レニーがここに連れて来られる前に、ルミナにした「お願い」。それは空に閃光が見えた際、状況に問題がなければそこを目指して助けに来てほしい、ということ。
本来の武器を持ってきてもらえれば、状況はだいぶ変わってくる。
村人たちを守るということは重要だ。しかし、防衛戦というのは少人数でやるものではない。レニー個人だけであれば、長期戦で少しずつ相手の戦力を削ることを目的にするかも知れないが、守る対象がいれば自由に動けないというのが本音だ。
となれば、攻められた方が良い。レニーが非武装の状態では決定打に欠ける。
砦は堅牢だが、ルミナなら問題なく乱入できるだろうと睨んでお願いをしたのだが、上手くいって一安心といったところだった。
レニーはいつも通りの武器に安堵を覚えながら、ルミナに微笑む。
「ナイスタイミング」
「グッ」
親指を立てるルミナ。ふんす、と鼻息を漏らす。
「クソが、余裕ぶっこいてんでじゃねえぞ!」
ラバリーが叫ぶとオーラの激しさが増す。ルミナは正面に向き直ると、左手でリカッソを持ち、少しだけ姿勢を低めた。足が地面にめり込んでいく。地面に押し込められている状態だが、決して崩れることはない。
ルミナは全身に力を込めると、ラバリーの剣を弾き上げる。互いの剣圧で風が吹いた。
「チィ!」
ラバリーが構えを変えつつ、後退する。ルミナは追撃せずに首を振り、髪を揺らした。
「ボスは、誰?」
ルミナは
「俺様だ。ベルリゲンだ」
「……ルミナ」
ラバリーの前にベルリゲンが立つ。大剣をゆっくりとルミナに向けた。
「べっぴんさんだし、勿体ねえな。どうだい、降参すれば悪いようにはしないが?」
「しない」
「残念だ」
ベルリゲンの全身を赤い魔力の渦が包む。ラバリーと同じ、オーラストリームだ。
「ラバリー。お前は後ろの男を殺れ」
「……おう」
ラバリーは頷く。その表情は悔しげだった。ベルリゲンは少し離れた空間を指さす。
「互いに一対一でやろうや。俺様とお嬢ちゃん。ラバリーとその男だ」
「わかった」
ルミナはベルリゲンと共に移動する。レニーは前に出て、ラバリーと対峙した。どうせ他の鎧たちは手出しできまい。今の二人が圧倒的に強い。
「あーよろしく?」
「さっさと片付けてやる」
ラバリーから殺気を向けられた。大地を蹴り、レニーに迫る。レニーはミラージュを振るい、ラバリーを迎え撃つ。
腕に強い衝撃が来るが、受け流す。クロウ・マグナに手をかけている暇はなさそうだった。
何度も剣をぶつけ合う。
「てめえ! 中々やるじゃねえか」
笑みを浮かべながら、ラバリーは剣撃を繰り返す。剣技では完全にラバリーの方が上だった。徐々に押され始める。
「オラァ!」
横薙ぎの間を縫うように蹴りが迫る。レニーは鳩尾に蹴りを受けて後退した。
「ケッ、魔法で受けやがったか」
レニーの鳩尾にはシャドーハンズの腕があり、それが衝撃を軽減していた。レニーは右腕をあげつつ、首を傾ける。
「……キミ、どうする?」
「あん?」
「このまま、死ぬか。それとも降参してお縄につくか」
レニーの問いにラバリーは一瞬表情を固めたが、すぐに笑い出した。
「おいおい状況わかってんのかよ。てめえより、俺の方が、強いんだよ」
自分の胸に手を当てながら、ラバリーは断言する。それを見て、レニーは鼻で笑った。
レニーの小馬鹿にしたような態度に、ラバリーは青筋を立てる。
「なんだァ? あの女が加勢するとか思ってねえよな」
「まさか」
レニーはラバリーを見据える。
「単純な話だ。キミよりオレの方が強いからね」
暗闇の中で、アメジストの瞳が怪しく光った。
レニーは駆け出す。ラバリーは大きく上段に構えると激しい魔力の渦を剣に集中させた。
「大口叩きやがって。これで終わりだ!」
