植えたら生えた。~「魔物農業」を編み出した俺の成り上がり~   作:九泉

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第3話 連作障害

「これ、増やしてどうするの?」

 

 リナの疑問は、正直に言えば俺自身の疑問でもあった。

 

 三十匹を超えたゴブリンたちを、この先どうするつもりなのか。

 

 少し真面目に考えてみることにした。

 

 まずは、思いつく使い道を片っ端から並べてみる。

 

 奴隷商に売る。……魔物を買い取ってくれるとは思えない。

 

 見世物にする。ゴブリンの群れなど、見世物としては地味すぎるし、絵面も良くない。

 

 出荷する――農家としてはこれが一番王道だが、誰がゴブリンを買い取って食うというのか。そもそもマナの塊だから食い物ですらない。

 

 傭兵として貸し出す――これは魅力的だ。しかし、どこの誰に営業をかければいいのか分からない。この案は保留だ。

 

 ……どれも現状すぐには動けそうにないな。

 

 ならば、と方針を変える。

 

 まず、ゴブリンたちに維持費はかからない。魔物は飯を食わないのだから、置いておくだけなら損はしない。

 

 次に、単純に戦力になる。数は力だと言うし、魔物使いとしては、頭数は多いに越したことはない。荒野を駆ける魔物の軍勢――昔から思い描いていた光景に、着実に近づいている気がする。

 

 金に変える方法については……まあ、追い追い考えればいい。今すぐ答えを出す必要のある問題ではない。

 

 そう結論づけて、俺はこの件を棚上げにすることにした。判断を先送りにすることも、立派な判断のひとつだ。

 

 リナには「追い追い考える」とだけ伝えておいた。

 

「絶対なにも考えてないやつでしょ」

 

 失礼な話である。今しがた四つも案を出したばかりだというのに。

 

「おーい、調子はどうですかい」

 

 リナと話していたところ、近所の農家のおっさんが畑の噂を聞いてやってきた。このおっさんには農業について色々教えてもらった(だが名前は忘れた)。

 

 おっさんは遠目にゴブリンの区画を見つけて、ぎょっとした顔で足を止めた。

 

「ぼっちゃん、ありゃあ」

 

「ゴブリン畑です」

 

 おっさんはしばらく固まっていたが、やがて何かに納得したように、うんうんと頷きながら歩み寄ってきた。

 

「……まあ、畑は畑か」

 

 少し離れたところで、リナが頭を抱えていた。

 

「立ち直りが早すぎる!? な、なんでそんなあっさり受け入れてるんですか!?」

 

「畑は畑だろう」

 

「いやそもそも畑じゃないですって!? 農業のノリで魔物を土に刺してる悪ふざけですよこれ!」

 

「悪ふざけとは失礼な。実際に芽が出てるだろう」

 

「んだなあ」

 

 俺とおっさんの反論に、リナはすっかり黙り込んでしまった。

 

 おっさんは特に気にする様子もなく、畝の間にしゃがみこむと、埋まっている親株のゴブリンの頭をぺちぺちと軽く叩いた。親株のゴブリンは怯えたように目を白黒させている。

 

「ぼっちゃん、こいつぁ良い色艶をしてる。だが、少し土寄せが甘いな」

 

「土寄せ?」

 

「首の根元あたりの土を、もう少し高く盛って寄せてやらんと、大地のマナが逃げちまう。ほれ、こうやって周りの土を足元に固めてやると、根の張りが良くなって、芽の出がもっと良くなるはずだ」

 

「なるほど、大地のマナを逃がさないためか。勉強になります」

 

 俺はおっさんのアドバイスを頭に刻み込む。さすがは長年土と向き合ってきた本職だ。目の付けどころが違う。

 

 おっさんは立ち上がり、顎の無精髭を撫でながら、ぐるりと畑を見渡した。

 

「ぼっちゃん、こりゃたいしたもんだが……同じ株から穫り続けてると、そのうち尻すぼみになるぞ」

 

「尻すぼみ?」

 

「連作障害ってやつだ。同じ土で同じもんばっかり作ってると、土が痩せて、そのうち育ちが悪くなる。たまには別の作物と入れ替えて、輪作ってのをやってやらんとな」

 

「別の作物、というと」

 

「そりゃお前、何でもいいわけじゃない。土との相性もある。たまには根を休ませるか、別系統の作物を挟むのが筋ってもんだ」

 

 なるほど、理屈は分かる。ゴブリンだけを作り続けていては、いずれ土のマナが枯渇して頭打ちになるということだ。

 

 つまり、ゴブリンとは別の作物が要る。

 

 俺には心当たりがあった。

 

「よし、森へ行こう」

 

「私は付き合わないからね! お店の手伝いがあるから帰る!」

 

 リナは逃げるように去っていった。冷たい幼馴染である。

 

  ◆

 

「よーし、お前ら。今日は種芋を採りに行くぞ」

 

 整列したゴブリンたちに睨みを利かせると、全員がびしっと姿勢を正した。壮観だ。

 

 村を抜けて森へ向かう道すがら、通りすがりの村人たちが次々に足を止めた。

 

 籠を抱えたおばさんが、中身を取り落とす。子供たちは怖がるどころか面白がって後ろをついてこようとし、その親に首根っこを掴まれて連れ戻される。

 

 井戸端の老婆は、拝むような仕草をしていた。信仰の対象にされても困る。

 

 鍛冶屋の親父からは「うちの農具、そろそろ研ぎに出せよ」と、まるで関係のない世間話を振られた。この程度の光景には驚かなくなってきているのかもしれない。

 

 だが、村外れのキャベツ畑の横を通りかかったとき、列の後方にいた二匹がふらふらと畑へ吸い寄せられ、手を伸ばした。

 

 ゴブリンという魔物はどういうわけか、畑を荒らすのだ。マナで生きているくせして作物を齧ったり、掘り返したりする。どうも本能に根付いているようだ。

 

 ――ズンッ!

 

 俺が愛用の木の棒を地面に突き立てると、重い地響きが走った。

 

「貴様ら、他人の作物を荒らすな。お前たちも同じ作物だろうが。作物としての誇りを持て」

 

 睨みつけると、二匹は青ざめて涙目になり、飛び上がって元の位置へ戻り、直立不動で震え上がった。他の個体もそれを見て背筋を限界まで伸ばしている。

 

 だがいざ移動を始めると、隊列はすぐにぐだぐだになった。先頭が張り切って駆け出せば、後方がついてこられない。逆に後方を待てば、先頭が飽きて座り込む。落ちこぼれた数匹を拾い集めては、また睨みで整列させる。この繰り返しだった。

 

 三十匹をまとめて統率するというのは、思っていたより骨が折れるな。

 

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