手を当て唸る。
以前はフリジットとルミナもいたのだが、賞金首を捕まえるのに関わった記憶があった。
「賞金首? あいつそんな名前だったかな……覚えてない」
「そうです、賞金首です!」
受付の声が弾む。
「その節はありがとうございました! ぜひ思う存分休んでいってください」
「どうも……」
眩しい笑顔に押されつつも頷く。それからは通常通り手続きをし、武器を預けた。部屋の鍵を受け取り、片方をエレノーラに渡す。
「ありがとう」
「迷子にならないように気をつけな」
「広そうだからな。留意しよう」
ふたりで廊下を歩く。しばらくして部屋にたどり着き、別れることとなった。
「じゃ、五日後にまた頼む」
「了解」
互いに手を振ってから部屋に入る。
ここからは自由だ。
ひとまず部屋に荷物を置き、ベッドに横になる。
旅をしてきたためにいくらか疲労がある。
白い天井を見上げながらレニーは額に腕を置き、ほっとひと息ついた。
ベッドの柔らかさで体が程よく沈むので心地いい。
「とりあえず寝るか」
目を瞑る。すぐにでも寝れそうだった。
起きたら温泉に入ろう。
以前熱めの湯に入ったときは非常に心地よかった記憶がある。久々にそこに入ろう。
今回は完全に個人で行動するので温泉を巡ってもいいかもしれない。
まぁ気ままに巡ったり休んだりしよう。
今後を考えつつ、レニーの意識は徐々に眠りに落ちていった。