教会でルミナと並んで座る。
「レニー」
「なんだい」
「教会、広い。村人集めて守るのは、どう?」
ルミナの提案に、レニーは頷く。
「村人の規模的に全員は無理だ。子どもを優先して守るとしても、親と一緒にいたほうが家族として安心できるだろうし」
「そっか」
一箇所に守るべき人間を固めるというメリットはある。傍にいられるため、守りに向かいやすい。ただ一箇所に集まるということは危機的状況の中でそれぞれの考えが出やすく、対抗手段も有利に働かせづらいところはある。
「わかりやすい籠城場所があったら囲まれるしね。囲まれるなら村ごとの方が良い。やつらも村を焼け野原にしたいわけじゃない。なるべく物を奪い取りたいはずだ」
奪いたいということは無傷で手に入れたいということだ。武装して囲む戦法を取ることもありうる。建物一つに避難させたとしたら比較的大きな施設である教会だとバレる。
「レニーいて良かった」
「本拠地がわかればルミナだけで大暴れすればどうにかると思うけど」
カットサファイアの冒険者に勝てる人間なぞいないだろう。
「レニーも同じ」
「オレは……場合によるかな」
ルミナなら武装の質に関わらずに蹴散らせるだろうが、レニー自身は選択する状況によるだろう。
するとルミナはジトっとした目でレニーを睨む。
「……え、何」
「この間。メリースと修行」
「あ、うん。したけど」
ルミナは頬を膨らませてふぃっと顔をそらした。
「どうせ、どうにかできる、もん」
不満げに呟くルミナに、レニーは首をかしげる。
「レニーだって、強い」
「ありがとう?」
ルミナは顔を背けたまま、頷く。
「人数が多ければ教会に集めても良いんだけどね。二人しかいないから」
「不利」
防衛戦で少数で、相手は攻め入る側で多数。どう考えても不利だ。
端的に言って戦争に近い。
「レニーは、良かったの」
「何が」
「依頼、受けて。得がない」
「得はあるさ。ギルド所属だしね」
ギルドの評判をよくするためにも、必要だろう。タダ働きが良いというわけではない。危機的状況下において「助けてくれる」場所と認識されることは大事だ。
「人助けだから何でも受ける、ってわけじゃない」
実際村をまわってみて、余裕がない雰囲気は伝わってきた。ここの住人は困窮している。元凶が不埒な輩というのなら排除するのみだ。
「レニー、こういうの慣れてる?」
「賊は賊さ。武装してても考えることは変わらない。忍び込めれば楽。攻めてくるなら被害が分散するか最小限で済むように考える。これだけさ」
「ボクは、そこまで考えられない」
「魔物相手の方が多いからだろ」
「うん」
ルミナは俯く。
「安心。ありがと」
「何が」
「守れるか不安。慣れてないのも、ある。けどレニーがいるから、気が楽」
顔をあげて、微笑む。薄暗くなってきた中で、ルミナの髪は煌めいて見えて、月のようであった。
「オレも頼りにしてるよ」
「ん」
ルミナが拳を突き出す。レニーはルミナと拳を突き合わせた。
そのときだった。
扉を開けて、男性が駆け込む。息を切らしながら、膝に手をついて、それから慌てたように叫ぶ。
「や、奴らが来た! 娘が連れて行かれそうで……助けてくれ!」
ルミナとレニーは立ち上がる。
「ボクが行」
「待った」
レニーは手でルミナを制し、武装を解除する。
「何、してる?」
「娘さん以外に連れて行かれそうなのは?」
「いない。家に戻るのが遅れて捕まっちまったんだ」
マジックサックから
「あー、あー……こんなもんかな」
声の高さを調整して女性の声に近くしたレニーは、丸腰の状態のままルミナに目を向ける。
「ちょっと捕まってくる」
「武器、ないと危ない」
「ダメそうなら逃げてくるから平気さ。ルミナはここを守っててくれ」
ルミナは視線を左右に動かして、胸に手を当てる。
「怪我してきたら、殴る」
「えぇ……」
理不尽だ、と思ったが口には出さないでおく。
「あ、そうそう。ルミナ」
その代わり、レニーは人差し指を口に当てて、こう続けた。
「お願いがあるんだ」
○●○●
全員、鎧を身にまとっていた。ひとりが剣を娘の首に当てながら、歩かせている。娘は涙を浮かべて、青ざめていた。見るからに震えている。十人ほどのその集団の前に出る。規模からして偵察に来たのだろう。それ以外の目的があるのならもっと騒ぎになっているはずだ。
「その子を放して」
レニーは両手を広げて、その行く手を阻む。
「あん?」
兜で顔は見えないが、威圧するように近づいてくる。
「なんだ、お前」
「その子を、放しなさい」
内股を意識して、なるべく強がっているように見せるために睨みつけた。性別偽造のスキルが格好やしぐさに補正をかけて本来の性別と見分けをつきづらくする。大抵は騙せるはずだ。
鎧のひとりに顎を持ち上げられる。
「いい目だ。お仕置きしたら、どんな顔をするんだろうな」
「お願いだから、その子を放して」
声を震わせながら、目をそらす。
「無理しちゃってまァ……放してもいいけど、タダでとはいかねえよなぁ。お嬢ちゃんがなんか払ってくれねえと」
「何も、ないわ」
「あるよな?」
下卑た声音で言われながら、腰に手をまわされる。
「……彼女には手を出さないで。それが条件」
「健気だねぇ。どうせ数日後には全部俺らのもんだってのに」
「ならなおさらいいでしょ。数日くらい、待って」
鎧は鼻で笑う。
「いいぜ、気に入ったよ嬢ちゃん。おい、放せ」
鎧が指示を出して娘を解放する。娘はレニーを気にしつつも走って家に戻っていった。
「行くぞ。逃げようとしたらわかってるだろうな」
低い声で脅される。レニーは恐る恐る頷いた。
内心では上手く行ったと思ってはいたが。
そうしてレニーは、鎧に囲まれながら連れて行かれた。