ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

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冒険者とファストドロウ

 グルーマは玩具を見つけた子どものように、楽しげな笑みを浮かべた。

 玉座を降りて、レニーと目線を同じにする。

 

「早撃ちで?」

「あぁ。キミ、オレの杖と剣、無傷で手に入れたいだろ」

 

 目つきが鋭くなり、笑みが消える。

 

「倉庫にお宝がいっぱいだった。こいつらもコレクションにはなるんじゃないかな」

「見れるわけ無いわ。だってアナタには解けない魔法で封じてあるもの」

「へぇ。じゃ、お宝はあるわけだ。オレは真っ直ぐここに来たから欠片も知らないけど」

「カマかけたってわけ。素直に聞けば教えてあげるのに」

 

 しかし本当多彩だ、とレニーは零す。クロウ・マグナを引き抜き、手でくるくると回す。

 

「金じゃ満たされないものはある。例えば魔(・)弾(・)に(・)特(・)化(・)した杖。希少な魔器。賊狩りを得意分野で打ち負かしたという名声」

「自分で言う?」

「ギルドが賊どもを抑制するためにばらまいた名だ。つまり、死ねば逆のことが起きる。どでかい組織を潰したから、喜ぶやつも多い。キミの下に付きたがる賊も出るだろう」

 

 レニーは床を指差す。

 

「下で使い潰した在庫(ヒト)の補充は十分できる」

「一度助けた男も混じってたと思うけど」

「味方に殺されるより、敵に殺される方が気が楽だろ?」

「……アハ、面白い」

 

 クロウ・マグナをスピンさせ、ホルスターにしまう。

 

「争って傷物にするなら綺麗に済ませたいと思わないかい」

「えぇ、とっても思うわ。実はその杖、凄くほしいの」

 

 グルーマは舌を出し、唇を舐める。レニーは腰に手を添えた。

 

「魔法戦でオレは敵わない」

「賢いのね」

「早撃ちなら、オレも得意だ。オレの調(・)子(・)が(・)良(・)け(・)れ(・)ば(・)、勝てる」

「賭けに出たってわけ」

「そうだ」

 

 即答する。

 

「愚かね。まぁでも、アンタはそれしかないでしょうね」

 

 嘲りを含ませて言う。それから強く頷いた。

 

「いいわ。アナタが勝てばワタシはここを引き上げる。あの村には手を出さない」

「オレが負けたら武器を全部渡す」

「宝石より魅力的だわ。ルールは?」

「コインを落として、床についた瞬間撃ち合う。撃ち抜ければ勝ちさ」

 

 レニーはコインを前に出す。

 

「オーケェ。いつでもいいわ」

 

 親指でコインを弾く。

 

 空中をコインが舞う。くるくると、運命を弄ぶように回転しながら落ちていく。互いに目を凝らして、床に当たる瞬間を待つ。

 

 心臓の鼓動が響く。息遣いが、深く感じる。

 

 コインが、落ちる。

 

 レニーは敵を見る。左手に魔力を集中させ、コインの先の相手を見る。

 

 コインが、落ちる。

 

 瞬間(とき)を待つだけ。ただそれだけでいい。そして来たら――ぶっ放せば良い。

 

――コインが、落ちた。

 

 反射的に近い速度で魔弾を撃った。

 

 炸裂音が響き、そして一瞬にして静まる。

 

「――は?」

 

 浮かび上がるのは困惑の声。

 

 そして、レニーの――笑みだ。

 

 グルーマの右手は落ちていた。肘関節を撃ち抜かれて完全に使い物にならなくなっている。

 いかに高位な回復術士がいたとしても、それを一瞬で治せる術はないだろう。

 

 身を守るために張っていたであろう結界も、大きな穴を空けていて、崩れ落ちていった。

 

「なに、を、した」

 

 怒りの形相を浮かべながらグルーマが問う。

 

「その顔、見たかった」

 

 レニーは片目を閉じて舌を出す。クロウ・マグナを一回転させ、ホルスターに戻す。

 

「魔法使い――特に魔導士(メイガス)になると思考傾向がわかりやすい」

「頭でっかちって言いたいんでしょ」

「いいや。自信だ。己の魔法への圧倒的な自信。そしてそれは正しい」

 

 そばにあったミラージュの刃を蹴って浮かせ、掴んでから持ち直す。

 

「魔法への理解と使いこなすだけの魔力。同じメイガス相手ならまだしも、他のロールなら魔法で負けることはない。それは誇りで、覆ることのない事実だ」

 

 レニーが人指し指で頭を叩きながら説明する。

 

「あら理解してくれて嬉しいわ」

「オレとキミ、速度で言えばキミの勝ちだ。一撃に込められる魔力量も、キミの方が多い。キミの自信は正しく、事実は変わらない」

「ならこれはどういうこと」

 

 負傷した腕を忌々しそうに睨みながら、グルーマが問う。

 答えはシンプルだ。

 

「勝負(・・)じゃない(・・・・)からさ。オレはコインの落ちる瞬間じゃなく、キミを見てた」

 

 手でグルーマを示す。

 

「キミがコインに反応して動く瞬間を見た。引き抜いて、どこを狙うか、そんでもって――今まで誤魔化していた速度じゃなくて、本当(・・)の(・)速度(・・)でキミの魔弾ごと撃ち抜いた。腕を狙ってくれたのは嬉しかったよ。撃ちたいところは同じ。気が合うね、オレら」

