冒険者と修行相手
レニーはエールを片手に、相手をじっと見た。
「あのさ」
「何?」
刺々しい声音で、返される。思わずため息が漏れた。
相手はメリースだった。このギルドでは最強の
レニーの席が空いていることを確認すると、黙って座り込み、そしてそのままでいる。顔をしかめながら、腕を組んで、ずっとそのままだ。
「何か食べたら」
レニーが提案すると、メリースは周りを見た。夕食時なのもあって混雑している。酒に酔った連中が大声で会話を楽しんでいる姿もあり、いつも通りの喧騒があった。その内、骨付き肉を頬張っている冒険者に視線が向けられ、腹の虫が泣く。
メリースは頬を赤く染めて、咳払いした。
「……そうね。すいませーん!」
店員を呼んでステーキを頼む。周りを見て何かを確認してから、肉をフォークで持ち上げると豪快にかじりついた。
食べるというように鬱憤を発散するように勢いよく食べていく。普段ならしない食べ方だが、悪酔いしたときの食べ方に似ていた。
「喧嘩でもしたかい」
いつもはいる片割れの少年、ノアがいない。基本セットで行動している……というかセットでないとノアのほうが気にしだす予感があった。
「喧嘩ァ? してないわよ」
「じゃあ本題は何?」
メリースが個人で相席してくるとなると相談事をされることが多い。なぜかはわからないが。
「……それは」
苦虫を噛み潰したような顔になるメリース。
「……アンタ、しばらく暇だったりしない?」
「依頼は受けてないから、受けなければ暇にはできるけど」
金銭面でいくらか余裕はある。
「その、お願いがあるんだけど」
両手の指を遊ばせながら、視線を合わせずにメリースは呟く。
「聞くだけ聞くけど」
「……強くなろうと思って」
「はぁん」
「相手になってほしいっていうか。その、修行相手ってやつ?」
レニーは唖然とした。修行をすること自体に特に何かあるわけではない。相手をレニーに頼むところだ。
「ノアでいいんじゃないか」
「ダメよ。ノアは目が良すぎるし、普段連携してるから色々知られてるし、知ってるし――ノアにはずっと褒められたいから」
ぼそりと小声でこぼれた言葉に、レニーは苦笑いするしかなかった。メリースは更に続ける。
「それに、グルーマ倒したんでしょ」
「……誰?」
レニーが聞くと、メリースが目を見開き、テーブルを強く叩いて立ち上がった。
「ハァ!? 信じらんない! グルーマよ、
レニーは記憶を掘り起こし、早撃ちの勝負に持ち込んで討伐した賊を思い出した。名前なんていちいち覚えていられない。
「あぁ、彼女ね。うん、倒したよ。有名人?」
「知らずに倒したわけぇ!?」
「賊は賊でしょ」
レニーの大雑把な結論に、メリースはこめかみに手を当てて座る。
「ま、まぁ。そうね。世間一般からしたら、賊ね……」
「で。なんか関係あるわけ」
「トパーズのときより等級も上がってるし、実力だって付いてるでしょ? だから強さ的にも丁度いいかなって」
「丁度いいって……」
ルビー冒険者を捕まえて丁度良いと言えるのは彼女がレニーよりも上のカットサファイアだからだろう。
それに等級が高いからといって戦闘能力が高いとは限らない。レニーは冒険者として評価されてルビー冒険者だが、メリースはメイガスとしての戦闘能力の高さがメインだ。
強さの自信は絶対的なものだろう。
「で、新スタイルを思いついたからそれの確立に手伝ってほしいわけ。もちろんお礼はするわよ? アンタが求めてる、もしくは合いそうな魔法。いくつか教えてやろうじゃないの」
自慢げに視線を送るメリース。
「どう? お得じゃない?」
生粋の魔法使いにとって魔法は財産だ。相手に教えるということは、自分の手の内を明かすことにも繋がる。以前クーゲルというバレットウィザードに魔法を教わったことがあったが、魔弾使いのよしみであったというのもある。
メリースの感覚としては宝石の入った袋をぽんと渡すような、そんな破格の報酬のつもりだろう。「お得」と表現したのはそういう意味合いだ。
そしてメリースほどの魔法使いとなれば実際、宝石よりも価値がある魔法も多い。一生かけてても教わりたい人間はいるだろう。
「破格だね」
「でしょ」
満足げに笑みを浮かべるメリースに、レニーは頷いた。
「わかった、付き合うよ。オレも強くなりたいしね」
修行らしい修行をした記憶はない。あれこれ練習した記憶はあれど、相手がいたことはなかった気がする。いい体験だと思って付き合うことにした。
「ところでなんで最初渋ったんだ」
レニーの疑問に、メリースがふいっと視線を外す。
「その、いつも勝負してるからプライドがなんか……別にいいじゃない。結果オーライで」
恥ずかしそうに言うメリースに、レニーはこれ以上追及しないことにした。
無駄に逆鱗をくすぐるようなことはしなくていいだろう。そう思いながら、最後の一滴を飲み干した。