植えたら生えた。~「魔物農業」を編み出した俺の成り上がり~   作:九泉

1 / 1
第1話 合体させよう

「ルース……?」

 

 声をかけられて振り向くと、幼馴染のリナが荒れ地の入り口で固まっていた。

 

「よう、リナ」

 

「よう、じゃないでしょ!? なにこれ!?」

 

 リナの視線の先には、掘り返したばかりの土から、頭だけ突き出したゴブリンたちが行儀よく並んでいる。

 

「ヒッ……」

 

 リナが息を呑んだ。

 

「な、なに、この……この悍ましい……」

 

「見てわからないのか?」

 

「わからないわよ!」

 

 やれやれと俺は肩をすくめる。

 

「畑さ。ゴブリン畑」

 

 

   ◆

 

 

 ダグレイド男爵領に金はない。

 

 父上は毎晩、帳簿を睨んで唸っている。

 

「特産品さえあれば……」

 

 その一言を、俺は何度聞かされたか分からない。うちの領地にはこれといった作物も鉱山もない。あるものといえば、ただやたらとマナ濃度の高い荒れ地が広がっているだけ。

 

 ある晩、父上が俺を呼んだ。

 

「何か稼ぎになることを考えてくれ。……ただし、頼むから普通のやつで」

 

 最後の一言だけ、やけに切実だった。

 

 だが普通のやり方は、とっくに他の連中が食い尽くしている。普通では勝てない。これは商売の基本だ。

 

 長男というだけの理由で、俺にお鉢が回ってきた。

 

 だが、俺には夢がある。魔物使いだ。

 

 ……思い描く。

 

 荒野に吹く風。背後には、ずらりと並んだ魔物の群れ。俺が手を振り下ろせば、彼らは一斉に駆け出し、敵陣を蹴散らしていく。

 

 その先頭を、俺は悠然と歩く。外套が風になびく。愛用の木の棒を肩に担いで。

 

 ……棒は、剣にした方が絵になるかもしれない。

 

 まあ、それは些細な問題だ。魔物を率い、颯爽と戦う。それが魔物使いだ。

 

 金のために畑を耕して一生を終えるなんて、冗談じゃない。畑仕事なんぞに人生を捧げている暇はない。

 

 とはいえ、だ。家が傾けば魔物使いどころではなくなる。

 

 俺は考えた。

 

 冒険者になって稼ぐか? いや、それでは領地を離れることになる。その間、家の借金は誰が見る。

 

 どこぞの商家にでも婿入りするか? ……俺が女だったらあり得た選択肢かもしれない。だが、貧乏男爵とはいえ嫡男が婿入りするのはまずいだろう。

 

 なら、素直に畑を耕すか? 冗談じゃない。それは俺の夢じゃない。魔物使いは諦めたくない。

 

 考えて、考えて、考え抜いて――そして、思いついた。

 

 そうだ、合体させよう(・・・・・・)、と。

 

 幸いにして俺は頭がいい。「ルースちゃんはかしこいわねえ」と昔、祖母もよく言っていたから間違いない。

 

 魔物使いと農業。両方諦めず、両方同時にやってしまえばいい。

 

 理屈はこうだ。

 

 魔物はマナから生まれる、いわば擬似的な生き物だ。だから飯を食わない。つまり、育てるコストがほぼゼロということになる。

 

 うちの領地に唯一豊富にあるのは、そのマナだ。

 

 ――ならば、魔物をマナで育て、「作物」として扱えばいいんじゃないか?

 

 我ながら名案だと思う。もっとも、これで本当にうまくいくのかは、正直まったく分からない。誰かが試した話も聞いたことがない。

 

「実践は座学に勝ります」

 

 昔、家庭教師がよく言っていた言葉だ。わからないことは、やってから考えればいい。普通のやり方ではだめなんだ。

 

「よし、やるか」

 

 俺は荒れ地の縁に立ち、木の棒を握り直した。

 

 まずは、畑選びだ。

 

 マナの濃さは、荒れ地の中でも場所によってまるで違う。測る道具などないが、要は簡単なことで、魔物はマナから湧く。つまり、ゴブリンが一番よく湧く場所が、一番マナの濃い場所ということになる。

 

「あの辺だな」

 

 俺は三日ほど荒れ地に張り付いて観察し、ゴブリンの湧きが最も多い一角を突き止めた。

 

 次に、土作り。

 

 畑とは、まず耕すものだ。硬い地面を鍬で掘り返し、石を除き、ふかふかの土にする。

 

 それから、苗を植える穴を掘る。ここには少しこだわった。

 

 深さは、何度も試して決めた。浅いと倒れる。深すぎると収穫のとき面倒だ。首元まで埋まって頭だけが出る深さ――これが最適だった。

 

 間隔は、腕二本分。詰めすぎると風通しが悪くなる。

 

 穴が五つ並んだところで、準備は整った。

 

 あとは、肝心の苗だ。幸い、この荒れ地にはゴブリンが湧く。

 

 岩陰から、一匹のゴブリンがのそりと這い出してきた。

 

 俺は昔から、同年代より頭一つぶんデカくて、力も強い。魔力の方はというと、生まれてこの方ゼロだ。だが、こと殴る蹴るに関して言えば、魔力なんぞ必要ない。

 

 狙うのは急所一点。弱すぎれば起き上がって暴れるし、強すぎれば苗として使えなくなる。

 

 ――ゴッ。

 

 棒がゴブリンの脳天に吸い込まれる。ゴブリンは声も上げずにひっくり返った。

 

 死んではいない。加減はしている、はずだ。

 

 ぐったりした苗の首根っこを掴み、穴まで運ぶ。立たせるように押し込み、周りの土をかぶせて、しっかりと踏み固める。根付くように、だ。

 

 植え付け、完了。

 

 同じ要領で、二株目、三株目と続けていく。だんだんコツも掴めてきた。狙う角度、力の加減、埋める間隔。四体目の頃には、我ながら手際が良くなっていたと思う。

 

 五株目を埋め終えたところで、額の汗を拭った。

 

 振り返ると、地面から行儀よく頭だけ突き出したゴブリンが五体、等間隔に並んでいる。

 

 初回だ。五株もあれば十分だろう。

 

 ――畑の完成だ。

 

 

   ◆

 

 

「ゴブ……なに?」

 

 リナが、震える声で聞き返してくる。

 

「ゴブリン畑だって」

 

 俺は誇らしげに答えた。

 

「ご、ゴブリン畑ってなによ!?」

 

 俺はため息をついて、小さな子どもに言い聞かせるように言った。

 

「いいか? 菜の花畑、オリーブ畑、それと同じだ。ゴブリンの畑だから、ゴブリン畑。な?」

 

 リナは口をぱくぱくさせるだけで、しばらく言葉が出てこないようだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。