植えたら生えた。~「魔物農業」を編み出した俺の成り上がり~ 作:九泉
「これ、増やしてどうするの?」
リナの疑問は、正直に言えば俺自身の疑問でもあった。
三十匹を超えたゴブリンたちを、この先どうするつもりなのか。
少し真面目に考えてみることにした。
まずは、思いつく使い道を片っ端から並べてみる。
奴隷商に売る。……魔物を買い取ってくれるとは思えない。
見世物にする。ゴブリンの群れなど、見世物としては地味すぎるし、絵面も良くない。
出荷する――農家としてはこれが一番王道だが、誰がゴブリンを買い取って食うというのか。そもそもマナの塊だから食い物ですらない。
傭兵として貸し出す――これは魅力的だ。しかし、どこの誰に営業をかければいいのか分からない。この案は保留だ。
……どれも現状すぐには動けそうにないな。
ならば、と方針を変える。
まず、ゴブリンたちに維持費はかからない。魔物は飯を食わないのだから、置いておくだけなら損はしない。
次に、単純に戦力になる。数は力だと言うし、魔物使いとしては、頭数は多いに越したことはない。荒野を駆ける魔物の軍勢――昔から思い描いていた光景に、着実に近づいている気がする。
金に変える方法については……まあ、追い追い考えればいい。今すぐ答えを出す必要のある問題ではない。
そう結論づけて、俺はこの件を棚上げにすることにした。判断を先送りにすることも、立派な判断のひとつだ。
リナには「追い追い考える」とだけ伝えておいた。
「絶対なにも考えてないやつでしょ」
失礼な話である。今しがた四つも案を出したばかりだというのに。
「おーい、調子はどうですかい」
リナと話していたところ、近所の農家のおっさんが畑の噂を聞いてやってきた。このおっさんには農業について色々教えてもらった(だが名前は忘れた)。
おっさんは遠目にゴブリンの区画を見つけて、ぎょっとした顔で足を止めた。
「ぼっちゃん、ありゃあ」
「ゴブリン畑です」
おっさんはしばらく固まっていたが、やがて何かに納得したように、うんうんと頷きながら歩み寄ってきた。
「……まあ、畑は畑か」
少し離れたところで、リナが頭を抱えていた。
「立ち直りが早すぎる!? な、なんでそんなあっさり受け入れてるんですか!?」
「畑は畑だろう」
「いやそもそも畑じゃないですって!? 農業のノリで魔物を土に刺してる悪ふざけですよこれ!」
「悪ふざけとは失礼な。実際に芽が出てるだろう」
「んだなあ」
俺とおっさんの反論に、リナはすっかり黙り込んでしまった。
おっさんは特に気にする様子もなく、畝の間にしゃがみこむと、埋まっている親株のゴブリンの頭をぺちぺちと軽く叩いた。親株のゴブリンは怯えたように目を白黒させている。
「ぼっちゃん、こいつぁ良い色艶をしてる。だが、少し土寄せが甘いな」
「土寄せ?」
「首の根元あたりの土を、もう少し高く盛って寄せてやらんと、大地のマナが逃げちまう。ほれ、こうやって周りの土を足元に固めてやると、根の張りが良くなって、芽の出がもっと良くなるはずだ」
「なるほど、大地のマナを逃がさないためか。勉強になります」
俺はおっさんのアドバイスを頭に刻み込む。さすがは長年土と向き合ってきた本職だ。目の付けどころが違う。
おっさんは立ち上がり、顎の無精髭を撫でながら、ぐるりと畑を見渡した。
「ぼっちゃん、こりゃたいしたもんだが……同じ株から穫り続けてると、そのうち尻すぼみになるぞ」
「尻すぼみ?」
「連作障害ってやつだ。同じ土で同じもんばっかり作ってると、土が痩せて、そのうち育ちが悪くなる。たまには別の作物と入れ替えて、輪作ってのをやってやらんとな」
「別の作物、というと」
「そりゃお前、何でもいいわけじゃない。土との相性もある。たまには根を休ませるか、別系統の作物を挟むのが筋ってもんだ」
なるほど、理屈は分かる。ゴブリンだけを作り続けていては、いずれ土のマナが枯渇して頭打ちになるということだ。
つまり、ゴブリンとは別の作物が要る。
俺には心当たりがあった。
「よし、森へ行こう」
「私は付き合わないからね! お店の手伝いがあるから帰る!」
リナは逃げるように去っていった。冷たい幼馴染である。
◆
「よーし、お前ら。今日は種芋を採りに行くぞ」
整列したゴブリンたちに睨みを利かせると、全員がびしっと姿勢を正した。壮観だ。
村を抜けて森へ向かう道すがら、通りすがりの村人たちが次々に足を止めた。
籠を抱えたおばさんが、中身を取り落とす。子供たちは怖がるどころか面白がって後ろをついてこようとし、その親に首根っこを掴まれて連れ戻される。
井戸端の老婆は、拝むような仕草をしていた。信仰の対象にされても困る。
鍛冶屋の親父からは「うちの農具、そろそろ研ぎに出せよ」と、まるで関係のない世間話を振られた。この程度の光景には驚かなくなってきているのかもしれない。
だが、村外れのキャベツ畑の横を通りかかったとき、列の後方にいた二匹がふらふらと畑へ吸い寄せられ、手を伸ばした。
ゴブリンという魔物はどういうわけか、畑を荒らすのだ。マナで生きているくせして作物を齧ったり、掘り返したりする。どうも本能に根付いているようだ。
――ズンッ!
俺が愛用の木の棒を地面に突き立てると、重い地響きが走った。
「貴様ら、他人の作物を荒らすな。お前たちも同じ作物だろうが。作物としての誇りを持て」
睨みつけると、二匹は青ざめて涙目になり、飛び上がって元の位置へ戻り、直立不動で震え上がった。他の個体もそれを見て背筋を限界まで伸ばしている。
だがいざ移動を始めると、隊列はすぐにぐだぐだになった。先頭が張り切って駆け出せば、後方がついてこられない。逆に後方を待てば、先頭が飽きて座り込む。落ちこぼれた数匹を拾い集めては、また睨みで整列させる。この繰り返しだった。
三十匹をまとめて統率するというのは、思っていたより骨が折れるな。