 

 グルーマがゆっくり目を見開く。

 

「速度を、誤魔化していた?」

 

 頷く。

 

「今まで、露骨に遅いように見せてた。本当は大して速度に差はない。キミのほうがほんの少しばかり早いくらいだ」

 

 乾いた笑いが起こった。

 

「自分の得意分野よ? 誤魔化して何の意味があるの」

「ないね。キミが先に早撃ちを見せなければ」

 

 初対峙の際、レニーよりも先に、グルーマが早撃ちを見せてきた。

 

「キミはオレの早撃ちの速度を確認せず、己の自信に基づいて、己の方が早いと決めつけて見せてくれた。何度も言うが、実際早いさ。キミの思い描いた勝負の結末は、オレが早撃ちを実行する暇もなく、キミの魔弾に撃ち抜かれて負けるというシナリオだ。オレがキミに見せていた早撃ちの速度ならそれが可能だと確信できる。だから勝負に乗ってくれた。だけど――オレのシナリオはね。最初からキミが魔弾を撃ってからそれごとまとめて撃ち抜く、だ。つまりキミより遅くていい」

 

 早撃ちといえば早ければいいと思い込む。レニー自身の狙いも、「調子が良ければ」グルーマより早く撃てると思い込ませる。それで十分だ。

 

 レニーは最初から、速度で争うつもりは欠片もない。そういう勝負だと思わせることだ。

 

「威力はどうなのよ! 間違いなく、ワタシの方が高威力の魔弾だったはず! 撃ち抜けるはずないじゃない」

 

 グルーマの叫びに、レニーは最もな疑問だと思った。

 グルーマと違って、レニーの短杖は魔弾に特化したものだ。しかし、そんな目に見えた有利をグルーマが計算に入れないわけがない。だからこそ、レニーは速度の他にグルーマに見せていなかったものがあった。

 

「キミの早撃ち技術は最高だけど、魔弾の形状までは洗練させてなかったみたいだね。オレが使ったのは貫通力、威力が増す形状さ。早撃ちに組み込むのにだいぶ時間がかかったけど、できるようにしといて良かった。おかげでキミの魔弾と結界ごとぶち抜けた。キミの魔弾形状が単純なのは確認済みだし、格下相手に形状を工夫する理由もない」

 

 見せていなかった魔弾形状なら虚をつける。そして、単純な形状よりも、特化された形状のほうが高い効果を発揮する。そういうものだ。

 

「魔弾形状ですってぇ……!?」

「キミの誇りは魔法全領域にわたるものだ。威力が高いものは長杖で使えばいいし、速度は短杖。形状なんて洗練する思考はないだろ? でもこれは早撃ちという技術に限定した勝負だ。キミに手も足も出ないかもしれないオレが、喰らいつける勝負……で、オレは隠し玉がある。今言ったことと矛盾するけど、キミは技術でしか勝負できないが、実はオレはそうじゃない」

 

 レニーが仕掛けたのは、早撃ち勝負という単純な実力勝負などではない。

 

「賭けなんてするわけないだろ」

 

 レニーは左手でクロウ・マグナを叩く。

 

 レニーは、レニー(・・・)が(・)最も(・・)勝ち(・・)やすい(・・・)舞台を(・・・)用意(・・)した(・・)だけだ(・・・)。勝負にこだわったわけでも、賭けに出たわけでもない。

 

 レニーにそんなこだわりはないし、一発逆転を祈らない。

 

 グルーマの表情が歪み、歯ぎしりの音がした。

 

「ぐ、ぐっ……よくも……」

 

 さて、と。レニーは肩を上げる。

 

「諦める? それとも――」

 

 言葉を区切って、答えを求める。グルーマはため息を吐き、諦めたように俯いた。

 

「……わかったわ。右腕潰されちゃどうしようもないし――」

 

 レニーが警戒を解いた瞬間、グルーマは嗤う。

 

「――当然、アナタを殺して今まで通りよ!」

 

 グルーマは長杖を掲げる。

 

「今まで呑気にくっちゃべってくれてありがとう! おかげで十分魔力を練れたわ!」

 

 長杖の先に魔力が集まり、球体を形成しようとして――黒い魔弾に塗りつぶされた。

 

「――は?」

「いやいや、礼には及ばないよ。やっぱり気が合うね、オレたち」

 

 レニーの早撃ちだった。そして、その早撃ちは、グルーマを拘束する。

 

「く、クソが!」

「キミが素直に従うなんて思ってない。それにオレは、優しく(・・・)ない(・・)んでね」

 

 レニーは勝ち負けや結果なぞどうでもいい。レニーの心情はたったひとつ。ごくシンプルだ。

 

――賊は賊だ(狩るだけだ)。

 

 ミラージュのシリンダーをむき出しにし、魔力を上乗せするカートリッジを入れる。くいっと、ミラージュの刃が前に来るように持つ。そして、剣先を向けた。

 

「――さて。オレからキミへ。あの世への招待状(プレゼント)だ」

 

 グルーマの顔が青ざめ、唇が震える。

 

「あ、あっ……いやっ」

「遠慮せず、たっぷり楽しんできてくれ」

 

 グルーマが何度も首を振る。

 

「死にたくなっ……たっ、たす」

「――ムーンレイズ……!」

 

 死の嵐が、グルーマを呑み込んだ。

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