ソロ冒険者レニー   作:月待 紫雲

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冒険者と賊狩り

「おめでとうございます、レニーさん!」

 

 眩いばかりの営業スマイルと共に、冒険者カードを渡される。相変わらず黄色(・・)のカードだが、カットトパーズ級からトパーズ級になっていた。

 

「ありがとう。受付さん」

「いえいえ。こちらとしても鼻が高いです! まさかトパーズ級の盗賊たちを全滅、行方不明の冒険者も何人か見つけちゃうとは。し、か、も! 結構早いですよトパーズになるの!? 将来有望ですね」

「言うほど実力はないと思うよ」

 

 だってならず者(ローグ)のままだし。

 レニーは冒険者カードを仕舞い、持っていた依頼書を出す。

 

「さっそくだけど、この依頼受けるよ」

「おっ、なんですか? ……盗賊の討伐ですね」

 

 やけに声色が残念そうになる。

 賊の退治は基本的にパールの冒険者パーティーでもどうにかなる。シガットや賞金首になるような者たちが例外なのだ。

 

「シガットの盗賊団は思っていたよりも大規模でした。今回も残党かもしれないですね」

「行動範囲広かったみたいだしね」

 

 受付嬢が何か思いついたかのように声を漏らす。

 

「トパーズになったことですし、二つ名を広めてみるというのはいかがでしょう? ギルマスに進言しておきましょうか?」

「二つ名?」

「はい。ギルド側で噂を広めたりしておきます。ギルドも冒険者も箔がつきますからね」

「興味ないけど」

 

 レニーの返答に頬を膨らませる。

 

「最近賊の動きが活発でウチでも困ってたんですよ。それを潰しまくっているレニーさんにはあったほうがいいと思うんです」

「……あんまりダサくなければ任せるよ」

 

 そのメリットがどれほどあるのか、レニーには想像できないし、する気もなかった。冒険者であれば憧れるのかもしれないが、レニーは生憎栄光だとか、英雄だとかに憧れのある人種ではない。

 

 受付嬢は胸を張って、鼻高々に言ってみせた。

 

「賊狩りのレニー、どうでしょう」

「……じゃ、受注手続きと受理証明書よろしく」

「え、無視ですか!?」

 

 がーん、と。口をぱっくりあけながら受付嬢が騒ぐ。レニーはあくびをかみ殺した。

 

「いやほんと任せるよ。それより依頼」

「むぅーわたしの提案する二つ名、ルビー級の方からは大好評なんですけどね」

 

 称号スキルをもらえるならともかく、二つ名なんて自称でもいい。名を売っていって広めるものでもあるし、その地域でしか通用しないこともある。

 それに、パーティーが有名になれば二つ名よりもパーティー名だ。効果的ともあまり思えなかった。

 

 レニーは別に名を売りたいわけではない。実戦において役に立たないのであれば、こだわる必要もない。

 

「もう、勝手に推し進めちゃいますからね」

 

 受理証明書を受け取る。

 

「ありがとう」

 

 今日も今日とて残党狩りだ。

 

 レニーはシガットの屋敷。あの大広間での光景を思い出しながら、依頼のためにギルドを出た。

 

 

 

  ○●○●

 

 

 

 宿屋と酒場のメーケ。

 カルキスで人気の店だ。一階が酒場。二階から上が宿になっている。レニーは宿屋のメーケには世話になっていなかったが、酒場のメーケには世話になっていた。

 

 出入口から右手側にカウンター席がある。カウンターが他の酒場より広く、カウンター席も多めだった。レニーは右奥の角のカウンター席に座る。

 ギルドに最も近い店とあって、テーブル席は冒険者で賑わっているが、カウンター席は常連の一般客が多い。

 

 カルキスのギルドはソロ冒険者が極端に少ない。おかげでカウンター席も取りやすい。

 カウンター席に来る常連客は、カウンターにひとりはいる店員に話しかけることが多い。

 

「ようレニー」

「やぁ、おっさん」

 

 カウンターにいるのは看板娘だったり、青年だったりするが、今日は店主がカウンターにいる日だった。

 

 髪を角刈りにして、小さな丸メガネをかけたダンディな男性だった。昔は冒険者だったらしく、体には服の上からも十分にわかる筋肉がある。誰を相手にしても物怖じしなさそうな態度は、実際の身長よりも大きな印象を与える。

 

 名前は忘れた。

 

 話しかけられるうちに名前を何度か間違え、「おっさんと呼んでいい」と言われてからは完全に忘れてしまった。

 

「トパーズに昇格したらしいじゃないか。こいつはオレさまのお祝いだ」

 

 そういってカウンターに置かれたのはカエル肉のソテーと塩レモンのエールだった。レニーのここでのお気に入りだ。

 しかもカエル肉のソテーは少し量が多めに盛られている。

 

「ありがとう」

「気にすんな。オレさまも気にかけてる冒険者が昇格して気分が良いってもんよ」

 

 がっはっはと笑う店主。

 レニーはエールを一口飲み、それから肉を味わう。

 

 カウンター席は中心に寄るほど店員と話す機会が多くなる。業務を行っている店員はカウンターの中心で作業していることが多いからだ。したがって常連客は中心に近い方の席に座りたがる。

 

 あとは出入りが楽な、出入口近くがよく座られる。

 奥の端の席はあまり座られない。レニーはそこを気に入っていた。まぁ、座れればどこでもいいので空いていればラッキーという程度だが。

 

「パーティーは組まないのか? ローグとはいえ、実力は認められるだろ」

「いいよ、パーティーとか面倒だし。全部ひとりで依頼達成してるわけじゃないしね」

「あまり無理はするなよ、やけどするからな」

「わかってる」

 

 店主は腕を組むようにしてカウンターに置くと、身を乗り出した。

 

「トパーズになった冒険者が一番危ないんだ。壁を超えられたってな」

「はしゃいでるように見える?」

 

 レニーはカエル肉を頬張る。歯ごたえのある食感と鶏肉に似た味が美味しかった。

 

「とにかくやけどしないようにな」

「気を付けるよセンパイ」

「おう。可愛いコウハイで嬉しいぜ。これからの活躍も楽しみにしてるぜ」

 

 頭をとんとんと優しく叩かれる。それから店主は自分の仕事に戻っていった。

 

「隣良い?」

 

 後ろから声をかけられて振り返る。

 

 紺色の長髪に、強い感情の籠った瞳。眉は吊り上がり、表情はきつい。

 どこか見覚えのある顔だった。

 

 半袖の先から細い腕がすらりとのびており、拳を握りしめている。

 

 リラックスできる場に似つかわしくない力み具合を感じる女性だった。

 

「えっと……確か……、ベガットの屋敷にいた……えっと……」

「……セツよ。あとシガットね」

 

 セツはため息を吐きながら隣に座ってきた。

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