剣が振り下ろされる。常人では全く反応できないような速度の剣ではあるが、レニーは正確にその動きを捉えていた。
むしろ遅いとすら感じる。ついこの間、修行と称して
レニーは攻撃が当たる瞬間、シャドーステップの魔法で残像を発生させながら加速する。そしてラバリーの背後に回り込んだ。
「そこだ!」
ラバリーは素早く振り返り、剣を振るう。レニーはバッグステップを踏んで攻撃を回避し、クロウ・マグナに手を添えて早撃ちした。
ラバリーは剣で魔弾を斬ろうとするが、魔弾は剣に食らいつくように消滅せず、逆に拘束した。
「――なっ」
「上位魔法、どうやって対処するか気になるな」
ミラージュを前に向ける。ラバリーはしかし、笑みを浮かべた。
「こんな小細工通用するか!」
オーラストリームとして操っている魔力を全て剣に込め、無理やりレニーの魔弾を破壊する。そして、魔法を撃つ直前だったレニーを肉薄した。
「もらったぁ!」
剣を振るう。ラバリーの剣はレニーの肩口から脇腹までを切断し――
――レニーの姿は幻のように消えた。
「――は?」
「残念、外れだ」
ラバリーが声を聞いて振り返る。そこには影の茨を右手に纏わせる、レニーがいた。
徒影の尻尾。レニーが持っているスキル。魔力を込めて分身を作り、「念じた行動を起こさせる」もの。
レニーは分身に、二発の魔弾を衝突させて爆発を引き起こす「ムーンレイズ」の魔法の
「オーラストリームの弱点は単純だ。繊細なコントロールをしているがゆえの、全体攻撃や連続攻撃への耐性のなさだ」
魔法使いが身を守る手段に結界を使用しているのも、多くの戦士が身体能力の強化に魔力のコントロールを割いているのも、オーラストリームが高等技術であるからだ。
オーラストリームは近接戦闘においては有利性を強く発揮できる。魔法使い相手でもよほど強力な魔法でなければ纏った魔力で弾けるだろう。
魔物相手にはそうはいかない。
騎士は集団戦、戦争を想定して己を鍛え上げる。決闘もあるが、それこそ一対一だ。
レニーがそんな領分で戦うわけがない。
闇に紛れて魔力を練り、防ぎきれない攻撃で倒す。
「ローズマンバ」
蛇が飛び出す。
「こんなもの」
オーラストリームを再び形成しようとしたラバリーだが、それより影の茨が囲むほうが早かった。ミラージュを頭にとぐろを巻く。
ムーンレイズの拘束弾を使用したのは、オーラストリームに使用している魔力を乱すためだ。第一の魔弾は拘束するために周りを引き込む力が生まれる。その引き込む力で魔力を巻き込んだ。ラバリーが第一の魔弾を破壊するために剣に魔力を集中させたことも手伝って、レニーの狙いは予想以上に上手くいった。
正直、分身がどのタイミングで斬られても良かった。避けられないタイミングでローズマンバを当てられれば同じだからだ。
茨の棘が剣と化し、ラバリーを襲う。
「ぐああぁあああ!」
茨の中で、ラバリーの苦痛の叫びが響く。
そして頭上からミラージュが噛みついた。内側から更に棘が突き出ると、ラバリーの叫びが消えた。
手を引き、ミラージュがレニーの元に戻って来る。茨から開放されたラバリーは傷だらけであった。部分的につけている防具もボロボロになっている。防御に使ったらしい剣も折れていた。
「げぼっ」
血を吐き出し、ラバリーは膝をつき、倒れる。その場に血が広がっていった。レニーはため息を吐きつつ、ラバリーに近づくとその背中を踏んだ。周りへの、プレッシャーをかけるための行動だ。
息はしていない。
「ひ、ひぃい」
逃げようとした鎧を見つけて、魔弾を撃つ。兜を貫通し、逃げようとした鎧を倒す。
レニーは周りの鎧たちを睨む。恐怖に震え上がる姿が鎧越しでもわかった。ほっと一息をつきながら、レニーはルミナの方にも視線を向ける。
「さて、残りは任せようかな」