植えたら生えた。~「魔物農業」を編み出した俺の成り上がり~   作:九泉

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第14話 農場見学2

 スライムの区画にも、エルディグラは目を向けた。

 

 青い塊が、ぶるん、と震える。

 

「これは、何だ」

 

「スライムだ。ゴブリンと輪作するための品種だ」

 

「輪作……」

 

「放っておくと合体していくんだ。間引きを自分でやってくれる、手のかからない品種だな」

 

 褒めてやると、塊はまた嬉しそうに震えた。エルディグラは一歩下がった。

 

 その足音に反応したのか、畑の端でじっとしていた精鋭が一匹、ぴょこんと顔を出した。ゲルゴブリンだった。

 

 緑と青がまだらになった、見慣れた顔。ぶるんとした表面を揺らして、てくてくと俺の足元に寄ってくる。

 

 そして、エルディグラの前でぴしっと直立した。

 

「うわっ」

 

 エルディグラが、一歩、後ずさった。

 

「な、なんだ、これは。ゴブリン……ではない、のか? 色が、緑と、青で……表面が……動いて……いや、揺れて……」

 

「ゲルゴブリン。ゴブリンとスライムの品種改良だ」

 

「なにそれ……」

 

 顔色が、さっきより悪い。病み上がりなのだ、あまり刺激しないほうがいいかもしれない。

 

 ゲルゴブは、エルディグラの顔を、まっすぐ見上げていた。つぶらな瞳で。害意は欠片もない。むしろ、客を迎える気配すらある。

 

「敵意は、無いのか……?」

 

「こう見えて賢いからな」

 

「そう、か」

 

 エルディグラの目が、だんだん遠くなっていく。

 

 そのときだった。

 

 エルディグラの背後に、ぬっと、大きな影が落ちた。

 

 地面を踏む蹄の音は、ほとんどしなかった。ゴブタウロスは、普段から無駄に静かに歩く。

 

 エルディグラが、背後の気配に気づいて、ゆっくり振り返る。

 

 目の前に、半透明のボアの胴体があった。

 

 その上に生えた、ゴブリンの頭と、両腕と、胴体。牙が、朝日を受けて、てらりと光る。全身がつやつやとした粘体で、動くたびに、ぶるりと波打つ。

 

 下半身は猪、上半身は小鬼。表面は粘液。

 

 そして、その上半身が、ゆっくりと首を傾けて、エルディグラの顔を覗き込んだ。

 

「ひっ」

 

 喉の奥から、短い悲鳴が漏れた。

 

 エルディグラは、反射的に俺の袖を掴み、すぐに我に返って手を離した。それから、リナの背後へ半歩ずれた。

 

「ルース、あの人、悲鳴上げたよ」

 

「そうだな」

 

「ちゃんと怖がってくれてる……」

 

「なぜ嬉しそうなんだ、お前は」

 

 エルディグラは、震える声で言った。

 

「なんだ、この……冒涜的な……」

 

 言葉を探している。探しても、適切な語が見つからないらしい。

 

「ゴブリンの上半身に、猪の下半身……。そのうえ、全身が粘体だと……? 生き物の形を……継ぎ合わせて……いや、継ぎ合わせたのではない、混ざって……」

 

「ゴブタウロスだ。見てのとおり、ゴブリンとスライム、ボアを合体させた。これも品種改良だ」

 

「合体……」

 

「こいつは騎兵だ。荷車も引ける」

 

 撫でてやると、ゴブタウロスは満足そうにぶるんと震えた。ゴブリンの腕が、ひょい、と俺の肩に置かれる。いつもの挨拶だ。

 

 エルディグラの目が、俺の顔から離れなくなった。

 

 俺は、首を傾げた。

 

「どうした」

 

「……貴様」

 

 声が、かすれていた。

 

「これを、貴様が、作ったのか」

 

「ああ、すごいだろう」

 

「……」

 

 エルディグラは、半歩、また半歩と、ゆっくり後ろへ下がっていった。ゴブリンの生垣にぶつかりそうになって、慌てて止まる。生垣のゴブリンが、じっとその背中を見上げていた。

 

 彼女は、まるで得体の知れないものを見る目で、俺を見た。

 

 何がそんなに不思議なのか、さっぱり分からない。

 

「……お前は、何だ」

 

 絞り出すような声だった。

 

「邪神の類か?」

 

 しばらく、風の音だけが聞こえた。

 

 ゴブタウロスが、ぶるんと鼻を鳴らした。

 

「領主の長男だと言っただろう」

 

「それは先ほど聞いた」

 

「ならば、何を聞きたい。好きな色か? 黒だ。黒は一番かっこいい色だからな」

 

「知るかクソっ! なんだこいつは!」

 

 エルディグラは、頭を抱えた。病み上がりゆえか、やや情緒が不安定なようだ。

 

 リナは、その肩にそっと手を置いて、深く、深く頷いていた。

 

「うんうん。分かるよ。私も何度も思った」

 

「娘、貴様は……よく耐えているな」

 

「耐えてないよ。慣れたの。慣れちゃったのよ。……あなたも、じきにこうなるわ」

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