斬り込んだところを魔書が割り込む。魔書に張られている結界がレニーの攻撃を完全に防ぎ、弾いた。
力に逆らわず、後ろに下がりつつミラージュの持ち方を変える。それで魔弾を撃った。
足、頭、肩。三連射する。
そのどれもがメリースの操る魔書で防がれる。
「そっちの早撃ちは苦手みたいね!」
メリースは姿勢を低くしつつ、レニーに突っ込んできた。
「へ?」
後衛のはずのメリースが真正面から来たことにレニーは戸惑いつつも、構えて迎え撃つ用意をする。
「ハァ!」
メリースの全身に細い紫電が走る。おそらく身体強化だろう。それで拳を前に出す。魔書は使用していない。
レニーはミラージュを上に投げた。拳を振るっている手首を掴み、膝蹴りをする。魔書がそれを防ぐが、レニーがメリースを掴んだまま離さない。魔導士は近距離戦を嫌がる。身体強化も高が知れているため、そうしたのだがメリースは平然としていた。
メリースは戸惑わずに握っていた拳を開く。レニーは冷静に、メリースの動きを見る。
メリースの腰のホルスターに魔書が収まっていない。レニー相手に使っていた魔書は一冊だ。メリースの所持する魔書は二冊。つまり、もう一冊がどこかに消えている。
シャドーステップを発動する。加速の効果でメリースから離れ、更に足に魔力を通して靴の加速効果を引き出す。それでメリースの背後に回り込んだ。
「え、ちょ」
慌てるメリースの先に、魔法を発動している二冊目の魔書があった。蒼い光を放ち、魔力の光弾を撃ち出す。きっとメリースを拘束して油断しているレニーの背後を撃とうと思ったのだろう。
レニーは即座に離れたが、メリースはそうはいかなかった。
「ンギャアア!」
爆発と共にメリースの悲鳴が上がった。爆風で落ちてきたミラージュが飛んで、防御結界に衝突する。
「……大丈夫?」
レニーは落ちたミラージュを拾いに行きながらも、メリースに声をかける。地面に倒れ伏したメリースが片手を上げた。
「結界、張り直すから待って」
「まぁ待つけど」
レニーはミラージュを拾い、背中の鞘に納める。むくりとメリースは起き上がり、涙目でレニーを見る。
「なんでわかったのよ」
「視線と手の動き」
手を開いたとき、メリースはレニーに手のひらを向けていなかった。レニーの背後である。もし、至近距離で魔法を当てるつもりがあるのなら、手のひらをレニーに向けるはずである。そうでないということは何か別の狙いがあるということである。
腰の魔書がなくなっているのであれば、魔書が死角から攻撃してくるのは明らかだ。確実に魔書のないスペース、つまり対峙しているメリースの背後に回り込めば、ひとまず魔書を探す体勢にはなる。そしてレニーを狙っているのであれば、攻撃はそこに集中する。メリースを一度間合いに入れた後、動きを確認して退避する。狙えるのであれば自爆を狙う。それだけだ。
「ぐぬぬ」
悔しそうなメリース。
「魔書を動かすときに手が連動してる。意図が丸わかりだ。離れて大魔法バカスカ撃ってた方が楽だと思うけど」
「バカスカってそんな……アタシの魔法がバカみたいじゃない」
「バカらしいってのはそう」
だって物量と火力で押されたら
「でも手ね。意識するから付き合って」
「あと視線ね」
「ひとまず手!」
メリースは立ち上がると、魔書を展開し直す。メリースの両サイドに魔書を浮かべて構える。
「絶対、アンタに気付かれずに魔法を撃ち込んでやるわ」
○●○●
数時間後。
「ぜぇ、ぜぇ……」
メリースは肩を上下させながら、レニーを睨む。
「後ろに目でもついてんの!?」
「いや。キミの動き見れば大体」
「変態っ!」
「なんで……?」
レニーはホルスターに
魔書が、何度かレニーの死角から攻撃しようとする場面はあったが全てクロウ・マグナで撃って潰していた。
全て手の動きや視線の動きで魔書の位置を予測して行っていた。
「ぜぇ……もっと慣れなきゃダメそうね」
猫背になりながらメリースがかすれた声で言う。マジックポーチから水筒を取り出すと水を飲み干した。水筒ひっくり返して一滴を落ちないことを確認すると、ため息を吐く。
「今日はこれくらいにしないか」
早朝から始めて夕暮れまで。休憩を挟んだとはいえ、練習を続けていた。さすがに疲労が強い。
「そうね。ぱーっとお酒飲んで、寝ましょう」
指を鳴らすとレニーたちを囲んでいた結界が解ける。メリースは石を回収し始めた。レニーも半分ほど回収し、メリースに渡す。
「ありがと」
袋にまとめたそれをマジックポーチに入れる。
「はー、明日お昼からでいい? 起きれる気がしないわ」
「オレは別に構わないけど」
「じゃ、ギルドで集合ね」
手を上げて気だるげに言うメリース。
「メリースの最終的な目標は何」
「教えなきゃダメ?」
「分かればある程度は気遣えるし」
メリースは首を横に振った。
「気遣われちゃ困るのよ。だから黙って付き合って。明日はひとつ魔法を教えたげるから」
「了解」
「あーづがれだ」
ふらふらと帰路につくメリースの背中に、レニーはついていった。