人のいない平野でレニーとメリースは向かい合う。昇りたての太陽が眩しく感じられる。程よい風がレニーたちの髪を撫でた。
「……で、ノアはヤタに行ったと」
「あそこ剣で有名じゃない? だからアタシがそういう話したら、俺も修行してくるって」
メリースの下準備を眺めながらレニーは会話をする。ヤタは武器術、主に剣術の盛んな国だ。レニーの
「……そういうことならキミも魔法が有名な場所行ったほうが良かったんじゃないの?」
レニーの提案に、メリースは鼻を鳴らす。
「言っておくけどほしいのは知識じゃないの。頭の中の戦法を使えるようにするかどうか。魔導士を相手にするわけじゃないし、いいのよこれで」
「そういうもんか」
納得しつつ、レニーの頭に疑問が浮かぶ。
ノアの方は大丈夫だろうか。喧嘩したわけでもないから離れ離れでも問題ないのか。
以前は少し関係が冷めただけでレニーに相談していた気がするが。
レニーはメリースを見る。周りに被害を出さないために、防御結界の魔法を周りにかけようとしている様子だった。レニーたちを囲うように、魔力を込めた石を投げている。魔法をより維持しやすくするためのアイテムだ。
レニーの視線に気づいたらしいメリースは、首を傾げる。
「うん? 何よ」
「……いや、まぁキミらで話し合ったんだから特に心配しなくてもいいか」
メリースは眉根を下げる。
「どういうことよ。はっきり言いなさい」
「離れ離れで平気なのかなって」
沈黙で返される。
「…………え?」
返事がしばらくなかった。
なんだ、この
○●○●
「――喝ッ!」
座禅堂と呼ばれる建物の中で強烈な音が響く。古びた木造建築の座禅堂は、独特の香りがした。
「いったぁ!」
右肩を木の棒で叩かれたノアは涙を浮かべながら、痛みを与えた主を見る。厳つい顔をした坊主の男性であった。
足を組んで地に直接座るような座り方をし、目を瞑り、姿勢を正して精神統一を図る。それが座禅なのだが、ノアは指導者から数回注意されていた。
「今心が乱れていたな。邪念を払え」
「はい……邪念まみれでした、スイマセン」
肩をさすってから姿勢を正し、指導者と礼を交わす。そして、教わった座り方を組み直した。
メリースのことばかり頭で考えてしまってどうもいけない。剣で戦うにおいて、冷静沈着であることは大事だが、ノアも年頃であるからか、メリースと離れ離れという状況がどうにも落ち着かなかった。精神修行も兼ねて、今回離れてみたものの、メリースはレニーと新しい戦い方を試すと言っていたから「もしも」がどうにもちらつく。
……いや、レニーの方は美人二人に好かれているし、何ならノアやメリースより精神的にも年齢的にも大人であるから、どこの馬の骨ともわからぬやつよりは断然マシであるし、むしろ安心できるくらいなのだが。
何度も自分に大丈夫と言い聞かせる。
ヤタはノアが普段いる国とは全く違う文化を持っている。今回雇ったガイドに早朝の座禅を勧められ、泊まるついでに体験できる場所を選んだ。早朝の座禅を終えたら適当に道場破りをしに行く予定である。何でも剣術などの看板を掲げた道場は気軽に勝負を挑んで良いらしく、部外者が挑むことを「道場破り」と呼んでいるようだった。自分より強いか、同等の剣士を見つけた場合は稽古をつけてもらおうと思っている。それで剣士としての高みを目指すのだ。
問題はそれらが終わるまでメリースには会えない、ということだ。
互いにカットサファイア。サファイア級のペアだ。金銭面で問題はない。一時的にソロとして活動しても十二分に稼げるだろう。
(それはそれとして可愛い顔が毎日見れなくなるのが辛すぎる!)
端的に言えば、ノアの頭は花畑だった。
(あの猫みたいな寝顔とか、照れ隠しの小声とか、ああいうのも全部! 今すぐ摂取できないなんて)
脳裏でメリースの様々な姿を思い浮かべながら、ノアはひとり悶々とする。
『その、がんばってね』
寂しそうに、それでもノアが強くなることを望んで送り出してくれたメリースの顔を思い出す。
――帰りたくなってきた。
ぽん、と。肩を叩かれる。
ノアは何度目かになるそれを、頭を左に傾けて、受け入れることにした。
「――喝ッ!」
一番の敵は強い剣士でも魔物でもなく、メリースにデレデレの己自身であった。
○●○●
メリースが手を叩く。
「準備できたわ」
周りを防御結界の壁が取り囲み、メリースは
早撃ち勝負のときと同じ、二冊あるうちの一冊のみ展開し、臨戦態勢に入るメリース。レニーは
「いい? お互いの体にしっかり結界を張ってあるから本気でやること。怪我なんかしないわ」
「オーケー。後悔しないようにね」
レニーが言うと、メリースは鼻で笑った。
「舐めんじゃないわよ。アタシを誰だと思ってるの」
メリースの挑発に合わせて、レニーは大地を蹴って肉薄した。