ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

283 / 287
冒険者と砦

 山にある砦。そこにレニーは連れてこられた。

 地下にある牢屋に放り込まれる。

 

「あとでたっぷり相手してやるからな」

 

 鎧は下品な笑い声を上げながら去っていった。牢屋には見張りがひとりいる。武装はしているものの、全身鎧ではない。

 

 レニーは状況を確認する。手足は自由だ。非武装に女装、油断させた甲斐があるというものだ。おかげで自由度が高い。

 

 賊は賊、とは言ったものの、元騎士というのであれば事情は色々変わってくる。まず、拠点の砦がしっかり管理されている。ただの賊であれば拠点を管理し、防衛に力を入れることはあまりない。

 

 単純に知識に乏しいからだ。見張りを置く、という単純なことはできても、それ以上は難しいことが多い。

 

 ただ、ここは違う。拠点として防衛する環境を整えやすい砦を探して抑えている。砦跡に住み着いたのか、それとも奪ったのか区別がつかないくらいには整備もしている。本拠地がわかっても、地形や設備面で攻めづらい、といった状況はないわけではないが、高台にバリスタがあり、そこに兵が配置されているレベルとなるとレニーでさえもあまり経験がない。場合によっては高台から高威力の魔法を放つこともあるだろう。集団戦に慣れた奴らは、冒険者よりも時間をじっくりかけられるからこそ高威力の魔法を撃てる。戦争を経験している元騎士だからこそであろう。

 

 攻城兵器に関して対抗はできるが、脅威であることに変わりはない。兵としての練度も違う。

 

「なんで」

 

 レニーは見張りの兵に声をかけてみる。

 

「なんでこんなことするの」

 

 見張りは笑みを浮かべた。

 

「楽しいからさ」

「楽しい……? こんなことが?」

「あぁ」

 

 見張りがはっきり頷く。

 

「団長についていけば、いけすかねえやつらを痛めつけて殺せるし、それで好きなもんを手に入れられる。宝石も女も奪いたい放題だ」

「クズね」

「なんとでもいえ。バカ正直に生きて、こんなおいしい想いができるか」

 

 事情は実にシンプルらしい。で、あれば特に遠慮が必要というわけでもなさそうだ。ウィッグを外し、上着を一枚脱ぐ。上半身は首元まで隠した黒いインナー一枚となった。脱いだ上着の中にウィッグを入れ、そして牢の隅に置く。汚れたら困るからだ。

 

 レニーは立ち上がり、ゆっくり牢の扉に近づいた。その扉、鍵のある部分へ目を向ける。

 

「好き勝手してきたなら、奪われてもいいよね」

 

 武装解除はしたが、武器(ブーツ)ならある。繊維鉱物のマナファイバーを使用したブーツに魔力を通す。ブーツを硬化させ、更に蹴りの威力を上げて、牢の扉を吹っ飛ばした。

 

 ガチャン、と壁に鉄格子の扉がひしゃげてぶつかり、音が響く。

 

 見張りは慌てたようにレニーに体を向ける。

 

「なっ、てめっ」

「シャドーステップ」

 

 後ろに回り込んで素早く首を締める。

 

「ウグッ」

 

 そしてそのまま折った。

 見張りは倒れ、動かなくなる。確認しなくとも死んでいるだろう。レニーはその見張りが着ていたチェインメイルと腰に下げていた剣を奪うことにした。

 

「さすが騎士様。内部でも武装がしっかりしていらっしゃる」

 

 チェインメイルを着込み、剣を引き抜く。軽く振るって感触を確かめた。

 

 武器は現地調達すればいい。

 レニーは階段を登る。

 残り何人かは知らないが、まぁ、どうにかできるだろう。

 

 何せ、今は夜だ。

 

 

 

 ○●○●

 

 

 

 襲撃される、ということは相手はフル装備でやってくるわけである。全身鎧、というのは見た目以上に恐ろしい。鎧の隙間にもチェインメイルを中に着込んでいれば攻撃は通りづらくなる。鎧の上から攻撃する、という行為はほぼ無意味だ。

 戦場で着るものであるから、重いとはいえ皆身軽に動けるように訓練をしている。ルミナのように重戦士であればまだしも完全装備の兵士相手……しかも集団ともなれば冒険者でも対応するのが難しい者がほとんどだろう。

 

 魔法に関しても、鎧そのものに魔法に対する防御力を高めるコーティングがされているものもある。過信してはいけない。

 

 そもそも、魔物を相手にするための軍隊、そしてその魔物退治をする軍隊を相手にする軍隊で戦う者たちだ。スキルツリーもそこらの山賊よりは育っているし、装備の質も考えて選んでいるだろう。

 

 理想は完全武装される前を襲う。または装備の質を同等程度にして物量で押し切る、脅す、なのだ。

 

「侵入者だ!」

 

 鐘が鳴らされ、レニーのいる広場に敵が集まってくる。誰もが全身鎧だ。武装が完全でないものは武装しに向かい、今動ける人間でレニーを包囲しているのだろう。

 

「侵入っていうか、キミらが招いたんだけどね」

 

 剣を構えながら周りを警戒する。

 

 正直鎧相手で剣はあまり役立たない。敵の剣を受ける目的で使用する程度だ。鎧の隙間に突きを入れられれば有効だろうが、そんな繊細な技術をレニーは持ち合わせていないし、何度も成功する自信はない。

 

 レニーは空いた手をポケットに突っ込むと、物(・)を掴んで遥か上空に向けて投げた。

 

 球状のそれをカースバレットで撃つ。ガラス球のようなそれはカースバレットを受けて壊れると、眩いばかりの閃光を放った。

 

「わっ! なんだ!?」

 

 視覚が奪われるほどのものではないが、一時的に砦を明るく照らす。何が来るか警戒した鎧たちは身を守る体勢に入る。閃光が目立っていたためか、頭上を守る体勢だ。

 

 レニーはその間に正面のひとりへ、蹴りを放つ。隙だらけの腹に一撃入れて、蹴り飛ばした。

 

「ぐわぁ!」

 

 鎧が地面を転がり、動かなくなる。これでひとり倒した、だろう。現状、一番鎧に有効的な打撃が与えられる最善手だ。

 

 暗闇を取り戻し、鎧たちが冷静さを取り戻す。

 

「くそっ! 目眩ましだ!」

「相手はひとりだ! やっちまうぞ!」

 

 レニーに向かって、鎧たちが殺到した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。